「ふふふ、来た、来た、…ついに来たわ! この日が!!」

 三角巾にエプロンという、完全戦闘態勢でリセットは燃えていた。

「あの女からパパの1番の座をゲットする日が!!」

 

 皆様、これはどっちのリセットかとお思いになるかも知れませんが、じつはあっちのリセットじゃなくて、こっちのリセットなのです。

 

「…この愛情たあぁーーーっぷりのチョコレートで、パパを悩殺よーん!」

 

 うう、こんな性格になっちゃうなんて、うううううぅぅぅーーー!!!

 

「…リセットちゃん、ずいぶん変わったね」

 後ろから見ていたサテラが、隣のホーネットに言った。

「…そうね、まあ、愛のために戦う女は強くなるから」

 ホーネットがしみじみと答えた。

「…じゃあ、ホーネットはもう戦う気はないんだ?」

 サテラがからかうように、そうホーネットに聞いた。

「…そうね、もう1番はあきらめたわ。私は3番でいいから」

 そのホーネットの言葉に…

「…あら、3番は私よ、ホーネットは良くて4番でしょ!」

 サテラがカチンときたように、そう言った。

「…その言葉、そっくりそのまま、ばっくりお返しするわ!」

 ホーネットも対抗して、そう言った。

 

 バチバチバチバチ………

 

 …愛は戦いだ!

 

 

 

「パーパ!」

 ハートマークが飛びだしそうな甘えた声をだして、リセットが魔王の間に入った。

「おう! どーしたリセット!」

 ランスがそう聞いた。そして、その隣で…

「おはよう、リセットちゃん」

 シィルが楽しそうにあいさつをした。

「えへへー、パーパ!」

 シィルのあいさつを黙殺して、リセットはランスの胸へと飛び込んだ。そして…

「ふーーーー!!!」

 ランスの胸から、シィルに対して、敵意むき出しの視線を送る。…猫のようだ…

「が、…がはは、どーした? 何か用かリセット?」

 リセットの意識をそらすように、ランスが聞いた。

「リセットねえ、また温泉に行きたいなあ。今度もまた…

 

 …二人っきりで!」

 

 二人っきりの所を、思いっきり強調してリセットが言った。

「いや、はは、そうだな…」

 最近のリセットの豹変ぶりに、けっこうたじたじのランスであった。

「へえ、温泉ですか? 『にぽぽ温泉』良かったですよね、ランス様」

 シィルはごく無邪気に言ったのだが、そのキーワードに問題があった。

 

 『にぽぽ温泉』も、リセットにとってはパパとの甘い聖地の一つなのだ。

 

「ふううううううぅぅぅーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 更に敵意むき出しの視線をシィルへと浴びせかける。

「……や、は、ははは。…そうだな、また『みんな』で行くか」

 ランスが取りなすようにそう言った。

 

「ええぇぇーー! 二人っきりがいい!!

 

 今度はリセット、ちゃぁーーんと起きてるから、パパも最後までシテね!」

 嬉しそうに、リセットがとんでもないことを言った。(「真鬼畜王、温泉へ行く」参照のこと)

「な、ななな、何を言うかな、リセット!」

 な、なんで知ってるううぅぅーーー!!! …て感じのリアクションを返すランス。

「だから、おいしーものいーっぱーい食べて、いぃーーっぱあぁーーーいダシテね!」

 ウインクしながら、さらにトンデモナイことを言い出すリセット!!

 

 うおおおぉぉーーー!! これがほんとぉぉーーーにあのりーちゃんなのか!

稲妻のよう…じゃなくて、あの純粋無垢なピュアピュアりーちゃんが、なんて変わりよーだ!!

(…しくしく…)

 

「愛は戦いよ! いつまでも純粋なだけではいられないわ!!」

 

 …うう、これは番外編だ! 外伝なんだ!! 違う話なんだああぁぁーーー!!!

