平成17年11月28日

 今、私の工房では「下げ」の仕事をしています。このサイトの「たたら場」をご覧になった方はご存知だと思いますが、私は使用する地鉄は全て自分の工房で作っています。今はまさにその仕事の時期なのですが、今年は少し様子が違います。ご覧の様に、いつも使っている下げの火床にいくつか計測装置が差し込んであります。

下げの工程の計測準備

 実は去年の今頃、私は「刀鍛冶の行う下げについて」と云う論文を、鉄鋼協会の「前近代製鉄実験」研究グループという部会で発表する様に頼まれました。そこでは、私達、昔ながらの日本の「鍛冶屋」が、銑から鋼や鉄を作る行程での脱炭作業は、近代製鉄とは全く異なる手法で行っている事を説明しました。特に私達刀鍛冶は、卸鉄という手法で鉄に含まれている炭素の量を調整するのですが、その時に水を使って鉄に含まれる炭素の量を減らす事があります。その端的な例が私の行っている「下げ」の行程での脱炭作業でした。近代製鉄では、製鉄の仕事をする時は水は絶対に禁物の代物で、常に湿気を遠ざける配慮をしてきました。しかし日本の鍛冶屋は脱炭の作業に水を道具として使いこなしていたのです。この事は古くから知られていた事なのですが、論文の形にして、はっきり目に見える様に紹介したのは私が最初だったようです。

 それで今年は、何人かの先生方が私の工房を訪れて、下げの炉の中でどの様な変化が起きているのか計測をしたり、作業の様子を記録したりして、その理屈を探る為の操業をする事になった訳です。いつもとはちょっと勝手の違う仕事で、戸惑う事もありましたが、何とか仕事だけは形になったので一安心と言った所です。

 尚、「刀鍛冶の行う下げについて」の論文は、このサイト用に要約した物を近く掲載する予定ですので、また覗いてみて下さい。

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