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1.概要
「結晶作りによって不純物を除去したり,その形から名前調べができます。また,規則正しい形(面と面の間の角度が決まっている。)から,粒子の並んでいるようすをイメージすることも出来ます。つまり,原子や分子の学習へ結びつく貴重な教材になります。」 氷砂糖は身近に市販されている結晶としては最大で,安全・安価というよさがあります。また,種結晶として利用すると更に大きな氷砂糖も作りやすいはずです。そのため,結晶の教材としては最適なはずですが,実践例を聞きません。大きな氷砂糖は容易に作れないとされてきたからです。 この取り組みの中で,台所にある砂糖と氷砂糖が同じ物質であるという認識のない子どもが多いことに気づきました(実は,私も,そう思っていた時期があります。)。それほど,近くて遠い教材であったということです。 そこで,数年間にわたってさまざまな工夫をした結果,砂糖水が熱いうちに種結晶を吊るし,直ちに蓋をする方法を考案しました。こうすると,通常の結晶作りに準じて行なった時に多数出て困る小さな結晶析出が抑制できます。結果,主に種結晶だけが成長し,1ケ月ほどすると砂糖の大結晶(大きな氷砂糖)が簡単にできました。 この方法は,結晶作りの基本ともいえる保温のための覆いが不要なだけでなく,持ち運びなどで振動させても新たな結晶が析出しにくいこともわかりました。そのため,容器を気軽に教室へ持参し,ガラス越しに結晶成長を観察できるよさがあります。 成長する結晶の上に立ち昇るような筋模様が見えます。結晶の成長によって濃度が低下した砂糖水溶液によるシュリーレン現象で,結晶の成長を考えることができます。 2.新開発の核となる工夫
その前に,種結晶を飽和溶液に吊るそうとしても,粘度が高くて沈めることすら難しいのです。そこで,次のような工夫をしました。
(1)『 氷砂糖をかなり熱い砂糖水溶液に吊るす。 』 3.準備物 4.製作方法 (1)砂糖液を作る 「 100cm3の水に対し,砂糖を250〜300g程度の比率」 結晶を作る容器の大きさに合せた量を鍋(または,やかん)に入れて加熱し,軽く沸騰したらすぐに火を止める。この時,ふきこぼれに注意する(←かき混ぜるとよい)。 ※この条件で,最大200gの大きさの氷砂糖ができる可能性がある。(室温を20℃すると溶解度が約200g。つまり,水250gには砂糖が約500gしか溶けない。)。 倍量(水500cm3,砂糖1.4kg)にすると,400gという巨大サイズになる可能性がある。興味深いが,形が崩れやすくなる。また,このような大きな容量で実験すると,種結晶が溶けてなくなる可能性がある(後述)。 (例の容量が適していると思う。しかし,実験する季節の選択や,冷却などを工夫すれば,より大型化も可能であろう。) 注意:冷えるまでは,種結晶の氷砂糖が少し溶解する。気温が高すぎたり,保温の覆いをしたり,容量が多すぎたりすると,冷えるまでに時間がかかり,その間に溶け過ぎて種結晶が落ちてしまうことがある。また,結び方のバランスの悪い場合も同様である。 いずれにしても,一日は,静かな場所に放置して触れない。
数日すると,結晶のキズが自然に修復され,キラッと光る大きな結晶面が見られるようになる。 観察は,1週間から1ケ月ほど続ける。 「砂糖液が熱いうちは,種結晶の下面から底へ向かうすじ模様が見える。これは,種結晶が溶けて,まわりより少し密度が大きくなった(濃くなった)砂糖液が光の屈折率の違いによって見える筋である(シュリーレン現象)。しばらくすると氷砂糖から上に登るすじ模様に代わる。これは,温度が下がって結晶の成長が始まり,結晶のまわりの密度が小さくなった砂糖液が浮き上がるためである。この上向きのすじ模様は,結晶の成長が止るまで常時観察でき,吊るした種結晶が主に下の方向へ成長することを理解できる。 シュリーレン現象は部分的な密度差が光の屈折率の違いとなって見える現象である。砂糖液が濃い(粘度が高い)ので液が混ざりにくく,密度差ができるとその状態が維持されます。この現象を観察できるのは,砂糖の結晶作りゆえのものである。
これは,下から上への濃度対流によって結晶が成長するためです。つまり,下方では砂糖液が濃いので成長が著しいのです。しかし,上方に液が移動するに従って薄くなり,成長しにくくなります。対流がゆっくりであるがゆえに,他の結晶でも多かれ少なかれある成長の特徴が,より現れ易いようです。 結果,完全な形にはなりにくいのですが,理由がはっきりするので納得できます。 図の例は,わざと結晶を斜めにして下部の成長を目立つようにしています。種結晶を水平に保持すると,下部の変形は目立ちにくくなります。 ・透明感の高い氷砂糖を作るには,ショ糖純度が高いグラニュー糖や白ザラ糖を用いたり,砂糖水の濃度を下げたり,温度変化を少なくしたりといった工夫をしてほしい。 ・種結晶の自作(種結晶となる氷砂糖の自作も可能です。) [方法1] 上記と同じ方法で砂糖水を作り,熱いうちに手早くガラス瓶に入れ,すぐにふたをする。何日かすると底から結晶がいくつも成長してくる。ただ,形のはっきりしたきれいな結晶ができるかどうかは,偶然による。
[方法2] 図4のように,シャーレのような底が広くて浅い容器に上記と同じ方法で作った熱い砂糖水を入れ,さっと水洗いしたザラメ糖(できれば白ザラ糖がよい)を数個落とし込む。直ちにふたをして放置すると,1日で10mm近くの大きさに成長する。 ※どちらの方法も底に接触して成長するため,完全な形の結晶にはなりにくい。 ・市販の氷砂糖が,どのような方法で作られているのか気になります。そこで,2001年になって,氷砂糖工場へ見学にいきました。同じ方法なら,私にとって嬉しいのか悲しいのか,悩むところです。プロに迫れた喜びは,反面,オリジナリルではないということです。 結果,「静置法」と「回転法」のあることを知りましたが,そのどちらでもない新しい方法であることがわかりました。業者のさまざまな工夫には感心しますが,常識的な方法だと感じました。ちょっと拍子抜けでした。 6.資料「ショ糖の溶解度」
出典:Browne,"Handbook of Suger Analysis" 7.備考 |