…………………

 …………

 ……朝

 …オレは目を覚ました。

 いつもの光景。見慣れた部屋。

「…まだ、消えてないんだ…」

 オレはただそうつぶやく。

 自分でもわかっている。

 

 …だんだんと自分の存在が希薄になっていくのが…

 

「……6時30分…」

 時計を眺めてつぶやく。

 後1時間もすれば、長森が起こしに来る時間だろう。

 

 …今日という日が昨日と同じならば…

 

「…起きよう」

 オレはそう独り言をつぶやき、ベッドから起きあがった。そして由起子さんを起こさないように静かに家を出る。

 

 

 …………

 ……

 …町は静かだった。

 いや、町のにぎわいはいつもと同じなのかも知れない。

 

 ……ただ、感じ方の違い…

 

「…長森の奴、なんて言うかな」

 そっとつぶやく。

 

 …どうして先に行っちゃうのよ…

 

 …そう言ってくれるだろうか。だったら、オレは…

 「わりぃ、わりぃ。すっかり忘れてたぜ」

 そう答えて、いつもの毎日が…平凡で退屈な毎日がつづくのに…

 

 …なんでオレは学校に向かっているんだろう…

 

 …こわいのに…

 …自分がみんなから忘れられてしまっているという事実を突きつけられるのが…

 

 …それでも…

 

 …オレの居場所はあそこしかない…

 

 …………のいる…あそこしか…

 

 

 …………

 ……

 …学校に着く。

 まだほとんどの生徒は来ていない。

 みんな、まだ来ていない。

 

 …教室には向かわない…

 

 …みんな…住井も、南も、髭も…きっともうオレのことを覚えていない…忘れてしまっているだろうから…

 

 オレは、屋上へと続く階段のところで腰をおろす。

 

 …ただ、奇跡を待つ…

 

 ……そう、奇跡を…

 

 

 ………………

 ………

 ……ざわざわ…

 …ざわざわざわざわ………

 

 辺りがにぎわい始める。

 まわりが喧噪に包まれる。

 

 …ただ…オレを除いて……

 

 ……退屈な日常…変わらない毎日…

 …それがこんなにも眩しいなんて…

 

「…帰ろう…か…」

 オレがそうつぶやいた時だった。

 

「………平!」

 

 ゆっくりと振り向く。

 

「…浩平!!」

 

 いつも見る顔だ。

 

 …そう、オレの日常そのものを表すような…

 

 …いつも見る顔だった…

 

「……長森…」

 ただ、つぶやく。

「浩平ってば、どうしたのよ、こんなところで?」

 長森が怒ったような…心配げな顔で聞いてきた。

「…いや。……ただ…」

「…ただ?」

 

「…長森と会えないかなって…思ってさ…」

 

 オレは思っていたことをそのまま口に出した。

「ちょっ、…ヘンだよ、浩平。

 だって…こんなところ、わたしめったに通んないもん」

 長森が顔を赤くしてそう言った。

 可愛い奴だ。…本当に可愛い奴だ…

「…でも、会えたろ」

 照れてる長森に対して、オレはそう言った。

「…………うん。…そうだね」

 長森も、そう答えてオレの横に腰をおろす。

 

 ……絆だ…

 

 ………オレとこの世界を結ぶ絆…たったひと…

 

「…あれ? 浩平に瑞佳。

 どうしたの、こんなところで?」

 

 ……つのって…七瀬っ!?

 

「…七瀬、オレがわかるのか?」

 ふるえる声で、オレは聞いた。

「はあ? なに言ってるのよ。

 浩平は浩平じゃない」

 七瀬はそう言った。…そう言ってくれた。

「………七瀬…ありがとう…」

 思わず涙が出そうになる。…ただオレを覚えている…忘れないでいてくれている…

 

 …それがこんなにうれしいなんて…

 

「…だって……」

「…うん?」

 

「………あんたはあたしの王子様なんだから…」

 

 七瀬は頬を染めて、そう言った。

 

 ……………

 ……

 

「…へっ?」

 

 …ちょっと待て…

 …オレは長森とのエンディング(←おいおい、登場人物が…)を迎えているのではないのか?

 

 …ああっ!!

 …でも、…確かに、七瀬といい感じになった記憶も…

 

「…浩平!」

「…浩平?」

 

 …ああ、しかしそれではフラグ(←だから登場人物が…)が…

 

「…みゅー!」

 

「なにいっ!!」

 

「みゅっ?」

 オレの叫びに対し、繭が不思議そうな顔で見つめ返してくる。

「…まさか、…繭とも?」

 

 ……あああっ!!! なぜかそんな記憶もあるぞおおっ!!!!