 

「…あ、あのな、リセット…や、やっぱ、親子でそーゆーのはまずいと思うんだがな…」

 おずおずといった感じで、ランスがそう言った。

 

「ガアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーンンンン!!!!!!」

 

 リセットはものすごいオーバーアクションで、一回転しながら崩れ落ちると、ゆかに『の』の字を書き出す。

 

「う、うう、…ひ、ひどいわ、パパ。…リセットをキズモノにしておいて、そーゆーことを言い出すなんて!」

 

「ぐはあっ!!」

 

 会心の一撃である。ランスは大ダメージを受けた。

 

「うう、弄ぶだけ弄んで、いらなくなったらポイッだなんて、ひどすぎるわ!!」

 

「うがああっ!! …な、なんて人聞きの悪い…」

 

 またまた会心の一撃! …ほとんど瀕死に近いぐらいの大ダメージである。

「……だ、だがなあ、リセット…」

 あきらめ悪く、再び攻撃を行うランス。

「むうぅぅーーー! そんなこと言うと、もうチョコあげないもん!!」

「うっ!」

 結構ランスも楽しみにしていたようだ。

「リセット特製のハート型、あいじょーたあぁーーっぷりの30キロチョコなんだから!!」

「…げっ! さ、三十キロ…」

 ランスがあからさまに、ウゲッていう顔をする。

「ふ、ふえええ、…リセットの愛なんていらないんだ!」

 リセットの瞳が急速に潤んでいく。

「あ、いや…」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんん!!!

 ぐれてやるうううぅぅぅーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 そう叫びながら、脱兎のように部屋を飛び出していった。

「あ、お、おいっ!!」

 

(…ぐ、ぐれたリセット…)

 

 

 注:ここからはランスの想像です。間違っても絶対にフィクションです!!

 

  リセット「おい、親父! 小遣いくれよ!」

  ランス 「な、この前もやったばかりだろう! 何に使うんだ!!」

  リセット「っせえな! かんけーねーだろ!!」

  ランス 「なっ、なんだその口の聞き方は!!」

  リセット「ちっ、しょーがねーな、パパに買ってもらうか」

  ランス 「なっ、それはどういうことだ!!!」

     ピッポッパッ、トゥルルー…トゥルルー…

  リセット「あっ、パパ、私。…私いま欲しーものがあるんだけどー」

  ランス 「こ、こらっ、まだ話は終わってないぞ!」

  リセット「え、うん、こっちの話。えっ! 買ってくれるの!?

       え、うん、しょーがないなー、じゃあ、お、く、ち、でね!」

 

 

「うがああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 

 うがああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

 

「そんなのはダメだ! ぜぇーーーったいにダメだ!!!」

 

 そ、そうだ! ぜえええぇぇぇーーーーーーーったいにダメだぞおお!!!!

 

 思いっきり頭をかかえて苦悩するランスの隣で、シィルも悩んでいた。

「…どーしたら仲良くできるのかしら…」

 まるで、相手の連れ子のことで悩む、奥様のような悩みであった。

 シィルはそんなことを考えながら、背中の羽をいじくり回す。…天使になってからできた新しい癖であった。

 

 …えっ! いつそんなことになったって、あれえ、書いてなかったっけ? 

 

 …あっ! ホントだ! 説明もなくいきなり始まってるや。不親切なSSだなあ。

 

 …と、いうわけで、最終決戦が天使になったシィルの登場で回避できたという話の後の展開なのだ。(「真鬼畜王」第12章ぐらい参照のこと)

 

 

 

 ……てなわけで……

 

「…るーんるん、パパと温泉!」

 

 …ランス御一行は一路「にぽぽ温泉」を目指していた。

 内訳は、ランスにリセットと魔剣カオス、そしてシィルにサテラ、ホーネットの魔人重鎮御一行だ。

「えへへ、楽しみだねパパ」

 二人っきりではないものの、リセットは嬉しそうだった。

「ん、そうだな、ひさしぶりにのんびりするか」

 リセットの隣で、ランスが笑顔を見せる。

「…魔王様、今回はただの温泉旅行ではありませんからね」

「そうそう、人間達との停戦条約も兼ねてるんだから」

 二人の後ろから、サテラとホーネットが互いに牽制しながらそう言った。

「わーってるって!」

 ランスがお気楽に答える。そして、その遙か後方に……

 

「…うう、重いです。ランス様ぁ…」

 

