「ホラ、キラ口開けな」

「あーん・・・っく、おいひいv」

「・・・っ・・・!!」

「あらら〜」

 

本当の気持ち

 

同じ空間に、楽しげな雰囲気とそうでない雰囲気。

今、時間は昼食時。

アスランとニコルは任務で外に出ている為、この場には居ない。

 

「キラ、こっちも食うか?」

「うん!」

 

仲睦まじく食事をとっているのはミゲルとキラ。

対して…。

 

「・・・・・・・・・・・」

「イザーク、青筋立ってるぜ?」

 

怖いまでに沈黙し続け、2人(というかミゲル)を睨んでいるのがイザーク。

そしてその彼のマグマの爆発の鍵を握っているのがディアッカだ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

イザークがずっと目の前の光景を睨んでいる最中、その彼を挑発するように、ミゲルはわざと見せつけるようにしている。

イザークのキラに対する恋心を知っての事である。

キラはと言えば、酷く鈍感なのか未だにイザークの視線に気がつかないでいる。

ディアッカはこの【ミゲキラ←イザ】の図になる3人に順々に視線を巡らせながら、内心「アスランが居なくて、ホント良かったぜ」と思った。

もしアスラン・・・彼がこの場にいようものなら事態はもっとややこしい展開になっているはずなので。

例えば、ミゲルが無事では済まなかったかもしれないし、この食堂の場が半壊になる騒ぎになっているかもしれない。

下手したらGを持ち込んでの乱闘にもなりかねない。

最もその場合、騒ぎの元凶がたとえミゲルだとしても大きくしてしまうのは彼ではなく、アスランとイザークの2人になるわけなのだが。

ディアッカの思考にて「アスランが居なくて良かった」というのは、今食堂に集うクルー達の安堵でもあった。

しかし、いつマグマが起きるともわからないのでその場から遠いところに皆して座っている。

アスランとイザーク・・・2人揃えばそれは花火の爆竹のようなもので、そこに“キラ”が名前だけだとしても関わっていれば、まだかわいらしいとも思える爆竹は一気にダイナマイト級になってしまう。

現在、アスランは不在のイザークオンリー。

 

「線香花火ってとこかな」

 

イザークをチラリと伺い、ディアッカは止まってしまっていた自分の食事を再開させた。

 

「ミゲル、僕も食べさせてあげるよ!はい・・・あ〜ん♪」

「お、さんきゅ〜vV」

 

明らかに楽しんでいるミゲル。

何か言いたそうに口を開閉するイザークの片手に握られているフォークは今にもパキッと折れそうだ。

これでミゲルの元からキラが離れれば怒鳴るであろうイザークは、傍らに居るキラのおかげで我慢せざるを得なかった。

好きな人にはみっともない嫉妬の姿なんて見せたくない。

これが純情一途少年、イザーク・ジュールである。

しかし、その我慢もそろそろ限界が来ていた。

ディアッカはそーっとトレーを持って彼らから避難しているクルー達の元へ静かに逃げていった。

そこはまだ“安全圏”であろうから。

そんなディアッカに気がつくはずもなく、イザークの瞳は2人に釘付けのままだった。

その視線を勿論知ってミゲルは大胆な行動に出始めた。

小さくディアッカが離れた場所から「止めといた方がいいぜ」と制したが、聞こえない振りをしてミゲルはキラの名を呼んだ。

 

「キラ、キラ」

 

食べ物を口に含んで振り返ったキラの顎を掴んで引き寄せる。

 

「んー?何?……ん!?んぅ…///んん…っぁ…」

 

キラの唇に重なるミゲルのそれ。

深い深いディープキスがイザークのサファイアの瞳に映り、同時に彼の手から強く握られていたはずのフォークがカシャンとトレーに落とされた。

 

「なっ、何するのミゲルってば!!///」

「口移し♪キラの唇ってやっぱ柔らかいんだなv」

 

その言葉にキラの頬が桃色に染まる。

 

「もっ、もう!///やめてよ・・・イザークが見てるし///」

 

キラは困惑していた。

お兄さんのようなミゲルとのこんなやりとりは好きだったがちょっと過度な“これ”には内心ビックリしていた。

キラはイザークが好きだ。

ミゲルの好きとは異なる。

キスを普段からミゲルとすることはない…いや、したこともない。

今回が初めて。

でも目の前の席にはイザークが居る。

彼には見られたくなかった。

『イザークが見てるし///』

その言葉を聞いたイザークは、そんなキラの心など到底知ることなく、意味を異なる意味で取ってしまった。

 

