Sleepwalker (1977)

アリスタ移籍第1弾アルバム。キンクスにしてはジャケのセンスもよく、内容も間違いなく名盤。個人的にはアリスタ期で1番好きかも。

全体的に地味目で緩めの雰囲気がいいのですが、わたしがこのアルバムで一番言いたいことは、レイのボーカルアルバムとしてとても魅力的であるということ!
つねづね自分がいかにレイの声が好きかを語っておりますが、このアルバムは特に声が魅力的!1曲1曲どころか、一小節づつのレイの声の素晴らしさについて語れるくらいです(語るなよ)。
レイは歌が上手いのか下手なのか?という記事を時々目にします。わたしもそこは疑問に思わないではないですが、技術的にどうかというよりも、ボーカリストはやはり「声」と「演技力」だよなあ〜と、キンクスを聴いてるとしみじみ感じます。昔大島渚監督が「優れたミュージシャンは優れた俳優でもある」と言っていたなあ〜。

先ず特筆すべきは各曲の始まりの、レイの声がとてもいい。「sleepwalker]の「everybody」の「エッ」とか、男性ファンへの贈り物とも思える「Brother」の「the world's going crazy〜」の「the」んとことか、た、たまらん!ちゅうくらいよい。「stormy sky」の「Oh oh darlin'」なんか、何度聴いてても気を失いそうになるくらい、うっとりする〜!夜中にヘッドフォンで聴くたび、悶死してます。「juke box music」の声の伸びの悪さ(失礼?)とか、技術的には欠点なのかもしれないけど、しかしそこがまたイイ!ってところがいっぱい。またそのレイの声の伸びの悪さをカバーするかのようなデイヴのギターがまたよい。これはわたしが、レイのベストパートナーはデイヴ以外には絶対いないと確信している理由のひとつ。「full moon」のボーカルは切々としててすごく好き。レイが俳優でもきっとわたしはファンになったでしょう(ただここまでミーハーファンになったかは不明。やはり音楽家としてとても好きだから)。

今CD化されてる分には、ボートラが5曲入ってます。もともとタイトルになるはずだったらしい「the poseur」はキンクスにしてはかなり暗い印象の曲。昔は入手困難だった「prince of the punks」が入ってるのも嬉しい。
しかしなんと言ってもおススめなのは、「on the outside」!(この曲は94年のwaterloo sunsetというEPにも入ってるんですが、歌詞はこのとき載ってなかったので)
70年代ディスコのフロアーで、お客もまばらな時間にかかってるかのようなオルガンの音が物悲しく響く。
だけどhey baby-blue〜♪のところからぱあっと光がさしたように、曲調が明るく暖かくなる。聴いてるこちらの胸まで温かくなるよう(またこの声が胸キュンキュンでして)。
レイの書く「慰めソング」(勝手に命名)の代表格は[stop your sobbing」や「better things」だと思うが、この曲もそうで、とにかく主人公をやさしくひたすら励ますのが好きだ。「レディみたいに振舞うのはもうおやめ/こっちへおいで。ベイビーみたいに泣いていいんだよ」なんてレイに歌われた日にゃアナタ!すいませんこの先は妄想モードに入るので自主規制。
こういう曲+歌詞そしてあの甘い声、という組み合わせを聞かせてくれるバンドを、わたしは他に知らない。もうモロに好みなのだ。キンクスにはわたしが求めるもの全てが入ってる。多様なスタイルを演奏する歴史の長いバンドで、童話的なフォークぽい時期も、演劇的なヴォードヴィル調も、そしてストレートなロックバンドな魅力もあるのだけれど、それぞれどれもがわたしの好きなスタイルなのだ。ホントに不思議なのだが、キンクスのその一つ一つが、パチッパチッと、小気味いい音とともにわたしのツボにはまる。こういうのを「相性がいい」と言ってはダメかしら?勝手な妄想でしかない?
この曲は中盤ただただ優しく寄り添うような甘いメロディと歌詞なんだけど、恋人に歌いかけてるのではなく、もっと小さな存在のために書いたのではないかと思ってしまうのだ(たとえば娘さんとか?)。「僕ら二人なら、何とか上手くやれそうな気がするんだ」なんてところは、僕がいるから大丈夫。だから安心おし、みたいなニュアンスがとれてしまう。濃いものを感じるというか。もちろんこれはわたしの想像なので実際は恋人に歌ったのかもしれないし、あるいはモデルなんかいないのかもしれない。もしかしてレイ自身がこういうふうに励まされたい人なのかもしれない。背景はどうあれ、レイの声やメロディに、とてもふんわりとしたやわらかい優しいものを感じるのだ。レイがこう言うのなら、きっとホントに何もかも大丈夫、なんてこのトシになっても励まされる。
そしてわたしは当然、こういう雰囲気がとても好きなんである。甘くてやわらかくて、優しくてそしてあたたかいものは、誰の人生にも絶対必要。わたしにとってはキンクスの音楽がそれなのです。(と思ってるわたしには「juke box music」は身につまされるマイテーマ曲(苦笑))

「Sleepwalker」は「Life on the Road」というタイトルから始まって、「Life goes on」という曲で終わる。このアルバムからキンクスはアメリカで陽が当たり、新局面を迎えるわけで。そういう面ではすごく象徴的な1枚です。
ちなみにタイトルどおり、とても「夜」が似合うアルバムです。あたしはいつも夜に聴いてます。。。