『Michael Faraday』
  ファラデー関連書籍の紹介  

  

  歴史上,最も多くの業績を遺したとされる科学者「マイケル・ファラデー(英)」は,1791年9月22日に生まれました(ボルタが電池を発明する9年前)。彼の生涯は,政治,経済,科学技術の変革期に重なり,時代の求めたスーパースターの登場となりました。
  ファラデーは,名前が2つの単位になった唯一の科学者です。一つは,1当量の電気量を表すファラデー定数「F(ファラデー)」で,電気化学の研究から生まれたものです。もう一つが,コンデンサーなどに蓄えられる静電容量を表す「F(ファラッド)」です。これは,化学分野と物理分野の両方で大活躍した学者であることを表しています。
  ファラデーの研究開発が文明に及ぼした影響は計り知れないもので,今日の理科教育内容と密接な関係があります。彼を知らずして現代社会も理科教育もありえないのです。そして,ファラデーの研究内容と「S-cable」は重なるものがとても多いのです。概要は電磁気の歴史と「S-cable」をご覧ください。
  日本ではファラデーがあまり知られていなかったのですが,小学校の教科書にも掲載され,ようやく認知が進み始めました。
  私は「S-cable」の関係で,当初よりファラデーに興味を持ち,多くの書籍を読んできました。

『マイケル・ファラデー(Michael Faraday)』関連書籍
分類 書名と内容など
  
講演記録
『ロウソクの科学』1
(翻訳:文庫)
 
『ロウソクの科学』の書名で,  「角川文庫」(三石巌訳)1962年,  「講談社文庫」(吉田光邦訳,絶版)1972年,  「岩波文庫」(矢島祐利訳,絶版)1956年,  「旺文社文庫」(日下実男訳,絶版)など各社から文庫本化されています。
つまり,一般書店で入手可能なのは,角川文庫だけでした。

そんな中,2010年9月16日, 岩波文庫の新刊『ロウソクの科学』(竹内敬人訳) が出版されました。
  いずれも「ファラデー著」となっていますが,ファラデーの許可を得たウィリアム・クルックスが講演の速記録を編集したものです。実験主体の映像を少ない図版記録でまとめた書籍,今とはかなり時代背景が違うこともあって,ある程度の予備知識がないと読みにくい本です。無理な要望ですが,動画映像が残っておればと悔やまれます。
  1859年末〜1860年初頭に行なわれた古い記録が名著として世界中で読み継がれているわけで,これには特別な意味があると思います。当時の世界最高の科学者による丁寧に準備された実験講演の素晴らしさを知ることができるのです。私たちは,ファラデーのおかげで,より高い目標の存在に気づかされます。ただ,多くの講演のうち,記録されているのは2テーマのみというのが残念です。

  期待して何度も追試をしたのですが,記載通りにできない?,準備が困難!,もっと良い事例がある!などいろいろと課題があり,燃焼の科学を学ぶ実験テキストとしての復活利用には躊躇します。
  これらの中で推薦できるのは,新しい岩波文庫です。当然ながら文章が現代的で読み易く,印刷も優れています。しかし,上記のような課題があります。
  「ロウソクの科学」は一人で読むのではなく,少なくとも良く理解している専門家の解説や実験を伴った読書会形式にすべきだと思いました。
 
講演記録
『ロウソクの科学』2
(翻訳:大判)
 
『ファラデー ろうそく物語』 改装版,白井俊明 訳,法政大学出版局,2000
大活字本シリーズ『ロウソクの科学』 三石巌 訳,埼玉福祉会,1999

・これらはA5版で,上記の文庫本と比べて大きな文字で読み易くなっています。
  (しかし,当然ながらわかりにくい内容はそのままです)
 
『ロウソクの科学』
(改訂創作版)
 
少年少女科学名著全集6『化学のめがね ロウソクの科学』 北見順子 訳,国土社,1965
  実際に実験しながら訳した部分が多いようで,何とも頭の下がる労作です。ただ,その関係で直訳とはならず,オリジナルな文章とは少し違っているようです。また,初版が1965年で,追試した実験写真の印刷が鮮明でなく,現代から見ると少し馴染みにくい文体も気になります。書店での購入は難しいようなので,図書館で探してみましょう。
『火と人間』P217〜248「ファラデーのロウソクの科学」 磯田浩,法政大学出版局,2004
  上記のすべてがは原著に沿った訳になっているようです。しかし,巻末掲載の「ロウソクの科学」は,科学的内容だけをまとめ直した要約となっています。従って,講演の雰囲気は伝わりにくいのですが,とてもわかり易い『ロウソクの科学』となっています。
『「ロウソクの科学」が教えてくれること』 尾崎好美編訳,SBクリエイティブ,2018
  白川英樹監修となっており,ロウソクの科学を尊重しながら現代に蘇らせようという大胆な試みとなったようです。そのため,現代の知見を加味しての解説が特徴となっていますが,古典との融合が成功しているかどうかは考えようだと思いました。
『ロウソクの科学』 平野累次他,KADOKAWA,2017
  角川つばさ文庫の一冊,小・中学生を対象としています。ろうそくの科学を実験主体で現代に蘇らせようとするもの。意図はわかりますが,次々に展開する実験を短い紙面で的確に伝えるのは容易ではありません。
 
講演記録
『力と物質』
 
『力と物質』 稲沼瑞穂 訳,岩波文庫,1949
  ファラデーの講演記録として記録・出版されているのは『ロウソクの科学』と『力と物質』の2つだけです。どちらも,編集したクルックスの序文があります。「力と物質」は,1949年に岩波文庫から出版されましたが,絶版で入手困難です。『ロウソクの科学』同様の幅広い内容の講演記録で,驚くべきものです。現代版として出版されないのが不思議なくらいです。
ファラデー伝
(わかりやすい)
小学生高学年〜
 
