授業も無事終わり、昼食の時間となった。

「食堂に案内するから、ついてきて」

そう言って席を立つアスランに、

「あ、はい」

と返事をしてキラも席を立った。ばれてないなら、つきとおせばいい。この嘘を。

彼の記憶に3年前の自分があったとしても、なかったとしても、親しくなる必要は、ない。

赤の人間と一緒にいるなんてそれだけで目立つだろうから。

それだけはいやだった。そのために、こんなダサいめがねまで購入したのだ。

このままでは、そんな苦労がすべて水の泡だ。

おとなしくて、目立たない存在。3年前とは違う人間。そう言い聞かせてアスランの後を追った・・・

「ここが食堂。別名、リラクゼーションルーム。誰も呼ぶものはいないがな。」

「はい」

「きみ、昼食はここでとるから、ID持ってるだろ?ここは、使うのは全部これだ。」

キラが不思議そうに顔を上げると、

「最新の設備が整っているから、めんどくさいことは全部これでやってくれる。そのほか、買い物なども敷地内でならすべてこれひとつで事足りる」

そう言うと、アスランはすたすたと食堂に入っていってしまう。その後をおうと、

「買い方は、そっちの機械に好きなものを選択してカードをスラッシュするだけでいいから。じゃあ、この続きは放課後でいいか?」

そう聞かれて、キラはもう限界だった。

アスランは顔色1つ変えない。ここまで来るあいだ、一度たりとも・・・

それが悲しくて、悔しくて、心が悲鳴を上げた。

そんなものなど、とっくに消してしまったはずなのに、感情なんか、自分にはないと信じていたのにそうもいかなかったらしい。

懐かしい存在のせいで、また封じ込めた心が動き出す・・・

この人といるのは、危険だ。そう思った。また、弱みを作ってしまう。だから、離れようと思った。

それが思わぬ命取りになるとは知らずに・・・・

「あの・・・いいです。この学園に来る前に、見取り図はもらってますし、だいたい頭に入っているので・・・大丈夫です」

その言葉にアスランは眉をひそめると、

「そう?」

と聞いてきた。内心ひやひやしながら、

「はい」

と答える。アスランはそれで納得したらしく、

「それじゃ、ここで。」

「はい。ありがとうございました」

そう言って安堵し背を向けると、きみ、と声がかかる。口から心臓が飛び出るかと思った。だが、応えないわけにはいかない。

「なんですか?」

「きみは、3年前までどこにいた?」

その言葉に、キラは叫びそうになった。理性を総動員してそれをとめる。そして、勤めて冷静に、

「ずっと、地球にいましたが?」

と応える。自分で自分に拍手を送りたい気分だった。われながら、よく出来たと思う。これだけはあの狸親父どもに感謝せねばなるまい。

相手も、それを信じたようだった・・・

「そうか。悪かったな」

「いえ。では、失礼します」

そう言って、今度こそ背を向ける。

その背中を、アスランが刺すように見ていたことも気づかずに・・・

 

 

 

 

アスランは、いつもの指定席へ向かった。見晴らしのいいテラス、そこがいつもの自分達の指定席だ。

ほかの者たちはめったに来ない。(というか、来れない)そこには、先に来ていたのか、ニコル、ディアッカ、イザークの三人が先に食事をしていた。

「あれ?アスラン、転入生の案内はどうしたんですか?」

そう言って目を丸くするひとつ年下の少年に、

「見取り図は頭の中に入っているから案内はいいといわれた」

そう返すと、彼は目を丸くして、

「この学園全部の?」

そう聞いてきた。

「全部かは知らないが、校舎の構造ぐらいは覚えているような口ぶりだったな」

「本当に?」

「ああ。」

ほかの二人も、食べる手を止めてこちらを見ている。

「嘘でしょう?」

「いや?本人がそういった」

暗に、アスランが転入生を放り出したのでは?と聞いてくるニコルに、アスランは首をふり、否定した。

だが、それもそうだろう。このSEED学園は、授業が行われている校舎だけでも、結構な広さがある。

 

そう、赤の制服でも着ているような人間でなければ、

絶対に頭になど入らない広さが―――――――

 

「おい、ディアッカ」

そう言って、呼びかけてくるイザークに、

「忘れられなくなりそうだな」

と返すディアッカ。なんだ?と顔を向ける二人に、ディアッカは朝のことを二人に話した。それを聞くといよいよ真剣な顔になり、

「それが本当だとすると、彼はなぜ緑など着ているのでしょう?」

「おかしいな」

「調べて、見るか?」

そう、三者三様の同意を聞いて、ディアッカは、にやりと笑った

「じゃあ、まず、あのお姫さんにちかづかねぇとな」

そう言ってにやりと笑うは策士の顔。

「ニコルとアスランは姫さんにちかづけ。おれとイザークは、あのお姫さんのウラを取るから」

そういって至極楽しそうな顔のディアッカは、子供が新しいおもちゃを見つけたようだった。

それまで、浮かない顔をしていたアスランが顔を上げると、

「ディアッカ、調べるんなら、3年前の月の幼年学校から調べたほうが早いかもしれない。」

そう言って、席を立った。

「なんだ?何か知っているのか?」

イザークが聞くと、

「いや、ちょっと気になってね」

そう言うと、足早にテラスから出て行こうとする。きっと、あの少年の元へ行くのだろう・・・

「あ、まってください!ぼくも行きます!」

そう言って、アスランの後をついていく。

ニコルとアスラン、この二人は兄弟のような関係だった。ニコルはアスランを兄と慕い、アスランのほうも、そんなニコルをかわいがっていた。

「さってと、どうする?あっちはあっちでやるだろうし」

そういって、横を見るとイザークは眉間にしわを寄せて、

「おまえは月の幼年学校とやらの事を調べろ。おれはオーブのことを調べる」

そう言って、トレーをもって歩き出したイザークの背に、

「りょーかい」

とディアッカは返した。