みなさま、これまでみなさまに、たくさんの決闘、激闘、死闘をお届けしてきました。
時間はおやつの時間もゆうに超え、そろそろ夕食のこんだてを考えなければ行けない時間…そう、夕刻が迫っています。
幾多の戦いが行われた龍神雪合戦、ここでは語られなかった場所においても、きっとすごい戦いが行われたでしょう。
それも、もう終わりに近づいてきました。
それでは、みなさん!!!
スノーファイト最終決戦、レディィィ……ゴォォーーー!!!!
…というか、俺、もう負けてるけどな…
空しく響く頭の中のナレーションにつっこみを入れながら、芽依子の後ろから石段を登っていく。
俺の前の芽依子は隣の澄乃と楽しそうに会話しており、俺の背後では旭がつぐみさんと小夜里さんにからかわれているようだ。
「しっかし、結局負けちまったか…」
芽依子の小さな後ろ姿を眺めながら、思わずつぶやいていた。
そう、その態度はおそろしいほどでかいくせに、こうして見る後ろ姿は実に華奢で女の子をしている。
「…彼方さん、後ろから私を視姦しないでほしい、えっち」
「ぶはっ! な、なななな、なんちゅーこと言うか!!」
わざとらしく頬を染め、シナを作って、芽依子がとんでもないことを言いやがった。
「え、だって、ギラギラと欲情にほとばしった目で、私のスパッツにつつまれたお尻をじろじろと…いや、これ以上は言えない!」
「うがー!! これ以上敗者をいたぶるんじゃねえ!!」
「はっはっは、死にかけでやめるのがポイントだ」
ころりと態度を変え、高笑いをするこいつはどっからどう見ても悪役だ。神様、こんな悪役が最後に勝利をつかんでいいのか! 許されるのか!!
誰かこいつに! こいつに、一矢報いる奴はいないのか!
俺の魂の叫びは、天に届いたのか、石段を登り切ったその先…神社の境内に…
「待ちくたびれたのじゃ! さあ、雪合戦なのじゃ! しょーぶなのじゃ〜!!」
悪の女王、芽依子の前に立ちふさがる一人の少女!
ネコのシャモンを引き連れて、赤い衣装に赤い髪、その赤さは通常の3倍か!?
その名は、若生桜花!!!!
「…たよりな〜」
「ふかー!! なんか侮辱された気がするのじゃ!!」
確かに頼りないが、残された正義はお前だけだ、頼むぞ桜花!…と、心の中で応援をする。
「…桜花…ちゃん、その帽子はどうやって?」
そんな芽依子の質問に…
「ふむ、あそこに寝ているお爺さんから、託されたのだ」
桜花がそう言って、神社の社のほうを指さす。
「ま、まさか…」
なんかイヤな予感がして社の中を見に行くと、きたない布団の上に寝かされているじいさんは、すっげーいい顔をして眠っていた…というか、息、いきぃぃぃいいいいぃぃーーーーーー!!!!
「うむ、大往生」
「縁起の悪いこと言ってないで、誠史郎さん、誠史郎さんを呼べえぇぇ!!」
人一人が死にかけ?ているというのに、芽依子の奴は…しかし、まじで死人が出る大会なのか、この雪合戦は!
「はっはっは、呼んだかい」
「ぬおっ! いつのまに!!」
「いや、そろそろ終了の時間だからね。…じゃあ、診るよ」
いつのまにやって来ていたのか、誠史郎さんが医者の顔になって、そのじいさんの診察に入る。
まあ、最初っから、許可を出した誠史郎さんが悪いという気もするのだが…
「うん、大往生」
「爽やかな笑顔で、言うなー!!!」
なんか、もう大会を中止すべき出来事が起こったような気がするが、それでも大会は続く。
「芽依子とやら、いざ勝負なのじゃ!」
「…ふむ」
−決勝戦「若生桜花vs橘芽依子」−
スノーファイト、レディィィ……ゴォォーーー!!!!
