出動! 美少女忍者隊くのいち5
「かなみ!」
「お呼びですか?」
主の声に、忍者見当かなみは降り立った。
その主、ランス王はストップウオッチを止め、ひとつ肯いた。
「0,7秒・・・・・良いできだ。今日は、褒美をやろう。」
と、ランスが出したのは、大きなスティックキャンディー。かなみが恐る恐る受け取ると、ランスはもう一本を出してなめ始めていた。
「さて、本題だ、ペロペロ。おまえに特別任務を与える、ペロペロ。」
「ははっ、ペロペロ。」
「おっと、その前に、ペロペロ。」
振り返ると、ランスは魔法ビジョンのスイッチを入れた。映ったのは、プリティアTVの人気番組「香姫七変化」だ。
「ちょうど良いところだ、ペロペロ。かなみ、一緒に見るのだ、ペロペロ。」
「ははっ、ペロペロ」
ランスとかなみは長椅子に腰かけ、並んで魔法ビジョンに見入った、ペロペロ。
「黄金色の菓子にございます。」
「おぬしもワルよのう。」
「お代官様ほどではございません。」
ふおっふおっふおっ、笑い声が重なる。座敷で向かい合う侍と商人の図。
「このへんで、今宵のきれいどころを。」
商人が手をたたくと、襖が開いた。現れたのは、キラキラ髪飾りも眩しげな花魁、とお付きの黒子。
侍の頬がゆるんだ。
花魁が顔を上げた。笑ってはいない、きびしい目だ。
「材木問屋、越後屋籐兵衛。ならびに、代官大谷権之助。おまえたちの悪行、この目でしかと見、この耳でしかと聞いた。最早、逃げ隠れできぬと覚悟せよ!」
うろたえる越後屋と代官。
「おまえ、わしが呼んだ花魁ではないな。なにやつっ?」
ちょん、黒子の拍子木が鳴った。花魁がゆらりと立つ。
「ある時は、柳町の花魁。また、ある時は・・・・・」
くるり、花魁が身を一回転させると、そこに立つのは長い顎髭と白髪の老人。
「ある時は、路傍の易者。またある時は、旅の虚無僧。そしてまたある時は、下町の馬喰。」
くるり回る度に姿が変わる。その早技に、越後屋も代官もア然とするばかり。
「しかして、その実体は!」
ばっ、さらに回って姿を変えると、腰に大小を差した若侍となった。ただし、月代は剃ってはいない。
「おおっ、きさまはいつぞやの! おのれぇ、知られたからには、生かして帰さん。」
「出会え、出会えぃ! くせ者じゃ、切って捨ていっ!」
その声に、用心棒の浪人達が現れた。たちまち囲まれた若侍。しかし、ゆるりと大刀を抜き、手首を返して峰打ちの構え。
一大剣劇の始まり。若侍は、あれよの間に浪人達を打ち据え、圧倒してゆく。
が、多勢に無勢、背後に上段から太刀が迫った。
と、投げられた拍子木が太刀を叩き落とした。黒子が正体を現した、忍者月光だ。
「ひかえい、ひかえい、ひかえおろうっ!」
月光の息吹が吼えた、周りの浪人達は腰を抜かして転がった。
若侍と月光が向き直る。
代官は刀に手をかけ、睨み返した。越後屋は、その背中に隠れている。
「このお方を、誰と心得るか! 畏くも、先の大阪城主、織田信長公のご息女、香姫様なるぞ。一同、頭が高ぁーいっ!。」
月光の一喝。若侍、香姫は太刀を下ろした。その着物の胸に輝く織田木瓜紋!
代官はたちまちひれ伏した。越後屋もその横でひれ伏した。
香姫は肯いて、にっこり。黄金の笑み。
「これにて、一件落着!」
「香姫も、番組の中では別人だなあ、ペロペロ。」
「ああ、月光様・・・・ペロペロ。」
ランスとかなみ、2人は全く別のところを見ていた。
と、ランスはキャンディーの残りをかみ砕いて、魔法ビジョンを消した。
「かなみ、ついて来い。」
「ははっ、ペロペロ。」
ばこっ、鉄拳がかなみの頭に炸裂した。
「きさま、いつまで舐めとんじゃあっ!」
そうは言われても、所詮は女の口、大きさは男の口の半分しかない。同じキャンディを舐めても、倍の時間を要するのだ。が、そんな理屈が通用する王様ではなかった。
びかぁーっっ!
