「ねえ、パパ。リセット温泉に行きたい!」

 

 ことの発端はそんなリセットの言葉だった。

 

「うーーん。温泉かーー」

 ランスは玉座に座ったまま何かを考えだした。

「たまには良いんじゃないですか? 温泉につかってのんびりするのも。・・・リセットさんも城の中にいてばかりではつまらないでしょうし・・・」

 ホーネットがそうランスに勧めた。

「うむ! それもそうだな」

 ランスが頷いた。

「わーーい!」

 それを見てリセットが手をたたいてよろこぶ。時々すごく大人っぽかったりするリセットだが、ランスの前では子どものように無邪気であった。

「しかし、いきなりだなリセット。・・・急にどうしたんだ?」

 ランスが素朴な疑問を口にした。

「えっ! ・・・えーーと、あの・・・・・・」

 リセットはただ真っ赤になってうつむくだけだった。

 

 その理由としては、三日前に魔王の間で見つけた小説がおおもとの原因であった。

 リセットがなにげなくベッドの下から見つけた小説・・・タイトルは「湯けむり旅情シリーズ、OLぬれぬれ一人旅」・・・ランスの持ち物らしい、いわゆる官能小説と呼ばれるものであった。

 一応の経験はあるとはいえ、そこはそれうぶなリセットのこと、真っ赤になって読んだものだ。

 

 ・・・そう言えばあれっきり一度もしてくれないなあ・・・

 

 そんなことを思うとますます真っ赤になったのだった。

(・・・そんなこと言えないよー。・・・パパにいやらしい子だって思われちゃう・・・そしたら、そしたらパパに嫌われちゃうよー・・・)

 リセットはそう思うと悲しくなってきた。

「あっ、いや、別にいいんだ。じゃあどこに行くかな? な! リセット!」

 リセットの様子を察して、ランスが話をそらした。

「あそこなんてよろしいんじゃないでしょうか?」

 ホーネットがある温泉宿を提案し、ランスはそれに対して一も二もなくうなずいたのだった。

 

 

 にぽぽ温泉・・・自由都市地区にあるラジールの街のはずれにある温泉宿。

 そこのこじんまりとしていて、寛ぐ事の出来る・・・ってどっかで見たぞ、この文章!!(はっはっは、笑って許しちくり)

 その温泉宿にうし達を超特急でとばしてランス達はやってきていた。

 ふとランスが横を見ると、リセットがきょろきょろと興味深そうにあたりを眺めていた。

「どーした、リセット?」

「えっ?」

 急に話しかけられて驚いていたリセットだったが・・・。

「こーゆーとこ来るの、はじめてだから。

 ・・・クリスタルの森と、あとは魔王城しか知らなかったし・・・」

 うつむきながらそう言った。

「・・・そう、だったな」

「あっ、でもっ! いやだったとかじゃなくて、その・・・。

 

 ・・・パパのそばが一番だから・・・」

 

 リセットが真っ赤になりながらそう言った。

「・・・そうか・・・」

 ランスの顔もうつったかのように赤くなっていく。

「と、とりあえず、部屋に行こうよ」

「そ、そうだな!」

 すべての温泉客が魔王命令で追い出されたことは言うまでもない。

 

 

「ねえ、パパ。・・・にあうかな?」

 トイレから出てきたランスにリセットが聞いた。ランスの奴は着いたとたんにトイレに入っていたのだった。・・・しかも大のほう。

「んーー?」

 そう聞かれて、ランスはリセットの方を見た。

 リセットは宿に備えつきの浴衣を羽織り、髪をアップにしていた。

「・・・・・・い・・・」

「・・・い?」

 リセットが尋ねかえす。

「・・・いろっぺーー・・・・・・」

「・・・・・・(真っ赤)

 ランスがそう言うのも無理はなかった。特に意匠を凝らしたわけでもない素朴な浴衣だったが、そこがまた良く。アップにされた髪の下から覗く、うなじがまたそこはかとない色気をかもしだしていた。

