「があああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 咆吼とともに繰り出される一撃は、爆撃にも似た必殺の一撃。華凛を横抱きに抱えて数メートルの距離をとる。

 砂埃の向こうから月明かりに照らし出されたその姿は、予想通りのものだった。

「やはりな。…バーサーカー…ヘラクレスか」

 3メートル近い巨躯、鋼の肉体、手にした斧剣、それら全てが前回のそれとかぶる。

「ヘラクレスって、前回のアインツベルンの…」

 奇しくもこれ以上ない形で、藤嗣がアインツベルンであることが証明されることとなった。

「…藤嗣さん…本当なんですね。このために衛宮の家に…」

 つらい表情を殺して、華凛がつぶやいた。それに答える藤嗣の表情は更に無表情であった。

「…何を言っても信じてもらえないかもしれないけど…それだけは違います。…絶対に…」

 

 

 

 

 

 

〜第九章〜

 

〜聖杯と、アインツベルン〜

 

 

 

 

 

 

「さっきの話の通り、私は衛宮切嗣…彼を模してアインツベルンに作られたホムンクルス…クローンのようなものです」

 藤嗣が静かに語り出した。

「アインツベルン千年の歴史の中で、最も聖杯に近づいたのが彼だった。悲願達成の今一歩まで行き着き裏切った彼に対して一族の恨みは骨髄だが、同時に彼の力を欲する気持ちも骨髄だった」

「…それゆえ、お前は生まれたわけか」

 私の確認に、あいまいな笑みを浮かべて答える。

「…ですが、やがて私は失敗作と断ぜられた。魔力不足、実力不足…いろいろ理由はありましたが、情緒面で問題ありというのが最大の理由でした。

 

 …いわく、甘い…とね」

 

 藤嗣が嘲笑するように微苦笑を浮かべる。果たしてそれは一族に対してか、己に対してか…あるいはそのどちらにもか…

「皮肉なことだな…」

 

 …彼は生粋の魔術師でした、目的の為ならばどんな卑劣なことも行った…

 

「…聖杯戦争を勝ち抜くためには冷徹な判断力が必須であり…」

 

 …顔も知らない誰かの為に、一番大事な人を切り捨てるのね…

 

「…しかしながら、最後に裏切られないためには甘さが必要…はじめから成功する可能性は皆無だったわけだ」

「…ですね。

 …アインツベルンを放逐された私は、父と呼べるものが眠った…母と呼べるものが辿り着いた…この地に訪れた。ただの藤嗣として…そして…

 …出会った…」

 そう言うと、藤嗣は静かに微笑んだ。

「ただ聖杯のためだったとしても、生んで貰ったことを素直に感謝できました。穏やかで、静かで…満ち足りた時間でした」

 静かに遠くを見つめたまま藤嗣が続ける…

 

「…そう、ほんの一月前まで…」

 

「…彼は、アインツベルンの正統後継者だと名乗りました。

 この地に再び聖杯戦争を引き起こすための準備と、それに勝ち残り聖杯を得るための協力をしろと居丈高に言ってきましたよ」

「…準備?」

 起きるはずのない聖杯戦争を、再び引き起こした…何を用意し、何をしたのか?

 そのことには触れず、藤嗣は話を続ける。

「…否応がなかった…モモの名を出された以上、私はマスターになるしかなかった」

 再び無表情な顔をこちらに向ける。

「…そして、私が勝ち残るしかないと思った。私が聖杯を得る以外に道はないと知らされた」

 無表情な顔の中、その目に力がこもる。それは覚悟を決めたものの目だった。

「…華凛さん、あなたの望みは何ですか?」

「私は…私はっ」

 藤嗣の目に、その覚悟に気圧されまいと華凛が身構える。身構える華凛をいなすかのように、藤嗣がさらりと言葉を続ける。

「…私も同じですよ、特に聖杯に願うべき望みなんてない、ただこだわりがあるだけ。

 …そして、それはアインツベルンもそうなんです。最初はあったかもしれない、高潔なものだったのかもしれない、純粋なものだったのかもしれない、まっすぐな美しいものだったのかもしれない、ひょっとしたらたわいのないものだったのかもしれない…ですが、あったんでしょう、あったはずです、聖杯に願うべき望みが」

 静かだった声に、熱がこもってくる。

「千年の年月は、何を望むのか、何のために欲するのか、そんな聖杯に願うべきものを失いさせながらも、ただ聖杯を求めさせた。

 手段は目的へとなり変わり、願いを執念に、執念を妄執に…妄執はやがて呪いへと歪に形を変えていった」

 そう、アインツベルンは知っていた。

 前回の聖杯は汚れたものであることを…自分たちで汚したものであることを…それでも、破滅しかもたらさない聖杯であっても、それでもなお、聖杯を求めたのだ。

「…アインツベルンはもはや聖杯に呪われている…いや、アインツベルンこそが呪いになっている。

 その呪いが私のところで止まるのか? モモにまでは及ばないのか? …ありえない…」

 覚悟を決めた表情で、覚悟を決めた眼差しで、その覚悟をつげた。

 

「…私の手で、その呪いを断ち切る!!」

 

「…あ…」

 思わず一歩下がった華凛を、背後にかばう。

「…しろ…」

 背後の華凛に対して、ただ背中で語る。

 

 …覚悟を決めろ…と…

 

 己の死の覚悟じゃない…他人を踏みつけてでも、勝ち残っていく覚悟を…だ!

 

 

   アンリミテッドブレイドワークス

「…”無限の剣製”」

 

 

 再び衛宮邸は異界へと転じる。藤嗣の長話はこちらの詠唱の猶予には、十分おつりのくるものだった。

 バーサーカー…ヘラクレスは強い。しかしながら、私は彼の天敵とも言える存在である。

「…殺しきってやろう、バーサーカー」

 百を超える宝具を舞い上げて、その全てを鋼鉄の巨体へと放つ。

 

 

 そして…

 

 

 

    ナインライブズ

「”射殺す百頭”」

 

 

 

 …その全てがバーサーカー…否、ヘラクレスの宝具によってはじき落とされた…

 

 

 

 

 …アーチャー…ヘラクレスの宝具によって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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