「北川、俺はもうだめだ…」

 

「…いきなりだな、相沢、わけわかんねえよ」

 俺の魂の叫びを、北川は無慈悲にあしらいやがった。

「いや、あしらったつもりはないぞ」

「ぐっ、なぜそれをっ!!」

「いや、しゃべってたし」

 どうやらご多分にもれず、ここでもこの癖は健在らしい。俺はこの癖を本編で何度出したんだろうか…そんなに多かったかなあ。

「どうした相沢? 遠い目をして」

「いや、カノンSS界に一石を投じる、ちょっとした疑問を考えていただけだ」

 多分2回…3回もはしていないはずだぞ、うん。

「それで、何が駄目なんだよ」

 話が進まないと言わんばかりに、北川がそう言った。

「うむ、名雪達のことだが…」

 名雪達には、北川と大事な話があるということで、先に帰ってもらっている。

 

 放課後の教室、夕焼けの中で、二人っきり…

 

「言って置くが、別にお前に告白するつもりはないからな」

「あってたまるか! さっさと話を進めろ!」

 北川、カルシウムが足りていないぞ、牛乳飲めよ。

「まあ、名雪達のことなんだがな」

「うん、水瀬達がどうしたって」

「あいつら、俺を聖人君子かなんかと、勘違いしてはいないだろうか?」

「それはないな」

 俺の疑問に、あっさりと北川が答える。

「では…だ、俺のことを男だとは思っていないのだろうか。健康な青少年だとわかっていないのだろうか?」

「相沢…お前、結局何が言いたいんだ?」

 どうやら想像通り、北川はアホらしい。

「はっきり言うとだな、俺は男なわけだ!!」

「そりゃ、見りゃあわかるよ」

「それなのに、あいつらと来たら、俺を誘惑させるようなことを、みんながみんなだな!」

「……そりゃ、実際誘惑してるんだろうしな…」

 北川がぼそっと何かを言ったが、小さいためによく聞き取れなかった。

「そうさ、はっきり言えば! やりたいんだ! もうやりたいんだよ!! 悪いか!!??」

「いや、何も泣かなくても………っていうか、お前まだなわけ?」

「ぐっ、そーだよ」

 俺がそう言うと、北川はものすごく驚いたような顔をする。

 ぐっ、こいつに先を越されているのか!…そう思うと、なんとなくだがかなりむかつく。

「いや、だってよ…なんというか、水瀬達…悔しいが美坂も含めて、お前にぞっこんじゃねえか。

 てっきり、そういう関係になっているのかと思ったんだが」

 なんだ、お前も仲間だったかという北川の態度に、こいつもまだだったかと一応ホッとする。

「残念ながら、これはコンシューマ版なんだよ」

 俺は涙を流しつつ、そうキッパリと言った。

「なにぃ! そうだったのか!」

 

「そうだったのだ、ドモンよ!!」

「し、師匠!!」

「流派、東方不敗は!」

「王者の風よ!」

 ……

 …

 

 思わず、北川と抱き合って熱い涙を流すようなことをしてしまった。

 

