「…時々、カツーン、カツーンという足音、もちろん私のものじゃないわよ…」
今日はみんなが久しぶりに会っての同窓会…と言うと司は怒るので言い直すと、何で飛行機は飛ばなかったのかの反省会。
「…というわけで、あの地下坑道では未だに戦争が終わったことも…」
…と言っても、それも結構な回数になっているので、美綺に言わせればいつもの定例会ということになるみたいなんだけど。
「…自分が死んだことすら知らない兵士がさまよい歩いているのよ!」
…それがいつのまに、百物語になったのかはわからないんだけどね。
「おしまいっと」
美綺がそう言って自分の前のローソクを吹き消す。
もちろんこんなことをしようと言い出したのは、たった今ローソクを吹き消した美綺…相沢美綺で、集まったメンバーもいつもの通り、私…鷹月殿子に、私にすがりついてブルブル震えている梓乃…八乙女梓乃。
「みさきちのは、話よりも顔のほうが怖いよ、怖いよ!」
「そーだそーだ、顔でなく話で勝負しろ!」
「にゃにおー!」
美綺に文句を言っている奏…上原奏に、みやび…風祭みやび。
「お嬢様、演出効果も怪談の醍醐味のひとつですわ」
「今、リーダさんがいいこと言った! その通り!!」
さりげないフォローを入れたリーダさん…確か、リーリア・イリーニチナ・メジューエワさん…だったと思う。
そして…
「どーでもいいが、飛行機とかどうでもいいんだな、くそー」
この部屋の提供者でもあり、私の大事な人…滝沢司の全部で7人だった。
〜遥かに仰ぎ、麗しの〜
「世にも奇妙な物語」
「…それで、次は誰かにゃ〜」
美綺のあとは、意外と怖かった梓乃の話があり、奏、みやびと続き、盛り上がった割にオチで失敗した司の話のあと、リーダさんの話だったんだけど…途中でみやびのストップがかかったことで、内容は察して欲しい。
「…ということは、私か」
「殿ちん、オオトリだよ、一発頼むよ〜」
美綺のそんな言葉に、コホンと一息ついて…
「怖い話…というのとは、ちょっと違うかな。学校の七不思議の一つで『人生を変えるパラレルへの扉』っていう話なんだけどね」
「ふーん、前に七不思議は調べたことあるんだけど、それは聞いたことないなー」
美綺が不思議そうにそう言った。
「そうだね、七不思議としては弱いのか、入っていることの少ない部類の不思議になるかも。ほら、七不思議といいながら、数えてみると実際は8つも9つもあったりするじゃない」
「あーあ、あるね、あるある」
「みさきち、人の話は黙って聞く」
「おうっと、ゴメン!」
奏のつっこみで、美綺がシーのポーズをとってぺこっと頭を下げた。
「ん、じゃあ続けるね」
再び、コホンと一息ついて…
「この話、不思議な話としてこの学校に伝わっているんだけど、怖いというか、うん、本当に不思議な話としか言いようがない話なんだ。
パラレルへの扉の、パラレルっていうのはいわゆるパラレルワールドのことを示しているんだけど」
「パラレルワールド、ですか?」
梓乃があまりピンとこない表情で聞いてきた。
「そう、今私たちがいるこの世界と並行にある世界…簡単にいうとifの世界かな。
つまり、もし何々だったら〜とか、もし何々していれば〜っていう世界のこと」
「なんか、SFチックというか、文学的というか」
司もあんまりピンとこないのか、そういう感想をもらした。
「そうかな、量子力学的にも使われることあるよ。実際に行き来することはできないけど、確実にそこにあると言われている世界だよ」
「おおっ! ということは、その行き来することはできないパラレルワールドへの扉が、この学校にあると!!」
興味がひかれたのか、美綺が目を輝かせて聞いてきた。
「くすっ、期待させて悪いんだけど、そこまで大それた話でもないんだ。パラレルワールドというのは、今この瞬間にもどんどんと生まれている世界だから。
たとえば、私がここで話をやめた世界、ここから別の話にした世界、そしてそのまま話を続けた世界、これらは同時には存在できないけど、私のちょっとした選択の違いだけで生まれてくるから」
「あれ、それって…」
頭の回転の早い美綺は、ピンと来たようだ。
「そう、ここでいうパラレルへの扉というのは、自分の選択、決断ということなんだよ。
選択肢の数だけ、パラレルワールドは生まれてくる。つまりその選択こそパラレルへの扉ということなんだ」
「うーん、それって、つまりは人生を変えるほどの、大きな選択、決断ってことになるの?」
「だね」
「んー、悪くないとは思うんだけど、なんか納得いかないなー」
私のその結論に納得がいかないのか、美綺がブーブーとぶーたれる。
「人生を変えるほどの選択か、そりゃー、殿ちんは滝沢せんせーっていうおっきな分岐点があったけどさー。のろけかこんちくしょー!!」
美綺の口調ががっかりから冷やかすような調子になって、そう言った。
「そうだね、うん、人生変わった」
ちょっと恥ずかしいけど、素直に認められる。
「…ふむ、初めて聞いた話だが、なかなかいい話じゃないか!