ドアを開けたとたん、かなみは強烈なライトを浴びてしまった。
硬直。
忍者は闇に生き、闇に死ぬるが定め。それ故、光に抵抗力が無い。目の前も、頭の中も真っ白で活動停止状態のまま、かなみは手を引かれて行った。
はたと正気にもどると、かなみはステージの中央に立っていた。スポットライトのシャワー、拍手と歓声、ただ呆然。ステージ下の特別席には、ランス王とリア王妃。その周囲には、リック、バレス、パットン、山本、ガンジー・・・・等々、リーザス各界の名士の顔が。
人前に姿を曝す、これが特別任務? 忍者なのに?
ステージ脇の司会が、さらに追い打ち。
「レディース、エーンドァ、ジェントルメーン! スーパーヒロイン、見当かなみちゃんでぇーすっ!」
名前まで明かされて、もう忍者できないよ!
ちょっともじもじ、ふと背後の看板に気が付いた。
プリティアTV 提供
新番組
美少女忍者隊 くのいち5
制作発表
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「くのいちご?」
「オーノーッ! くのいちファイブでぇーすっ!」
「ふあいぶぅ?」
「ファーイブ!」
ぜえぜえ、司会は絶叫のあまり息を切らしてしまった。観客から笑いがもれる。
「かなみちゃん、ちょっと天然ボケはいってまーす。でも、番組では、凛々しく戦ってくれるハズでぇーす。では、リーザスレッド見当かなみちゃんと共に戦う仲間を紹介しまショー。」
スポットライトがステージ袖に移動、現れた4ツの影。いや、ひとつ倒れてみっつになった。あたふた立ち上がり、またよっつになった。
「ヘルマンピンク、フレイア・イズン!」
大股にステージ中央に進んだフレイアは、投げキッスで観客に応えた。
「JAPANブラック、カオル・クインシー・神楽!」
俯きかげんに現れたカオル、ペコリとおじぎ。
「ゼスパープル、ウイチタ・スケート!」
跳びはねるように登場のウイチタは、両手を振ってアピール。あたしより目立つ、フレイアの視線。女の戦いが、すでに始まっていた。
「そしてぇ、アリスブルー、斉藤美華!」
もじもじ現れた斉藤、冷や汗いっぱいの様子。と、司会が歩み寄った。
「斉藤さぁーん、衣装違いまーす。」
斉藤の衣装は、いつものセーラー服だ。しかし、アリスブルーと言うには、そのスカートは赤かった。
「ああっ? ごめんなさい、あたしは・・・・・・・・・やっぱりダメです!」
逃げようとする斉藤の手を握り、司会はなんとかステージに留めた。
「大丈夫、よくある事ね。気分だけブルーにならないで!」
笑いと拍手、斉藤は受けたようだ。
ともかくも、こうして5人がステージに揃った。
「新番組、美少女忍者隊くのいちファイブ! ご期待くださーいっ!」
ライトとフラッシュ、見当かなみは硬直していた。
ようやく意識を取り戻すと、楽屋だった。お祝いの花束、花輪でぎっしり。慣れない事の連続で、5人とも、ちょっち疲れ気味。
どどん、ドアが開いて、さっきの司会が入って来た。
「姫たち、お疲れサマー。改めて、自己紹介しまーす。わたし、くのいちファイブの監督します、ジェームズ・亀論でぇーす。」
「かめろん・・・・さん?」
「いえーす、ジェームズ・亀論ねっ。」
かなみのつぶやきに、ウインクを返す亀論である。と、フレイアが質問の手をあげた。
「引き受けてから言うのも、気が咎めるんだけどさあ・・・・・あたしは、この歳で『美少女』と言われても、恥ずかしいんだよね。」
「とし? それで、ヘルマンピンクはお幾つ?」