まあ、決勝戦などと銘打ってはいるが、どー考えても芽依子の有利は動かない。子供相手に全力は出せないと言うかわいげでもあれば、話はべつなのだが…
「芽依子だしなあ」
楽しそうに雪を集める桜花…うわぁ、スキだらけだよ、おい。
「………」
対する芽依子も、ヤレヤレと言った表情で雪玉をこしらえている。
どうやら、例のあのカウンターは使わないつもりのようだ。まあ、アレがなくても芽依子が有利なんだけど。
「頑張れー! 桜花ちゃん!」
澄乃がうれしそうに応援をする。友人よりもちっちゃな女の子の応援に変更したようだ。まあ、どっちも頑張れといったところかもしれないけど。
「まけるなー! ふぁいとだー!」
旭の応援も、どちらかというよりは、二人に向けられているようだ。
「……………」
最後の観戦者小夜里さんは、なにか考え事をしているようだ。おそらく、誠史郎さんとつぐみさんが抱えていったお爺ちゃんのことでも考えているのだろう。
そして俺は…
「桜花、頑張れー!! 性悪女を、ぶったおせー!!!」
言うまでもなく、桜花の応援だ。最後まで正義の力を示すのだ、桜花!!
べしゃ!
「はうっ!」
「彼方さん、黙れ!」
芽依子の奴、観戦者にぶつけやがって…とことん悪だ!
「スキあり、なのじゃ〜!」
「おっと」
芽依子の注意が俺にそれた瞬間を狙っての桜花の攻撃は、残念ながら避けられた。…だが、かなり惜しかった!
「それっ! それっ!」
シャモンを引き連れて、きゃっきゃっと駆けながら、桜花が雪玉を投げる。
「むっ、とやっ!」
その雪玉を、芽依子がぎりぎりのところでかわす。
…なんというか、いい勝負だったりする…
「芽依子ってば、やさしいよねー」
澄乃が嬉しそうに、俺にそう言ってきた。確かに、見た感じ芽依子が手を抜いているようにしか見えない。
「んー、どうかな。奴のことだ、トコトンなぶる気かもしれん」
「もー、そんなわけないよー」
俺のかなりまじめな回答に、澄乃がしょうがないなーみたいな返事をしてきた。…だって、あの芽依子だぞ。
「うー、たのしそーなのだ、まざりたいのだ」
楽しそうに駆けまわる桜花とシャモンに、野生の血を呼び覚まされたのか、旭がうずうずしながら、そう言ってくる。
…実際、ホントにいい勝負だった…
桜花の雪玉はそんなに速いとも思わないのだが、かなり紙一重で芽依子は避けてるし、芽依子の雪玉も、かなりアバウトにねらっているようで、あんまりいいコントロールではなかった。
「桜花ー、がんばれよー!」
「まかせるのじゃ〜」
俺の声援に、楽しそうに桜花が返事をかえしてくる。
この勝負を見ていると、芽依子に負けて悔しかった気分が癒されるというか、なんだかあったかい気分になれる気がする。
「なんか、決勝戦にふさわしいなって気分になってきましたよ」
まだ何か物思いにふけっている小夜里さんに、俺はそう声をかけた。
「あ、うん…」
…なんというか、この試合をもっとよく見て欲しいという気持ちがあったような気がする。
「その…ね…」
そんな気分だったのに…
「…なにやってるの、芽依子ちゃん…」
「えっ…」
思わず、絶句してしまった。
…手加減ですよ…とか、遊んでるんじゃないですか…とか、いろいろ返せたはずなのに…
「何言ってるの、お母さん。雪合戦に決まってるよ〜」
澄乃が軽い言葉で返す。…でも、なぜかその声が震えているような気がした。
「…雪合戦? 誰と?」
なんだろう、なんでだろう、イヤな予感がした。
「誰って、桜花ちゃんに決まってるよっ」
澄乃の声にも、余裕がなくなっている。
…もういい、もういいから、もういいからやめてくれ!