「・・・こ、・・・これからどうしようか?」

 リセットは顔を真っ赤にしたまま聞いた。

「・・・あっ! ああ・・・そ、そうだな」

 ぼんやりとリセットを眺めていたランスだったが、その言葉に我に帰った。

「もう温泉につかろうか?」

 リセットがそうたずねると・・・。

「ふっふっふ、これだから初心者は・・・。まずは卓球で汗を流し、その後に風呂に入る・・・これが基本だ」

 ランスがうんちくをたれた。しかしそのとーりだ。誰が何といっても、温泉の前に卓球だ。これは定義である。(言い切っちゃったよ)

 

 

「よーーし、3セットマッチな」

 そう言うと、ランスはラケットを構えた。

「あの・・・」

「どーしたリセット?」

 リセットはもじもじしながら言いにくそうに・・・。

「私・・・卓球やったことない」

「・・・・・・・・・・・・。

 ・・・しょうがない。まず、ルールからな」

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「・・・よーし、もうわかったな」

「うん。・・・・・・多分」

 リセットもラケットをかまえつつ答えた。

「こーいうのはなにか賭けた方が盛り上がって面白いんだ」

 ランスが言った。

「賭けるって・・・何を?」

 リセットがきょとんとした顔で聞いた。

「うーーん、ジュースなんざ飲み放題だから賭けてもつまらんし、なにがいいかな・・・」

 ランスが真剣に考えはじめる。

 

 ・・・卓球の賭けでそんなに熱くなるなよ。

 

「よし! ・・・とりあえず、負けたほうは勝ったほうの言う事を聞かなきゃならんのな」

 

 ・・・ありきたりだなあ・・・

 

「ほんとっ! リセット、パパの子どもが欲しい!!」

「げっ!」

 ランスの呟きは目をキラキラと輝かせたリセットの耳には入らなかった。

(・・・こりゃあ、負けられないぞ)

 さすがに子どもまではまずいとランスも思った。

「じゃあ、俺様からな」

「うん!!」

 ・・・・・・

 第1セットはランスが手加減無しの11−4で取った。

 

 そして第2セット・・・。

 

「それっ!」

 ヒュルルルル・・・・・・カツン!

「あっ!」

「やったーー!」

 リセットの打ったボールは台のかどっぽに当たって落ちた。

「第2セットはリセットの勝ちだね!」

 リセットの言うように、13−11でリセットが第2セットを取った。

 

 そして迎えたファイナルセット・・・。

 

(・・・・・・やばい・・・やばいぞ・・・)

 

 ランスはかなり焦っていた。

 それもそのはず、リセットのマッチポイント・・・9−10とランスにはもうあとがなかった。

「いくね」

 リセットがピンポン玉を構える。

(やばい、やばすぎるぞ!!)

「そーれ・・・」

 リセットがピンポン玉をふわりと高く上げる。

 

「リセット! ・・・愛してるぞ!!」

 

「えっ!」

 思わず空振りしてしまうリセット。

「よっしゃあーーー!!」

「・・・パパずるいよ・・・」

 顔を真っ赤に染めたまま、リセットが抗議した。

「デュースはデュースだ」

 基本的に負けず嫌いだし、何といっても約束が約束なだけにランスはかなり卑怯になっていた。

「行くぞ!」

「うん」

 ランスが球を打った。そしてその球をリセットが打とうとしたとき・・・。

 

「リセット! ・・・大好きだぞ!!」

 

「あっ!」

 打ちそこなってしまった。

「よーーし! マッチポイント」

「・・・むーーー・・・」

 またひっかかってしまったリセットは、再び顔を真っ赤にしてかわいくうなった。

「今度はひっかからないんだから・・・」

 そう言って、リセットは球をトスした。

 

「リセット! ・・・」

 

「・・・その手にはひっかからないもん!」

 

「・・・今夜は寝かさないぜ・・・」

 

「!!!」

 リセットは耳まで真っ赤にして固まってしまった。

 

