究極の「カルメ焼き」 


  
★観察実験には専門知識と経験が必要です。本サイトの閲覧は理科教育関係者に限らせていただきます。★
1.はじめに

自作のカルメ焼き
  「カルメ焼き」は,重ソウの熱分解を利用した砂糖菓子の一種で,考えながら楽しく作れます。教科書に掲載されたこともありますが,上手にできないことがほとんどです。そこで,いろいろと調査していると,「カルメ焼き」の研究で知られ,その著書もある慶応義塾幼稚舎の高梨賢英先生に出会いました。そして,いくつかのノウハウを教えていただいたのをきっかけに研究を進め,失敗しにくいコツが次第にわかってきました。
  そして,攪拌の重要性や砂糖の質の影響,さらに重ソウの質の違いなどに気づき,より理想的なカルメ焼きができるようになってきました。ただ,原理については結果から類推しただけで,実証できたということではありません。


2.準備物 (1)どんな砂糖を使うか
上白糖(白砂糖)を用います。ザラメ糖や三温糖などの色のある砂糖を用いると,作業のタイミングを色変化でつかみにくくなります。
グラニュー糖は膨らみやすくて失敗しにくいようです。色白の仕上がりとなり,食紅などで着色して楽しめます。ただ,同じく,作業のタイミングを色変化で判断するのは難しくなります。
・商品としては,いくつかの種類の砂糖を混ぜ,独特の風味を出しているところもあるそうです。

(2)砂糖の量,および水との比率
  砂糖を40g程度用い,理想的に膨張すると専用おたまじゃくしいっぱいの大きさになります。
  混ぜる水の比率については,およその目安があります(以下,参照)。これは,ある程度の加熱時間が必要なことによります。もちろん,火の強さも関係します。
(砂糖に水を混ぜて加熱すると沸騰し,さらに沸点が上昇していきます。これは,水の蒸発によって砂糖の濃度が高まる(モル沸点上昇)だけでなく,ショ糖が重合(脱水縮重合)するからです。この反応が進む時間が必要なのです。)

(3)加熱容器

銅製おたまじゃくしと置き台
  カルメ焼き専用の「銅製おたまじゃくし」(1,000〜1,500円)があります。大きさも手頃で,使いやすくなっています。しかし,台所で普通に使っているアルミニウムのおたまじゃくしでもいいのです(ステンレス製は少し仕上りが悪いようです)。かつて,教科書に掲載されていたスプーンを用いる方法は,ほとんど失敗します。
※注意:加熱によって「銅製おたまじゃくし」は焼きなまし状態(かなり柔らかい)になります。そのため,丁寧に扱わないと簡単にへこみます。

(4)おたま置き台
  銅製のおたまじゃくしを置く台を用意します。火から下ろし,重ソウ卵を入れてかき混ぜる時の台です。図のように木で作ると簡易な保温台ともなり,落ち着いて作業できます。結果,重ソウ卵を入れるタイミングがつかみやすくなります。

(5)温度計
  200℃のアルコール温度計を用いて温度変化を調べ,125〜130℃程度まで加熱します。130℃を超えるとほとんど水分がなくなり,急速に温度上昇してカラメル状になります。つまり,その直前で加熱を打ち切るわけです。

<温度測定>
  「温度計の左右を割り箸で挟んで輪ゴム止めする。」という提案がなされています。素晴らしいアイディアで,この方法をお薦めします。これによって,温度計の球部の破損を防ぎ攪拌棒としても利用できます。
備考:温度計の材質や製造方法は進歩し,球部は簡単に破損しなくなりました。さらに割り箸を挟めば全く問題ありませんが,このような目的外使用については「実験器具の使い方としてよくない!」という指摘があり,悩まされることもあります。

(6)膨張剤
  必ず,『食品添加物』と表示されている重ソウ(正しくは「炭酸水素ナトリウム」)を用います。薬品店はもちろんですが,薬局やスーパーマーケットなどでの購入もできます。普通は,「タンサン」と表示されています。
※「重ソウ」は,漢字で「重曹」と書きます。かつて,「炭酸水素ナトリウム」のことを「重炭酸曹達」と呼んでいた時の略称です。同じく,名前の一部をとったものが「タンサン」です。