つまり、人生が変わる大きな選択が、この凰華女学院分校にはあるっていうことだな!」
そう言って満足そうに、みやびが何度もうんうんとうなずいている。
「…と、私もそう思ってたんだけどね」
みやびには悪いけど、実はこの話はここでは終わっていないんだ。
「なんだー、いいじゃないか、それでー!」
「だって、それじゃあちっとも不思議な話じゃないでしょう」
「うぐっ」
みやびが私の言葉に二の句が継げないのか、悔しそうにこちらを見つめている。
実際、ここで終わって綺麗にまとまってもいいと、私も思うんだけど。
「そう、決断をして大きく変わる人生というのは、当然これからの人生のはずだよね」
「当たり前じゃないか、変わるのは未来に決まっている」
「ここからがこの話の不思議なところなんだけど、決断して変わる人生というのが、実は『これからの』じゃなくて『これまでの』という話らしいんだ」
「なんだそれはー!!」
せっかくのいい話が変な方向に行ったことに憤慨しているのか、みやびがうがーっと吠えた。
「人生というのは決断と選択の積み重ねであって、新しく積み重ねたはずの選択で、これまでのことが変わるはずはないんだけど、この学園にはそれが変わっちゃう選択があるっていう話だって」
「納得いかんっ! なんだその不条理な話はっ!!」
不条理だから七不思議なんだろうけど。
「大体、それまでの人生が変わったのを、いったい誰が証明できるっていうんだ!!」
みやびのその言葉は、まさにこの七不思議の不思議の本質だった。
「その通りなんだ。その選択でこれまでの人生が変わったとしても、変わってしまった本人はそれに気づきようがない。証明ができないんだから、話としておかしいんだけど…それでも、この話はちゃんとこの学園に伝わっているんだ。七不思議の一つとして」
「だから、不思議な話ということですか?」
リーダさんが納得がいったようないかないような複雑な表情でそう聞いてきた。
「うん、私はそこが一番不思議だと思うんだけどね」
これまでの人生が変わるような選択は、普通ありえない。
例えありえたとしても、変わってしまった人物にはそれは感じ取れない。
だから、不思議であると感じ取れるはずはないのに、七不思議として残っている不思議な話。
「矛盾した話だと思うんだけど、誰が確認したんだろうね」
みんな納得がいかないような、なんとも言えない表情を浮かべている。
「でも、そんな選択があったとして…それって、どんな選択だったのかな?」
奏が、そんな答えのでない疑問を浮かべたので…
「さぁて、意外と右か左か、そんな単純な選択かもしれないね」
そう答えて、そっとローソクを吹き消した。
後書き
書きたい書きたいと思っていたかにしのSSの一発目はこんなんになりましたw
ネタとしては、アレですw
だって、どう考えても、本校司と分校司は別人でしょ(爆)
かにしののSSとしては、実験作にして、かなりの問題作かもです。