リサイクルのエース卸鉄

ここで云う卸鉄(おろしがね)は古釘、古い鉄瓶、折れ刀など、様々な和鉄を火床の中で溶かし、炭素の量を調整し用途にあった地鉄を作り出す技術です。決して大根をすり卸すイガイガの付いた金属の板の事ではありません。卸鉄は使用する材料により、又、作る鋼の質により色々な方法が有ります。ここでは最も多く用いる、鋼を作る卸鉄の方法について説明すします。

火床(ほど)

古来、刀鍛冶が卸鉄を行う場合、鍛錬に使う火床の中の羽口の前後に粉炭を積み上げ、卸鉄に使う炭の入る部分が筒状になるようにして、使用してきました。現在では多くの場合、専用の卸の炉を作り使用する事が多いようです。寸法は内径で20cm〜25cm高さ30cm〜50cmぐらいの円筒もしくは枡形炉であるり、炉の底の方から10cm〜15cmの所に羽口を設ける。炉壁の厚みは3cm〜6cmぐらいですが、炉壁の厚みにより、炉に溜まる熱の量に差が有るため、炉壁の厚みは炉の性質に大きな影響を与えます。

材料

卸鉄の材料は古釘、古い鉄瓶、折れ刀など、昔の銑、鋼、包丁鉄などから作られた様々な製品、現在の「たたら」炉で作られた鉄などが材料として使えます。つまり『純度の高い鉄であればほとんどの鉄』が使用出来ます。私の所では材料は種類別に5分(1.5cm)ぐらい以下の大きさに破砕するか裁断をして、更にふるいに掛けて大きさを揃えるなど、火床のなかでてむらに融解するのを防ぐように工夫しています。

注;小型の「たたら」炉で鉄を作った場合、「のろ」を多く含む鉄塊が出来てしまいます。そのままでは、炭素量も少なく物を作る地鉄には適しません。卸鉄はその2次精錬に大変有効です。

炭は概ね松の黒炭を使います。私の所の場合、柔らかめの物を選び、大きさは1〜1.5cm角に切り揃えます。又、卸鉄にする材料に合せて細かく使い分けます。

包丁鉄卸など吸炭を促進する場合は、やや硬めの炭を使います。但し卸鉄に使う材料が小さな粒であるとか、薄いとか、細い棒状の場合、浸炭融解が早いので柔らかい炭を使う方がよいでしょう。

鋼を卸す場合少し柔らかい炭を使いますが、材料の粒が大きいとか、スラグを多く含む場合は硬い炭を使う方がよいでしょう。

銑を下ろす場合は、脱炭を促進するのが目的であり又、銑は非常に融解しやすくほとんどスラグを含まないため、特に柔らかい炭を使います。

以上は大まかな炭の使い分けですが、火床の状態や材料の状態それに気象条件に合わせその都度使い方を工夫して行くのが大事です。

基礎知識

基本的にはどの材料を下ろす場合も同じ行程をふみますが、下ろす材料により若干の違いが有ります。包丁鉄など炭素の少ない材料を下ろす場合地鉄に吸炭をさせるのが目的であるため、火床の中を還元雰囲気に保つ必要が有ります。又銑鉄などを卸すときは脱炭を促進するため、火床の中を酸化雰囲気に保つ必要があります。

注:酸化雰囲気と還元雰囲気

火床の中を還元雰囲気に保つと地鉄に吸炭させることができます。火床の中を還元雰囲気に保つには火床の中の温度を高く保ち、火床に送り込む空気の量を少なくすればいいのですが、これは相反する事なので、火床の保温や炭の硬さや大きさなどを工夫する事で解決します。具体的には、少し硬めの炭を使い大きさも若干小さくし、火床には最初から卸しの炭を多く入れ高く積めば羽口の前の温度は上がり、地鉄の落下速度も遅くなります。

又火床の中を酸化雰囲気に保つと地鉄を脱炭させることができます。火床の中を酸化雰囲気に保つには火床の中の温度を低めに保ち火床に送り込む空気の量を多くすればいいのですが、これも又相反する事なので、火床に水を打ったり炭の硬さや大きさなどを工夫する事で解決します。具体的には、特に柔らかい炭を少し大きめに切って使用すれば、羽口の前の温度の上昇を抑え地鉄の落下速度も速くなります。又火床に水を打つことにより、火床の温度の上昇を更におさえ、吸炭を妨げる効果が大きいようです。

手順

まづ初回の卸鉄は火床の温度が低いため温度を上げることに注意をして作業を進めます。卸鉄用の火床を用意し羽口の下6〜7cm位までV字型に粉炭を敷き詰め硬く叩き締めます。次に卸鉄用の炭を羽口の所まで入れて火種を入れ更に羽口の上20〜30cm上まで炭を積み上げて徐々に送風を強める。炎は20cm〜30cmぐらい上がる程度。一番上の炭が赤くなる位まで待ちます。上の炭が赤くなり火床全体の温度が十分上がれば減った分の炭を足し地鉄を投入します。

地鉄を火床に投入する方法は大別して2種類あります、炭の上に地鉄を一度に広く広げて投入し、徐々に擦り鉢の底に地鉄が落ちて行くように、自然に任せる方法と、炭の減って行くのに合わせ、地鉄と炭を順次足して行く方法です。

全ての地鉄が羽口の前を通過して、羽口の下の所に鋼の塊が出来れば、卸鉄は終わりです。鋼が下りる感じは経験で感じ取る以外説明のしようがありません。失敗すると吸炭が進みすぎて銑鉄になってしまい、その逆では「のろ」の多いぐしゃぐしゃの塊が出来てしまいます。良くまとまった質のよい鋼の塊を作るのには、かなりの経験が必要なのです。

水ベシ

下り切った地鉄は「沸かし」(わかし=地鉄に藁灰や泥をつけて、火床の中で地鉄が溶ける寸前まで温度を上げること。)をかけて中の「のろ」を絞り出しながらまとめて行きます。この辺りが玉鋼とおおいに異なります。卸鉄はどうしても「のろ」を含みます。「のろ」を絞り出せるのは塊の状態のときで、地金が崩れない程度に強い沸かしをかけるのには経験が必要です。四角い固まりの状態で強い沸かしをかけて、如何に旨く「のろ」を絞り出すかがこつなのです。後は厚さが5〜6ミリ程度になるまで薄く叩き延ばし、表面をきれいに水打ちをして金肌を取り除き、焼きをいれます。この辺りは玉鋼と同じです。

97.7.18

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