「まさか…」

 

 

 

  ラ  イ  コ  ウ  ベ  ン

「”四界貫く神仙の雷”」

 

 

 ロ  ー  ・  ア  イ  ア  ス

「”熾天覆う七つの円環”」

 

 その恐るべき威力を予想…否、確信して最大の守りを展開する。

 

 …しかし、その一条の閃光ともいうべき雷の矛は、たやすくその守りを突破してくる。

 

 一枚…二枚…三枚…

 

 数を数えるかの様に、しっかりと確実に突き破ってくる閃光に、焦りを感じずにはいられない。

 

    いくわよ!     7番、 8番、 9番、 10番、 11番、 12番!

Ready? Set! JulAug, SepOctNovDec!

 

 …凛とした声が呪をつむぐ…

 

  急げ   飛べ!   逃げろ!!

Fly. Fly! Fly!!

 

 

 

 

 

 

〜第十三章〜

 

〜決戦は、終わりの場所で〜

 

 

 

 

 

 

 …ドカッ…ドンガラガッシャーーンッッッッ!!!!!!!!

 

 その場にあった物を蹴散らして、私達は転移を完了させていた。

「けほっ、けほっ!」

 ほこり舞うそこは、薄暗い部屋…どこかの地下室の様だった。

「ぷはー、なんとか逃げれたー…うう、宝石全部使い切っちゃったけど…」

 華凛の転移魔術…ということは、おそらく遠坂家の地下室だろう。

「華凛…」

「…士郎、作戦会議するわよ、とんでもないのが出てきたみたいだし」

 華凛が私の言葉をさえぎって、そう言った。そう、とんでもないものが出てきたのだ。そう、英霊という呼称すら役不足な、とんでもないものが。

 

 

 

 ……………

 ……

「まずは現状確認、そこから行きましょう」

 紅茶を一口すすると、しっかりとこちらを見てそう切り出した。どんなときにも自分らしさを失わない…そうするための儀式なのだろう。

「アーチャー・ヘラクレスは退けた。これで残りは多くても二体…ライダーとバーサーカーのみ」

 七体のサーヴァントのうち、ランサー・林冲、キャスター・ノストラダムス、セイバー・安倍清明、そしてアーチャー・ヘラクレスの四体の退場は確認されている。

「そして、今回ライダーが確認された。あの”騎獣”と”宝具”、信じられない…信じたくないけど、おそらく間違いないでしょう」

 人語を操り、確認してはいないが遙か遠くの全てを見通す目”千里眼”と、遙か遠くの全てを聞き逃さぬ耳”順風耳”を持ち、仙界最高の速度で飛行することの出来る騎獣”黒点虎”を駆り…

 その一撃は、天を裂き、地を裂き、平行世界ともいうべき””すらも易々と貫く雷を放つ仙界最強の”宝具”…

 

       パオペイ

 …否、”宝貝”である”雷公鞭”を持つ者など、他には考えられない。

 

                 ほうしんえんぎ                しんこうひょう

「中国三大奇書の一つ、”封神演義”に登場する最強の仙道”申公豹”、彼以外には考えられないわね」

 自分で言いつつ、そのあまりと言えばあまりの人物の登場に、華凛が頭を抱えてしまう。正直、私自身頭を抱えたくなる展開だった。

「今回の聖杯戦争は、あまりに突飛すぎるな。奴は英霊の座を飛び越えている、神霊にすらおさまらなかった奴だからな」

 そう、文字通り””に封じる為の戦争である封神戦争において、奴は最後まで生き残った…すなわち、神をも超える”仙道”なのだ。

「いい加減、盤をひっくり返したくなる様な反則技の連発ね。正直、奴に敵うサーヴァントがいるのか逆に聞きたくなってくるわよ」

 

 ジリリーン…ジリリリリーーーン…

 

 そこで、本日2度目の電話が鳴った。

「もしもし…」

 緊張をかみ殺しながら、華凛が受話器に出る。

『…ああ、やっとつながった。まだ無事でなによりだよ、華凛ちゃん』

 

「ヨシュア神父!?」

 

 

 

