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『STOP劉備くん!』シリーズ 白井恵理子 (角川書店全3巻 1991年7月17日初版発行 続編『GOGO玄徳くん!』シリーズ 潮出版社全3巻 / 2006年1月現在メディアワークス社より順次復刊中)

2番目は北方謙三さんの『三国志』か陳舜臣さんの『諸葛孔明』について書こうと思っていたのですが、復刊を記念して白井恵理子さんの劉備くんシリーズを紹介します。
と言ってももうすでに大ファンという方も多いよね? 
ご存じない方のために簡単に説明すると、三国志ネタと時事ネタを組み合わせた抱腹絶倒の4コマギャグ漫画です。シリーズ第1巻の発行日を見ればわかるように、途中ブランクがあったとはいえ15年も続いている人気作品。私もこの文を書くために角川版の1巻を引っ張り出してきたんですが、派手なヒット作とは言いがたくても息の長い人気に改めて驚きました。
ちなみに掲載誌は角川版のほうが今は無き『小説JUNE』、潮版のほうがこれまた今は無き『コミックトム』。現在はメディアワークス社の『三国志マガジン』にて連載中です。

この息の長い人気の秘密は、まず三国志でおなじみの登場人物たちのキャラがしっかり立っていることだと思います。それも孔明、関羽、張飛、曹操など原典のイメージをほぼそのまま残した(もちろん恐妻家曹操など独特の味付けはなされていますが)キャラたちと、劉備、周瑜、姜維、諸葛謹などちょっとしたキャラ付けがどんどんあらぬほうへと暴走していったキャラたちとの絶妙の対比。特に馬超! ありえないキャラ付けでありながら、どこか時地版馬超も思い出されて楽しいです。やっぱりどこに行ってもそういうイメージなのかなこの人は(笑)
あとはやっぱり取り上げる時事ネタと三国志的エピソードの組み合わせ方でしょうか。初期の作品からは15年もたっているので、正直「ふ、古い…」と思ってしまうネタもあるし(劉備の石原真理子〜あ、改名して石原真理絵になったんだっけ〜の物真似とか)、古いどころか今読んでもさっぱり元ネタが思い出せなかったりするものもあったりしますが。若い人にはわかんないだろうなー、とか。でも旬のものだけにツボにはまるとかなり笑えます。昔のネタもかえって新鮮かもしれません。
もちろん時事ネタだけではなくて、三国志エピソードのみで展開するネタもたくさん。三国志を読んだことがない方でも1巻の冒頭に簡単なあらすじ紹介があるのでおおまかな流れだけでもつかんでおいたらよいかと。
もちろんそれだけではよくわからない、物足りない、このエピソードの元ネタを知りたい、と思うようになったら原典を当たってみてはいかがでしょう。基本的には『三国志演義』がベースになっています。先にこの作品を読んでおいてから演義を読むと、「あー、あの4コマはここが元ネタだったのか」と思い当たって楽しいのでは。本末転倒、順序が逆と言うなかれ。読書なんて遊びなんですから、読んで楽しければそれでいいのよ。きっと白井さんもきっかけは何であれ、三国志をもっともっと楽しんでほしい、と思っていらっしゃるのではないかなあ。というのは私の勝手な希望的観測ですが…。


『泣き虫弱虫諸葛孔明』 酒見賢一 (文芸春秋社 2004年11月25日第1刷発行)

えーーと、初っ端からこの本というのもアレかと思いますが、一番最近読んだ「三国志」関連の本なのでご紹介することにしました。
まあ何と言っても面白かったし。

連載中から話題になっていた酒見版三国志(というか諸葛孔明物語)、1冊の本としてまとめて読むとますます面白さが際立ちます。
と言っても「血湧き肉踊る」とか「緻密な策をめぐらせて丁々発止の情報戦」とかそういう面白さではなくて、どちらかというと「なんじゃこりゃ」な感じ。(わはは)
作者が読者に語りかけながら話を進めるという書き方をしているのですが、その地の文もほとんど悪ノリに近いものが。でも悪い印象はないし、むしろ勢いがあって「三国志はよく知らない」と言いつつもすごく楽しんでいるのが伝わってきます。

話は隆中で晴耕雨読の生活を送っていた青年・諸葛孔明が三顧の礼を経て劉備に仕え、いよいよ世界に出て行こうとするまでを描いています。時地で言うと第一場から第一四場(1巻から3巻冒頭)までですね。
しかし時地の(と言うか普通の「三国志」の)真面目青年孔明とはえらい違いで、とにかくこの孔明は一言で言って「変人」なのです。筋金入りの。作者も「周囲からは変人と思われている天才の真の顔を探る」なんてつもりはこれっぽっちもなくて、その変人ぶりを「まったく何を考えているんだか全然わかりませんよ?」と面白がっている始末。
大体タイトルロールのくせに孔明の気持ちが描かれることはほとんど、いや全くなく、じゃあこの話は何かと言うと「凡人には理解不能な超変人・諸葛孔明に翻弄されて難儀する周囲の人たちの右往左往」を描いているのです。
劉備陣営(関羽、張飛、趙雲)を始め、水鏡先生、ホウ徳公、諸葛均(弟)達が孔明に振り回されてどんどんやつれていく様子に抱腹絶倒してしまうのですが、なかでも一番気の毒なのが時地では影が薄かった徐庶。出番も多くほとんど主役級の扱いです。でも時地版徐庶とは全然違うキャラなのになぜか諏訪さんの絵が浮かんでしまいました。あれよあれよというまに流されていくイメージがあるのかな?
あとやっぱりさすがの孔明も奥さん(黄氏)には頭が上がらない(表向きは立てられているんだけど実はうまく操縦されている)のがなんだかほのぼのしました。
この話でも黄氏は個性的で頭がよくてちょっとヘンでかわいい女性です。
それから士元! 私が時地版士元のファンだからかもしれませんが、このキャラクター造形は「おお!」と思いました。叔父さん(ホウ徳公)に対する態度など、時地士元を彷彿とさせます。出番は少ないですが士元ファンは要チェックですよー。

そうそう、冒頭に三国志時代の中国地図があるんですが、そこに「孔明が暮らしていた頃の襄陽ガイドマップ」なるものが載っています。孔明の家(臥竜岡)や士元、水鏡先生、ホウ徳公の家、襄陽城などの位置関係がわかるので、時地を読む際にも参考になります。
この本に興味がない方も一度書店・図書館でこの地図だけでもチェックしてみてください。


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