「…桜花ちゃんって、あの猫?」
小夜里さんの言葉は、なにか大事なものを切り裂いたような気がした。
…なんとなく…なんとなくだけど、そんな気がしていた…
…そんな気がしていることを感じたくなくて、いつもいつもごまかしていたような気がする…
…それでも、ごまかしたかったのに、気になること、気になってしまうことがあった…
「こんなさびれた神社に、女の子が一人で待ってるなんて」
「それも、毎日毎日!」
「こんな小さな村…俺の噂がたったの一日で駆けめぐるような小さな村で!!」
「なぜ桜花のことが…たった一人で親を待つ女の子のことが…毎日神社で猫と一緒に待っている少女のことが!!!」
「どうして誰の話題にも登らないのかっ!!??」
…今だってそうだ、この雪合戦だってそうだ…
「どうしてあの芽依子が紙一重で避けているのか?」
…雪玉の出所が、見えていないんじゃないのか?
「どうしてあの芽依子の玉がかすりもしないのか?」
…戦いの相手が、見えていないんじゃないのか?
「どうしてこんなことを考えてしまっているのか?」
…ずうっと前から、知っていたんじゃないのか?
…知っていたって何を?
…若生桜花という少女は、存在しないんだということを…
「…どう…したのじゃ…」
こちらの空気を感じ取ったのか、桜花がきょとんとした顔をして、そう聞いてきた。
「…いや、なんでもない…なんでもないよ…」
なんでもないことなんてない、なんでもないはずがない。…それなのに、取り繕うような言葉をつむぐ。
「…桜花ちゃん、まだだ、まだ勝負はついてないよ」
芽依子が手に持った雪玉を見せながら、桜花にそう呼びかける。
「…そ、そうだよ! 桜花ちゃん、まだだよっ!」
澄乃も、芽依子の言葉に追従するように、桜花に声をかける。
「…そうなのだ! がんばれー!!」
旭も両手をぶんぶんと振り回しながら、桜花に声援を送る。
「負けないのじゃ〜!」
桜花の嬉しそうな声、楽しそうな声、満面の笑顔、駆け回る元気な姿…それらをただ見ていたくて、聞いていたくて、感じていたくて…
…失いたくなくて…
…俺たちはそれを必死につなぎ止めようとしていた…
「…みんな、何が…一体?」
小夜里さんが何かを言う、何かを告げようとしている。…わかってる、わかってるから、黙っててくれ! 聞きたくない、聞きたくないんだっ!!
「桜花ちゃん、がんばれー!」
「もうちょっとだったのだー!」
「まだだ、まだまだ負けないぞ!」
みんなが必死でつなぐ、声を出し合って確認をする。
「そうだ、芽依子をやっつけてしまえー!」
桜花はいる、ここにいる。
「あはは、まかせるのじゃ〜!」
俺たちには見えている、ここにいるんだ。
…雪だるまみたいなものかもしれない…いつかは溶けて、消えてなくなってしまうものなのかもしれない…
…でも、ここは万年雪、雪が溶けない龍神村なんだ! いつまでだって、あったっていいはずだろう!