 ……………

 ……

「呼びつけて悪かったね、華凛ちゃん」

「まあ、電話でするような話でもなかったんでしょう。気分的にはわかりますわ」

 そう、あくまで気分の問題と言える。黒点虎には”順風耳”がある。場所を移したところで意味はないだろう。ここには結界もあるようだが、どれだけ防げるかは微妙なところだった。

「ふむ、もう会っているのなら、あまり意味はないかもしれないけどね…」

 ヨシュア神父がつかんだ情報では、奴ら…アインツベルンの連中は中国国家博物館から”水滸伝”と”封神演義”の原書を持ち出したということらしい。

「…まあ、”西遊記”がなかったことがましといえばましだったかもね」

「どうかしらね、”棒使いの猿”を相手するほうが、まだましな気もするわ」

「まあね、それに今回君たちを呼んだのは、もっと重要な用件があったからだ」

 神父がうってかわって真剣な表情をする。

「…なんでしょうか」

「今回の聖杯戦争、その最大の謎の真相についてだよ」

「…最大の謎…というと…」

 今回の聖杯戦争は特に謎が多い。しかしながら、最大の謎となるとあれしかない…

「そう、今回の聖杯戦争がなぜ起きたのか? …いや、起こすことができたのかということだよ」

 そう、それしかない。

「聖杯戦争を引き起こすには、それなりの準備が必要だ。かつてこの冬木の地で引き起こされてきたもの、全て周到な準備の上だった。

 その準備の上で最も大切なもの、聖杯戦争を引き起こす為の大前提、その”大聖杯”がすでに失われている。なのに、なぜ、今回再び聖杯戦争が引き起こされたのか!?」

 その通りだ。かつて大聖杯のあった場所…柳洞寺の今のありさまもこの目で確認した。もう大聖杯はない。問答無用に影も形も失われていた。

「…しかし…」

 神父がそこで言葉を区切る。

「…逆を言えば、大聖杯さえあれば、聖杯戦争は引き起こすことは可能だ。前回から十分な時間があり、冬木の地には魔力も十分たまっている。作り上げた聖杯戦争のシステムに従い、聖杯を用意すれば十分可能だろう…」

 

「そう、”もしも”大聖杯があったならば…だ」

 

「…もしもって、そんな仮定の話されても…」

 華凛の言葉に、神父は微苦笑を浮かべて、別のことを聞いてきた。

「私達はあの人に近すぎたのでしょうね。すっかり忘れていました」

「えっ…」

「豪快で、がめつくて、ひねくれてるけど、優しくて…彼女のそんな面を知っていたから、他人の評価を忘れてしまっていたのかもしれませんね」

「…それって…」

「ええ、あの方…遠坂凛さんが、他の魔術師から…”時計塔”からどのように評されていたか…あの方の二つ名はなんだったか…」

「…えっと…”シュバインオーグ老の正統後継”…っ!! …”最も魔法使いに近い魔術師”…まさかっ!!!」

「そう、そのまさかに他ならないのでしょう」

 

   ゼルレッチ・レプリカ

「”宝石剣模倣品”!!!」

 

「絶対に起きないと思っていた…思えていた聖杯戦争。しかし、それを使えば十分に可能だったわけです」

 

「士郎!!」

 

「わかった」

 華凛を横抱きにし、教会を飛び出す。

「…ごめん」

 風を切る音にまぎれて、華凛のか細い謝罪の声が聞こえた。

「何を謝る」

「…作戦、全然決まってない。わかってるんだ、無茶で無謀だってことは」

「…でも、立ち止まれないんだよな」

「…うん」

「ならば、謝る必要はない」

 

 

 

 …ザッ…

 

 再び赴いたその地は、ガラリと変わっていた。

 崩れ果てたその地は、ちっとも変わってない。

 

「…着いたわね」

「…ああ」

 

 夕日が染めあげるその空は、いつも見る赤。

 大地も染めあげるその空は、いつか見た紅。

 

「…いるわね、やっぱり」

「…ああ」

 

 そこに立ちふさがるは、ライダーのマスター。

 三たび立ちふさがるは、かのアインツベルン。

 

「…また会いましたね」

「…ああ」

 

 頭上に黒点虎と申公豹を従え。

 背後に写真にあった魔術師を。

 下方にきらめく宝石剣を刺し。

 

 

「待っていましたよ、華凛さん」

 

 

 衛宮藤嗣・フォン・アインツベルンが立ちふさがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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