平成20年11月18日 日刀保全国大会

 11月の8日9日と東京の京王プラザホテルで催された、日刀保の全国大会に行ってきました。今、日刀保は混乱していますが、日刀保が出来てから60周年を記念しての大会という事も有り、会場は大変多くの参加者で埋まりました。この大会では日刀保の関係者の会議などが開かれますが、一般会員にとっての最大の催しは、かなりの数の名刀を、直接手に取ってみられる所に有ります。以前の様に国宝や重要文化財などは見られませんが、重要美術品や特別重要刀剣がずらりと並んでいるのです。こういう機会はそうそうある物ではありません。

 そんな訳で受付を済ませて刀の展示してある部屋に入ると、そこには百五十五口の名刀が並べてあり、それはそれは壮観な眺めです。で早速列に並び、順番に手に取って見てみたのですが、明かりの関係で刃文は見えるのですが、地鉄の様子はとても見にくく、殆ど分かりませんでした。まあ一口の刀を見るのに1分しか時間の余裕が無く、チャイムが鳴ると次の刀に移らなければいけないので、地鉄をじっくり鑑賞する時間は元々無いので、それでも良いのですが、せっかくの名品を手にしながら、これはちょっと残念でした。

 そしてどんどん見て行くうちに、肩はこりだすし、立ち詰めなので足腰にくるし、それに何と言っても長い緊張感で神経が疲れ切り、ついには頭がぼ〜〜〜〜としてきます。それでも途中で列を離れるとその場には戻れないので、その間の刀は見られなくなります。ただひたすら、最後の刀を目指して見続けなければいけないのです。こうなると名品の刀を楽しむというよりは、苦痛を感じながらの修行の様になってきます。結局、中休みを入れて百五十五口の刀を見終るともうふらふらといった感じです。

 ソファーに腰掛けて一休み。やっと周りの人にも目を向ける余裕が出て来て辺りを見渡すと、ヨーロッパ・アメリカ系の外国人がやたらと多いのに気がつきました。彼らは先日有った大刀剣市と合わせてツアーを組んでこの時期に日本を訪れていたのかもしれませんね。

 それから、気になったのは刀鍛冶や職方さんの顔が極端に少ない事で、日刀保のごたごたが影響している様でした。刀鍛冶や職方さんでも、協会と協調路線を取る人達はこの会に参加していますが、他のほとんどの人達は来ていません。展示してある現代作家のコーナーも作品は数えるほどしか無く、寂しい限りです。

 刀職者の多くが日刀保の方針が気に食わないと言って、日刀保から出て行ったとは言え、強硬な意見を言っている人は上の一部の人の様で、殆どの刀職者には今回のごたごたは迷惑な話の様です。特に若い刀鍛冶や弟子の人達には、これだけの刀を見て勉強出来る良い機会なのに、それをみすみすふいにするのはもったいない事だと思うのですがね。こういう時は上の人達は一時停戦でもして、皆で勉強させてあげる位の柔軟性が持てないのでしょうか?

 まあ私は日刀保の伝統ナンタラ部会にも、日刀保から出て行った刀匠会にも入っていない、いわばシガラミの無い人間ですから、良い刀を見る機会があれば、弟子を連れてどこへでもあまり気兼ねをせず顔をお出していますがね。本当にもったいない話です。

 二日にわたり京王プラザホテルの会場と刀剣博物館を見て回り9日の午後は少し時間があいたので、ついでに東京国立博物館も覗いてみました。こちらは平成館で大琳派展をやっていて、宗達や光琳や乾山の絵画や漆工芸、それに焼き物などおなじみの作品が並んでいましたが、ちょっと人が多すぎて見るのに一苦労でした。そんな中で、宗達と光琳、酒井抱一、鈴木其一の風神雷神図が一つの展示室を取り囲む様に並べてあり、それらを一度に見比べる事が出来る様に展示してありました。これがなかなかの圧巻で、また、これらの絵はかなり大きいので、人垣の後ろから見るくらいがちょうど良く、部屋の中程に立ってその違いなどを見比べながら長い間眺めていました。この様な見方が出来るのは、現在の私達だけでしょうから有り難い話です。

 それから、本館の常設展でお約束の刀の展示も拝見しました。こちらは一階と二階に展示室があり、一階の展示室には三条近村、古備前高綱、尻懸則長、古青江の正恒、小太刀の長光、小龍景光、城和泉守正宗その他、また二階には、三島大社伝来の上杉太刀、石田貞宗、古備前吉包などそうそうたる名品が並んでいました。今回の東下りでは、最後の仕上げにこれら国宝・重要文化財クラスの刀をたっぷりと見て、全国大会に関わる東京刀見学旅行を終える事になりましたが、もう頭の中は満腹状態で、見た物がどんどん隙間からこぼれ落ちている感じです。私は、物事を覚えておくのがへたくそで、この様な名刀でも、何度見てもすぐに忘れてしまいます。でも見るたびに新鮮な感じで見られるのも悪くはないですがね。

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