世界を赤く染め始めた真っ赤な夕日が、物語の終演をつげる。
俺たちの背後に、人の気配を…だんだんとここに向かってくる大勢の人の気配を感じる。
「…源九郎のじいさん、年寄りの冷や水もいいとこだったのう、まあこれに懲りたら来年は出えへんじゃろ…」
「…ボクは3人やっつけたよ、でも緑の髪の女の子に負けちゃった…」
「…あたしは4人だよ、勝った〜…」
「…今年も盛況じゃったのー…」
そんな日常を表しているような…当たり前を当たり前と簡単に断ずるような…人々の声が聞こえてくる。
…でもまだだ、まだ大丈夫、まだ終わっていない…
そう思おうとする心に、終止符を討つかのように、その言葉が…聞きたくなかった言葉が、聞こえてきた。
「やっ、お待たせ、みんな」
誠史郎さんの言葉から、全てが動き出す。
「源九郎のお爺ちゃん、なんとか生きかえったわよー、誠史郎さんの責任問題にならなくて良かったわー」
カラカラと明るいつぐみさんの声…
「あ、あんまりそういうことを言わないで欲しいなあ。僕はできるだけみんなの意志を尊重したくてね」
ひょうひょうとしてながらも、どこか包容力を感じさせる誠史郎さんの声…
「そうなの、良かったじゃない、お二人さん」
勢いがあって、それでも優しく聞こえる小夜里さんの声…
…でも今は、全てを断ずる刃となる…
「芽依子ちゃん、優勝おめでとー」
「さ、優勝者はあっちで表彰があるぞ」
「猫と遊ぶのはそれくらいにしましょう」
…その刃は、否応もなく、俺たちを切り裂いた…
「ま、待ってくれ、父さん、まだ、まだっ!」
芽依子が雪玉を握りしめながら、悲痛な声をあげる。
「お母さん、どうして、どうしてっ!」
澄乃が涙を流しながら、小夜里さんに訴える。
「待って欲しいのだ、いやなのだ、こんなのやなのだー!!」
旭がつぐみさんに抱きついて、ぴーぴー泣きわめく。
…俺は、…俺はどうすればいい、…なにをすればいいのかな…
回りの喧噪が嘘のように小さくなる。世界から断絶されたように、白い、一面白い世界に立っているような気になる。
…そして、そこにはもう一人住人がいた。
「…桜花…」
桜花はただ、ぼんやりと立っていた。
さっきまで感じられた喜怒哀楽がすべて抜け落ちて、まるで生気を感じさせない抜け殻のようだった。
「にゃ〜」
シャモンの鳴き声にも耳を貸さずに、ぼんやりと辺りを…人々を…そして、こっちを見ていた。
俺はゆっくりと桜花のそばへと歩いていく。
「…桜花…」
「…彼方?」
俺の呼び声に応えるように、桜花がこちらを見上げる。
「…またじゃ…」
桜花がポツリとつぶやいた。
「…また?」
「うん…また、置いて行かれた」
あきらめたように、桜花が言葉をはき出す。
「またわらわは、消えて…そして、また…待つのじゃ」
桜花は、何十、何百年と生きていたかのように、ゆっくりと深く深く言葉をつむいだ。
「ずっと、ずっと…父上と母上が迎えに来るのを…思い出してくれるのを…赦される日を…ただ、待つのじゃ」
この小さな体に何がつまってるんだろう…一体どれほどの日々を…年月を…待ち続けたのだろう…
桜花の姿がかすむ…にじむ…ぼやける…大きくなる…
「…かなた?」
桜花を胸に抱きしめて、なんだかわからないまま…なんだかわからなくて、泣いた。
「なにを…泣いておるのじゃ」
「わからん」
「なんで…泣いておるのじゃ」
「しるかよ」
「へんなのじゃ」
「ああ、そうだよ」
何を泣いているのかも、何で泣いているのかも知らぬまま、こんなにも涙が出るものなのかと思いながら、桜花を抱きしめたままわんわんと涙を流す。
「桜花ちゃん!」
「桜花ー!!」
涙声の澄乃と旭の声が近づいてきたと思うと、俺たちにさらに抱きついて、同じようにわんわん泣き出す。
「…うっ…」
俺たちに触発されたのか、感情を凍らせていたようだった桜花の目に、涙がいっぱい溢れてくる。
「ううっ、泣かないで…みんな、泣かないで欲しいのじゃ」
泣きながら、泣かないでと訴える桜花に、俺たちは更に泣き出す。
何で泣いているのかも、何が悲しいのかもわからないまま、ただ悲しくて、別れたくなくて、俺たちは涙を流す。
