リーザス正月模様

 
作:たのじ

 

がやがやがやがや……

 

がやがやがやがや……

 

 LP七年一月一日元旦、リーザス城の中庭特設宴会場、日も高いうちから、そこはマグロと声をかけても返事をしない屍の同類が累々と横たわる場と化していた。

 
 

「二十八番リック・アディスン、兜割りをやります! はああああっ、バイ・ラ……」

 「忠」の一文字をヘルムに刻んだリックが、赤い光を放つ剣を振り上げる。

「ええい! んなつまらんもんを見せるな! ほれっ!」

 だが玉座のランスはそれを最後まで見ることなく、リックのヘルムをはぎ取ると、それを宴会場の彼方へと放り投げた。ヘルムは綺麗な放物線を描いて、人混みの中に消えていく。

「きっ、キング、何を……ああっ、ヘルムはどこに行ったんですかぁ〜」

 
 

「行くよ、おねーちゃんたち!」

 ミル・ヨークス、外見年齢約十八歳のグラマーな美少女、実年齢・精神年齢十一歳の少女が背後の二人に気合いに満ちた笑顔を向けた。

「ねえ、ミルちゃん、ほんとにするの?」

 不安そうな、しかし、どこかわくわくしている表情を浮かべているのはヘルマン出身のエレナ・フラワー、十六歳。清楚で可憐な彼女は、最近城の衛兵たちに人気が高い。

「何で僕まで……」

 最後に控えるのは、一見美少女、しかし実際は紛れもない美少年のリーザス魔法研究所所長、カーチス・アベレンくん。彼は、最近なぜか研究所の研究員たちの視線が怖い、とよく漏らしている。

「もっちろん!せーの……」

「「四十三番!」」「……番」

 なんだかんだ言って結構息の揃っている三人だった。ミルに続いてステージに飛び出し、声を合わせて、

「ミル・ヨークス!」「エレナ・フラワー」「カ、カーチス・アベレン……」

「「てんとう虫のサンバを歌いま〜す!」」「……ます」

「ミールちゃーん!」「エレナさーん!」「所長ぉ〜!!」

 ちなみに、声援は全て男たちの熱い叫びだったという。
 

 

 いつの時代も、無礼講はこんな物かもしれない。だが正月のこの日この時の盛り上がりはリーザスの年中行事の中では最高の物になる。なんと言っても、普段滅多に姿を見せない帝王ランスのハーレムの花たちが外に出てくる数少ない時なのだ。

 その彼女たちの(含むその他)あでやかな姿に声援を送る者、酔った勢いで命知らずにも無謀にもシィルや美樹を口説きにかかって玉砕する者(ランスや健太郎に見つからなかっただけ幸運であろう)、感激のあまり涙しながら転がり回る者、宴会場はさらなる混沌の場と化してゆく……。

 
 

「だーっはっはっ!志津香にナギ!お前らもなんかやれぃ!」

 程良く酔いが回り、本格的にエンジンのかかったランスが側でちびちびやっている二人の魔女に目を向けた。

「いーやーよっ!たまに来てみればこんなことになるし! やっぱ来るんじゃなかったわ!」

「それでは……新魔法の実技発表でも……」

「危ないからやめなさいアンタはっ!」

 志津香がナギの後頭部を本気の拳ではり倒す。が、当のナギ少々恨みがましい視線を向けただけで、大人しく腰を下ろして再び酒杯を片手にちびりちびりとやり始める。それを見た志津香も、隣りに腰を下ろして果物をぱくつき始めた。

 仲が悪そうに見えるこの二人だが、実は案外仲が良いのかも知れない。

 
 

「むううううっ! 五十一番ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー! 燃えるの漢のポージング!……ぐはっ!」