 自分の背丈よりも大きなものを背中に担いで、シィルがエッチラオッチラと歩いていた。

「…ランス様ぁ、これっていったいなんなんですかぁ?」

「うむ、停戦記念として作らせた俺様の銅像だ!」

「ど、…銅像ですか?」

 シィルがよたよたしながらも、納得したようにつぶやいた。

「…いつのまにそのようなものを?」

 ホーネットも初耳らしく、そう尋ねた。

「うむ、びっくりしたか?」

「え、ええ、まあ」

「サテラに言ってくれたら、すっごいやつ作ったのに」

 サテラが不満そうに言った。

「いや、お前に作らせたら動き出しそうだ」

 

 …というか、絶対に動くだろう…

 

「と、いうわけで、平和の象徴なんだから壊すなよ」

「…は、はひぃ」

 ランスの側にいる時のシィルは、相変わらず幸せなのか不幸なのかわからない。

「……ふうふう…」

「……………」

 ランスの銅像を重そうに担いでいるシィルをリセットは、じっと見つめて…

 

「…パパって、好きな子をいじめるタイプだよね…」

 

「んっ、あんだって?」

 リセットのつぶやきに、ランスが聞き返す。

「……なんでもない…」

 そう答えると、リセットはシィルの方へと駆け出していった。

「…?」

 ランスには女心というものがよくわからなかった。

 

 

「…あれ、リセットさん?」

 シィルが前方からやって来たリセットに怪訝そうな顔をする。

「シィルさん、私も持つよ」

 そう言うと、リセットはシィルの後ろから荷物を抱えた。

「えっ? いいんですよ、リセットさん」

 シィルが慌てたように口を開く。

「…いいの、持ちたいの…これも……(パパの愛情の一つだから)」

 リセットは最後の方は口にしなかった。

「…はあ?」

 シィルは、よくわからない…と言う顔をしてリセットを見つめる。

「…いいの! ……くすっ、重いね、シィルさん」

 リセットがにっこりと微笑んで答えた。

「…はいっ! 重いですね」

 つられるように、シィルも微笑みをうかべて答えた。

 

 

 

 ……ちょうどそのころ…

 

「…停戦条約って、ふつう温泉場で結ぶかしら?」

 シルフがなんだか納得行かないようにつぶやいた。

「いいんじゃないか、平和って感じがするし」

 隣にいた二十一が笑顔をうかべながら答えた。

「ま、いいんだけどね」

 無理矢理納得させるかのように、シルフはそう言った。

「…やはり平和が一番だからな」

 二人の背後から、年を感じさせない野太い声がかかる。

「そうですよね、ガンジーさん」

 人間側の代表の一人として参加する、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー…その人であった。

「んー、別にアークお祖父ちゃんでいいぞ、二十一殿」

 からかうようにガンジーが言う。

「おっ、おじいちゃん!!」

 その言葉に、烈火のように反応したのはシルフだった。

「あ、はあ?」

「わーはっはっは!!」

 孫のそんな反応が楽しいらしく、ガンジーは大声で笑う。

「もうっ!!」

 そんなみんなの様子に微笑みを浮かべながら……

「…でも、本当に良かった…」

 心の底からそう思っているというように、妙齢な女性がつぶやいた。

「………そうだね、母上…」

 二十一はそう答えて、自らの母親を仰ぎ見た。

「…本当に…」

 二十一の母…山本五十六はそう言うと、眩しそうに太陽を仰ぎ見た。

 年月は彼女から若さは奪えても、その美しさを奪うことはできなかったようだ。三十代も半ばを過ぎた…十六になる息子がいるとは思えないほど彼女は美しかった。

 そう、今の彼女は母親ではなく、愛する者との再会を夢見る少女なのだから。

 

 

 

 ………………

 ……

「…騎馬戦か?」

 ランスが後ろを見ながら思わずつぶやく。

 それは、シィルを前にして後ろからリセットが、左右からサテラとホーネットがランスの銅像を抱えて歩いてくる様子だった。…まさに一人多いだけの騎馬戦状態である。

「…うむ、見えてきたな」

 前方に、見えてきたのはこじんまりとしていて、それでいてくつろぐことの…えっ、しつこいって!? …すいません。

 

「魔王様御一行! ようこそいらっしゃいませ!!」

 