 

「……浩平君?」

 

「あああっっ!! …せっ、先輩!!!」

 

 先輩は怪訝そうな表情を浮かべると…

「…どうしたの、浩平君?」

 

 ……まさか…まさか、先輩とも…

 ああああああーーーー!!! …やっぱり記憶があるう…

 

「うっ!!」

 立ち上がって苦悩していたオレの背中に、何かが飛びついてきた。

「…まさか…」

 

『あのね』

『こんにちわなの』

 

 オレの背中に飛びついてきたものは、そんな文字の書かれたスケッチブックを見せてくれた。

 

 …言うまでもなく……澪だ…

 

 ……そして、言うまでもなく…澪との記憶も思い出されてきた…

 

「うわああああぁぁぁーーーー!!!

 オレって、オレって、…一体どうやったんだあああぁぁぁーーーーー!!!!」

 

「………」

 

 …魂の叫びをあげていたオレは、視線を感じて振り向いた。

 

「………」

 …突き刺さるような視線…

 

 …確かに、かなり冷たい視線であった。…しかし、それでもそれは他人を見る視線ではなかった。

 

「…はは、茜…」

 

 …笑うしかない…

 

 

「浩平!」

「浩平っ!!」

「みゅー!!」

「浩平君!」

『?なの』

「…浩平」

 

 …うう、一体どうすれば…

 

「…いやあ、確かに僕は絆を作るべきだ…とは言ったけど…

 …さすがに作りすぎだと思うよ」

 

「…氷上…か…」

 

 …はあ、お前ともか…しかしそんなことより……

 

「浩平!!」

「浩平っ!!!」

「みゅー!!!」

「浩平君!!」

『むー!なの』

「…浩平!」

「はっはっは、たいへんだねえ」

 

「ひいいぃぃーーーーーって、…きたああぁぁーーー!!!」

 

「「「「「あっ!!!」」」」」

 

 …そう、ついに来たのだこの時が…

 

 …さらばだ、みんな!

 

 

 

 ……………

 ……

 …

「…ねえ」

「…うん?」

 ぼくの言葉に、みずかがどうしたの…という顔で答えた。

「…ねえ、みずか…

 

 …もうみんな、ぼくのことわすれちゃったかなあ?」

 

 ぼくはぼんやりとそう聞いた。

「うーーん、どうだろ?」

 みずかは少し考えると…

「…たぶん、おぼえてるとおもう

 …というか…

 

 …ぜったい、わすれないとおもう」

 

「はう、やっぱり」

 

 

 

 ……………

 ……

 …お昼休み…

 わたしたちはいつものように中庭に集まった。

「…でも、浩平にも困ったもんだよね」

 ため息をつきながら、わたしが言った。

「ほんと、あいつめ」

「…最低です」

『なのなの』

 わたしの言葉に、留美ちゃんも茜ちゃんも澪ちゃんもうなずいた。

「このまえ、繭ちゃんと一緒に先輩の家に行ったんだけどね…」

「あー、誘ってくれればいいのに」

「ごめんねえ、たいやきごちそうになっちゃった」

「…たいやき」

『澪もいきたかったの』

「…うん、先輩も会いたがってた。

 

 ……ところで、みんなは浩平に会ったらどうする?」

 

「……

 …まずは一発殴るわ」

「…怒ります」

『わたしもなの』

 

「ふふ、くすくす…」

 そんなみんなの言葉に、思わずわたしは笑ってしまう。

「どうしたの?」

「…?」

『?』

 みんなが不思議そうな顔をする。

 

「…うん。……すこし嬉しくなって…

 だって…

 

 ……みんな…みんな浩平のこと覚えてるもん…」

 

「……」

 

「……それが、なんだかうれしくって…」

 

「…わかります」

「……でも、殴るわ」

 

「あはは…」

「くすっ、あはっ」

「ふふふ」

 みんな笑う。あいつのことで…

 

 …また、会えることを信じて…

 

 …ねっ、浩平…みんな待ってるからね…

 

 

 

……そして、輝く季節へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 …はう、…すごいバカ話…

 …どうしてこうなったんだろう?

 …最初は長森がヒロインだったはず…

 

 …だって、みんないい子だもんね…

 

 …こりずにまた書こうっと。

 

 

 

 


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