炭酸水素ナトリウムの熱分解
2NaHCO NaCO O↑ CO
(炭酸水素ナトリウム)
(炭酸ナトリウム)
(水蒸気)
(二酸化炭素)


  「重ソウ」に「卵白」と「少量の砂糖」を混ぜ合わせた(重ソウ卵)を作ります。出来たものは,「パサつかず,ベチャつかず!」といったところがいいようです。Mサイズの卵1個で50回以上のカルメ焼きに必要な量ができます。

  卵白のタンパク質は加熱によって凝固し,重ソウの熱分解によって発生した気体が逃げにくくなります。少量の砂糖は,再結晶核として機能するようです(詳しくは後述)。なお,「重ソウ」と「卵白」だけを混ぜたものを用意し,加熱した砂糖液に混ぜる直前に「砂糖」を付着させても結構です。
※卵白の代用としてゼラチン溶液を利用してみました。結果,同じようなはたらきを確認できました。

  混合比の例:卵白17g(約1/2個)+重ソウ50g+上白糖8g…これは高梨賢英先生の例ですが,重ソウの品質や卵の大きさによって,かなり違ってきます。
  
杉原による例 重ソウ 卵白 上白糖
A社 35g(1箱) 10cm3 ティスプーン1杯
B社 35g(1箱) 20cm3 ティスプーン1杯


各種の市販の重ソウ

<重ソウ卵と重ソウの質>
  重ソウ卵の柔らかさは,卵のサイズの影響は当然として,重ソウの質(きめの細かさ)によっても違ってくることに気づきました。重ソウがきめ細かい場合,必要な卵白の量は増え,荒い場合は少なくなります。結果,同じ量の重そう卵を用いると,重ソウの実質量が違い,同じようなカルメ焼きが出来にくいことになります。
  それだけでなく,きめ細かさと作りやすさが関係しています。きめ細かい重ソウを用いた方は,気泡が小さくて多くなり(浮力が小さくなって),気泡が外部へ逃げにくいようです。そのため,膨らんでも萎みにくくなるようです。
  ただ,カルメ焼きの食感は好みの問題で,いちがいに細かい重ソウがよいともいえません。

<重ソウ卵作りのコツ>
  卵白1/2個に重ソウ50g程度を混ぜると,少しどろどろして流れ落ちます。次に,少しづつ重ソウを追加して混ぜると,急にまとまって落ちにくくなります。この状態が,ちょうどよいと考えています。


(7)加熱器具
  家庭ではガスコンロになりますが,カルメ焼きのおたまじゃくしが小さいので周囲が焦げやすくなります。実験室用のガスバーナーと三脚の組み合わせが最適です。

(8)その他
・アルミホイルを敷いて作業を行うと,机上を汚さず,衛生面でも安心です。
・割り箸,電子秤,計量器(メートルグラスや計量スプーンなど),電気ポット,ポリ袋,ぞうきんなども必要です。


3.「カルメ焼き」づくり

砂糖水の加熱
割り箸ガードの温度計使用
(1)加熱方法
   「カルメ焼き」用のおたまじゃくしに砂糖40g(フィルムケース2杯程度)と水15cm(計量スプーンの大1杯程度)を入れ,中火で攪拌しながら加熱します。温度を測定し125〜130℃程度になれば火から置き台の上におろします。

<ガス火の強さ調節>
「火が弱い時」
   火が弱いと加熱に時間がかかり,液面に砂糖の白い結晶が現れることがあります。砂糖の重合が進まず,飴にならなかったのです。
「火が強い時」
   火が強いと,膨らんだ後,萎みやすいようです。短時間加熱では重合が進まず,飴にならなかったからだと思います。
「適温の設定方法」
  中火より少し弱めとし,指定の温度になれば火からおろします。液面を丁寧に観察し,気泡が出なくなった頃に砂糖の膜がはるようなら火が弱い(加熱時間も長かったはずです)。次から少しずつ火を強めて加熱し,膜がはらなくなった時が適温のようです。