 そのように書かれた大段幕の下には、従業員一同が勢揃いをして出迎えていた。

「うむ、出迎えご苦労!」

 くるしゅうない…と言った感じで、ランスが声をかけた。

「いえいえ、記念すべき停戦条約を当旅館で結んで頂くなど、光栄至極にございます」

 旅館で一番偉い感じの、年輩の男が答えた。

 確かに、末代どころか…人間の歴史ある以上、永遠に語られることになるだろう。

「…ら、ランス様ぁ、これはどこに置けばいいんでしょうか?」

 シィルが聞いてきた。

「よし、この庭のど真ん中に、ドカンと置いておけ!」

「…ふあぁい」

 よたよたと騎馬戦が庭へと向かう。

「…あ、あの、…魔王様、あれは一体?」

 おずおずと亭主が聞いてきた。

「うむ、この停戦記念に作らせた俺様の銅像だ」

「…あ、はあ…」

「なんと言っても、平和を表す像だからな。丁重に扱えよ。ときどき見に来るからな。

 …汚れてたり、落書きされてたり、…あまつさえ、壊れてたりしようもんなら、この平和も壊れるもんだとそう思えよ」

 ランスはニヤリと邪悪な笑みを浮かべると、恐ろしいことを口走った。

「そっ、そんなっ!!」

「がぁーはっはっは!!!」

 

 …旅館の名が歴史に刻まれる代わりに、とんでもない爆弾が置かれることとなってしまったのだった………合掌…

 

 

 

「……なに、これ?」

 

 遅れて到着した、二十一達人間側御一行。みんなの第一印象を、シルフが声に出した。

「…え、ええ、…平和の像らしいです…

 …文字通り、壊れたら…平和も壊れるそうです」

 そう答えたのは、一気に十歳は老け込んだ宿の亭主であった。

「…な、なんだかなあ…」

 まるで「自衛官募集!」とでも言い出しそうなポーズの銅像の下、何とも言えない気持ちになる一行であった。

「…あ、まあ、魔王様御一行は既に入られて居られます。どうぞ中へ」

 なんとか亭主はそれだけを口にした。

「…し、心中…お察しします」

 二十一はそう言うのがやっとであった。

 

「おお、来たな!」

 

 中に入った二十一達を迎えたのは、既に浴衣を着こなしている魔王御一行だった。

 浴衣美女4人に囲まれる様子は、まさに殺意を抱かずには居られない図であった。

 

 …当然、カオスはお留守番…

 

[うおぉぉーーー!! またかああああぁぁぁーーーーーー!!!!]

 

 …ランス達の部屋から、お留守番の魔剣カオスの映像でした…

 

「どこに行くんですか?」

 二十一がランスに聞いた。

「うむ、卓球場にな」

 当然と言った面もちで答えるランス…そのランスに…

 

「…お久しゅうございます。……ランス王…」

 

 目を潤ませながら、必死で笑顔を作ってそう言った女性は…

「…久しぶりだな。…五十六…

 …元気に、してたか?」

 そう言ったランスの顔は、二十一やシルフが驚くくらい、優しい…笑顔だった。

「…ええ。……こうして、再びお会いすることができて…本当に…」

 そこまで言って、努力のかいもなく涙がこぼれ落ちる。その涙を指でぬぐって…

「…少し、やつれたか?」

 …ランスがそう聞いた。

「…ランス王にはお変わりないのに、…私だけ、おばさんになっていって…」

「…十分きれいだぜ、言うなれば…あのころにはなかった味がでてるぜ」

 ランスはそう言うと、ニヤリと笑った。

「…くすっ、……ありがとうございます」

 ようやく、五十六も…涙のスパイスの利いた…満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 その二人の世界に、浴衣美人4人衆も何も言えず、居心地悪そうにするのだった。

 その中…

「…ぱ、パパ、卓球は?」

 リセットがなんとかそう口を開いた。

「ん、そうだな。

 …二十一、お前達も着替えたら来い! 温泉の前は、卓球だ!!」

「え、ええ」

 目の前で展開されていた、二人の世界に呆然としていた二十一もなんとかそう答えた。

 

 

 ………………

 ………

「…さて、…多いな」

 卓球場に集合した面々を見て、ランスがそう言った。

 確かに多い。男3人に女6人…こんなに出すんじゃなかったと思うくらいだ…

「…おまえなあ…」

「…では、男女混合ダブルスでどうですかな。儂が審判を買いましょう」

 ガンジーがそう言って場を取りなした。

「よし、それがいいな」

 ランスもうなずいて了承する。

 

