卯月聖夜さんからの頂き物(^^

『30000HIT記念SS』


 

「俺さ、今まで目的ってなかったんだ。生きる目的ってやつ」

出会いの冬、出発の春が過ぎ去って、やっとアイスクリームが美味しい季節がやってきた。

蝉たちが我が世と称えあう。噴水の音が2人の耳を荘厳している。

「目的・・・ですか?」

飾り気のない、白のワンピース。むぎわら帽子の赤いリボンだけが自己主張している。

無いはずの命を与えられた少女。必要とされたから与えられた命。だが、それを知るものは少ない。

「私もなかったですよ、目的なんて」

なにげない言葉の裏には、絶望を感受したものにしか知り得ないなにかが秘められていた。

「過去形か。じゃあ、今はあるんだな」

「祐一さんも過去形でしたね」

それ以上の詮索はなかった。わかりきったことを詮索するほど、2人は愚かではない。

「次、どこに行きたい?」

「ん〜と、さっきのアイスクリーム屋さん」

「・・・まだ食うのか?」

「はい」

「あのなぁ。さっきバニラとチョコチップとフルーツミックス食っただろうが」

「チョコミントがまだです」

引きずるように反対方向へ歩き出す祐一。顔は怒っているようだ。

「あ、あの・・・お店はあっちですよ」

「デブの栞は見たくねぇ」

「そんなこというひと、嫌いですぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・」

祐一は、なんとなく電車に乗った。あてがあるわけではなく、なんとなく街の外が見たかった。

「どこに行くんですか?」

「さあ」

「衝動ですか?」

「衝動だ」

栞の口から、アハハ、と小さな笑いが漏れる。また始まった、といった感じである。

奇跡の日から今まで、なにもかも順調に事が運んだわけではなかった。紆余曲折を経て、ようやく

掴んだ幸せ。それだけに普通の恋愛とは重みが違った。大袈裟に喜びを表に現すこともなく、かといって

暗いものでもない。ごく自然に溶け合ってるという表現が合うのかもしれない。

「降りるぞ、栞」

「あ、はい」

プラットホームに足を運ぶと、そこに風が存在することを知ることができた。

「気持ちいいですね」

大きく深呼吸する栞。

「あれ?この匂いは・・・」

「こっちだ、栞」

駅を出て、手をつないで歩く細い道。祐一は、まだ見えない場所を探るようにして歩く。そうして20分後。

「思ったより近かったんだな」

瑪瑙色の絨毯が、太陽に照らされて、栞の瞳に映っている。

「わぁ・・・」

「海は来たことあるのか?」

「はい・・・。小さい頃、1度だけ」

「そっか。今日は存分に遊んで帰るぞ」

2人、素足をさらして波打ち際に踊った。互いを呼び合う声が、波の音に混じっていった。


「ちょっと、はしゃぎすぎましたね・・・」

2人は夕焼けに染まった砂浜に座り込んだ。

「受験勉強のしすぎで、身体がなまっていたからな」

「してたんですか?受験勉強」

「どーゆー意味だっ」

「キャァッ」

男と女が砂浜に倒れこむ。見えるのは光を失いはじめた空。太陽に光を与えられて瞬く小さな星々。

「あの星が私なんですよね。太陽は祐一さんで・・・。祐一さんがいるから、私は輝いていられるんです」

ふいに、小さな手を重ねられる。握り返すことで、それに応えてやる。

「星が輝くから、夜になっても太陽の存在をしることができるんです。わかりますか?」

「哲学的だな」

「美坂栞と相沢祐一の法則、です」

「じゃあ、参考書に書き足しておいてやるよ」

祐一の顔に、最も愛しい存在が近づく。重なる唇。これで何度目だろうか。そう、あの日から・・・。


冬。

だれもいない公園で。

真っ白な雪に隠されるように。動くものは噴水の水だけだった。

春。

2人だけのお花見で。

桜花のライスシャワーを浴びて、ちょっぴり結婚式の雰囲気だった。

夏。

名も知らない海岸で。

はしゃぎ疲れて、それでもじっとしていられなくて。あなたを確かめるために。

そして秋。

これから迎える新しい季節のために。

素敵な未来のために、素敵な過去(おもいで)を残そう。


FIN


卯月さんから30000HIT記念として栞SSを頂きました!!
う〜んいい雰囲気っす(^^
卯月さん素敵なSSありがとうございました!!