キンクス初体験は高校生の頃。80年代洋楽ブームでラジオからも深夜のテレビからもロックが流れ、本屋さんでは洋楽雑誌が何種類も売られ、レコード屋さんに行けば国内盤も輸入盤たくさん並んでる時代でした。カルチャークラブやデュランデュランが少女の心をときめかせていた時代です。ちなみにわたしはデヴィッド・ボウイに夢中でした(笑)。
その頃アメリカでヒットし、日本のラジオでも時々流されるのが"Come Dancing”でした。
「わぁ〜かわいい曲。かわいい声やなぁ。キンクスっていうバンドの曲なんや」そんな印象でエアチェックし、お気に入りの曲でした。

その後、「TV音楽館」という、当時いくつかあった洋ロックのビデオを流す番組を何気なく見ていると、「You Really Got Me、キンクスです」という紹介が。アラ、あのかわいい曲のバンドだわ、そう思ってビデオに録画しておきました。

「か・・・・・・カッコいい・・・・
ボーカリストのあまりのカッコよさに画面に張り付き、何度も巻き戻しては見、すぐにレコード屋さんに走りました。その時買ったのは「ザ・キンクス・ファイル」という、結成20周年記念盤と銘打ったパイレーベル期のベスト盤。特に印象的だったのはTired of waithing for you ,Days,DrivingそしてWaterloo Sunsetのほうな、哀愁漂う、なのにキャッチーなメロディ。そして驚いたのは”Dead End Street”です。短い曲に込められた閉塞感。若く元気なコーラスがかえって息苦しさを強調しています。それでいて歌詞には難しい単語や言い回しがなく、物語性をはらんでいる。こういう表現の仕方があるのか!
さて、曲を聴くという目的はもちろんですが、今のようにインターネットでサクッと検索、が出来ない時代でしたので、ミュージシャンの事を調べるとなれば雑誌かLPのライナーノーツしかなかったのです。そしてわたしはここで初めてかのボーカリストの名前を知るのです。

「Ray Daviesっていうひとなんやぁ〜

曲も歌詞もそしてルックスも(笑)これほど全てを好きになってしまうことは、リアル生活を含めて人生なかなかないことだと思います。
LPを買い進め(RCA期はほとんど廃盤だったので苦労しました)、雑誌をあさり(古本&洋雑誌までも)、同じビデオを何度も巻き戻す。わたしの転落人生の本格的な始まりです。
そして「The Village Green Preservathion Society」と「something Elese by The Kinks」を聴いたとき、わたしの気持ちはピークに。

「あたしの聴きたかった音楽がここにある・・・」

古い英国のカントリーサイドを思わせるメロディとアレンジ、なんでもなく日常的で哀愁漂う歌詞、そしてもちろん甘くやさしいレイ・デイヴィスさんの声。もう「好き」とかではなく、自分の中の世界と、レイ・デイヴィスさんが描く世界とはそっくり重なってる!と思いました(←このへんから妄想人生が始まっている)。

よくレイ・デイヴィスさんの詩世界は「ひねくれてる」とか「冷笑家」とかいわれますが、これがわたしにはサッパリわかりません。ずっとキンクスを聴いてきましたが、そんな風に思ったことが一度もないのです。
人が生きている日常の悲喜こもごも、そしてその悲しさをどうにも出来ない悲しさ。
歌の主人公の気持ちをリアルに描く彼の天才的な筆致が彼を「ひねくれもの」と思わせるのでしょうか。でも彼の描く世界には、誰もが感じる感情でいっぱいだと思うのですが。
明るいだけの人なんていないと思うのです。喜びの中の不安、悲しさの奥の、閉じ込められた更なる悲しみ。でもお天気がいいだけでなんとなく晴れやかな気分になったりすることもある・・・
そういう誰もが経験する複雑な人間の感情が表現されてるのがキンクスだと思います。

美しいメロディーで、人々のなんでもない日常を繊細に表現した短編小説。
そんなレイ・デイヴィスさんの描く世界は、誰にでも心当たりがある世界なんじゃないかな、と思うのです。

気がつけばファンになって20年以上たっていました。こんなに長く、ずっとずっと”一番好き”でいるとは予想していませんでした。わたしの人生、思えば遠くへ来たもんです。ハタチのときならまだしも、それから20年たってまだなお、人様の前で「きゃ〜レイすてき!カッコイイ!かわいい〜〜っ」と身もだえしながら騒げるなんて・・・お恥ずかしい。ええ、ホント恥ずかしいとわかっております。でも好きなんだもん・・・
彼の音楽を聴くといつも、そのメロディーの美しさと、かもしだされる雰囲気、そしてあの頼りなく甘い声に心臓がきゅんとなります。
レイ・デイヴィスさんが作る音楽に出会えてよかった。心からそう思います。

甘く、切なく、ちょっと可笑しい、哀しい世界。
恋人のように、親しい友人のように、通りすがりの他人のように。
わたしの心に響き続ける、レイ・デイヴィスの声なのです。





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