ほんとにほんとに大好きなんだ。
だから、喜ぶものをあげたくて。
君へのケーキで3時のお茶を
「む〜〜…」
唸ってみるけれど、なにもいい案が浮かばない。
…どうしよう…
何も決まらないまま彼の誕生日は過ぎてしまっていて、とても泣きたくなった。
「キラ?」
「どうした、そんな顔して」
「ミゲル…ラスティ…」
呼ばれて振り向けばミゲルとラスティ。
僕よりも年上の彼らはお兄ちゃんみたいでなんだか安心。
「泣きそうだよ?」
「どうしたんだ?」
僕のことを心配して二人とも口々に声をかけてくれる。
この二人ならきっとまじめに聞いてくれるよね…
ディアッカみたいに首にリボン巻けば、とか。
アスランみたいにマイクロユニットにすれば、とか。
ニコルみたいに作曲してみればとか。
無茶なことは言われないはず…
っていうか、言わないで欲しい…
「…あのね……」
僕はミゲルとラスティに思っていたことを全部話す。
「あ〜、イザークの誕生日なぁ…」
「ずっとそれで悩んでたんだ?イザークって幸せ者だね」
「ばかラス!キラを恋人にした時点でイザークは幸せだろ」
「それもそっか〜〜」
仲いいよね、ミゲルとラスティ。
いつも一緒だし。
僕とアスランみたいに幼馴染なのかな?
「キラ?」
「どうした?」
ちょっとぼーっとしてたみたい…
僕は慌ててなんでもないよと首を振った。
「俺さぁ、いいこと思いついちゃったvv」
ラスティがにっこり笑う。
…ないと思うんだけど、無茶なことを言われませんように…
「ラスティ、思いついたって?」
「…変なことじゃない、よね…?」
「失礼だなっ」
「あああ〜、ごめんね…アスランたちに無茶なこと言われたから…」
「いーけどさ、べっつに…」
「んで?お前の思いついたいいことって?」
「あ、そうそう。手作りケーキとかどうかと思って」
「…僕、できないよ…」
「心配ないない。料理はそこにいるミゲルが得意だから!」
「ほんと?」
「や、得意っつーか…弟にたまに作ってやるくらいだし…」
「美味いんだよなぁ〜〜♪」
ラスティの目がキラキラしてる。甘いものが好きな彼(僕も人のこと言えないけれど)が
ここまで絶賛するミゲルのおやつって…
「キラ、どうする?ケーキにするか?」
「教えてくれるの?」
「俺でよけりゃな」
「あ、俺手伝うし!」
「お前はつまみ食い目当てだろ…。とりあえず、買い物だな」
「キラは、イザークにどんなケーキをあげたい?」
「ん〜、イザーク甘いの好きじゃないから…」
「じゃあ、ワインは平気か?」
「飲んでるの見たことあるよ」
「ま、イザークだしな。…アレにするか」
「ミゲル?」
「後のお楽しみ。買い物行くぞ!」
難しくないといいなぁ…
僕、あんまり器用じゃないし…
っていうか、ミゲルとラスティ、仕事はいいのかな…?
なんだか張り切ってるミゲルの後を着いていきながらそんな事を考えた。
「ワインはこれ。卵はうちにあるし、薄力粉もあったはず…」
ミゲル御用達らしい、お店で必要なものを迷うことなくかごに入れていく。
「ラスティ、無塩バターとレーズン、探してきてくれ」
「りょーかい」
「チョコも入れるの?」
調理用のチョコを一つ一つ手にとって眺めているミゲルに聞いてみる。
「あ?ああ。キラも欲しいか?」
「…調理用じゃないやつ…」
「いいぜ、お菓子の棚から好きなのとって来いよ」
お菓子が綺麗に陳列されている棚の前。
甘やかされてるなぁと思う。
イザークも僕を甘やかしてくれるけど、ミゲルのは家族みたいな感じ。
ミゲルも僕のこと大事にしてくれてるのがわかるし…
「キラ〜、決まったか?」
ミゲルがラスティを従えて、僕のところに来てくれる。
かごの中身は、僕がおやつを選んでいる間に一杯になっていて、かごを
持とうとしたら、ミゲルとラスティにやんわり断られ、僕の持っていた
おやつをかごの中に入れられてしまった。
「…荷物…」
「だめ〜、キラはあんまり体力ないんだから。おにーちゃんにまかせなさい!」
…おにーちゃんだって
ラスティに言われたその言葉になんだかくすぐったくなってしまって、笑ってしまった。
「なんだよー、笑うなよ〜」
「お前みたいな兄貴は嫌だとさ」
「そーなのっ!?キラぁ…」
泣きそうになっているラスティがおかしくて、ますます笑ってしまう。
「…っく…ごめ…そんなことないよ」
「ほんとっ?」
心配そうに僕の顔を覗き込むラスティはおにーちゃんじゃなくて、弟みたい。
ミゲルは間違いなくおにーちゃんなんだけど。
おにーちゃんと弟が一度にできたみたいでかなりお得かも。
「キラ〜、ラスティ、行くぞ〜」