『わたしもファラデー たのしい科学の発見物語』 板倉聖宣,仮説社,2003
  板倉先生の手にかかると,何とも素晴らしいファラデー伝ができてしまいます。対話形式になっており,小学校高学年程度でも十分に理解できる内容となっています。巻末の年表も見事なもので,板倉先生の丁寧な執筆作業が見えるようです。
『ファラデーのモーターの科学』 小林卓二,さ・え・ら書房,1986
  エルステッドの実験の翌年に,ファラデーはモーターを開発します。今日の一般的なモーターとは違っていることから「ファラデーのモーター」などと,特別な表現で紹介されています。しかし,「電・磁・力」を最初に示した功績をもっと高く評価すべきだと思います。「ファラデーのモーターの科学」という書名は,こういった私の願いを端的に示しているようです。手近な材料での実験を通してモーターの科学を考えることができる,とてもよくできた本です。
ファラデー伝
(詳しい)
中学生〜
 
『新ファラデー伝』 井上勝也,研成社,1995
『ファラデー 王立研究所と孤独な科学者』 島尾永康,岩波書店,2000
『ファラデーが生きたイギリス』 小山慶太,日本評論社,1993

  幅広い視点からファラデーの業績を論じた異色の評論となっています。
『マイケル・ファラデーの生涯 電気事始め』 J.ハミルトン,教文館,2010
  研究内容と共に王立研究所での出来事や私生活も含めた幅広い人物像に迫るファラデー伝となっています。
・それぞれが興味深いエピソードを掲載しており,出来れば,すべて読んでいただきたい好著です。
科学者ファラデー
(詳しい)
中学生〜
 
『ファラデーと電磁力』 ブライアン・バウアーズ,玉川大学出版部,2016
  著者はロンドンにある国立科学博物館に勤務し,照明や電力の技術に関するコレクションの責任者であった方,王立研究所の評議員もされていました。それだけに,的確な図版が多数収録,参考情報も豊富,生徒向けの一冊となると最高傑作!
『マイケル・ファラデー 天才科学者の軌跡』 J.M.トーマス,東京化学同人,1994
  ファラデー伝の定番。しっかりと調査研究された本ですが,やや硬い論調が生徒向けとしては残念。
『マイケル・ファラデー 科学をすべての人に』 編集代表オーウェン・ギンガリッチ,大月書店,2007
  ファラデーの主な研究内容を上手に取り上げ,わかり易い解説で興味深く楽しめる本です。的確に選択された図版や写真も掲載されている好著です。
『ファラデーとマクスウェル』 後藤憲一,清水書院,1993
  新書版ながら,ファラデーの人物像から「場」の思想にまで踏み込んだ幅広いファラデー伝となっています。後半は,高校生以上でないと読みにくいかもしれません。
ファラデーの業績
(専門的)
高校生〜
 
『物理学を変えた二人の男 ファラデー,マクスウェル,場の発見』 ナンシー・フォーブス他,2016
  訳者は米沢富美子さんと米沢恵美さんという超一流の親子,なるほどと思わせるしっかりした内容の本になっています。ただ,丁寧な記述だとは思うのですが文体が少々堅め,中高校生がわくわくして読めるとは限らないですね。
『ファラデー 実験科学の時代』 小山慶太,講談社,1999
  ファラデーの業績を当時の科学者との交流や新発見などと関連づけることによって,実験科学者ファラデー像を広い視点でとらえている好著です。もし一冊選ぶとなると最高かもしれませんが,入手は難しそうです。また,図版がなく,関連事項をある程度知っていないと読みにくいかもしれません。
『新訳 ダンネマン 大自然科学史』 ダンネマン,安田徳太郎 訳・編,三省堂,1980
  第9巻P167「X近代電気学の成立」から,ファラデーに関しての詳しい記述があります(他の巻にも掲載事項あり)。児童生徒にとってわかりやすくて興味深い内容もありますが,すべてを読みこなすにはある程度の専門知識が必要です。
ダイジェスト解説
(読みやすい)
中学生〜
 
『自然界の発明発見物語』 板倉聖宣編,仮説社,1998
  P74〜103「ファラデーの発見物語」
『偉大なアマチュア科学者たち』 ジョン・マローン,主婦の友社,2004
  P117〜149「マイケル・ファラデー,電磁法則の生みの親」
『世界でもっとも美しい10の科学実験』 ジョージ・ジョンソン,日経BP社,2009
  P112〜127「マイケル・ファラデー,奥深く隠されしもの」
『エレクトリックな科学革命(いかにして電気が見出され,現代を拓いたか)』 デイヴィッド・ボダニス,早川書房,2007
  P77〜89「第4章ファラデーの神」
『世界の科学者100人(未知の扉を開いた先駆者たち)』 竹内均 監修,教育社,1990
  P50〜55「マイケル・ファラデー」
・いずれも短いページで要点を整理し,読みやすいファラデー伝となっています。
実験器具の図版
(わかり易い)
中学生〜
 
ザ・サイエンス・ヴィジュアル『電気』 スティーブ・パーカー,東京書籍,1993
  ファラデーの「誘導環」や「電磁回転機」を始め,多くの歴史上重要な実験器具がわかり易くてきれいなカラー図版で掲載されており,驚かされます。「英国・科学博物館協力」となっており,発明発見の原点となった欧米の歴史と深さを実感します。
  同じシリーズの
『化学』『エネルギー』『物質』にも,ファラデーに関する記述があります。彼の研究分野の広さがわかります。

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