「つまり俺は邪魔ってわけか」

 

ガタンと席から立ち上がる。

周りのクルーが一斉に災害に備えて防御の姿勢をとる。

ディアッカはそのまま食べる動作を止めることなく視線だけこちらに向けている。

 

「どうしたイザーク。ヤキモチかぁ?」

 

ミゲルが面白そうにからかう。

もうイザークには限界だった。

ヤキモチか否かという質問に無言で答え、トレーを返却すると食堂を離れようと入り口に向かった。

 

「い、イザークがヤキモチ焼くわけないじゃないか///」

 

キラが急におかしくなったイザークの行く手を遮って照れた微笑を浮かべた。

 

「ご、ごめんねイザーク。不愉快にさせちゃった?」

「不愉快?別に。俺になんか構わず、ミゲルの元に戻ってじゃれ合っていたらどうだ?」

「え…?」

 

キラの笑顔に陰りがさした。

そしてキラの顔を見ることなく、視線を合わせることもなくそっぽを向いて、イザークはキラの横を通り過ぎようとした。

 

「俺が気を遣ってやっているんだ。早くミゲルのとこへ行け」

「そ、そんなっ」

 

キラが慌ててイザークの軍服の裾を掴む。

と、イザークはパシッとその手を振り払ってその射抜くようなサファイアでキラを睨んだ。

 

「邪魔だ・・・早くミゲルの元へ行けと言っているだろう!!!」

 

食堂に大きく響くイザークの声。

言ってから「しまった」とは思ったけれども、もうこの場に居たくなかったイザークは逃げるようにそこから去っていった。

嵐が去った食堂では、ディアッカがトレーを返却し、ミゲルの元で話していた。

 

「だぁから言っただろ?やめとけってさ」

 

呆れた溜息をディアッカがつく。

 

「いやぁ〜イザークをからかってくのが面白くてさ・・・っつってもやっぱ俺、やりすぎみたいだな;;」

 

ポリポリと頭を掻きながらミゲルはこちらに背を向けるように立ち尽くすキラを見た。

小さく震えているその姿は、正しく泣いている証。

ミゲルとディアッカは、イザークの心は勿論、キラの心を知っていながらのやりすぎた行い(ディアッカは見ていただけだったが、しっかり止めなかったので)に反省した。

キラの元に近づいて、ミゲルは申し訳なさそうに声をかけた。

 

「ご・・・ごめんなキラ」

「・・・よ・・・」

「ん?」

「ミゲルぅ・・・どうしよう、僕・・・嫌われちゃったよぉ・・・!」

 

大筋の涙をアメジストの瞳から流し、キラはミゲルにしがみついた。

互いの勘違いをさせた元凶だと自分でわかっているミゲルは、キラの頭にポンと手を置いて宥めた。

 

「俺がイザークの誤解をといてくるから、部屋で待ってろ。な?」

 

***

 

「おーい、イザーク・ジュール君ってばさ〜」

 

扉の叩き過ぎで右手の甲が赤くなってしまったのを見て、ミゲルはそこにフゥと息をかけた。

何度名を呼んでも扉を叩いても何も反応が返ってこない。

扉の向こうは無言のまま。

 

「弱ったなぁ〜」

 

ミゲルは長めの前髪をかきあげた。

今キラの側にはディアッカがついていて、ひたすら必死に慰めている事だろう。

イザークの怒りも大変不味い事だが、アスランが帰ってくるまでにどうにかしないと、とミゲルは思っていた。

キラを不覚とはいえ、なかせたのはイザークなのだが、自分が全くの無実だとは思っていない。

 

「なーぁ、イザークー」

「うるさいな!!何度も何度も!!」

 

ミゲルの粘り勝ちでようやくイザークが観念し、扉を開いた。

イザークの顔に隠しもせず“不愉快”という文字を浮かべながらイザークは開いた扉から顔を見せた。

 

「・・・キラとのじゃれ合いは終了か?」

「いや、悪かったって;;」

「謝る相手が違うだろう。キラを一人にするな!」

「ん、平気平気。ディアッカが側にいるからさ」

「・・・・・・・普通、お前が側にいてディアッカが俺の元に来るというのが妥当なんじゃないのか?」

 

腕を組み、壁に凭れてイザークがミゲルを睨んだ。

ミゲルはそんなイザークの睨み等とっくに慣れているので別に怖いとは感じない。

問題はそれではなくて、イザークの勘違い。

 

