恋の忍法帳
真っ赤な上着に黄色いマフラー、決して某サイボーグ××9のコスプレではない。彼女こそリーザスの忍者・見当かなみ! 今こそ、正義の時は来た。世を惑わす悪に、鉄槌を下すのだ。かなみは城の勝手口に、ゼスの忍者・コード・パッセンテーデを迎え入れた。 もとより照明は無い。闇の忍者専用通路を通り、2人は王の寝室の天井裏に着いた。ここまで来れば、電光案内板が玉座方面、ハーレム方面、天才病院方面と完備されている。王の一声にどこでも迷わず参じる事が可能だ。その一声を聞き逃さぬよう、拡声器まで装備済みである。 「かなみちゃん、本当にいいんだね?」 「あいつは、いつかこうなる運命だったの!」 闇の天井裏で見つめ合う男と女。忍者だけが為し得るラブラブなシーンであった。 グウ、男の腹がなった。忍者も人の子、空腹は等しく訪れる。コードが腰の携帯食を探そうとすると、かなみが笹の葉の包みを開いて出した。故郷JAPANの伝統料理、おにぎりがあった。 「食べて」 「あ・・・・・・・ありがとう」 コードがおにぎりを口にする。見つめるかなみ。 「育ててくれたオババが、言ってた。いつか恋をしたら、このスペシャルおにぎりを思い人に食べさせなさいって。どんな屈強な男もイチコロだわさって・・・・・きゃぁっ、言っちゃったあっ!」 赤くなって照れる女、笑って食べる男。真っ暗な天井裏の忍者的ラブシーンである。一般人がこれをのぞき見するには、暗視スコープが必須だ。 ちなみに、オババがかなみに伝授したスペシャルおにぎりは、米5麦5で食物繊維が豊富で胃腸にやさしい。中に仕込むのは、トラフグの干し肝。トリカブトの葉を刻んでふりかけ、毒ニンジンのジュースを添えてワンセットだ。とても忍者らしいレシピと言える。 「ありがとう。女の人から何かもらうなんて、初めてだよ。ああぁぁぁぁっ、腹の底が、舌の先が、指の先が・・・・・ししっ、ひびれるような! これれんがぁ、恋の味なのらね」 感激のあまりか、舌がもつれるコード。さらに顔を赤らめるかなみ。 バタム、下でドアの音。恋の時は終わり、二人は忍者の顔にもどった。のぞき穴から下を見る。王ランスの背中が見えた。他にはいない。いよいよである。闇の中、コードが目で合図する、応えるかなみ。 音をたてず降り立つコード。気配に振り向くランス。 「なんだぁ、おまえ?」 答えず、コードが間を詰めた。ランスの目が見開いた。 そのランスの後に、かなみが降りた。挟み撃ちだ、逃げ場は無い。 一瞬のきらめき! コードの体が、飛んだ。いや・・・・・飛んだのは、首だけだった。上体と下半身は、その場に崩れ落ちた。流れる血が床を染めてゆく。 「また、つまらん物を切ってしまった・・・・あんっ?」 ランスがかなみに気づいて振り返った。手の魔剣カオスには血糊一滴も見えない。恐るべき閃光の剣さばきである。 「かなみ、遅いっ! 手柄はやらんぞ。それどころか、不埒者の進入を見過ごしたミステーク、後でたっぷりお仕置きだな」 ただ呆然と立ちつくすかなみ。頭は混乱していた。 「きゃあぁぁっ!」 悲鳴はメイドのすずめだった。ウエンディも来た。 「どうしましょう、明日は生ゴミの日じゃないし」 「血糊って落ちにくいわ。取りきれなかったら、またお仕置きかしら?」 右往左往のメイドたち。 ランスは部屋を出て行った。 我に返ったかなみは、跳んで天井裏にもどっていた。 なぜ? コードは使わなかったの? なぜ、忍者の術を? 真正面から立ち向かうなんて、忍者の戦いと違うよ? 闇の中で、かなみの自問自答が限りなく続く。しかし、答えは見えなかった。
黒装束の忍者は、一瞬に現れ、消えた。城の廊下は糞尿にまみれ、臭気で息もつけない。衛兵も逃げまどうばかりだ。 「おまえはJAPANの生まれだな。情報は得ている。見逃してやる、リーザスを去れ!」 かなみは動けなかった。強さの桁が違うのだ。ただ黙して、敵が去るのを見とどけるだけだった。 「いくら任務でも、あんなのと戦えないよぉっ!」 JAPPAN最強の忍者・月光の前に、かなみは普通の女なみの存在でしかなかった。 また天井裏の闇の中で、一人考え込む。ふいに、コードとの出会いが思い出された。 あの時も、見逃してくれた。なぜ? そうよ、あの時から、恋が始まっていた。今度だって、新しい恋の始まりなんだわ! ががーーーーーーんっっっっっ!!!!! 結論は簡潔にして、明確。 いつの世も、恋は勘違いと思い込みから始まる。 「月光様っ、かなみのスペシャルおにぎり食べて下さいっ!」 かなみは米を炊いた。米5麦5で食物繊維たっぷり、トラフグの干し肝をタネに入れ、トリカブトの葉を刻んでまぶす。毒ニンジンのジュースを添えて、ワンセット。いかなる屈強な男もイチコロなハズの、必殺の手料理だ! オババの伝授の真意に、かなみは気づく様子も無い。 忍者の恋は、切ない・・・・・・・・・
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