「私! パパとがいい!!」

 

 リセットがいち早くそう言うと…

 

「サテラも! ランスとがいい!」

「…私も、魔王様とが…」

「…わたしも…ランス様とが…」

「わたしは二十一とが…とでいいよ」

「…うん、僕もシィル…シルフと言った方がいいのかな、とでいいよ」

「…できますれば、ランス王と…」

 

 …もめるのが目に見える混乱ぶりであった。

 

「…では、平等にくじ引きで決めてみればどうかな?」

 ここも年の功、ガンジーが再び取りなした。

 

 …その結果…

 

「…何となくわかってたよね。ホーネット」

「ええ、かなりこうなる気がしてました…」

 …サテラ、ホーネット組決定!

 

「頑張りますか、母上」

「そうしますか、二十一」

 …二十一、五十六…親子コンビ決定…

 

 …それからそれから…

 

 ……………

 ……

「…うわああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!

 メチャクチャ納得いかなーーーーい!!!!!」

「黙れ、小娘! 俺様とだなんて光栄に思え!!」

「だいたい考えてみれば、私と二十一はクジ引くまでもなく決まってたじゃない!」

「引いてから言うな!」

 …かなりもめてる、ランスとシルフの凸凹コンビ…決定!

 

 …残るは…

 

「…頑張りましょうね、リセットさん」

「………ん…」

 …なんだか何とも言えない、シィルとリセット組決定!

 

第1回戦、第1試合…サテラ、ホーネット組 対 ランスとシルフの凸凹コンビ

 

「…打ち終わったら、とっととどきなさいよ!」

「えーい、黙れ! 打ち終わりの俺様のフィニッシュポーズにケチをつけるな!」

 

 …息の合った、サテラ、ホーネット組の勝ち!

 

「…息合ってるわね」

「…悲しいくらいね」

 

 …い、一応勝ったんだからさ…ねえ…

 

第1回戦、第2試合…二十一、五十六親子コンビ 対 シィルとリセット組

 

 …互いに遠慮しあい、呼吸のかみ合わないシィルとリセット組のストレート負けだった。

「…あ、あはは、負けちゃいましたね」

「…ん、そうだね」

 …やはりぎこちない…

 

決勝戦…サテラ、ホーネット組 対 二十一、五十六親子コンビ

 

「ぶーぶー! つまらんぞー!!」

「とっとと終われー!」

 なんだか息のあった、ランスとシルフの凸凹コンビのあたたかい(…?)声援の中。その試合はジミ〜に行われた。

 

 結果は…

 

「…何となくわかってたよね。ホーネット」

「ええ、かなりこうなる気がしてました…」

 

 …だから、優勝したんだしさあ…ねえ…

 

「…でもねえ、扱いが雑魚キャラだよねえ。ホーネット」

「…たしかに、非常に適当に扱われてる感がありますよねえ」

 

 …あ、ほら、優勝商品もあるし…

 

「とりあえず何? …期待してないけど」

「一応聞いておきます。…期待してませんが」

 

 …あっそ! フン!!

 …一応、敗者に対して何でも願いを聞いてもらえる…って奴だったんですけどねっ!

 

 キュピィーーーーーン!!!

 

「何ですって!」

「それを早く言って下さいな!」

 妙な擬音を立てて、二人は目を光らせた。

 

 その願いは…

 

「「今日一日、ランス(魔王様)と二人っきりで過ごしたい(です)!!」

 

 …見事にかち合ったため、ナシです…

 

「…何となくわかってたよね。ホーネット…しくしく…」

「ええ、かなりこうなる気がしてました……しくしく…」

 

 …いやー、お約束って奴ですよ。はっはっは!

 

「「……ギロリ!」」

 

 ……………………………

 ……………

 ……

 

「…ひ、久しぶりのしかばねですね、ランス様…」

「…久しぶりだな」

 

 ……………ほ、ほんとに………グフッ……

 

「と、とにかく、温泉に行くぞ!」

 ランスがそう言って切り上げた。

「「…えっ、あの、まだ賞品が…」」

 サテラとホーネット、二人の声がハモる。

「…また今度な」

「今度って、ホントですか!?」

「ホントにあるんだよね、ランス!?」

 せっぱ詰まったように、二人が聞いた。

「…そこに転がってるのに聞け」

 

「「…ガアアァァァァーーーーーーーンン!!!」」

 

「じゃ、先に行ってるぞ!」

 ショックを受けている二人を置いて、一行は去っていった。

 

「あ、あの、作者さん?」

 

 ………………………………

 

「…い、生きてるよね?」

 

 ………………………………

 

「「…しくしく」」

 本能的にその日がないことを悟って、ただ涙するのであった。

 

 

 

 …カポーーン!