「実は**才。」(注、プライバシー保護のため伏せ字とさせていただきます)
「**才!」
ジェームズ・亀論は絶句し、熟考1分間。
ピッ、ピッ、ピッ、ポーン。
「ノンプロブレーム! 問題ナッシングでーす。」
なおけげんなフレイア。
「近藤マサオミは、『JUDO一直線』でハイスクールボーイ演じた時、すでに27才でした。ヘルマンピンクは、彼よりずうっと若い。よって、OKね。それに・・・・」
亀論はフレイアに近寄り、そっと耳打ちした。
「他の姫たち、スレンダーでチャイルドチックなボディラインです。ビッグなバスト、グレートなヒップ、セクシーダイナマイツなあなたがいないと、画がもちませーん。」
「まあ、そうゆう事なら・・・・」
亀論のくどきに、墜ちたフレイアであった。
「させるかぁっ、白色破壊光線!」
マジックの魔法の迎撃も、魔物の勢いを止めるまでにはいかない。メナド・シセイの隊が後退して来た。
「撤退、撤退っ!」
赤の将の声が響いた。しかし、すでに陣形はバラバラ、敗走状態だ。
「嬢ちゃん、早く退がれえっ!」
その怒号にシセイが振り向くと、ヒューバート・リプトンがやって来た。傷ついた兵を背負っているので、いかに屈強の男でも足がおぼつかない。
そのすぐ後ろ、魔物の一群が迫っていた。
足がもつれ、リプトンが倒れた。剣を抜き、走り寄るシセイ。
「かまうな、とっとと退けえっ!」
シセイがリプトンの手を取って立ち上がらせた。と、すでに囲まれていた。唸りとも笑いともつかぬ声が、圧するように響く。
ダダダンッ、煙玉の炸裂。
煙を払って魔物が進むと、彼等は消えていた。
キョロキョロ、周囲を見渡す。でも、何も無い。
右往左往の魔物たちを見下ろす丘に、彼等はいた。
「ここはまかせて、早く撤退を。」
赤い服の忍者(リーザスレッド)見当かなみの言葉にシセイは笑顔で肯いた。その横では、桃色の髪の忍者(ヘルマンピンク)フレイア・イズンが手当中だ。
「早く本営にもどって、治療を。当面、命に別状は無いはずよ。」
リプトンは笑って、意識の無いままの負傷兵をまた背負った。
去りゆく3人と入れ替わりに、黒髪の忍者(JAPANブラック)カオル・クインシー・神楽と紫の服の忍者(ゼスパープル)がやって来た。
「ガンジー様の増援部隊が急行中よ。」
「マジック魔法部隊の撤退には、まだ時間がかかるわ。」
目立たないが、脇でセーラー服の忍者(アリスブルー)斉藤美華がメモをとっていた。
「カオルさんは、やっぱりオジさんが好き・・・・・と。」
リーザスレッド見当かなみは、眼下の魔物たちを見た。隊列を整え、さらに追撃の様子だ。
「時間をかせぎましょう、派手に立ち回って注意を引きつけるの。ただし、無理追いは禁物。」
肯く4人。
レッドが刀を抜いた。4人も続いて抜刀する。
カメラが5人をグルリと回り込み、テロップ「つづく!」
くのいちファイブ、次回予告。
「魔人バボラが現れた! 危うし、くのいちファイブ。その時、大地の彼方から出現した5ツの影。次回、5大聖獣あらわる!」
「ブルーベリードリーム、ちゅちゅるちゅちゅ・・・・・・・」
魔法ビジョンから歌が流れる。試供品「くのいちファイブスナック」を口にしつつ、ランスはガハハと笑った。
「エンディングテーマはレベッカちゃんの歌か、これも隠れた才能の発掘だな。」
筆頭侍女マリス・アマリリスが報告書を持って来た。
「プロジェクトくのいちファイブは、順調な滑り出しです。協賛企業は大手で8社を越えました。魔人戦争に備えての戦意高揚、ロイヤリティ収入による戦費調達、いずれも成果が上がっております。」
