電池スタンド  
オリジナル教具


  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★

☆理科教材会社「リテン」より市販していただきました。ご利用ください☆

1.電流と電圧

  電流は,『導線の中を単位時間中に通る電気量(クーロン)』と定義されています。クーロンの単位は(C)で,1C=1A×1秒となっています。電気分解においては96500Cの電気量であたる1F(ファラデー)が流れると,1グラム当量の物質が析出します。電子の数に換算すると,1Fの電気量でアボガドロ数個(6.02×1023)が流れたことになります。つまり,電流は流れた電子の絶対量に比例し,電流こそが電気そのものといえます。小学校の学習も,初めに電流ありきで進みます。

  電圧は,乾電池の側面に値が記入してあり,電流以上に馴染み深いものです。しかし,電流と比べて使用しなくても,その値があるというのは不思議なことです。定義としては『基準点からの電位差』となりますが,では「電位とは?」となると,わからなくなります。生徒にもわかり易くとなると,原点に戻るのが一番です。

  電圧がよくわからなかった当時,電気の力ということで,力場というものを定義し,強いところには山が,弱いところには谷があると考えました。その高いところに電子があると谷を下りますが,傾斜が急なほど勢いがつきます。この電流を押し流す力を電圧としたのです。要するに,電圧を「位置エネルギー」と考えたのです。最初の発想は,ウィリアム・マコーン・ランキンですが,急傾斜のスコットランドを走る鉄道の設計に従事していたという事情があるそうです。

  このように,最初に考えた方は,とてもわかり易い発想だったのです。それが,学校では厳密な定義が優先し,小中学校でわかり難い学習が続いています。そこで,自信を持って「電圧は高さで考えるもの!」とする先生が増えることを期待しています。

  私が中学校の授業で配布したプリントの電気回路図は,すべて縦に電池を積み上げて記入しました。3Vなら乾電池の図2個,6Vなら4個といった具合にリアルに絵を描きました。そして,実験も,机上に這い回るように並んだ「電池ボックス」や電圧を特に意識しにくい「電源装置」を使うのをやめ,縦型の「電池スタンド」を用いました。これによって,電圧を視覚的にイメージできるとともに,グループ全員が常に電圧を意識し,確認も容易になります。また,電気部品を縦と横に配置できるため机上がすっきりし,回路全体がわかり易くなりました。


電池スタンド(自作品)


2.電池スタンドの特徴

  電圧を高さでイメージ化しようという試みは,私だけの発想ではありません。たとえば,電流を水の量とし,電圧を滝の高さに置き換えて考えるものです。そして,実験では,アクリルパイプやビニルチューブに電池を入れ,電圧を高さ(または長さ)で表現できる筒状の電池ボックスの試みがあります。しかし,ごく一部での取り組みでしかないようです。筒状物を立たせる工作は難しく,数の変更に伴う出し入れにも課題があります。

  そこで,斜め縦型の開放型トレー構造とした,作りやすく使い易い「電池スタンド」を工夫しました。。

(1) 斜めV型トレーによって,覆いのない開放型構造となり電池の出し入れが簡単。

(2) 縦型であるため,電圧を高さでイメージできる。

(3) 開放型であるため,電池の存在を目で簡単に確認できる。

・電源電圧が,同じ実験グループメンバーの誰からでも常に見える。  

・電源装置と違って電圧が,1.5V→3.0V→4.5V→6.0Vと段階的に変化するため実験結果を大雑把につかみやすい。
  (この4段階の電圧で,中学校のすべての物理と化学の実験ができます。)  

・6V以上が必要な場合は,複数台を直列接続すればよい。2台目からは棚に置いて高くすると,なおよい。

(4) 簡単な構造で壊れにくく,製作や補修が簡単。

(5) 用いる乾電池は,消耗を気にしなくてよい単一型とした(単二型も使用可能)。


  「接点について」
  +接点の構造が,最も工夫を要する部分です。写真は,作りやすさと安価さを意図したもので,目玉クリップとフィルムケースのフタを用いました。両方をつなぐ太い銅線のテンションで接点を電池に押し付けます。なお,目玉クリップが外れにくいように背側面に溝が切ってあります。この他にもいくつかの構造を工夫しました。−接点は簡単にできます。

+接点とターミナル −接点とターミナル


  「並列つなぎについて」
  この電池スタンドは電池の並列つなぎができません。しかし,並列つなぎの価値は,電気機器が長持ちするという実用的な技術です。といって,その技術を用いた製品は,まず,ありません。電流容量が必要なら,より大きい電池を内蔵すればよいからです。つまり,乾電池の並列つなぎは理科とは違った教材と考えてもよいくらいです。また,電圧と高さの関係を電池スタンドでイメージ化できると,並列つなぎにしたときの電圧は簡単に予想できます。


  「黒板掲示用の電池スタンド」
  黒板に磁石で貼り付けられる掲示用電池スタンドも製作しました。これを用いて,黒板での演示実験も可能です。

黒板掲示用の電池スタンド +接点とターミナル


3.100V電池スタンド

  斜め縦型の電池スタンドは,1981年に棚用のアングルを用いて作ったものが最初です。30cmサイズのアングルの端を斜め外側に曲げて,板にねじ止めしました。分厚い鉄を曲げるのは難しく,1実験室分の24台作るだけで大変でした。
  アングルにこだわった理由は,長いアングルに電池を60個余り並べて100Vを作りたかったことにあります。これによって,乾電池の1.5Vと電灯線100Vの世界を連続的につなぎたかったのです。

  100V版の縦型電池スタンドは,2m40cmのアングルを2本つないで(間は2本の皿ビス留め)作り,床から天井へ斜めに立てかけて実験しました。電池を積み上げるに従って普通の100V電球が見事に点灯して感激しました。乾電池に異常(発熱など)はありません。

  この実験をあちこちで紹介しましたが,ほとんどの先生が「乾電池では100V電球が点灯しない」という予想をされました。「電池の内部抵抗が大きすぎる」という理由や,逆に「大きな電流が流れて乾電池が爆発する」という意見が多く,楽しい議論ができました。いろいろな応用が可能で,興味深い授業ができます。

(注意)100Vは危険で,生徒実験には適しません(演示実験に限ります)。
※(参考)直流が交流より危険という噂もありますが逆です。直流送電を実施していたエジソンがライバル会社の交流送電に対して行った攻撃が交流の危険性で,そのことが電気イスの開発に結びついたそうです。

自由利用マーク  
《SUGIHARA  KAZUO》