「ふー、寒っ…いきなり寒くなってきやがったな、たくっ」

 雑誌社との、ちょっとした打ち合わせの帰りのこと。昼間だというのに太陽がささないあいにくの天気のために、気温も冬支度といったところである。

「…クリスマスってのは、さすがに気が早いだろ」

 商店街の一角の雑貨屋さんにかかる、気の早い宣伝文句に思わず頬をほころばせる。

「…んっ、このネックレス…」

 なんとはなしに眺めていたウィンドウに飾られていたのは、小さな石のはまった飾りっけの少ないネックレスだった。

「ピアスの色とあうし、似合うかも…」

 これをつけた少女の姿を思い浮かべる。

「まっ、あたしが作った誕生日なんだ…責任の一つも、とってやるかな」

 自分でも、言い訳臭いと思いつつも、そうつぶやきながら店へと入るのだった。

 

 

「おっ、なんだなんだ?」

 いつものように寮へ帰ってみると、昼間出たときと中の雰囲気がちがっていた。内装になにか変化があったわけではない。

 言ってみれば、空気…あったかい、いつもよりちょっとだけあったかくて、楽しい空気がそこにながれていた。

「あっ、お姉ちゃん、おかえりなさい」

「おっ、知佳、一体なんの騒ぎだ、これは?」

 真雪の質問に、知佳がちょっとだけ恥ずかしそうに…でも、嬉しそうに答えた。

「あの、私の誕生日祝いだって…お兄ちゃんが…」

 知佳の答えに、嬉しそうに張り切るアイツのイメージが否応なしに浮かんでくる。

「そっか。…イベントが好きな奴だね、まったく」

二人だけの秘密のつもりも、隠していたかったわけでもない。その気持ちは自分にとっても嬉しいものだった。

 

 …ただ、なんだか妙に照れくさい気分になってくるのは、こいつも一緒なんだろうな。

 

 

 リビングに入ってみると、空気もそうだが、内装も楽しげになっていた。

 キッチンでなにやら豪華そうな料理を作っている耕介に、そのあとを待ちきれない様子でパタパタとついてまわる美緒、それを注意する薫。

 小虎と次郎になにかの芸をしこんでいるのはゆうひだ、そしてその様子を楽しげに眺めている…ように見えるのは十六夜さん。

 テーブルの上で、『仁村知佳ちゃん、誕生日おめでとう』というでっかいのを楽しそうに作っているのは、愛とみなみだった。

 自分と知佳の誕生日に、こないだ使ったのを再利用すればいいのに…とか思いつつも、頬がゆるんでくるのは止められなかった。

「…なんだか、ずいぶんとおおげさなことになってるな…」

「…あはは、ホントに…」

 することもなく、なんだか取り残されるような感じの二人は、自然に出てくる笑みをなんとか苦笑にしていた。

「こういうことを、隠しておくのはよくないってことっすよ」

 キッチンから大皿を持って現れた耕介が、笑いながらそう言った。

「別に隠してたつもりはないんだが」

 照れくささで頬を掻きながらそう答えると、となりで知佳がコクコクうなずいてるのが見えた。

「でも、知佳ぼーは、誕生日が二回あるってことなのか? なんだかちょっとずるっちー気がするのだ」

「ううっ、そうかも」

「…でも、こういうのは多い方が嬉しいから、特別に許すのだ」

 そんなことを言っている美緒の視線は、たった今耕介の手で運ばれている魚料理に釘付けだった。

 

 寮内全体があったかい…そう、いつもよりもちょっとだけあったかい空気に満ちてくるのがわかる。

 こんな雰囲気が好きで、だからこそ、このさざなみ寮にすんでいるのだが…正直、落ち着かないのも事実だった。

 

「でも、知佳ぼーは、二回誕生日があるってことは、一年に二つ年をとるのか?」

 美緒が、なんともすっとぼけた事を言う。

 

 …でも…

 

 ナイスだ!

 

「くっくっく、よく気づいたね、陣内美緒くん」

「にゃ?」

「その通り、こいつは七年前から、一年に二つずつ年をとっていたのだよ」

 知佳の頭に手をのせて、そう言い切った。

「えっ、えっ、えっ!」

「つまり、この誕生日で私はついに追いつかれてしまったのだよ。来年には年下になってしまうんだな、これがっ!」

「おおーー!!」

「ええーー!!」

 予想通りのリアクションを返してくれる、実に楽しい!

「おおっ、じゃあ、うちはもう抜かれとるな♪」

「はわわっ」

 ゆうひはつっこまずにボケで返してきた。岡本くんもそういうキャラじゃない。

「真雪さん…」

「あらあら」

「まあまあ」

 神咲のやつは頭を抱えているが、気にしない。愛と十六夜さんは、まあ予想通りの反応だ。

「うーむ、そうなのか、だったら、俺もお兄ちゃんと呼んでもらえなくなりますね」

「えっ、えっ、えっ!?」

 耕介もあたしのボケに乗ってくる。この寮にはつっこみ役はいないのか…とつっこまれるかもしれないが第一優先は、楽しむことだ!

「「そう、来年には…」」

 

「「よろしく! 知佳お姉ちゃん♪」」

 

「もっ、もーーー!!!!」

 

 知佳があたしと耕介をポカポカ叩き出して、みんながどっと笑う。

 なんというか…

 

 

 …やっぱりここが大好きだ。

 

 

 

 

                              ちゃんちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 できたてホヤホヤの仁村姉妹SSです。

 真雪さん一人称で書いてみました。真雪さんの知佳ぼーへの愛が、少しでも伝わってくれたら幸いです。

 ネタ元としては、知佳ぼーには二つの誕生日があります。

 「草薙知佳」としての誕生日である、10月4日と、

 「仁村知佳」が生まれた誕生日である、11月5日です。

 みんな、覚えておきましょう! チェキです♪

 …まあ、須達龍也も、すっかり忘れていたネタなのですが(爆)

 

 

 

 

 


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