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1.はじめに 柵原鉱山へ出かけたのは30年ほど前のことで,今では,廃坑になり,資料館があるのみです。なお,この資料館に柵原鉱山産の天延磁石が展示されていますが,私の提案によります。柵原鉱山は硫化鉄鉱の鉱山だったので,当初は展示されていなかったのです。 手にしている天然磁石は,かなり強力で珍しいものです。さまざまな機会に紹介していますが,同じようなものの入手は難しくなっています。将来,不要になれば,誰かに引き継ぎたいと思っています。 ※この天然磁石そのものの写真が,大学の物理系でよく使われている教科書と,小学校の教科書に掲載されました。
天延磁石の最初の実用的な用途は,方位調べでした。また,健康によいという怪しげな利用法は紀元前からあったようです。しかし,効果がないということで,流行っては廃れるということを近代まで繰り返しているそうです。 「方位磁針」ですが,興味深いことに,いくつかの呼称があります。かつては,棒磁石もU字磁石も方位磁針も「磁石」と呼んだはずで,磁石の主な用途が何であったのかがよくわかります。しかし,方位磁針があまり使われなくなり,GPSが普及するにいたっては,方位磁針を磁石と呼ぶのは無理があります。 こういった経緯故か,方位を調べる磁石の呼称は「方位磁石」「方位磁針」「方位計」「コンパス」などいくつかあり,単に「磁針」と呼ぶこともあります。船の羅針盤(羅針儀)も近い存在です。なお,羅針盤は,事故で電気が使えなくなっても作動するため,今でも欠かせない主要装備です。 ※広辞苑では,「方位磁石」も「方位磁針」も「磁針」も見出しにありません。いまだに,「磁石」か「コンパス」です。 2.方位磁針とN極S極
丸型フェライト磁石は安価で,生徒全員分を用意できます。わざと,ホームルームの教室で実験し,机の上の磁石のすべてが同じ方向を向くことを観察させました。みんなが同じ結果になることで,地磁気という見えない力がどこにでも存在することを納得できます。なお,通常は教室の左が南になっており(西が前),持ちやすい位置で手を離すと,ほぼ90度回転することが容易に観察できます。磁石を落とす台の材質は,落ちた後の回転し易さに関係します。机は問題ありませんが,柔らかい樹脂などで覆われていると難しくなります。 結果,北を向く方は北(North)の頭文字をとってN極,南を向く方は南(South)の頭文字をとってS極と定義したことを説明しました。 ※けして,「N極は北を向き,S極は南を向く!」ではありません。これでは,再び「N極って何? S極って何?」とふり出しに戻ります。
こうして,方位磁針は,普通の磁石そのものであることがわかります。そこで,市販の方位磁針の先にステープラーの針を引き付けたり(図5),磁針同士の引き付けあいや反発を観察する実験(図6,7)もしてみました。 もちろん,棒磁石を吊るして方位磁針にすることも試しました。しかし,糸のねじれで動き続け,なかなか安定しません。円盤状の発泡スチロール上に置いて水に浮かべると,問題なく南北を指します。 注1:図でわかるように,真北ではなく少し西を指しています。これが偏角です。従って,偏角についても触れる必要があります。 注2:N極とS極という呼称を何度も使っていますが,この極の場所はどこなのか理解していません。丸形フェライト磁石なら,両方の面を指すのか,面の中心を指すのか,両端部を指すのか,面から少し中に入った最も磁力の強い場所を指すのか‥よくわからないのです。文献を調べたり,あちこちで聞いてみましたが,回答は得られていません。さて,どこなんでしょうか? 注3:図は,わかりやすいよう,下に十字線を書いてあります。しかし,授業では,何も必要ないでしょう。 注4:図3と4の穴あきフェライト磁石(二六製作所製:外径24mm,内径10mm,幅3mm)は「浮遊方位磁針」用で,授業で用いたのは以下の図9と10のフェライト磁石です。
注5:方位磁針が示す北は「磁北」と呼ばれます。地球は大きな磁石ですが,精密に作られた工業製品と違って磁極が怪しげです。結果,地球を一個の磁石と定義したときの磁極と地表の交点である「地磁気極」,そして,実質的な「磁極」(磁針が垂直に立つ場所で,一点ではない幅広い地域や地点です)があります。そのため,方位磁針は,どこを指しているのかというと,はっきりしないのです。そこで,仕方なく「磁北を指している!?」という怪しげな表現になっています。さらに問題なのは,磁北と真北 (地軸から導かれる北)がずれていることです。磁北は場所によって変わりますから,真北とのずれも違ってきます。京都では−7.1度の違い(真北より西に−7.1度振れているということ!)があり,この角度を「偏角」と呼びます。またまた困ったことに,磁北は毎年少しずつ動いていますから,同じ場所でも偏角は少しずつ変化していきます。
3.磁石について
(2)磁石には必ず,N極とS極があります。ただ,理論的には片方だけの磁石(モノポール)の存在が考えられるそうです。しかし,本当に発見できるかどうか,懐疑的な見方が多いようです。 (3)磁石のN極とS極は,それぞれ一箇所とは限りません。いくつでも好きな場所に設定できます。こういった複雑な極を持った身近な例は,自転車の発電機の中にある磁石です。 (4)U字磁石は不思議な存在です。実用面での用途は全くないのです。教材としてのみ,存在します。ある磁石メーカーを見学した時,「なぜ,学校ではU字磁石を使うのですか? 教材のためだけに製造するのは大変なのです。」と逆に質問され,困りました。丸や棒状の磁石はベルトコンベヤーで連続的に着磁できますが,U字磁石は一個ずつの手作業なのです。工場の片隅に,専用のとても古い着磁器がありました。 ※私が知っているU字磁石の唯一の用途は,古い形式のスピーカー用磁石です。また,ウィリアム・スタージャンが作った世界初の電磁石は蹄鉄形をしていたそうです。 4.備考 この研究は,パスカル電線の開発と並行していました。さまざまな教材が関連していることにも気づかされました。 ※地磁気に関する詳しいサイトがあります。京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターです。必要な,ほとんどすべての情報が得られます。 |