「…いい風情ですね」

「五十六さん、背中流しましょうか?」

「そう。…じゃあ、お願いしましょうか」

「…五十六さんの肌、まだ若いですね」

「いやね、からかわないで。シルフちゃんには全然かなわないわよ」

 

 …さすがは仲がいい、義母娘であった。

 

「なっ、またなに言うのよ!!」

「えっ、私もそうなると期待してたのですけど…」

「あっ、あうっ、あうっ…」

 

 シルフ、真っ赤なアザラシと化す。

 

 …そんな二人と相反するのは…

 

「「……………しくしくしく……」」

 

 この世の不幸を全て背負った感じの、サテラとホーネットだった。

 …何をこの程度で。…かなみちゃんを見ろ、かなみちゃんを!

 

…そこで私を出すな…

 

「「…たしかに、そうね…」」

 

…な、納得しないで…しくしく…

 

 …謎(笑?)のナレーションの主、不幸女王決定! ドンドン! ヒュー、パフパフ!

 

…決定しないで…しくしく…

 

 ………………

 ……

「…ふう」

 そんな様子にまるで無関心のように、少女はため息をついた。

 そしてそんな少女の様子を見つめ…

「…リセットさん…」

 …シィルもため息をついた。

 

 

 

 …一方…

 

「かー、つまらん!

 野郎と入って、なーにが楽しいか!!」

 ランスがグチグチと言った。

「まあまあ、父上もそう言わずに…」

「そうですぞ、男同士の裸の付き合いも良いものですぞ」

 二十一とガンジーがそう言うが…

「けっ! 男同士の裸の突き合いなんぞ、したくもないわい!」

 

 …ナニを突き合うんだ、ナニを…んなもん、書きたくないやい!!

 

 

 

 …ということで、男湯なんぞ楽しくないから女湯の方へ…

 

「…はぁーあ…」

 リセットが何度目かのため息をついたとき…

「…楽しく…ありませんか?」

 シィルがそう声をかけた。

「えっ!?」

 リセットは驚いて振り向いた後…

「…そう…見える?」

 …そう聞き返した。

「…ええ」

 シィルがコクリとうなずくのを見て、リセットが口を開く。

「…正直言って、楽しくない」

「…そう、ですか…」

 リセットの答えに、シィルがしょんぼりとうつむいた。

「…うん。…あなたのせいだよ」

「……ごめんなさい…」

 シィルは更にガッカリして謝った。

「…わたしね…」

「…はい?」

 顔をあげたシィルと、リセットの目が合う。

「…会う前から知ってたよ、シィルさんのこと。…ずっとずっと前から」

 

…パパ、まえにいってたへんでろぱだよ。ね、おいしい? おいしい?

 

「…ほんとにずぅっと前から、ね」

「……………」

 リセットは話を変えるように顔を横に向けると…

「…わたしね、あの日…シィルさんが現れた日、実は生きていたんだってわかってすごく嬉しかったんだよ。…パパと二十一君のあの戦いがやんだこともうれしかったけど…

 

 …これでホントの勝負ができるって…」

 

「……リセットさん…」

「わたし、自惚れてたんだ。…私が勝てないのは、あなたが死んでるからなんだ…

 …生きてたら、絶対勝てるのに…って、そう思ってたんだ」

「…………」

 シィルは黙って話を聞いていた。

「…でも、ダメ。…全然駄目! 差は縮まるどころか開く一方!」

 お湯につかっているのに、リセットの体がふるえ出す。

「…あなたが帰ってきてから、パパは私と距離を取るようになった…

 …私が近づくと、その分離れる…どれだけ頑張っても結果がついてこない!」

 そこまで言って、リセットは眼前のシィルに目を合わせた。感情の高ぶりは、そのまま流れ落ちる涙となった。

 …悲しいのかも、悔しいのかもわからない涙に…

「あなたが来たから…あなたが来なかったら、あなたがいなかったら…あなたさえいなかったら…

 …私が、…私が…」

 