そうだろうガハハ、とランスはさらに笑い声をあげた。手にするコップには、試供品「くのいちファイブココア」が入れてある。
「ダーリン!」
妃のリアが、人形を手にしてやって来た。それは、やはり試供品「くのいちファイブドール・見当かなみ」だった。
「かなみの人形があって、リアの人形が無いの。とっても悔しいっ! ねっ、後番組の主役は、リアにやらせてぇっ!」
「リアが主役か・・・・・・・」
ランスは考えてみた、リア・パラパラ・リーザス主演の番組を・・・・・暴れん坊鬼畜女王、鬼畜女王まかりとおる、鬼畜女王大作戦、必殺仕事姫、リアにおまかせ、鬼姫判科帳・・・・・・・・
「却下だっ!」
ゼス国魔路埜要塞にほど近いマークの街、忍者見当かなみは来ていた。番組収録の合間に本来の仕事もこなさねばならない、宮仕えのつらいところだ。
「ああっ、かなみちゃん!」
ぎくぅっ、かなみは足を止め、その声の方を見た。子供たちが駆け寄って来た。
「やあ、よい子たち、元気だね。」
しかたなく笑顔で応対、子供たちの向こうでPTAが怖い目を光らせていた。
「残念だけど、今は仕事中なんだ。また、会おうねっ!」
ポン! 煙玉だ。
一瞬に、忍者の姿は消えた。
「すごい、本物のかなみちゃんだったぞ! 本当に忍術使いだった!」
はしゃぐ子供たち、PTAも満足げな顔でその輪に加わった。
一方、消えた見当かなみは・・・・・・・・
実は、赤い郵便ポストの裏に隠れていた。保護色である。
「いつまでも、いるんじゃない! 忍術に感心したら、とっとと去れ。」
足が振るえてきた。人型ならぬ郵便ポストのポーズは、とても疲れるのだった。
と、何やら荒い息づかい、すえた汗の匂いに気づいた。
「お会いできて光栄です。ぼぼ・・・ぼくは、ゼスかなみちゃん友の会マーク支部の者です。」
おかっぱ頭に丸い黒ふちメガネ、小太りな腹にアリスのプリントTシャツ、追っかけのカメラ小僧に見つかってしまった。が、一人ではなく、まだ他にいた。
「かなみちゃん親衛隊マーク小隊です、以後よろしく。」
「かなみちゃんをオールドミスにする会、会員23号です。」
「かなみ教本山から来ました、拝ませて下さい。なまんだぶ、なまんだぶ・・・・」
「かなみちゃんに愛のハーモニカを捧げます!」
「俺の愛をうけとめてくれーっ!」
魔物よりタチが悪い、ストーカーの群だった。
その頃、魔王城では・・・・
中庭に花が咲いていた。四季を越え、咲き乱れる花々。前魔王ガイの苦心の花壇だ。
今日は、その花園の中央で、さらに3ツの花が咲いていた。テーブルを囲む花、ホーネット、シルキィ、ハウゼル。いずれ劣らぬ名花だ。
「平和ですねぇ。」
紅茶をひとつ口にして、ホーネットがつぶやいた。
「時が止まってしまったようです。」
「ほんとう、静かですこと。」
3人の髪を、吹き抜けるそよ風が撫でていった。
同じく、ケイブリス城。
「ケーちゃん、戦争せんでエエのお?」
魔人メディウサが大声で叫んだ。が、返答は無い。
「わたしは帰ります、メイド達が待っています。」
魔人ケッセルリンクはフワリ舞い上がり、飛んで城を出て行った。
魔人カイトは扉を少し開け、中を見た。魔人ケイブリスはその大きな背中を丸めて、魔法ビジョンに見入っていた。と、突然ケイブリスは吼えた。
「えっる、おうっ、ぶいっ、いーっ、らっぶりぃ、かなみ!!」
< A HAPPY END >
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