「しょおーーり! だーいしょおーーり!!」

 ランスは大人げなくも、そう言ってガッツポーズをした。

「・・・もう、・・・パパってば・・・」

 耳まで真っ赤にしたままラケットを口に当てて、リセットは照れくさそう言った。

「というわけで、俺様の大勝利に終ったわけだが・・・」

「うん、そーだね。リセットはなにをすればいーい?」

 まだほのかに頬を染めたまま、リセットはそう言うとランスの方をじっと見つめた。

「うっ! ・・・(そんないろっぺー顔で見ないでくれ)

「なんだってするよ」

「うう・・・」

 やっぱりジュースにでもしておけば良かったと思うランスであった。

 しかし賭けなんてなくっても、リセットがランスの言う事をなんでも聞くことは間違いなかったのだが・・・。

「とっ、とりあえず、風呂に入るぞ!」

「うん、そだね」

 

 

 ちょろちょろちょろ・・・・・・カコーン!

 

 ししおどしが鳴った。

「うむ、いい風情だ」

 庭にある露天風呂につかりながら、ランスはそう言った。

 無論、他の客はすべて追い出しているので、ランス以外はだれもいない。

 

 ・・・カラカラカラ・・・

 

「・・・パパ、・・・おまたせ」

「おっ! ・・・おお・・・」

 リセットが恥ずかしげに入ってきた。一応タオルで隠しているとはいえ、やはり恥ずかしいのだろう。

「・・・となり・・・いい?」

「・・・おお・・・」

 しずしずとランスの隣に腰をおろす。

 思わず緊張してしまうランスであった。

「・・・そういえば・・・」

「なっ! ・・・なんだ?」

 リセットの呟きにおおげさなリアクションをとってしまうランス。

「くすくす・・・。どーしたの、パパ?」

「いや! 別に! なにごともないぞ! ・・・そういえば何だって?」

「・・・うん。・・・そういえばちっちゃいころ以来だなって思って・・・」

「・・・何が?」

「・・・パパとその、・・・一緒にお風呂に入るの・・・って、・・・・・・ブクブクブク」

 自分の言ったことが恥ずかしかったのか、リセットはそう言うと湯船に顔を沈めていく。

「そっ! ・・・そーいやそーだな」

 ランスも恥ずかしいらしく、あさっての方向を向いてそう答えた。

 

 なんとも言えない沈黙が二人を襲う。ただ、ブクブクというあぶくの音だけが風呂場を支配した。

 

「パパ! 背中洗ってあげるよ!」

 はじかれたようにリセットがそう言った。

「おっ! おう、たのむわ」

 ・・・・・・・・・

「じゃあここに座って」

「おう!」

 リセットがポンポンと叩いたいすにランスが腰をおろした。

「よいしょっと・・・」

 ランスの背中にタオル地の感触がした。

「ほっ、・・・なんだ・・・」

 ランスがポツリとつぶやいた。

「? ・・・どーしたのパパ?」

 ランスの背中をこする手を止めて、リセットが聞いた。

「あっ、いや・・・なんでもない・・・」

 

 ひょっとしたら泡踊りかも・・・なぁーんて思っていたとは、さすがのランスも言えなかった。

 

「・・・変なパパ・・・」

 リセットはそうつぶやくと、こする手を再開した。

 

 コシコシコシコシ・・・。

 

 それからどちらも口を開かなかったために、ランスの背中をこする音だけが風呂場に響いた。

 

 コシコシコシコシ・・・・・・ふにっ。

 

「なっ! ・・・リセット!?」

 背中に二つの柔らかい感触を感じて、ランスは驚いてそう声をだした。

 リセットは背中から抱きしめるような感じで、ランスの背中にもたれかかっていた。

「・・・・・・・・・。

 

 ・・・パパの背中って大きいんだね・・・」

 

 ぽそりとリセットがつぶやいた。

「・・・・・・。・・・そうか?」

「・・・うん、・・・すっごく大きい」

 リセットは目をつむって、夢見るようにそうつぶやいた。

「バボラには負けっだろ」

 ランスは魔人一大きな、鬼の魔人バボラの名前をだした。

「ううん、・・・ずっとずっとおっきいよ・・・」

「・・・そうか・・・」

 

 

 ・・・ちょうどそのころ・・・

 

[うおーーー!!! わしもリセットちゃんと一緒にお風呂に入りたいよーーー!!!]