「…でだ、つまり全員とプラトニックというわけなんだな」

「まあ、そういうことだ」

「…やりたいねえ、…やらせてくれるんじゃねえの?」

 北川は、ごくあっさりと言い放ちやがった。

「簡単に言ってくれるじゃねえか」

「だってよ、どう見ても全員お前にいかれてるじゃん、平気だろ」

「…いや、確かに、なんとなくそういう雰囲気になりかけたことは、わりとあるんだがな」

 実際、名雪だけでなく、二人っきりになると、みんなといい雰囲気になるのだ。

「だけど、そこでそう言うことになってしまうと、みんなとの関係は終わってしまうだろ…」

 ごにょごにょとそういう俺に対して、北川の奴は…

「ああ、ようするにこの八股状態を確保したいという訳か…て、ふざけるな!!」

 …ぶち切れたように、そう叫んだ。

「ううー、しょうがないんやー、みんなええこなんやー」

 北川が怒鳴る気持ちはよくわかるのだが、選べないのだ。

「…まあ、俺なら美坂なんだが…確かに、相沢の立場だったら…難しいな、誰か一人だけを選ぶというのはなあ、もったいないよなあ」

 かなり端的な意見だが、俺の気持ちを言い表していないかと言えば、嘘になるだろう。女性には勝手に思われるかもしれないが、こういうところが男にはあるのだ。

「…だが、実際問題、選ぶ時期に来たんじゃねえのか? 年貢の納め時って奴だ」

 北川がポンと俺の肩を叩きながら、にこやかにそう言った。

「…うぐぅ」

「それで、もったいないという気持ちは置いておいて、誰が一番好きなんだ?」

 

 ………………

 ……

「ぜ、全員かな」

 

 自分でも驚くばかりの、優柔不断ぶりである。

「…………………

 …はあ、お前に選べないのはよくわかった」

 北川がため息をつきつつ、そう言った。

「…ならば、お前の息子に聞いてみよう」

「なにっ!?」

 北川はニヤッと笑うと…

「…で、夜のおかずにする頻度は、誰が一番多いんだ?」

 …そんな下世話なことを聞いてきた。

 そんな選び方をするのは、大変失礼だと思わなくもないが、そこに深層心理がでているやもしれない。考えてみよう…

 

 ………………

 ……

「ぜ、全員かな」

 

 息子も、かなり優柔不断なようだ。

「…しばらくは、右手と仲良くするんだな…」

 呆れたように、北川はそう言って帰ろうとする。

「駄目なんだー! もうそれは限界なんだー!!」

 泣きついた俺に、しょうがねえなあって顔をして、北川はもう一度席に着いた。

「しょうがねえなあ、お前に選べないんなら、……流されちまったらどうだ」

「…と、いうと」

「今度、そういういい雰囲気になったら、立ち止まらずに、だー!!!っと行けってことだ」

 なげやりな言い方であったが、実際問題俺に選べない上、我慢も限界にきている以上、そういうことになるかもしれない。

「俺はさ、相沢…」

 窓の外を遠い目で見ながら、北川が口を開いた。

 

「若さ故の過ちって奴、認めてもいいんじゃないかと思うんだ」

 

 北川が、赤い人のようにかっこよく見えた。あのアンテナは、隊長機の証だったのか!

「そうだよな、それが若さってもんだよな! ありがとう北川!!」

「いいってことよ、俺たち、親友だろ」

 そう言って、いい笑顔を浮かべた北川に見送られて、俺は意気揚々と帰った。

 だから知らない、その後の教室で行われたことなんて…

 

 

「ついに、相沢が年貢を納めることになったぞ!!」

「「「「「「おおー!!」」」」」」

「さあさあ、誰が相沢とくっつくか! 一口100円から!!」

「水瀬に10口!」

「美坂姉妹を一緒にに15口!!」

「倉田先輩と川澄先輩を一緒にに20口!!」

 

 

 …俺は知らない。

 

 

 

 …………

 …

 …結局…

 

 

 …水瀬家に、お父さんが出来ることになった…

 

「あらあら…」

 

 し、仕方なかったんやー!

 

「だおー! それはないよー、お母さん!!」

「うぐぅ」

「あうー」

「えぅー、そういうことする人、嫌いですぅー」

「他になにを、すればいいのよ」

「あ、あははー、ははー……」

「…ぐすんぐすん」

「そんな酷なことないでしょう」

 

 ジャムが、ジャムがぁあ!!!

 

 

 

 …ちゃんちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 カノン初のSSが、これっす(笑)

 いや、もう、なんだかなーって感じですけどねえ。

 

 須達龍也個人としては、カノンのSSを書くつもりはありませんでした。

 なぜなら、今更私が書くまでもなく、ネットの海には多種多様のカノンの名作SSがあふれていましたから。

 では、なぜ今カノンのSSを書いたのか…

 

 …なんとなく(笑)

 

 しかし、もっと甘甘ラブラブなのが、書きたかったはずなんだけどなあ。

 

 

 

 


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