痕〜きずあと〜
耕一の憂鬱
「ただいまっ!」
出来るだけ威厳たっぷりに言ってみる。
なんせ俺はこの柏木家の次期当主だ。
これぐらい言わないと格好がつかないってもんだ。
左斜め45度でいうのがポイントだった。
なんせこの角度から見るとハリソン・フォードとかみたいに見えない事もないからだ。
だが家の中からは何の反応もない。
「むう・・・」
けしからん!!
俺が頭に毛が一本のどこぞの頑固親父だったら、
「カツオ、またお前は!!」
と怒鳴り散らしている所だ。
だが俺は仮にも歌って踊れるジェントルメンを目指す男。
このぐらいでトサカにきてはいけないのだ。
せめて、
「こらぁ、武!!また店番サボってぇ!!」
「ごめんよぉ、かあちゃん!!」
ぐらいで済まさないといけないのだ。
当然尻叩きは必須事項だが。
しかし尻叩き?
・
・
・
・
・
千鶴さんの・・・成熟した・・お尻を・・・
梓の・・・むちむちとした尻を・・・
楓ちゃんの・・・可愛らしいお尻を・・・
初音ちゃんの・・・小ぶりなお尻を・・・
「スパンキング!?」
いくらなんでもアブノーマルすぎるだろ!?
だがちょっとドキドキ。
これが男のサガってやつに違いなかった。
桃尻を俺の手が赤く染めていく・・・
しかも四姉妹の・・・
「ぐっ」
思わず鼻血ぶーになりかけた。
「やるな、柏木四姉妹」
だが玄関で一人で騒いでいるのは何とも虚しかった。
「どうしたんだろ・・・」
ここまで姿を見せないとさすがに不安になる。
「まさかまた柳川の小僧か!?」
この間あれだけケチョンケチョンにぶちのめしたのにまだ懲りないらしい。
「ぶっ殺す!!」
がらっと居間の襖を開ける。
だがそこにいたのは可愛い従姉妹達を陵辱している柳川ではなく、
何故か倒れている四姉妹だった。
「みんな!?」
だが服装の乱れはない。
どうやら奴の仕業ではないらしい。
俺でさえまだ全員試食してないのに奴に先に越されたらたまったもんじゃない。
楓ちゃんや初音ちゃんも、
一番乗りするのは俺だあああ!!
万が一他の奴に先を越されたら、鬼の力全開で殺すかもしれん。
「今のうちに頂くか?」
そんな極悪な案が脳内会議で立案される。
だがすぐに否定案が殺到する。
「今まで清純派男優として通してきた俺の立場はどうなるんだ!!」
「今強引な手段に出ることは得策ではなーい!!」
などとの意見が溢れ返る。
「んん・・・」
寝返りを打つ千鶴さん。
その艶めかしい声に若い俺は・・・
「さ・・・誘われている!?」
内心心臓はバックバクだった。
据え膳食わぬは男の恥、
日本には古来からこんな素敵な言葉がある。
いざ極楽へ!!
ズボンに手をかける。
だがその時だった。
むくっと初音ちゃんが起きあがった。
「ぬぉ!?」
思わぬ出来事にちょっとびっくり。
「・・・・・・」
俺のことをじ〜っと見つめる初音ちゃん。
そして一言、
「よう、耕一じゃねえか」
にんまりと人の悪そうな笑みを浮かべる。
(反転してるぅぅぅぅぅぅぅ!?)
そう、それは紛れもなく性格反転バージョンだった。
どうやら容疑者はあの食卓の上の鍋だ。
「嬉しいねえ、アタイに会いに来たのかい?」
「そ・・そんな滅相もない」
ぷるぷると首を振る。
過去にこの初音ちゃんに関わって起きた悲惨な出来事が走馬燈のように思い出されてしまう。
(俺・・・今度こそ死ぬかもしれん)
死んだ親父が憎たらしい顔で手招きしてるのが見えた。
「もしかして緊張してる?可愛いねえ」
年下に可愛い言われる俺。
涙がちょちょぎれてくる。
だがそんなこともつゆ知らずか、それとも知っての行いか、
俺の肩にがしっとその細い腕を回す初音ちゃん。
気分はヤンキーに捕まったイジメられっ子だ。
「大丈夫だよ、取って食いやしないから」
別の意味で食われそうな俺。
千鶴さんの時のように、主導権を握るのは大好きだが、
主導権を握られるのは男として何とも情けなかった。
しかしそんなとき救いの女神が現れた。
むくっと起きあがる梓。
そう、隆山の女番長、
怒れる闘魂、柏木梓。
こいつなら反転初音ちゃんともアルティメットバトルが出来るだろう。
だが・・・
「あっちいってな、梓」
「ひいいいい、言われる通りにしますからぁぁぁ!!」
(こいつも反転してんのかぁぁぁぁ!!)
余りの役立たずっぷりにムカツキさえ覚える。
「さて、邪魔者はいなくなった」
何故か上着を脱ぎ捨てる初音ちゃん。
心では嫌がっても、体が期待しまくっていた。
「ちょ、ちょっと待ったぁあああああああ!!」
一握りの良心がそれを必死に押しとどめる。
だが俺の大声で気づいたのか、千鶴さんと楓ちゃんが目を覚ます。
「は、初音!!あなた何してるの!!」
「邪魔すんなよな。これから良いところなんだからよ」
「何ですってぇ!?」
「行かず後家は鬱陶しいんだよ」
火に油・・ところかガソリンがなみなみとそそぎ込まれる。
絵に描いたようにヒートアップしていく二人。
鬼の力全開モードに入っていた。
「ガキはままごとでもしてなさい!!」
「年増が若者の邪魔すんな!!」
拳と拳がぶつかり合う。
俺はただ・・・呆然と自らの身に降りかかる不幸を嘆くことしか出来なかった。
つんつん・・・
俺の肩をつつくのは、
「楓ちゃん?」
てっきりこの娘も反転してるのかと思いきや・・・
「逃げましょ」
地獄に仏とはこのことだった。
激しくバトルする二人を後目にこっそり出ていく俺達二人。
「巻き込まれるのは計算外でした」
ぼそっと意味不明の言動をする楓ちゃん。
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
「んじゃ、ご飯でも食べに行こうか取りあえず」
「はいっ♪」
腕を組んで歩き出す。
だが俺は知らなかった。
全てが、一級の策士である楓ちゃんによって仕組まれていたということを。
おしまい
諏訪さんより10000HIT記念SSを頂きました(^^
今回は痕です〜
かなりすごいことになってます(笑)
どうもありがとうございました!!