「…彼方さん…」
芽依子の声が聞こえる。
「…私にはなにもできない。ただ待つことしかできなかったんだよ…」
芽依子の独白が続く。
「…なにかをしたくて、なにかの役に立ちたくてたまらないのに、ただ、待つことしかできない。…それがきっと私の罰だったんだろう」
芽依子の言うことは、よくわからない。…よくわからないが、それはすごく悲しいことだと思った。
「…でも、その娘にどんな罪があるんだろう、なぜ罰を受けなければならないんだろう?」
罪が何をさしているのかわからない、罰がなにをさしているのかもわからない、…でも、なにかが胸に残っている。
「…桜花ちゃん、私にはなんとなくしか君を感じることはできない。どんな顔をしているのかも、どんな声なのかもわからないんだ。…私も君を抱きしめたい、その頭をなでてあげたい、…でも、それすらもかなわないんだ」
芽依子が泣いているように思えた。きっと涙は流していない、でも、それでも、芽依子は泣いていると思った。
「…なんで、こんなことになったんだろうな…」
それは、本当にわからないから出た言葉だった。…本当にわからなかったからこそ、言えた言葉だったのかもしれない。
「…芽依子、お前が言ってる罪というのがなんなのかわからない。だから、罰というのもわからない」
桜花を抱きしめたまま、芽依子に思いのままを口にする。
「お前の苦労も知らないのに…いや、知らないからこそ言うけど…」
「…なんだい、彼方さん…」
「…赦されたいと思うやつしか、赦されることはないと思う。…芽依子の話を聞くと、自分が赦されたらいけないみたいに聞こえた」
スラスラと言葉が出てくる。
「桜花が待っているのも、赦される時なんかじゃないように思う」
「…わらわは…わからぬ」
そう言う桜花の頭をなでながら、自分の中に浮かんだ言葉をそのまま飾らないで口にする。
「…その罪とやらを自覚している人たちが、赦して欲しいと本当に願う日を、ただ待っているんじゃないのかな」
何も知らないのに言った、何も知らないからこそ言えた言葉…でも、俺は自分の言葉に責任を持つ。
「…赦してもらおうとすることは、前を向くことだ。いつまでも後ろだけを見て、一歩も進まなければ、赦しはないんだ」
自分の言葉で、ゆっくりと自分を見つめ直す。
俺はなにかを忘れているのかもしれない…重要な何かをしらないでいるのかもしれない…でも、だからこそ、前を見れる、前だけを見れるんだ。
「その罪がどんなものかは、自分しかわからない…でも、赦される、赦してもらおうと思わないと…時間は前に進まない」
「…わらわも…わらわも、そう思う」
桜花がたどたどしく、口を開く。
「この村は、時間がとまっている。…それは、前に向かっていないからじゃ」
「…桜花…ちゃん…」
「みんな、この村のみんな、どこかで罪を感じている。みんなが自分を赦せてない、赦してもらおうと思えていない。…わらわは、わらわはそんなのいやじゃ」
泣きながらそう言った桜花の頭をなでながら、最後にひとつだけみんなに伝えた。この声を伝えたい…
…全ての人に…
「…この村の雪を…積もりに積もった雪を…止まったままの時間を、もう動かそう。自分のために…そして、大事な人のために…」
「…難しいな…難しいことを言ってくれる、な…」
芽依子がうつむいたまま、そう言った。
「…本当に、本当に難しいですよ…彼方さん…」
いつ現れたのか、いつからそこにいたのか…
「あの時の女の子…君も、なんだ…」
「…しぐれ…さま…」
しぐれ…という名前なんだ…
「…難しいです、本当に。
私は赦して欲しいと思っています。ずっとずっと、そう思ってきました。…それでも、それでも赦してくれないんですか?」
その言葉は、大きくもなければ、感情的なものでもなかった。…だからこそ、重かった。それは彼女の慟哭の叫びだった。
「…ああ、俺には君を赦せない。…君が…しぐれが、自分を赦せない限りはね…」
言うは易し、行うは難し。…それでも、それが第一歩なんだ。
「…でもね、俺は君を赦したい。…君がなにをやったのかも、なにに罪の意識を感じているのかも知らないけれど、そんなことに関係なく、君を赦したい」