「あ、お勘定…」
「気にするな、いつも一生懸命なキラにご褒美」
「そうそう、貰っておきな。ミゲルがこういうこと言うの珍しいんだぜ。めったに
奢ってくれないし」
「ばぁか。なんでお前に奢らなきゃなんないんだよ」
「かわいい後輩だろ〜」
「可愛いってのはキラみたいなのを言うんだよ。お前らは可愛くない後輩!」
「うぅ…ひどい〜」
二人で(勝手に!)荷物を分担してすたすた歩いていくミゲルとラスティ。
置いていかれないように少し早足でついて行く。
荷物、持ってるのにどーしてそんなに早いんだよっ
「ぅぷ。急に止まらないでよう…」
急に止まったラスティの背中に衝突してしまう。
…鼻が痛い…
「あ。ごめん。大丈夫?」
「…へーき…」
少しかがんで僕の鼻を撫でてくれる。
目の前にラスティのオレンジ色が広がって、ちょっと恥ずかしい。
「ちょっと赤くなってるな」
「だ、だいじょーぶだよぅ…」
「そ?」
「う、うん…」
「な〜にやってんだ、お前ら。早く来いっての」
『はーい』
ミゲルに呼ばれて、僕とラスティが返事する。
偶然、声が重なって、ラスティと目を合わせて微笑んだ。
「だから、ひとんちの玄関先でなにやってんだ」
「玄関!?ここ、ミゲルの実家!?」
「どこで作るつもりだったんだよ…」
それもそうか…
イザークのうちみたいに大きくはないけど玄関は真っ白でプランターには色と
りどりの花が咲いてる。手入れの行き届いた芝生は緑色に光っていて、木と木
の間にはハンモック。
ハンモックに寝転がるミゲルを思わず想像…
綺麗な金髪が風になびいてかっこいいんだろうなぁ…
…って、なに想像してるんだよ!?僕は!
美人で何でもできる彼氏がいるのに!!
「キラ?固まってどうした?」
「え!?な、なんでもないよ…っ」
「あんまり俺がかっこいいから見惚れた?」
「えっ!?」
「ないない」
ニヤニヤしながら言うミゲルをラスティは即行否定する。
僕はというと、さっき考えていたことが考えていたことなので、きっと真っ赤に
なっている頬を隠すように押さえることしかできなかった。
「ええっと…お邪魔しちゃっていいの…?」
頬の熱が収まってきた頃、おそるおそる聞いてみる。
「おう。弟は学校に行ってるし、おふくろは今の時間はお隣だからな」
「じゃあ、お邪魔します」
「…キラはいい子だよな…」
「ふぇ?」
「誰かに見習わせたいぜ…」
「ミゲル〜なんか言った〜?」
「おいこら、ラスティっ!家主よりも先に上がって寛いでるんじゃねぇよっ!!」
…誰かがわかっちゃったよ…僕…
「え〜〜いつものことだし〜」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らねぇのか!!」
「しらな〜い」
ソファに座って、お茶まで入れて寛いでいるラスティに怒るミゲル。
マグカップを机に置いたのを見計らって、ミゲルはラスティの後頭部を張り倒していた。
「〜〜〜〜っ」
「自業自得だっての」
「いつものことじゃんか…っ」
「いつものこと?」
後頭部を押さえて訴えるラスティの言葉に僕は首を傾げる。
「言ってなかったっけ?幼馴染なんだよな、こいつとは」
「そーなんだ」
僕とアスランと同じなのか…
「キラみたいに可愛い幼馴染がよかったよ…俺は」
「ほーんと。アスランが羨ましいよなぁ…」
「気が合うじゃないか」
「これに関してはね」
「何こそこそ話してるの?そんなところで」
机と、ソファの間にうずくまったラスティと同じようにミゲルもしゃがんで、何か
話していたようだったから、声をかけた。
『なんでもない…』
「そ?」
『そうそう』
二人して、こくこく頷く。
タイミングもばっちり合っていて、ほんとに幼馴染なんだ。と妙に納得できてしまった。
「あっ、ほら、キラのケーキ作らなきゃ!」
「そ、そーだな」
焦ってる二人を見るのは初めてで、ちょっと嬉しくなった。
「な〜レシピは〜?」
「んなもんねぇよ」
「はぁ!?」
「全部覚えてるし」
「そうだよ…ミゲルってそういうやつだよな…」
ミゲルってば、今まで作ったもののレシピ全部頭の中に入ってるみたいだからスゴイ。
1回作ったら覚えたって言っていたけど、ありえないよねぇ…
まぁ、それをやっちゃうのがミゲルたちなんだけど。
ミゲルの言うとおりに作っていく。
そうしたら、本当に綺麗に焼けて。
ケーキからはほんのり赤ワインのいい香り。
ラスティは、ワインの飲みすぎでソファで寝ちゃってる。
らしいというか、なんというか。
「ほら、キラ」
「なに?」
「最後の仕上げ」
