今月の『ひすいの国』 2007年


★『ひすいの国』 flowers2007年12月号 (2007年10月28日発売)

・というわけでいよいよ本編開始です!
話は前回の『蜃市』から数年後、無事秦へたどりついた徐福は陶工として修行中、秦の第4皇子・政と出会い、ってなんかすごい冒頭からあっさりと出会いすぎ! もうちょっと「運命の出会い!」みたいな感じになるかと思ってたのにちょっと拍子抜けしてしまいました。
でもそこが諏訪さんらしいと言えばらしいか。
ていうか、主人公たちの年齢や性格設定も関係しているのかも。
掲示板のほうに一言感想でも書きましたが、時地終盤と比べて一気に世界が若返った感あり。主役達が年齢的に若いのはもちろん、中国という国自体が三国志時代と比べて若いというのもあるかと思います。三国志時代って秦、漢と続いた一国による統一政治にどんどん綻びが出てきてぐちゃぐちゃになってしまって一旦リセット、みたいな雰囲気がありますし。

・主人公達のキャラ設定がなんか今までと違います。
これまでの諏訪さんのパターンって、真面目で熱血型の主人公とちょっと斜めに引いて世の中を見ている個性的な相棒、みたいな感じが多かったんですが(玄奘とハザク、無彊と眉寿、孔明と士元or馬超←子竜はどっちかというと孔明に近いかな? 『うつほ草紙』は原作ものだからちょっと置いといて)、徐福と政はどちらかというと、これまでとはパターンが反対。徐福の方が個性的(というか、一般常識の範囲外的思考の持ち主?)でアーティスト肌なんですよねー。大体、徐福が「世の中間違ってる! 変えていかなきゃ」と真剣に憤りつつ思い悩むのが全く想像できない(笑)。政はちょっとハザクに似てるのかな、という気もしますが、それよりも馬超みたいな暴れ馬タイプと言ったほうが近いかも。
あ、ひょっとして主人公が黒髪、って初めてかも? 初めてですよね! どうりでなんか雰囲気が違うなあと思ったんだ。
でも相変わらず主人公と相棒のテンポのいい会話は楽しい。諏訪さんお得意のパターンですね。元気な暁姫も加わるとつい『うつほ草紙』を思い出しちゃってわくわくします。

・連載1回目とあって、序章で名前だけ出ていた呂不韋他、新しいキャラも次々と登場。
↑で書いた暁もかわいくていいですが、私としては政のお母さんが結構ツボでした。一見楚々としたおとなしそうな美女なのに、実はしっかりもので口より先に手が出る強気な性格。まあそうでなきゃ国王の側室、しかも4番目とはいえ皇子の母なんてやってられないのかもしれませんが。
しかしお母さん若いよ! とても16歳の息子がいるようには見えません。当時は結婚も早かっただろうし、身分低いとは言え国王の側室になれる程度の家柄ならなおさらでしょうが、いったいいくつのときに生んだんだろう? 水谷母か?(おお振り読んでない方すみません)

・えーと、あと印象に残ったのが徐福のひすい細工。玉にこういう細かい細工を施したものって中国の伝統ですよねえ。他の国のでもそうだけど、職人の技術は圧倒的に昔の方が高いので、同じものは今ではもう絶対に作れない。
ちなみにひすいのハクサイは台湾の故宮博物館に実物があります。私も何年か前に旅行したとき見てきました。とても有名なものなので、絵葉書とかキーホルダーとかミュージアムショップでもお土産の目玉になっていました。
しかしどんなに色が似てるからって普通貴重な玉でハクサイを作ろうとは思わないよねえ・・・。さすが中国人、発想が違う。
故宮博物館には玉で「豚の角煮」をかたどった作品もあります。これがまたよくできてるんだ。ていうかなぜよりによって、いくら色が似てるからってそんなものを…。食べるの大好きな中国人だから?
こういうことを書いてたら台湾にまた行きたくなってしまいました。気候がよくて食べ物がおいしくて、香港よりのんびりしていてそのゆるさがまたいい感じなんです。


★『蜃市』秦の始皇帝秘話・序章 flowers2007年10月号 (2007年8月28日発売)

・新作読みきり、実は12月号からの新連載の序章、というか、11月号の予告カットを見る限りでは前日譚、といったところでしょうか。予告では市(徐福)がいきなり成長して美青年になっててびっくりしました。黒髪の方が徐福で白い髪のほうが後の始皇帝、ですよね?
なんだかこの序章も含めて、一気に世界が若返っていきいきし始めた雰囲気があります。わくわくしちゃう。時地終盤にかけては結構シリアスで考え込みながら読むことが多かったので、今は単純に新しい世界を楽しみにしています。青年(少年)2人組が主役(というか主役&相棒)って諏訪さんの基本パターンだしね。

・さて、序章を読んでみましたが、まだまだホントに物語の導入部、というか基本設定をさらっと描いた、という感じで、これからどう転がるのか様子見、というところです。
えーと、とりあえず、徐福は赤ちゃんの頃に後に始皇帝になる子(エイ政)と取り替えられた、ということでいいのでしょうか。エイ政が本当は呂不韋の子で、でもその子を皇帝にするために「さる貴人の子」(市=徐福ですね。これが帝の家かどうかはわからない?)と自分の子を取り替えた、ということですか。うーん、ややこしい。

・それにしても、諏訪さんは一貫して歴史のうねりとその中で生きる人たちを描くかたわら、「科学・技術」の歩みについて、単に技術の発展そのものを追求するのではなく、それが人間の営みとどのように関わってきたのか、を常に意識して描いているなあ、と感じました。
蜃気楼の話に始まって、市が知的好奇心をもってさまざまな疑問を安期生に語りかけるシーンがとても印象的です。「時地」でも英さんの発明をメインに描かれていたことではあるのですが、今回の連載ではもう少し重点的にこの話題が描かれそうな気がします。「シノワズリシリーズ」でも当時の技術・文明の発達をうまく神話とからめて大胆に描かれていたので、なんだかとても楽しみ。青年誌なんかではときどきこういう作品もあるんですけど(岩明均さんの『ヘウレーカ』とか)、少女漫画では珍しいし、しかも少女漫画ならではの切り口で描かれるのがすごい新鮮、というか、諏訪さんのone&only、という感じですね。

・そしてまたしても主人公は旅に出る、んですねー。
旅に人生をなぞらえている、というのもあるのでしょうが、知的好奇心を持つこと、自分のアイデンティティを探すこと、いろいろな経験をして成長していくこと、旅を通じて得るものは今も昔も変わらない。
あーなんだか旅行したくなってしまいました。
次号からの新連載ではまだ市は旅の途中なのでしょうか? それとも秦に到着して早ウン年、のところから話は始まるのかな?

・最後に、徐福についてとりあえず簡単に基礎知識だけでも、という方のためにウィキペディアの「徐福」の項へリンクを貼っておきます。
この「平原広沢」への旅の真相についても諸説あるようで、諏訪さんがどんな解釈で描いてくださるのか今からわくわくしますね。




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