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1.京都の花崗岩地帯と白川砂
ここの花崗岩地帯は,中生代白亜紀の火成活動によって形成されたもので,隆起した後,風化してできた地形です。また,谷間から流れ出た花崗岩の砂は広い丘陵地帯(扇状地)を作りました。こういった場所は人が住むのに適しており,京都で最も古くから開けたところの一つです。また,花崗岩の砂は白くて美しく,京都では白川砂と呼ばれて神社仏閣の庭に敷き詰められています。大文字山の登り口にある慈照寺(銀閣寺)は,白川砂の美しい庭で知られています。また,音羽川などの谷筋に沿って花崗岩の石切り場跡もいくつかあり,京都では京都御所などの建造物の石垣,石碑,庭園などに利用されてきました。 現在では日本各地で褐簾石は発見され,巨晶も珍しくないのですが,大文字山産は結晶が完全で美しいことで知られます。当時は,まだキュリー夫妻によってラジウムが発見(1898年)されてから少し経った頃で,放射線の人体への影響などは全く分からず,むしろ良いものとの判断もあったようです。
化学組成式は一般に □2(Al,Fe)3[Si2O7|SiO4|O|OH]と表されますが,□の中にはCa,Y,ランタン系列のLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,それに,アクチニウム系列のTh(トリウム),U(ウラン)が入ります。現在知られている褐簾石のほとんどは,□にCe(セリウム)を最も多く含んだもので「褐簾石-Ce」と呼ばれています。これ以外には,Y(イットリウム)を最も多く含んだ「褐簾石-Y」がありますが,他の元素の多いものは見つかっておらず,独立した鉱物種の扱いをうけているのはこの二つだけです。 一般に,花崗岩には全体として弱い放射能がありますが,これは花崗岩に含まれているK,Th,Uなどの放射性元素によります。ThやUなどの量はごく少量で,ふつうは黒雲母などに含まれるか,黒雲母の中で微細な放射性鉱物を形成していると思われますが,分散していて元素の検出は困難です。大文字山の花崗岩のように副成分として褐簾石などが形成されると,そこへ上述の稀土類元素や,Th,Uなどの放射性元素が移動し濃縮され,こうした微量元素の検出が可能になります。 結晶は単斜晶系でb軸の方向に伸びる傾向があります。ここの褐簾石の結晶は,多数の面からなり,また2個の結晶が対称的に接合した双晶もみられます。 ※新道の急斜面を登って平坦になった道を少し進み,左へ下っても太閤岩へ行けます。砂防ダムを越えるより足元が安全でお勧めですが,下る道は道しるべがなく少しわかりにくいようです。 太閤岩は昔の石切り場跡です。ここの壁を叩くのは危険ですし,褐簾石も見つかりにくいようです。むしろ,ここから下50mほどの斜面に広がる花崗岩の転石を拾って調べてください。ハンマーやタガネなどで割りますが,ちょっと大きな木工用のハンマーでも代用できます。買うなら「大江理工社」などで相談してみましょう。また,安全対策として「軍手」と「ゴーグル」は必須です。 褐簾石がよく入っている花崗岩は,割れ口が青白くてきれいです。そのような花崗岩から褐簾石を1個でも見つければ何個も入っているはずです。丁寧に割って探してみましょう。ここの褐簾石は,真黒で形のきれいな結晶に特徴があります。直径1mm長さ3〜5mm程度のものが多く見つかりますが,もっと小さなものは見逃しているようです。