言葉にするのは簡単だ。…それでも、その言葉に万感の想いをつめ、あらゆる願いをこめた。
「…難しいです、本当に」
しぐれがうつむいてそう答える。
「…それでも、前を向かないと、ダメですよね」
顔を上げて見せてくれたそれは、笑顔だった。この雪を溶かせそうな、温かい笑顔だった。
「…すごいな、彼方さんは…」
芽依子も、笑顔を浮かべてくれた、こんないい笑顔ができたんだと感心してしまうほどの、優しい笑顔だった。
「…惚れちゃいそうだぞ、彼方さん」
せっかくの笑顔も、すぐには台無しになるニヤリ笑い…でも、それも芽依子だと思った。
「…かなた…」
声は、すぐ真下から聞こえた。
「ありがとう…なのじゃ」
にっこり笑って、桜花が言った…言ってくれた。それがとても…とても、嬉しかった。そして…
「…なにしてるの、あんたたち?」
その声に、なんだかびくっとしてしまった。
「えっ、あれ?」
「あれ、あれ〜?」
「な、なんなのだ!?」
なにかがあった、なにかがあったはずだ…それなのに、それがなんなのか、思い出せなかった。
「…そんなところに居られたら、勝負の邪魔なんだけどな、彼方さん」
少し離れた場所で、芽依子が苦笑しながらそう言った。
「そうよ、勝負よ! 決勝戦よ!!」
つぐみさんが盛り上がっている。
「芽依子、がんばれよー」
誠史郎さんの声援が飛ぶ。
「おー、まー、それなりになー」
芽依子がやる気なさげに答える。
「あ、あの、がんばれー」
少女…しぐれ…そう、しぐれさんが恥ずかしそうに声援を送る。
俺も…そう俺も、そこにある頭をなでながら、声援を送る。
「桜花、頑張れよ!」
「うん! …ありがとうなのじゃ、彼方!」
後書き
ついに完結へとこぎつけました、「激闘! 雪合戦」シリーズです。
当初はアホな小ネタをふんだんにちりばめた、アホSSのはずだったのに、気付いたらこんなにもシリアスで、読んでいるSSを間違えたかと読者さまを混乱させるようなものになってしまいましたw
ですが今回の完結は、当初の予定からは大きく外れましたが、作者的には非常に満足の出来るものとなりました。
「鳳仙恋花」では結局補完できなかった桜花についても、今回補完できたと思っているからです。
今回のSSは、SNOWの物語について自分的なとらえ方を出せたものだと思っています。
それでは、いつものように、感想よろしくおねがいしますw
カウンターで雪玉をくらって、目を回している少女と、ごまかしているのかなんなのか、い〜い笑顔で笑っている女…そして、その首根っこをつかんで、ブラブラとゆする男が一人…
「いや〜、つい、な」
「ついじゃねー!」
「あっはっは、思わず、な」
「思わずでもねー!」
ストーリーの展開とか、綺麗な終わり方とか、そういったものをサックリと無視して、この女はあっさりと勝ってしまいやがりました。
「…い、いいのじゃ、これは勝負なのじゃ」
「桜花…」
立ち上がった桜花が、そう言って俺を戒めた。
「そうだぞ、彼方さん」
「いや、お前がゆうな!」
桜花の言葉もわかるが、せっかく綺麗に終わりそうだったのが、台無しではないか。
「それに、な…」
「それに?」
「また来年も、あるじゃないか」
そう言った芽依子の笑顔は、どこかで見たことがあったような、いい笑顔だった。
「…ん、それもそうだな」
来年の冬、またこうしてみんなで雪合戦ができる…それは確定された未来のように思えた。
「見てろよ、芽依子! 来年こそ、ぎゃふんと言わせてやるからな!」
「はっはっは、私は誰の挑戦でも受ける」
ほんとにおしまい
後書き2
蛇足な感じのその後ですが、ちょっと書いてみました。
ここまで見た人は、ちょっと得した気分と、なんだか台無しになったようなあいまいな気分を存分に味わってくださいw
多分その後、龍神天守閣からシナリオ通りにつぐみさんが消えて、彼方とヒロインズで切り盛りすることになっちゃうんでしょう。
彼方と澄乃、旭に桜花、しぐれ、それに芽依子なんかもちょっかいを出してるかもしれませんね。
SNOWのキャラクター達に、幸おおからんことを!