Other People's Lives (2005)
Ray Davies Solo Album

ミュージシャン人生40年にして始めての、レイ・デイヴィスさんのフル・ソロアルバムです。
そっか〜今まで個人名義で出してたやつは、キンクス時代の曲をリカヴァーしたなかに新曲を混ぜたりしてるだけで、オール新曲ソロ、というのは初めてなのだわ。

ボブ・ディランがU2のボノに、「キミはバンドがあるだけ幸せじゃないか。オレはそれを全部一人でやったんだぜ」と言ったそうですが、ああ〜ディランをしてそう言わしめるとは、ソロというのは孤独なものなのだな・・バンドはバンドでめんどくさいこともイッパイあるだろうけど。
ダン・ベアードもSATSが解散したときは、自分で音楽をやるのはやめてプロデューサーとしてやっていこうと考えた時期があったそうですから、やはり独りになるというのはバンド人生の人にとっては、いろいろストレスがかかるものなのかもしれません。レイだって、いかなベテランとはいえ、ずっとバンドでやってきたわけですから、いろいろ悩ましいこともあったと思います。ソロを出す出すといい続けて何年越しにリリースが遅れに遅れたのも、そのへんがあってのことでしょう(と思っとこう)

バンドをやってるミュージシャンが、ソロ作を出すとき、そしてそのバンド自体が解散もしくは同じような状態にあるとき、さて、どんな風に違うのか?というのが大方のマスコミやリスナーの問題です。いちファンとしてのわたしも胸もけっこう複雑なものがありました。
キンクスと、ソロとしてのレイ・デイヴィスはやはり違いがあるだろう。その違いについて行けなかったらどうしよう、という点です。ある意味わたしにとって踏み絵のような存在になるかもしれない1枚。こんなふうに書いたら「お前はレイ・デイヴィスの才能を信用してないのか」と言われそうですが、才能云々ではないのです。好きか嫌いか、というシンプルな問題なのです。そして、好きだったものに関心が持てなくなってしまうときと言うのは、とても寂しく悲しいものなのです。
とまあ、やや神経質になりながら、聴き始めたアルバム。いつも誰かの新作を聴くときと言うのは期待と不安でドキドキするものですが、今回のお相手はなんてったって、ワタクシ最愛のヒト、レイ・デイヴィスさんですから!
(思ってたより長々書いてしまいました。面倒な方はすっ飛ばしてください。毎度おなじみ、思い込みと勢いだけの感想です)

まず驚いたのは、「若い!」もちろん青臭い若さではなくて、卓越した、しかし貪欲なミュージシャンの若々しさ。
各曲のアレンジに勢いのあること。イントロ部分の斬新なこと(小説も始めの3行で読む気になったりならなかったりするもんですが、曲もイントロで決まるよね〜)!