※最適なガス火の大きさを,このページに表示出来ればよいのです。しかし,ガス火の大きさは,ガス器具の違い,火とおたまじゃくしの底との距離,おたまじゃくしの重さや質などによっても違ってきます。何度か試さないと,うまくいきません。
(注意)このように最適な火の設定は難しく,作業終了まで火はそのままにします。

(2)重ソウ卵の入れ方
  おたまじゃくしの底から上ってくるアワが無くなり,浮いている真ん中付近のアワが小さくなり始めたら,割り箸の先につけたダイズ粒大の重ソウ卵を入れます。入れると同時に割り箸で砂糖液を激しくかき混ぜ,全体に重ソウ卵がよく混ざるようにします。
※「混ぜながら重ソウ卵を入れる!」といった気持ちでの初期の攪拌が大切です。

  手早くむらのないようにかき混ぜると,白くてなめらかなクリーム状になります。更に,薄い黄色に変われば割り箸を真ん中から抜いて,全体が盛り上がってくるのを待ちます。
※グラニュー糖は黄色に変色しにくく,攪拌の打ちきりタイミングは難しい。

※このように底と液面のアワに注目して重ソウ卵を入れるタイミングを見つけます。このアワは水蒸気ですから,砂糖液が100℃前後で重ソウ卵を入れたことになります。

(参考)およその経過時間です。
   (0秒)加熱終了→(20秒後)重ソウ卵投入→(40秒後)攪拌終了→(45秒後)膨張開始→(60秒後)膨張終了

※混ぜ方の違いだけで,全く膨らまないこともあります。卵白が重ソウを包み込んだまま凝固し,まんべんなく広がらなかったことが原因のようです。この場合,白い卵白の固まりとブツブツした大き目のアワが目立つのでわかります。まんべんなく攪拌できない場合は,割った割り箸を3〜4本束にして用いてみましょう。

※カルメ焼きの表面に渦模様の見られることがあります。これは,攪拌時間が長すぎたことによります。

重ソウ卵を入れる 混ぜると白く泡立つ


(3)取り出し方
  盛り上がりが止れば数分間放置し,表面が固くなるのを待ちます。次に,もう一度中火で加熱し,おたまじゃくしを傾けて「カルメ焼き」が動き出せば紙の上に取り出します。


おたまじゃくしの洗浄

(4)おたまじゃくしの洗浄
  使用後のおたまじゃくしは飴状の砂糖がこびりつき,容易に水道水洗浄できません。特に,水が冷たい時期のこびりつきは強く,大変です。温度計の先に付着した飴状を取るのにも苦労します。
  そこで,以下のような方法を工夫し,問題を克服しました。多人数の方に体験していただく場合,欠かせません。小さなことのようですが,このアイディアは極めて重要でした。

  電気ポットの蓋を外して,湯を沸かします。この中におたまじゃくしなどを30秒〜1分程度浸けるだけできれいになります。10人に1台程度用意するだけで手早く洗浄でき,混雑もありません。
(電気ポットが,蓋なしでも作動することに気づいたときは嬉しくなりました。)


4.「カルメ焼き」の原理   最初に砂糖と水を125℃程度まで加熱するのは,溶解すると共にショ糖分子を少し重合させる(次第に直鎖状の高分子になっていきます)ためです。これによって,甘さがソフトでおいしくなるとともに膨張させても気体が逃げにくい粘度が得られます。温度をもう少し高くすると苦味が出て(炭酸ナトリウムのアルカリ性の苦味もあって),大人向けの味になります。

  砂糖液に入れた重ソウは熱分解し,二酸化炭素と水蒸気の気体が発生します。それに伴って成長が始まる砂糖の結晶で蓋われ,逃げ場がなくなった気体によって全体が膨らみます。失敗は,重ソウを入れる温度で,高すぎると蓋いとなる砂糖の結晶が成長できないだけでなく,砂糖液の粘度も低くて気体が逃げてしまいます。しかし,低すぎると十分に重ソウの熱分解が進まないだけでなく,発生した気体の圧力が足りなくなります。