(1)採集 大文字山の東には,わずかに高い山頂である如意ケ岳が続き,そこを越えると山中に「比叡平」という住宅地帯が広がります。この南東端にある,「池谷地蔵」から皇子山カントリークラブへ続く道があり,その道沿いに大きくて浅い洞窟があります。道の右手の少し奥まったところにありますが,丁寧に探せば道から見えます。ここへは,車で行くこともできます。 洞窟内の砂を少し採り,白い紙の上に広げて褐簾石を探します。1個でも見つければそのあたりの砂にはかなり入っているはずです。どんつきの中央の足元あたりの砂がお勧めですが,そこだけというわけではありません。また,ほとんど含まれていない場所もあります。 こうして得られた砂から1本ずつ精密な小さいピンセットで選び出します。大さじ1杯程度の砂を白い紙の上に広げ,端から丁寧に探しても1個程度しか見つかりません。とても根気が要りますが見つかれば嬉しいものです。ただ,少し風化した黄褐色のものが多いのは残念です。 今回,事情があってたくさんの先生の協力で,約4000個も集めることができました。 ※水を流しながら選鉱する方法は,一般に「わんがけ法」と呼ばれるもので,選鉱の基本である「比重選鉱」にあたります。西部劇で,底の狭いフライパンのような皿で,川から金を探している光景を見られたことがあるかもしれません。それと同じです。国内でほとんどの鉱山は閉山しましたが,この比重選鉱と浮遊選鉱を組み合わせた選鉱が発達しました。工夫を重ね,世界最高といえる技術で超低品位の鉱石から効率的に選鉱していたのです。そして,資源の渇欠する未来にとって貴重な技術が消えてしまいました。なお,工業的な比重選鉱は,ゴムを貼ったベットを少し斜めにして振動させます。その上に鉱石の砂を水とともに流し,比重によって流れ落ちる位置を変えるというものです。 ※銀閣寺から大文字山を少し登ったところを流れる谷川で,わんがけ法を試せます。うまくいくと褐簾石や風化した黄鉄鉱である枡石などが採集できます。川は自然の水流の働きで比重選鉱され,少し重い褐簾石は水底の砂の下に沈みこんでいます。そこで,岩盤かコンクリートの底の砂を採って,わんがけします。岩盤に届かない砂からは,目ぼしいものはほとんど得られません。 ※上記の説明で,なぜ洞窟内の砂から採取するのかおわかりと思います。比叡平の洞窟内は雨水の流入が少なく,褐簾石が砂の底に移動していないからです。もちろん,もともと褐簾石が多いということもあります。 (1)ラジオオートグラフ法 (放射線計測器は「放射線計測協会」より無料で貸し出されています。) 借用した放射線計測器「はかるくん」で自然放射線量(γ線)を調べると,自宅で0.078μS/hでした。次に,検出器部分に洞窟で採集した褐簾石を5個のせましたが,表示は0.077μS/hで違いが明瞭ではありません(5分間計測したピーク値)。増加した放射線量を公衆被爆線量と考えると,この程度なら放射線量による人体へ影響は限りなく小さなものです。しかし,リスクがないということではありません。 ※公衆被爆の年間実行線量(全身)現行法令規制値は1mS/年(時間換算値で0.114μS/h),短期的には5mS/年(時間換算値で0.571μS/h)。
数が増えると,以下のように,はっきりと放射線を確認できます。
※鉛容器などに入れて自然放射線のバックグラウンドを排除して測定したものが公衆被爆線量である。しかし,設備もなく,バックグラウンドと混ざった状態で測定し,自然放射線量との差を計算で求めた。 自然は様々な放射性物質があり,放射線が飛び交っています。"放射線はいくら僅かでも浴びない方がよい"と言われますが,目に見えないだけに実感することが困難です。それだけに,教育で積極的に取り上げることが必要だと思います。 送り火で有名な大文字山に登るついでに,日本で最初に発見された放射能鉱物「褐簾石」を採集し,放射性物質と放射線を考えるきっかけになればと期待します。 2)京都自然研究会編,京都の自然,六月社,1964 3)益富壽之助・内山平八郎,京都府鉱物誌,1940 4)長島乙吉・長島弘三,日本希元素鉱物,1960 5)地学団体研究会京都支部編,京都5億年の旅,法律文化社,1976 6)地学団体研究会京都支部編,京都地学ガイド,法律文化社,1978 7)原子力市民年鑑2000,七つ森書館,2000 「協力」 ・採集指導:高田雅介様「元,京都西高等学校」 ・資料提供:藤原卓様「(財)益富地学会館」 |