チルッチ嬢の華麗なる日々



あたくしの名前はチルッチ・サンダーウィッチ。
破面という分類をされるらしいけど、それはどーでもいい。
とにかくこの退屈な日々を、ひっくり返すような面白い出来事は無いかしら。
あたくしの興味は、それだけ。


朝目が覚めると、とりあえずベッドの中でごろごろと転がる。
あぁ、今日は一体何をしよう。
それを考えるだけで、うんざりとしてしまう。
いっそ、ずぅっと眠っていられたら退屈しないですむのかしら。
窓から入ってくる光に、シャンデリアのクリスタルがキラキラ光る。
あのデザインも飽きたわね。そろそろ暇つぶしに模様替えでもしようかしら。
「姫さま、お目覚めでしょうか?」
ドア越しに聞こえる、じぃの声。
「起きてるわよ」
毎朝同じ時間に交される、毎朝同じやりとり。
けれど、今朝はその後がちょっと違っていた。
「先ほど、連絡が入りまして、なにやら藍染さまよりお話があるとか」
「藍染が?」
がばっと起き上がり、ドアに走り寄った。裸足の足がぺたぺたと音をたてたけど
今はそれどころじゃない。
バタンとドアを開けると、じぃが寝間着姿のあたくしに眉をしかめる。
大昔から我が家に仕えるじぃは、ちょっと頭が固いのだ。
婦女子たるものとか言われても、いつの時代だっての。
「それで、藍染はなんて?」
「直接話をするから、目が覚めたら連絡が欲しいとの事でした」
急いで通信室へと向かうあたくしを、じぃの声が止めた。
「姫さま、せめてお着替えを済ませてからにして下さいませ」
言われて渋々と浴室に向かう。
確かに、通信中はこちらの姿も向こうにみえてしまうから、流石に寝間着ではちょっと冴えないわね。
歩きながらポイポイと寝間着を脱いで、放っていく。
浴室に入ると、バスタブに勢い良く飛び込んだ。
湯に浮かんだ薔薇の花が、ざぶんと溢れていく。
掌にひとつ赤い薔薇を取ると、くすくす笑いが零れた。
「チルッチさま、今日は随分楽しそうですこと」
侍女の一人が、結っていたあたくしの髪を解きながら尋ねてきた。
「わかる?えぇ今日はきっと良い事があるわ。そんな気がする」
藍染惣右介、ある日突然この虚圏に現れた死神だ。
随分と凄い力を持っているらしく、あっという間にこの世界の支配者になった。
その能力と存在感に心酔している者は多いらしいけど、あたくしにとっては別にどうでもいい。
ただ奴は、この変化の無い世界にあって、ワクワクするような楽しい
出来事をもたらしてくれる事がある。
きっと、今回も何か素敵な事が起きるに違いない。
そう思うと、笑わずにいられなかった。
「いつも以上に、綺麗にしてちょうだいね」
くしゃりと手の中の薔薇を、握りつぶした。



近寄ってくる足音に、意識が戻された。
どんよりと重たい瞼を、なんとか少しだけ持ち上げる。
目に映る景色の違和感に、あぁやっぱりなと理解した。
「え…?」
明らかに戸惑っている声は、あの方の声に間違いない!
「君、一体…」
そう言ってあの方は、あたくしの体をその手に抱き上げた。
あぁ思った通り、なんて柔らかい手なのかしら。
ぱちっと目を開けたあたくしに、驚いて目を見開く。
「うわっ。えっと、君…チルッチ・サンダーウィッチだったっけ。その、大丈夫?」
「まぁぁぁ!あたくしの名前を覚えていてくださったのですね!感激ですわ、雨竜さま!」
「え?え?」
その手の上で、ぴょんっと立ち上がると、あたくしは優雅にお辞儀をした。
レディたるもの、当然のたしなみだわ。
「改めてご挨拶申し上げます。あたくし、チルッチ・サンダーウィッチと申します。
たった今から雨竜さまの為に着いて行く決心を致しましたわ!」
「えぇぇぇぇーっ!?」
まぁ、そんな驚いた顔もなんて綺麗なのかしら。うっとりと見惚れていると
雨竜さまは、はーはーと深呼吸を繰り返して、あたくしを見た。
「いや、あの。着いてくるって君、破面だろう?僕とは敵同士のはずじゃ」
「えぇまぁ確かにあたくしは、破面ということにされております。でも別に
雨竜さまと敵同士になった覚えはございませんわ」
「だ、だって現に僕に襲いかかったじゃないか」
「あたくしが受けた指令は、『この場所を通ろうとする死神及びその仲間の殲滅』で
雨竜さまを倒せと言われたわけではありませんのよ」
そして、今となっては藍染から言われた指令なんて、どうでもいい。
だって、見つけてしまったんですもの。
あたくしのご主人様を!


もうどれくらい時間が経ったかしら。
さっきから雨竜さまは、その場にうずくまって頭を抱えていらっしゃる。
「ですから、何も困る事はございませんわ。あたくし、こんな体になってしまいましたが
少なくともそこに居る虫よりはお役にたちます」
図々しくも雨竜さまに抱えられたりなどしていた、白い虫がなんだと!と声を荒げる。
あぁうるさいこと。
そうそう、雨竜さまの攻撃によって霊力を大幅に削られたあたくしの体は
今は元のサイズの10分の1くらいに小さくなっている。
まぁ特に困る事もないから別にいいけど。
てういか、大体こうなるだろうってことはわかっていたし。
「いや、役にたつとかそういう事じゃなくて…色々と問題があるというか。
とにかく、君を連れて行く事はできないんだ」
申し訳無さそうに言う雨竜さまに、そんなお顔をさせたくはないけれど
あたくしもここは譲るわけにいかない。
「雨竜さまは、あたくしが一緒に行ってはご迷惑ですの?」
じわわぁと目に涙を溜めて見つめると、雨竜さまはうっとうめいて、また頭を抱え込んだ。
「それに、こんな体ではあたくし、きっと危険な目にあってしまいます…」
「そっそれは困る!」
「では、決まりですわね」


軽快に走りつづける雨竜さまの肩から落ちないよう、きゅっと服を掴む。
「大丈夫かい?」
気を遣って横目で尋ねてくれる雨竜さまに、はいと頷いた。
ホッとしたように笑う顔は、本当にすごく美しくてあたくしはついつい見惚れてしまった。
こんなに綺麗で強い方に今まで会ったことなんてない。
絶対、何があってもあたくしがこの方を守ってみせる。

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ほほほほ。チルッチちゃんです。
これをどこに載せるべきか迷いつつ。
メッセージで、滅却師が式神とか使い魔を使役するのはありだと思うという
意見を頂いて、すごく楽しかったので、書いてみたり。
どうせ、超捏造なんで現世に連れて帰って日常生活で
一護とガチンコさせようかと思っています。

novelstop