 いきなり諸肌脱ぎだしたのは、魔法使いとは思えぬ筋骨隆々の肉体を持つ男、ガンジーである。だが、上半身をさらけ出したところで、奇声を上げて崩れ落ちる。

 その背後には、額に青筋立てて庭石とおぼしき一抱えもある岩を持った彼の一人娘、マジックの姿があった。

「いい歳こいて何してんのこのクソおやぢぃぃぃっ!」

「マ、マジック落ちついてっ! そのでっかい石はまずいよやっぱり!」

 止めを刺そうというのか、腕の中の岩を抱え上げるマジックを、最近記憶喪失から復帰した彼女の恋人のアレックスが必死の形相で羽交い締めにする。

「止めるなアレックスぅ! 今日こそあのこのクソおやぢの息の根を……!」

 
 

 またその裏方も会場に輪をかけて修羅場である。だが今日一日のために招かれたマルチナ・カレー一日料理長は、その腕を存分に振う場を与えられ、殺人的な忙しさの中でこの上ない充実を感じていた。

「こっちあがったわよっ! つぎつぎつぎっ、もたもたしないっ! 今日はこの私の身につけた技の全てでもって、史上で最高の宴会料理を作るんだからね! 料理の鉄人、東西南北中央ふ……もとい!マルチナ・カレーの名に賭けて!!」

「マルチナぁ、俺のはどこだぁ?」

 殺気立っているマルチナにのんきな声をかけたのは、その豪快(?)な食いっぷりで彼女に気に入られた食欲魔人のガルティアである。彼の隣には、何故か滅多に迷宮の底の住処から出てこない世界最高の占い師、アーシーの姿もあった。

「あーはいはい、ガルティア君のは奥に特大シチュー鍋があるから今はそれ食べて待っててね!アーシーちゃんのお菓子もあるわよー!」

「わーい!」 

 

 

 ……日も西に傾く頃、宴会場の喧噪も遠い城の奥庭を二人の女性が歩いている。どちらもまだ少女とも言える歳だが、一人はその胸に赤ん坊を抱いている。まだ生後一年ほどなのに、やんちゃそうな顔をしている赤ん坊である。

「五十六さん、少し代わりましょうか? 宴会が始まってからずっと二十一くんを抱いていらして、お疲れではありませんか?」

「大丈夫ですよ、すずめ殿。子供が重い母親はおりません」

 山本五十六、戦場にあって幾多の功績を挙げた女将が、わが子とその父親の前でのみ見せる優しい微笑み。母親としての幸福感にあふれた微笑み。

 隣を歩く侍女の加藤すずめは、その微笑みを本当に美しいと思った。そしてうらやましかった。自分もあの微笑みを浮かべられるようになりたい、あこがれの人の隣で。でも自分と彼女は違うから……。

「大丈夫ですよ、すずめ殿」

「え?」

「あの方は自分を慕う女性を幸せにしてくれます。きっと、それが誰であろうと関係なく。だからあなたも」

「……はい」

 そしてすずめも、まだ小さいけれども、綺麗な笑みを浮かべていた。
 

 

「え〜と、いそろく、さん、ですか?」

 自分を呼ぶ声に引かれて少し視線を下げると、そこに眼をきらきらさせた幼い少女が立っていた。眼にはあふれんばかりの好奇心と期待と若干の不安をたたえて、彼女とその胸の赤ん坊を見上げている。

「そうですよ、ちいさなカラーさん。……何用ですか?」

 そこにいたのはまだ幼いカラーだった。額の赤いクリスタル、カラーらしい整った顔立ち。そして彼女の戦友であり、数ヶ月前に天使に覚醒して城を去ったソミータとどこか似通った雰囲気を持っている。だがそれ以上に。

「えへへ、パパがね、せっかく来たんだからおとうとにあっていけって!」

「パパ……?」

「だめでしょう、リセット。まずはきちんとご挨拶しないと」

 そこにいたのは、五十六やすずめよりも幼く見えるカラーだった。リセットによく似た顔立ちをしているが、その身にはまだリセットにはない優雅さと気品をまとっている。そして、その眼には五十六と同じ我が子を見守る母親の微笑みが浮かんでいる。

