平成19年6月4日  新作刀展覧会

 昨日のお酒もどこへやら。気分よく目覚めて朝10時、刀剣博物館へ。2階の展示場へ入ると、無鑑査の作品と入賞した作品、それに入選の作品の半分が並べられていました。(残念ながら入選だったうちの義村君の作品は、後期の展示の様で並べてある所を見る事は出来ませんでした。)

 今年も会場をひとしきり見渡すと、何と言っても異彩を放っているのが千葉の松田さんの作品です。今回は今までにも増して他の作品が霞んで見えてしまうほどの出来映えで、もう現代刀の域を脱した領域に入っていると私には思えます。同業者としては見るのがいやになるほどです。私は毎回この展覧会を見学して、自分なりに目に止まった作品の感想を書き込んでいますが、他の作品の事をあれこれ書く気にあまりなれません。他の作品の水準が低いなどという事は決してないのです。むしろ私が出品していた時よりかなり高くなっていて、私も適当なことを言っていられない状況では有るのですが、その中でも松田さんの作品は特別に見えるという事です。もし古い刀で特に備前伝の刀がお好きな人は、東京に行く機会がありましたら是非ご覧ください。念のため繰り返しておきますが、これは私の個人的な感想ですから、展覧会の受賞順位とは関係ありません。刀鍛冶の立場から見て技術的に素晴らしいと思い書いているに過ぎませんので、そこの所は予めご理解ください。

 それから、会場では今回も刀身彫刻の橋本さんにお話を伺う機会がありました。私はついついうっかり見過ごしてしまいますが、作品から伝わる躍動感の秘密や仏様の表情のや姿勢の意味まで橋本さんは細かく説明してくださいます。本当にその知識の深さには頭が下がるばかりです。橋本さんは今回も青龍、朱雀、白虎、玄武の四神の独創性あふれる刀身彫刻を出品されていますが、指一本、羽一枚にわたるまで細かく計算された表現からその躍動感が演出されている事を伺い、改めて驚くやら納得すやら勉強になる時間を過ごさせていただきました。皆さんも是非一度、今にも飛び出しそうな朱雀をご覧ください。(残念ながら裏側の白虎と玄武は見る事が出来ません。展示するなら裏側も見えるように工夫するか、せめて写真でも隣に置いて欲しいと思いました。)

 他にも日本美術刀剣保存協会会長賞には広島県の久保さんと兵庫県の高見君が入り、身近な所では寒山賞に一門の川崎君が入っています。作品の内容については、あまり長々とここで書くと見に行く楽しみが減ってしまうかも知れませんので、後は会場で皆さんご覧ください。

 なお、先にも書きましたが今年は大阪城での展示は有りません。東京の刀剣博物館の展示のみとなっていますが、その分会期が長く、6月5日(月)から7月8日(日)となっています。それから、展覧会の作品集はまだ印刷が出来ておらず、6月20日頃入荷するとの事です。会場で作品集の購入を考えておられる方は、20日以降に見学に行く方が良いかもしれませんね。

 連絡事項はこのくらいにしておいて、他にも今年は日刀保の内紛問題の話が有ったり、読者の広場に時々書き込みを頂く半田さんとたたらの話で盛り上がったり、話題が豊富で、会場では沢山の時間を費やしてしまい、顔見知りの刀屋さんに行く時間も食事をする時間も無くなってしまいました。この日は他にも8月に行われる佐野美術館での現代刀展の図録の製作に関する話が有り、時間も押して来たので静岡に向けて慌てて3時過ぎに開場を後にしました。

 私は8月に佐野美術館で行われる現代刀の展覧会の図録の刀剣画像の製作を担当していまして、仕事は既に終わっているのですが、色校正の段階でちょっと直しておきたい作品が有り、実際の作品を見てからどうするか考えようと、佐野美術館に保管してある刀を見に行った次第です。まあそれは当然の話で、実際の作品も見ずに勝手に画像だけをいじって修正するのはどう考えてもおかしいですからね。そんな訳で慌ただしく館長の渡辺先生に挨拶をして、問題の刀を見せてもらました。(この展覧会についてはまた別の機会に書く事にします。)

 佐野美術館を6時前に後にして、神戸の垂水で一足先に帰っていた義村君と落合、車で家に帰ったのは午後11時半頃でした。まあ今回も慌ただしいというか昼飯を食べる時間もないような出張でしたが、内容的にも結構中身の詰まった出張となりました。ただ、心残りなのは私のサイトの読者の広場を騒がせてくれた本人が現れず、何の挨拶も無かった事ぐらいですか。結局彼はその程度の人物だったという事ですかね。

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