舞い降りた天使

 

 

 

 

「ここ、か....」

少年は、自分の目の前にある大きな建物を見て、そうつぶやいた。

そして、かけている度の入ってないめがねを押し上げる。

「可もなく不可もなく、成績は中の上、目立った行動は厳禁...」

自分に言い聞かせるようにつぶやいた...

風が彼の音をさらっていく...

少年は、、何者をも拒絶するような冷たい門を飛び越えた―――――

 

 

 

静寂の中、ディアッカ・エルスマンは、隣の少年に話しかけた。

「なぁ、イザーク、知ってるか?」

ここは、限られた生徒しか入ってこれない生徒会室。その中で、この少年は、さっきからぺら、ぺら、と書類をめくっている。聞いているのだかいないのだかわからない少年にかまわず、金髪の少年は話しかけた。

「今度、転校生が来るらしいぜ?」

その言葉に、銀の髪を持つ少年は、書類をめくる手を止めて隣の少年を見る。

「―――――――こんな時期にか?と、言うか、貴様、なぜそんなことを知っている?」

うろん気な視線をよこすイザークに、ディアッカは、まあまあと手を上げる。

「いいじゃんそんなこと」

よくないと思いながらも、イザークはその先を促す。

「それが、あのアスハ家の人間らしいぜ?」

さらりと言われた言葉に、イザークはがたんといすから腰を浮かせた。

「!?」

「なぜオーブの人間が!?ここは養成学校だぞ?」

「さーてね。でも、傍系も傍系。小指の先ほどしか血が入ってないそうだよ。しかも、成績も中の上。なまえも違う」

その言葉を聞いて、イザークはまたどすんといすに腰を下ろす。

「たいしたことないやつじゃないか」

ふんっと鼻を鳴らして、無能に用はないという彼に、ディアッカは苦笑して、

「だと、いいんだけどねぇ」

「なんだ?」

「いや、べつに?」

「ふん。秘密主義が」

そう言って、書類に目を戻そうとした彼は、

「われらが生徒会長様はどうしている?」

そう言って落としかけた視線を上げ、唇をゆがめた。

それを見ながら、

「べつに、何も?」

「なら、本当にたいしたことないんだろう。」

本当に、この二人は・・・互いのことを信頼しているのかしていないのか・・・

「なんだ?」

苦笑したディアッカに、イザークは訝しそうな視線を投げる。

「いや?」

「まあいい。名前ぐらいはきいておいてやる」

そんなイザークらしくない反応に、ディアッカは目をちょっと見開いたが、

「キラ、キラ・ヤマトだ」

「ほう。本当にたいしたことなかったら忘れるからな」

そう言って書類をめくりだした彼に、ディアッカは笑う。

ちょっとその銀糸の彼の耳元が赤い気がするのは、自分の思い違いだろうか?

「はいはい」

ディアッカはくすくすと笑って返事をした。

「貴様、なんだ!その反応は!?」

「いぃーや?」

「もういくぞ!!」

そう言って足音荒く生徒会室を出て行く彼の後を追いかけながら、

「本当にたいしたことなけりゃいいんだけどね・・・・」

ディアッカのつぶやいた声だけが無駄に広い生徒会室に取り残されたのだった・・・

 

 

 

 