「何で」

「何でって・・・つ・・・付き合ってるんじゃ、ないのか?お前達は・・・」

 

やっぱり。

ミゲルは隠すことなくイザーク本人の前で高らかな笑い声を上げた。

馬鹿にされたと思ったイザークが扉を閉めようとボタンを押すが、ミゲルの足がその閉まるのを妨害してそれが出来ない。

 

「この足を退けろ!!」

 

怒りと、良くわからない羞恥心のせいで赤くなった顔を見られないように俯いてミゲルの足を部屋の中から蹴り出そうとするイザーク。

 

「やぁだね。つかイザーク、ナイス勘違い」

「は?」

「付き合ってないし。俺とキラ」

「じゃ・・・じゃあさっきの昼飯・・・」

「んー、過度なスキンシップってヤツ?」

「・・・俺は・・・・・・・」

 

抵抗を止めたイザークの蹴る力が弱くなっていく。

 

「かん、ちがい・・・?」

「そ。勘違い。そう見えたか?」

 

クククと笑みを見せるディアッカに、イザークは再度疑うような目を向けた。

 

「・・・お前がそうでも、キラはそうじゃないかもしれないだろう」

「そうかもなぁ〜。ま、それは有り得ない話だ」

「何故?・・・!!・・・あ、あ、あ、あ・・・・・・・アスランなのか?キラが好きなのは・・・」

 

ミゲルの返した言葉を聞いて、イザークの思考は約一分間停止した。

有り得ない、と思った。

先程キラに対して怒鳴ってしまった光景がよぎる。

悲しげなアメジストの瞳・・・。

イザークは突き飛ばすようにミゲルを押し飛ばし、その場から勢い良く走っていった。

 

『だってキラは、アスランじゃなくて、お前が好きなんだからさ』

 

***

 

ディアッカは困り果てていた。

「大丈夫・・・大丈夫・・・」と健気に微笑んでみせる赤めのウサギ状態のキラの瞳からは止め処なく雫が溢れ出している。

正直、大丈夫そうには絶対見えない。

 

「キラちゃん・・・」

 

ずっと背中をさすり続けている手が摩擦のせいで熱いくらいだ。

少し疲れてきてはいたが、可愛いキラの為だ、とディアッカは懸命に手を動かしキラを慰め続けていた。

 

「キラ!!」

 

そこへ一人の来訪者。イザークがズカズカと入ってきた。

いきなりの事に、キラは瞳をキョトンとさせて、彼のサファイアを見つめている。

 

「すまなかった、キラ」

 

キラの前まで来ると、イザークは滅多に見る事が出来ない謝罪をした。

それはキラだから。

キラでなければおそらく上司に対して以外絶対に見れないだろう。

 

「その・・・俺は勘違いをしてしまって・・・聞いたんだ・・・お、お前が・・・・俺を・・・その///」

「ミゲルから、聞いた・・・の?///」

 

ドギマギし、徐々に真っ赤になっていくイザークに、キラも最後まで言えなかった言葉を理解して同じく赤くなる。

いつの間にか止まることのなかった涙も止まり、そんな2人を見ていたディアッカはそぉっと部屋から出て行った。

 

「ミゲル」

「お、イイ感じ?2人」

「間もなくってトコじゃん?俺にはお前のほうが驚きだな、殴られなかったなんてマジ驚き」

「だよな〜。マジ、ツイてたツイてた」

 

ケラケラと笑いあって、2人は部屋の前から離れていった。

どこかの部屋にも食堂にも向かうことなく、真っ直ぐに向かっていく。

格納庫に。

そろそろ厄介なエースパイロットが帰ってきそうな時間帯。

折角の2人を邪魔させないようにという2人の計らいだった。

今は無傷でもこの後が無傷じゃ済まないな、とディアッカと会話してミゲルはまた高らかな笑い声を上げた。

戻ってイザキラの2人は・・・。

 

「僕の気持ち・・・イザークに迷惑?///」

「そんな事はない!!///俺も・・・お前が、好き・・・だから///」

 

新たな恋・・・否、始まりの恋の花を咲かせようとしていた。

 

***

 

それから数日後。

毎日涙で通路を濡らし、清掃係りの良い迷惑になるアスランが「キラぁ〜!!!!」と悲しみにくれているそうな。




華紅羅さまに相互記念で頂いてしまいましたvv
ミゲキラでイザキラですvv
もう、たまりません。
あまりのキラちゃんの可愛さにじゅるりと涎が…