  卵白を用いる理由は,卵白のタンパク質が熱せられると凝固し,気体の逃げ出しを防ぐ働きをするからです。従って,ゼラチンなどでも代用できます。ただ,前述のように,卵白が重ソウを包み込んだまま凝固すると,むらなく混ざりにくくなって失敗するという新たな問題点が発生します。

  すべての条件が理想的でも失敗する場合があります。それは,過冷却現象によって,飽和する温度になっても結晶ができるとは限らないからです。そこで,再結晶核となる種結晶を入れてやるわけです。それが,重ソウ卵に加えた少量の砂糖です(前述のように,重ソウと卵白だけを混ぜたものを用意し,添加する直前に砂糖を付け加えても結構です)。長く置いた重ソウ卵を使うとうまく膨らまないことがありますが,これは結晶核となる砂糖が溶けてしまったためではないかと考えています。

  グラニュー糖が膨らみやすい理由は,純粋なショ糖であることによると考えています。飴をからめる中華料理がありますが,上白糖から飴を作る時に酢を少し加えます。これは,加熱中に砂糖液が結晶化するのを防ぐためですが,酢によって一部のショ糖が加水分解してブドウ糖などの単糖類に変わるためだと考えられています。つまり,グラニュー糖は単糖類をほとんど含まないため結晶化し易いことがメリットだと思います。食べると少しパサパサしているのは,そのためではと考えます。
※ザラメ糖で作ったという経験のある方が多いのですが,ザラメ糖はかなり純粋なショ糖で,グラニュー糖に近いものです。茶褐色の色は,極少量のカラメルを表面に付着させてあるのです。上では「色の関係でお薦めできない。」と書きましたが,作りにくい素材という事ではありません。


5.備考

(1)砂糖と水の量
  砂糖の量に対して水が多い場合,「カルメ焼き」はできますが時間がかります。砂糖の濃度が高くなるまで温度が上がりにくいからです。水が少ない場合,砂糖が白い結晶になることがあります。すぐに水分がなくなって重合が進まないからです。

(2)重ソウ卵の量
  重ソウ卵を増やすとよく膨らみ,より簡単にできます。ただ,内部がバサバサになって崩れたり,味が苦くなります。自称「名人」の多くが,このバサバサ構造のようです。できたカルメ焼を包丁で切断し,断面を観察します。全体に同じサイズのきめ細かい気泡が広がっておれば合格です。製作講座でも,できたカルメ焼きを包丁で切断して出来具合を判断しました。

(3)膨らまなかったカルメ焼きの処理
  上手に出来なかったカルメ焼きは,膨張が不充分で堅く,サクサク感がありません。しかし,上質のコーヒーシュガーとして利用できるようです。多少の苦味はコーヒーの同じ苦味にまぎれ,気になりません。お試しください。



6.おわりに

市販品「卵白入り」「重ソウのみ」「おこた」
・北野の天神さんの縁日で,カルメ焼きを調べました。「卵白入りのタイプ」「重ソウだけのタイプ」とともに「おこた」がありました。卵白入りは,とても色白でよく膨らんだもので,グラニュー糖を用いていることがわかります。おこたは,掘りごたつ風のデザインで昔菓子の一種として知られていますが,作り方はわかりません。

・このレポートは,カルメ焼きのコツが最も詳しく書かれたものだと思います。しかし,原理解説の多くは推論であり,分析して証明したわけではありません。このまま信用されるとよくないでしょう。いろいろなご批判やご意見をいただけると幸いです。

・カルメ焼き専用の銅鍋は,調理器具を扱っている店だけでなく,理科教材を扱っている「ナリカ」でも購入できます。また,京都の「錦市場」にある「有次(ありつぐ)」では専用の打ち出し銅鍋があり,名前を刻んでもらって購入しました。また,同じような銅鍋を大阪道具屋筋の「千田」で購入しました。この両者の形は,かなり違っており,比べると興味深いものです。
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《SUGIHARA  KAZUO》