2 純平鍛刀場の炉の規模と構造

では私の工房の炉はどうなっているかと申しますと、「下げ」と「水火床」の折衷型と表現するのが良いかと思いますが、現在ならではの工夫も取り入れています。

 本来、こう云った炉は地面に穴を掘り、湿気を寄せ付けない為の地下構造を作り、その上に炉を築くのが普通です。しかし、私の所では狭い工房を有効に使うため、鉄板で作った箱の中に炉を作り、可搬式にしました。こうする事により容易に湿気を遮断する事が出来、立った状態で仕事をするのに適した高さになりました。しかし欠点もあります。安定した操業を行う為には炉自体に熱を溜める必要が有ります。地面を掘って作った炉では操業を続けると次第に熱が溜まり安定した状態になりますが、この様な炉の場合、その条件を満たす事が難しく、改良を重ねる度に炉壁を厚くして行きましたので、現在では炉自体が少し大きくなってしまいました。


純平工房の下げ炉概念図

 この炉の最大の特徴はその火床に有ります。この火床の底は普通の火床に比べ非常に深く羽口の下1尺以上もあります。これは水火床の発想を受け継ぎ、水分を溜めやすくする為の工夫です。又、火床の幅は1尺余有りで、普通の道具鍛冶の工房で使う火床の幅は5寸程度、比較的大きい刀鍛冶の火床でも7寸前後ですから、この炉は他に比べてかなり大きなものになっている事が分かると思います。この大きさは、ほぼ水火床の大きさに匹敵します。

 又、空気の通り道は木呂から羽口にかけて緩やかに広がり出口ではラッパ状に更に広がる構造になっています。羽口の口径を通常の炉の如く先で絞ると、温度の上がる範囲を狭くして部分的に高温を作る事が出来、その周りを還元雰囲気にする事には向いていますが、この羽口の格好は出口で風が広がり、前に置いてある地鉄を包み込む様に風を送る事ができるので、地鉄にまんべんなく生の空気を当て地鉄全体を脱炭するのに向いてます。こう云う仕事では、先であまり絞られていない羽口や、逆に先で広がった羽口がよく使われていますが、こういった考え方による物だと思われます。又、この羽口の外観は管状の物を火床の中に突き出す様に付けるのではなく、肉が非常に厚く出口は角を無くした丸い形で、羽口側の壁自体が盛り上がったような感じになっています。これは私が下げの仕事を習った人間国宝の天田昭次先生の炉の羽口を模倣したものですが、こうする事により長時間の使用に耐え、加えて扱いは大変良くなっています。


羽口の様子

 尚、この炉に関しては、羽口と炉本体は長期間使用できるように素材は耐火セメントを使用しています。又、送風装置は高圧風車を使用し、バルブで風量を調整する様になっています。更に、木呂前では送風管を丁字管に接続し、木呂の側から羽口を通して火床の中の様子を観察できる様にしてあります。

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