Muswell Hillbillies (1971)

キンクスにしては珍しく?ジャケのセンスも素敵な、RCA時代の幕開けを飾る名盤です。
「face to face」から始まった一連のシリーズ(笑)の集大成プラス「priservathion」へのオープニングといったカンジでしょうか。
単純にアメリカの音楽に憧れを持つレイの憧憬というのではなく、ここにも「夢と現実」っちゅうーか、「憧れど、憧れど、自分はやっぱりイギリス人」みたいな悲しみと、それでもやっぱり憧れ続ける切なさを抱えてるレイがいるような。。そうか!そういうのを人は「ひねくれてる」というのか?!でもそれてレイがひねくれてるんじゃないやん。「しょうがないけど憧れ続ける」って、すっごくいとおしい感情じゃないの?
カントリー調の曲とボードヴィルっぽい魅力に溢れたこのアルバムは、映画や芝居に詳しい(と思われる)レイのインテリジェンスな頭脳とセンスが光ってます。「villege green」あたりからやりたいともくろんでいた芝居仕立てのロックアルバム。穏やかなヴィッレジ・グリーンという架空の村を作り出したレイは「20th century man」でのっけから機械文化や官僚主義で荒廃した20世紀に嫌気がさして逃げ出したがっている主人公を歌います。産業革命で機械産業を世にもたらした英国のミュージシャンがこんなことを歌うというのは、皮肉というより悲しいことだとレイは思ってるのかもしれません。続く「acute schizophrenia paranoia blues(急性精神分裂誇大妄想ブルース)」で早くもキテます。タイトルでわかると思います(笑)。たぶんレイ自身、このころかなりキテたのでしょう。「holiday」で主人公はお休みをとって(取らされて?)、浜辺に来てひなたぼっこです。なんて素晴らしいのでしょう。ちょっと海は汚れてて、ニオイもするけど・・・。楽しげなロックンロール調の「skin and bone」は体重102キロのアニーちゃんが、栄養士に言われて無理やり痩せさせられるさまを歌います。どうもこの頃レイは他人からいろいろ指示されたり詮索されたりということにかなり腹を立てていたのでしょうか。挙句の果てに主人公は「alcohol」に溺れます。可笑しいまでに哀愁漂う芝居がかったアレンジ。レイは作曲・作詞に関してもちろん天才ですが、アレンジも天才です。ミュージシャンはアレンジの上手いそうでないによって、かなり違いがあると思います。アレンジが上手くないとこういうお芝居ふうのアルバムって、作れないよなあ。
「conplicated life」はカントリーちっくなイントロで一見穏やかそうな曲ですが、やる気をなくしたようなレイのボーカルが「こんがらがった人生」というタイトルを演じます。「here come the peaple in grey」はレコードではB面の始まり。A面もたいがい陰鬱な始まりかたですが、これもなかなか(笑)「have a cuppa tea」は「お茶賛歌」。お茶はどんな気分にもどんな病気にも、誰区別なく効きますよ、と。レイらしい愛らしい曲ですが、どんなに違った人々も、排斥すべきではないと歌うことは忘れません。。ドラマチックな「holloway jail」は、無実の罪で監獄に入れられた恋人を思う、悲しい歌です。「oklahoma U.S.A.」「uncle son」はどちらもカントリー風の魅力に溢れたす場らしい曲です。特に「オクラホマ」のほうは、現実世界に疲れた女性が、アメリカ映画のヒロインに憧れるさまを歌ってるのですが、こういう切ない人生を書く時のレイの視線て、とても暖かいと思うのですが。〆は名曲「muswell hillbillies」。もうイントロのギターでぐっと来ます。キンクスファンにとってのテーマソングとも言えるか?これを口ずさめば、なんだかレイになったような気もします(笑)
「いま自分を縛ってるしがらみや環境から抜け出たい」という歌詞が多いです。水面の明るさを目指して、水底でもがいているような。明るい水面の向こうには憧れのアメリカがあるのでしょうか。
聴けば聴くほどさらに素晴らしい、一生楽しめる傑作です。