そう言って、ハサミとペンと、なぜかクッキングペーパーを渡される。
「それに言葉を書いてハサミで切れよ。そうしたら、粉砂糖でメッセージが書けるだろ」
「なるほど…」
「ほら、早くやんねーと冷えちゃうぜ」
ミゲルに言われて慌てて僕は下書きをする。
つるつるしてうまく書けないけど、精一杯の思いと、ありったけのスキをこめて。
一文字一文字、不恰好だけれど、切り抜いていく。
「で〜きたっ!ミゲル、できたよ〜」
切り抜いた紙を持ってミゲルのところへ行く。
ミゲルは何かカードみたいなものを書いていた。
「ミゲル?」
「あ、できたか?」
「うん。何かいてたの?」
「ん〜、俺たちもイザークにバースデーカードをな。キラのと一緒に届けてくれるか?」
「いいよ〜」
「サンキュ。ほら、貸してみな」
僕が切り抜いたクッキングペーパーを取って、ケーキの上に乗せた。
その上から粉砂糖を振る。
そうしたら、切り抜いた文字のところだけ白くなっていく。
ミゲルが持つ篩からさらさら砂糖が落ちて、僕の作ったメッセージに積もっていく。
「食べれるメッセージの出来上がりだ」
「うわぁ…」
「あとは、ラッピングして渡すだけだな」
「うん!」
箱を組み立てて、そっとケーキを入れる。パウンドケーキだけど、メッセージが消えてしまうと意味がない。
不器用な僕はリボンだって上手に結べないけれど、こればっかりはミゲルに手伝ってもらうわけにはいかなくて。
だから、何度もやり直す。
「できたっ!」
「俺もできたぜ?」
「なにが?」
「まあそれは、後のお楽しみvv」
「ふうん…」
ミゲルが何をしたのか、凄く気になったけど、早くイザークのところに行きたくて、無理やり自分を納得させる。
「早く行ってやれよ。キラからプレゼントもらえるの待ってるぜ?」
「…うんっ」
「これも、忘れないでくれよ?」
「ん。イザークにちゃんと渡すよ。ありがとう、ミゲル。ラスティにもありがとうって伝えて」
「オッケ。気をつけて行けよ」
「うん」
ミゲルにぺこんと頭を下げて、僕はイザークのマンションに行くために背を向けた。
僕はどきどきしながら、チャイムを鳴らす。
いつも慣れないけれど、今回は特別どきどきしてる。
「…はい」
「イザーク、こんにちは」
「…入れ」
少し不機嫌なイザークの声。
寝起きなのかな、と思う。
でも、僕とすれ違いばっかりでしばらく会っていないから不機嫌なんだったら嬉しい。
それよりも、僕から誕生日のプレゼントがもらえなくて拗ねているんだったらもっと嬉しいな。
「キラ、いきなりどうしたんだ?」
顔をあわせるなりぎゅうっと抱きしめられる。
久し振りのぬくもりに、僕の方もしがみついてしまう。
「あ、のね…イザークに誕生日プレゼント…遅くなっちゃったけど…」
少し身体を離して、イザークに必死になってラッピングした箱を渡す。
「…俺にか?」
「うん…何がいいのか分からなくて、結局、遅くなっちゃったけど…」
「……貰えないのかと思った…」
「え?」
「いや、なんでもない」
「あ、あのね、ケーキ焼いたんだ。味見もしたし、甘さも控えめで…」
「そうか」
「あとね、ミゲルからカードを預かってて…」
なんか恥ずかしくって、この体制を何とかしようと、ミゲルからのカードをイザークに渡した。
「…ほぉ」
「どーしたの?」
「いや。奴らからはイイモノを貰えそうだ」
「へ?僕はカードしか預かってないよ?」
「ああ、そうだろうな」
僕はやっぱりよくわからなくて首を傾げる。
「…ミゲルからのカード、見るか?」
「見てもいいの?」
「かまわない。ほら」
イザークが僕にカードを見せる。その内容に僕は口を動かすものの、言葉も出ない。
「ミゲルもラスティも俺の好みをよくわかっている。そう思わないか?」
にやりと笑うイザーク。
…うわぁ…なんかとっても嫌な予感★
気がつけば僕の身体は中に浮いている。…抱っこされてるし…っ
「思わないしっ!!ケーキ!!ほら!僕せっかく焼いてきたんだからっ」
「キラの後でゆっくりいただくことにする。紅茶も一緒にな」
「いまっ!今がいいっ!」
「却下だ」
するりと僕の首からいつの間にか付いていたリボンを模ったチョーカーが外される。
…ミゲルのやついつの間に…っ
イザークはチョーカーを指に絡めたまま、僕を降ろさず、すたすた歩いていく。
あっという間に、ベッドルーム…
こうなったイザークはきっと誰にも止められない…
僕は諦めて覚悟を決めた…
ミゲルとラスティのばかぁ〜〜〜っ!!
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