一曲目「Things are gonna change」はアルバムの幕開けにふさわしい、ドラマチックで、しかしやや重々しく。今にも泣き出しそうな曇り空の朝という感じです。朝起きて、今日からは違う自分になってやろう、みたいな歌詞なんですが、さわやかな生まれ変わりではなくて、2日酔いの頭を抱えながらさてホントに変われるのかどうか、変わっても上手くいけるかどうか?って雰囲気?毎朝ワタシが「今日こそ家事マメなオンナになろう!」って思うのと同じカンジ?(でもなれてないわけだが、アタシの場合・・・)。最後の、せきたてるようなギターとベースが好きですね〜。
続く「After the fall」はこのアルバムの中で一番キンクスっぽい曲だなと感じました。実際キンクスの最後のツアーの頃からある曲だそうです。なんとなくロンドンレコード時代初めの頃のキンクスぽいカンジかなー。途中1行だけエコーがかかるトコがあったりするのもそれっぽい気がする。いい曲です。
Next door Neighbours」これもまた、レイ・デイヴィスならではの一曲。ジョーンズさん、ブラウンさん、スミスさんといった、ポピュラーな苗字に仕立てたお隣さんたちの歌で、もちろんこれはフィクション。超ショートショートストーリーみたいな一編です。ごく当たり前な生活を送ってるはずのお隣さんたちの、マトモさや意外さを歌っただけの思い出話みたいな歌詞で、でも最後に「窓からテレビをほうりなげたスミスさんはどうしてるんだろうなあ」って引っぱったオチがいたずらぽくて可笑しい。こういう曲には素直にくすっと笑うわたしです。
All she wrote」と「Creatures of little faith」は対になってるという言い方も出来る?らしい?前者はさよならと書き残して、新しい恋人の元へいった女性のことを恨みがましく歌ってて、レイの声が非常にダークです。後者は今にも別れそうな状況にすがって、泣き言を言っている男の姿。Creatures〜の「Don't you know that a litlle bit of faith can be a beautiful things(ちょっとした信頼が、美しいものになるかもしれないよ)」ってトコを示して、レイは「こういうクサいことを言うからこの主人公はダメなやつなんだ」と評してるようですが、しかしむしろここんとこがまたアナタらしいのではないかしらと思ってしまうんだけどなあ(笑)ひよひよと泣きながら妻にすがるダメ男の情景が目に見えるようで、非常に好きな曲です。「And all we need,all we need, all we need is a littke bit of faith〜」んトコなんかいいですね〜情けなさ全開。こういうの天下一品だなあ。いつの間にかかぶってくるかなしげ〜なジャズっぽいサックスもベタで効果大です。レイの声の魅力全開の、お気に入りの1曲です。
Run away from time」が一番異色な曲ではないかしら。楽天的とも思える、ただただ逃げ切ってやろうという曲。こんなふうに歌えて楽しかったとレイはいっているようです。そういう気分のときもあるのでしょう。アタシもレイと一緒に走ってる気分よ(バカ)。この曲で印象的なのは、ギター!スッゴク、デイヴっぽいフレーズだと思うんですよ!!
The tourist」長いことミュージシャン生活で、ひとところに落ち着くことがないツアー生活を送ってきたレイは、キンクス時代にも旅ということをいろんな描写で描いてきてると思うんですが、これもそんな一曲。どこへでも行くけどどこの人間にもなれない、何の力にもなれない男を、やや自嘲的に客観的に歌っています。暑さにうだりながら、外国の町を歩いてるようなリズムが印象的。
Is there life after breakfast?」コレもイントロのバンジョー(マンドリン?)からしてキンクスっぽい雰囲気だなと思ったら、ミック・エイヴォリーに捧げた曲だそうです。「If there life after breakfast full of possibillities(朝食が終わったら、希望に満ちた一日なのかな)」メロディは明るくレイの声は優しく、とてもレイらしい、素敵な曲です。レイの作るこういう「いいことがあるといいなー」とか「いいことがありますようにー」てな曲って、凛々しい感じじゃなくって、いつもどこか不安を抱えてるような雰囲気が好きです。何の疑いもないような、力強く自信に満ちた感じって嘘くさいじゃないですか。
The getaway"(Lonesome train)"」はとても地味だけど、とてもイイ曲だと思います。雰囲気があるといいますか。ニューオリンズ風のイメージを出したかったらしいけど、あたしニューオリンズ行ったことないけど(笑)
さてロンサムトレインに乗ってたどり着いたのは情熱の国、スペインだったらしく(笑)続く「Other People's Lives」。タイトル曲です。セレブリティD氏の、スペインでの短いラブ・アフェアがやがてタブロイド誌に売られ、そこに書いてるのはまるで他人の人生に起こったかのような、覚えのないことばかり・・・という設定だそうです(おもしろいよねぇ)。あることないこと書きたてるマスコミに対する批判が、魅惑的なスペイン風アレンジにのって歌われるのですが、さあアレンジャーとしても天才的なレイ・デイヴィスさんのまさに真骨頂。時々聞こえる、女性の媚惑的なコーラスやため息やちょっとヒステリックな?スペイン語といったスパイスが効いていて、映画のような1曲です。今までありそうでなかった曲かもしんない。すごく好きですコレ。
Stand up comic」はタイトルからしてレイ・デイヴィスっぽい。あら、そういやこのタイトルでいままで曲書いてなかったね、てのが不思議なくらいだ(笑)RCA時代のヴォードビルぽい曲たちを思い出します(この曲がボードビルっぽいわけじゃないんだけど、舞台の上での芸、ってカンジがね)。威勢のいい(しかしカラ元気気味の)前口上に続いて、言葉数の多い歌詞を、まくし立てるように、やや冷徹にしかし力強く、皮肉っぽい口調で歌うレイ。年齢を感じさせません、ホンマ元気。いつも思うけど、ホンマ俳優でもイケたよな〜。ロックミュージシャンのほうがいいけどね(笑)
そしてアルバム最後の曲が「Over my head」。この、締めくくりの曲こそが!まさに!わたし好みのレイ・デイヴィス節!!メロディといいい、レイの声といい、歌い方といい、むちゃくちゃワタシ好みなのです!理屈じゃないのよ〜ただただ、こういうレイがかもしだす雰囲気が大好きなの〜〜〜ぉ

息切れがしてきた。このあとにシークレットとして「Thanksgiving Day」が入ってます。アメリカの感謝祭を舞台にした、しみじみとした曲です。キンクスとソロの中間みたいな感じの雰囲気かなあ。日本盤のみボートラ「London Song」が入ってます。

今回のソロで意外に(というのもヘンか)気に入ってしまったのが、ギターです。各曲のクレジットでは、ギタリストさんの名前が一番前に来てるのもあるけど、レイが先頭を飾ってるのも多い。あらぁ〜ギタリストとしても好きなのかあたしってば。

61歳でデビュー?のソロミュージシャンという言い方も出来るわけですが、彼ならば生まれ変わっても、ソロミュージシャンとしてのキャリアを続けるんじゃないかしら?(笑)そうあってほしいです。レイにはやはりロックがよく似合う。音楽性はもちろん、小説家のような作家性と、演技者としての才能。全てを1枚のアルバムで表現できるロック・ミュージシャンという存在は、レイの天職だと思います。
これからまたレイが新しいアルバムを出すごとにやはりわたしはドキドキしてしまうだろうけど、それはやはり幸せなドキドキでしょう。生き物と言うのは一生のうちにドキドキする回数が決まってて、それを超えると死ぬそうだが。じゃああたしは命を削ってレイの歌を聴いてるのか(笑)

「やさしい」と言う言葉は非常にあいまいで危険だから、あまり使いたくないのだけど、でもわたしがレイの作る歌を聞いていつも思うのはやはり「ああ、なんてやさしいんだろう」と言うことです。「やさしい人」イコールいつも笑顔の人とか、けして怒らない人とかいうイメージになりがちだけど、そういう意味のやさしいではなくて、もっと根本的な部分で。子供を叱らないお母さんがホントに優しいかといえばけしてそうではないのと一緒で、レイが怒ったり呆れたり悲観的になったりするのはやっぱり、彼がやさしいから
なのではないかしらと思うんですよ。
あとねえ、ホントしつこいようだけど、声が好き!もう大好きなのよレイの声が・・・・・Other People's Livesの曲に入る前に、レイとコーラスの女性の打ち合わせが入ってるんですが、思ったわ!レイの声って、鼻にかかってふにゃふにゃしてるから、なんか泣き出しそうに聞こえるんだわ!そこがいいんだわ!!ホントかわいい声だわぁ〜〜