ざわめく教室の中、教官に連れられて、一人の少年が入ってきた。

「静かに!」

教官の一喝で、教室内は一気に静まる。ここのあたりが、ふつうの学校と、ここ、軍人養成学校、SEED学園との大きな違いかもしれない。

「今日から、新しい訓練生が一人はいる!こいつに抜かれないように、諸君らも日々努力してくれ!」

そう締めくくった教官に、ディアッカは、隣に座るにコル・アマルフィに、

「あの熱血さえなけりゃぁ、いい教官なんだがね」

と小声で話しかけたもちろん、前は向いたまま。はたから見たら、教官の話に耳を傾けるように見える。

そんな器用なディアッカに苦笑して、この人もあいかわらず・・・とニコルは思った。

同じく、前を向いたまま、小声で返す。

「ええ。いい人ですよアデス先生は。いかんせん、軍人気質過ぎるのが玉にキズですけど・・・」

「そうだよな」

そうこうしているうちに、お説教は終わったようで、

「ヤマトから、一言諸君に挨拶してもらう。キラ・ヤマト!」

呼ばれて、緑の制服に身を包んだ少年が一歩前へ進み出た

「なんだ、緑じゃん」

そう言って、ディアッカは、自分の心配が杞憂に終わったと思った。

「そりゃあ、そうですよ。赤を着れるのは、上位10名のみなんですから」

転入したての人間がそんなものを着ていたら、そっちのほうが怖いです、と小声で返してくるニコルに、そりゃそうだなと思ったが、何も言わないでおく。

あのアスハの血をまがりなりにも引いているのなら、それも可能じゃないと思ったからだ・・・

この学園には、もうひとつ、ふつうの学校とは明らかに違うところがある。それが制服だ。ここでは、成績によって制服の色が決められており、上位10名のみが真っ赤な、何者をも圧倒するような深紅の制服、50名までが深緑、そのほかは白というふうになっている。まあ、白とは言っても、隊長クラスが着ているような純白ではなく、どちらかというと灰に近い、なんともいいがたい色合いをしている。

娯楽も何もない学園で、この色の上がり下がりは、生徒のやる気を引き出すのに一役買っているようだ。そんな二人は、生徒会にも所属していることから、当然のように、赤を着ていた。

「キラ・ヤマトです。よろしくお願いします」

それだけを言って下がったキラに、アデスは不満そうに眉をひそめたが、何も言わずに、おまえの席はそこだ。と、最後尾の席を指した。

「はい」

そう言って、キラは席に着く。

「では、今日は、昨日の続きからやる。諸君、テキストを開くように。あぁ、ヤマトは、まだそろってないようだから、隣のアスラン・ザラに見せてもらうよう。ザラ!」

「はい・・・ぃ!?」

そういわれ、キラは驚愕して隣を見た。アスラン・ザラだと!?

隣には、3年前、別れた親友が座っていた。赤の制服をまとって・・・

「ヤマトにテキストを見せてやれ!あと、この学園の案内もだ!」

そういわれて、彼はわずかに眉をひそめたようだが、なにもいわず、

「はい。わかりました」

とだけ言った。

「では、授業を始める!」

そんなアデスの声など、今のキラの耳にはまったく聞こえてないかった。

アスランだって!!?なぜ彼がここに?あんなに戦争はいやだと言っていたではないか!

プラントに来るのも、本当は彼にあってしまうかもしれないからいやだったが、親族の強い反発にあい、しょうがなくここにきたのだ。

さいわい、SEED学園は全寮制で、出歩かなければ、まず彼と会うこともないだろうとたかをくくってきてみればこの始末!

キラは、自分の軽率さを呪った。こんなことならカガリの言うとおり、オーブの工業カレッジに通っていればよかった・・・いや、今からでも・・・

いとしい妹の怒る姿が目に浮かぶ。彼女なら、ほらみろ!にいさまは、いっつも詰めが甘いんだから!といって、自分の言ったとおりだったじゃないか!と言うだろう・・・

そんなことをつらつらと考えていたら、

「きみ・・・・」

と呼びかけられた。アスランだ

「え?あ、はい!」

「見せるから、もうちょっとこっちによってくれないかな?」

そう言って、冷ややかにこちらを見てくるアスランに、キラはきょとんとした表情をした。

もしかして、気づいて、ない・・・?

「きみ?」

「あ、はい」

そう言って近づくと、アスランはテキストを押し付けてきた。

「勝手に見ていいから」

そういったきり、こちらを見ようともしないアスランに、キラは、安堵と、一抹の寂しさを覚えた・・・

 

・・・・3年前のことなんか、もう忘れちゃってるか・・・

 

そう思いながら、キラは、アスランの新品同様のテキストに目を落としたのだった――