「あ、ママ……。えへ、はじめまして、リセット・カラーです!」

「初めまして、山本五十六将軍、カラーの長、パステル・カラーです。この子は次のカラーの長のリセット。私とランスの娘です」

 ああ、と五十六は納得した。少女、リセットの茶色の眼にある光は、胸の我が子の父親、ランス王にそっくりなのだ。どこかやんちゃで、常に前を見続けるその眼に。

「初めまして、パステル様、リセット殿。ランス王の下で一軍を預からせて頂いている、山本五十六でございます。この子は二十一、ランス王と私の息子です。リセット殿、仲良くしてあげてくださいね」

 そう言いつつ五十六は二十一をリセットが見やすいようにしゃがみ込んだ。リセットは初めて対面する弟をまじまじと見つめ、

「え、えーと、は……はーちゃん! はじめまして、リセットおねえちゃんだよ! なかよくしようね!」

その小さな手より更に小さな二十一の手を、きゅっと握った。

 

「ずるーい! すずめおねえちゃん、リセットにもはーちゃんだかせてー!」

「リセット様は今まで抱いていらしたでしょう? 今は私の番ですよ?」

「えへへ、はーちゃんのほっぺってぷにぷにしてるね!あ、はーちゃん笑ったー!」

「うふふ、お姉さまと一緒にいるのが楽しいんですね」

「はーちゃん! おねえちゃんだよー!」

 二人の母親は楽しそうに遊ぶ姉弟を見つめている。本当に幸せそうに。

「大きくなっても、仲の良い二人であって欲しいです……」

「そうですね、山本将軍」

 
 

 その二人を影から覗いている者たちもいる。

「うー、何よ何よちょっとぐらい先にダーリンの子供産んだからって!リアだってリアだって負けないんだから!」

「リア様……」

 悔しそうにハンカチをかみしめるリアを、マリスもまた、母親の表情で苦笑を浮かべつつ見つめていた。

 
 

「ふー……」

「サテラサマ……」

「んー、いいのよシーザー、何でもないんだから」

(ランスはあたしをかわいがってくれる……今はそれで十分……)

 ランスに惚れ込んでリーザス城に居座っている魔人のサテラ。彼女のため息の理由は、リアともまた違っているようだった。

  

 五十六もパステルも、その眼にはかつて背負っていた影はない。一人の、同じ男の手を借りて影を払い落とした彼女たちは、我が子たちを見ながら微笑んでいた。一つのことを願いながら。

『この子たちが、これからもずっとこうして笑っていられますように……』

 

 

 LP七年一月一日元旦、長い戦乱の時を越え、大陸は平和の中にまどろんでいる。たとえ今の平和が一時の物であったとしても。

 どうか彼女たちの願いのごとく、子供たちの笑顔が耐えないことを……。

 

 

ねんねんねん……ねんねんねん……。

くすっ……くすくすっ……。

 

 

 

後書き

 まずは、読んで下さった方々に幾千の感謝を。

 須達さんのHPには初めて投稿させていただきました、たのじと申します。

 実はこのSS、遙か昔、約一年半前に某所に投稿した作品の改訂版です。

 ちょっとした弾みにこちらにも掲載させていただくことになりましたので、この際だから改訂しました(笑)

 SSを書き始めた頃の作品ですので、記憶の底に沈めておきたかった気もしますが……。
 
 

 この作品を読んで面白いと思った方がもしいらっしゃったら、一言で構いませんので是非感想を下さいね。

 それから、私はこちら以外にも、アリスソフトのユーザークラブ会員専用図書館に投稿していますので、図書館には入れる方はよろしかったら一読してみて下さい。
 

 それでは、このあたりで失礼いたします。
 
 
 

  御意見、ご感想はこちらへ:a9521341@mn.waseda.ac.jp

 

 

 

 

 


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