「…リセットさんは、私になりたかったんですか?」

 

「えっ!?」

 シィルの問いかけは静かなものだったが、与えた影響は大きかった。

「…私の前にいるときはいつもああですから、私のいないときのランス様って、想像もできないんですけど…だから、自分がランス様にとって何なのかはよくわからないし、奴隷だそうですし、偉そうなことなんて一つも言えないんですけど…」

 シィルは手をもじもじさせて、そうもごもごと言った。

「……………」

 今度はリセットが黙って聞く番となっていた。

「…でも、これだけはわかります。

 

 …リセットさんは、私の代わりにはならない…」

 

「そっ、そんなことない! 徐々にだけどなれてたもん! あなたが来なくて、後十年もしたら、きっとなれてたもん!! あなたの代わりに!!!」

 激昂して、そう反論するリセットを悲しそうに見つめて…

「…わかります。ランス様は…私の知ってるランス様は…

 

 …そんな愛し方はしませんから…」

 

「…あっ……」

 ただ、言葉を失った。

「…ランス様はたとえ何百万人の女性を愛したとしても、誰かの代わりに愛するなんてことはしません。その人、その人として愛します。私は私として、リア様はリア様、かなみさんはかなみさん…

 そして、リセットさんは…リセットさんとして…」

 シィルはそう言って微笑んだ。

「…わたし…私…」

「…はい」

「私、一番になれるかな?

 …リセットとして、パパの一番に…シィルさんに勝てるかな?」

 リセットはすごく心細そうに、そう聞いた。

 その問いに対して、シィルとしては苦笑するしかなかったのだが…

「リセットさんとして、リセットさんに勝てる人はいませんよ」

 …と、答えになっていない答えを返すのだった。

 しかし…

 

「ありがとう、シィルさん」

 

 その答えが聞きたかった答えだったらしく、リセットは微笑んでそう言った。

「…いいえ、どういたしまして」

 シィルも微笑み返した。

 

 

…誰も誰かの代わりにはなり得ない…

…その無理を通そうとすると、歪みが生じる…痛みという名の歪みが…

…自分は自分にしかなれない…

…当たり前のようでわからない…当たり前すぎてわからない…

…それでも、それが…

 

…第一歩…

 

 

 

「ランス様、大好きです!」

「ランス! 大好きだよ!」

「魔王様! 愛してます!」

「ランス王、お慕いしています!」

 

「パパ! いっちばん好きだよ!!」

 

 

「がっはっはっは、俺様もみぃーーーーんな好きだぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 40000アクセス突破、ありがとう! 大感謝です!!

 いやー、見てもらったらわかりますように、…時期がちょっと遅れてます。

 ホワイトデー記念にも間に合わせるはずでした。…ところがぎっちょん!

 いやー、わっはっはっは!

 

ランス「笑ってごまかすな」

  おお、ランス! 久しぶりの主役はどうだったかね?

ランス「ふん、別にお前のSSの主役をやっても嬉しくもなんともない!」

  きついこと言うね、あいかわらず。シィルちゃんはどうだった?

シィル「えっ、…そうですね、リセットさんと仲良くなれてよかったです」

  うん、なんか水と油みたいな関係になりかねないからなあ(特に私のSSの場合…)

リセット「私としても、まあまあかな」

  そう言ってもらえると…(皆さんの反応が怖いけど…無反応が特に…)

二十一「…とりあえず、これで約束は果たされたんですね」

  ああ、そうなるな。パラレルの形で再び温泉へ…だな。

シルフ「…なんか私、作中からかわれっぱなし」

  からかいやすいもん、お前。

五十六「…私も、久しぶりにランス王にお会いできて、なによりでした」

  うむ、本編でちょっと不幸だったからな。そういえば、不幸と言えば…

サテラ「…そうよ」

ホーネット「ちゃんと書いてくれるんでしょうね?」

  …かなみちゃんだよね。

サ&ホ「なんでやねん!」ビシッ

  …お後がよろしいようで…

 

 

かなみ「…おちがいまいち」

 

  …しくしく

 

 

 

 


トップページへ アリスの部屋へ 真鬼畜王へ