 マントでくるまれ、更にごていねいにも柱に縛り付けられた魔剣カオスの絶叫が部屋中にひびきわたっていた。

 

 ・・・・・・・・・ご愁傷様。

 

 

「ふーーー。・・・いいお風呂だったね、パパ」

 ほんのりと桜色に染まった頬をタオルでふきながら、リセットは隣を歩くランスに声をかけた。

「そ、そうだな・・・(いかーーん!! 風呂上がりはさらにいろっぺーぞ・・・)

 ランスの(そんなものがランスにあったとは信じられないかも知れないが)理性は必死で戦っていた。

「あっ! ねえパパ、あれなあに?」

「おっ! ・・・なっ、なんだ?」

「あれあれ」

 ランスがリセットの指差す方を見てみると、黒い物体が見えた。

 そう! 温泉宿には必須とされているレトロゲーム機である。

「どれどれ、・・・なんと!」

「どーしたの、パパ?」

「こっ! これは・・・。「イタリア人の兄弟」ではないか」

「イタリア人の兄弟?」

 リセットが怪訝そうに聞き返した。

 

 イタリア人の兄弟・・・・・・ゲーム史史上、はずすことはできない普及の名作である。

 赤い服を着た「イタリア人兄」と緑の服を着た「イタリア人弟」を操り、土管からあらわれる敵を下から一撃食らわせた後、その気絶した敵を蹴っ飛ばすことによって倒す・・・というシンプルきわまりないゲームなのだが、そのシンプルさの中にこそ原点を見出すことのできる名作中の名作である。

 また続編として、「超イタリア人の兄弟」「超・・・2」「超・・・3」「超イタリア人の国」「超イタリア人の世界」「超イタリア人64」・・・と少しジャンルを変えつつもたくさんの続編が作られていることからもその名作ぶりがうかがえる。

 

「しかし、一作目を置いているとは・・・あなどりがたし」

 ランスはうなるように言った。

 リセットはじいーっとゲーム機を見つめていたかと思うと、

「リセットやりたい! いっしょにやろう!」

「よし! やるか!」

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「ぶー、ひどいよー。リセットが蹴ろうとしたときに・・・」

 リセットが頬をふくらませた。

 ひっくり返っていた青いカメは、リセットの操る「弟」が蹴ろうとした瞬間、ランス操る「兄」の下からの一撃によって復活し、あわれ「弟」は死んでしまったのだった。

「ふふん、殺し合いこそ「イタリア人の兄弟」の醍醐味なのだ」

 ランスは悪びれずにそう言った。

「協力しあおうねって言ったのに・・・」

「協定はいつか破られるものなのだ」

「よおーし、こうなったら・・・」

 ・・・・・・

 

 結局、せっかく31面まで進んでいたのが、あっさりとその面で互いの残機を使い果たすこととなった。

 

 

 ランス達が部屋に戻ると、すでに夕食の準備が整えられていた。

 海の幸、山の幸(もちろん、女の子モンスターのではない)をふんだんに使用した超豪華な食事であった。

「うわーー! おいしそーだね、パパ」

「まあまあだな」

 ランスがとーぜんだと言わんばかりに言った。しかし次の瞬間・・・

 

「むっ!!」

 

 何かに気づいたように、急にランスが声をあげた。

「ど、どーしたの、パパ?」

 リセットがそう驚いて尋ねかえした。

 

「・・・こ、これは、・・・酒ではないかーーー!!!」

 

 ランスの絶叫の示すように、そこにあったのはお酒・・・それも大陸一とも名高い名吟醸「龍殺し」であった。   

「気のきかん宿だなー! こういう時はオレンジジュースだろが!!」

 

 ・・・・・・それはあくまで、ランスの主観においてである。

 

「がーー!! 責任者を呼べーー!!!」

 

 ・・・・・・すっげえ自分勝手・・・ 

 

「いいよ、私が言ってくるから」

 リセットはそう言うと席を立った。

「ん、別にお前が行かんでも・・・」

 そう言うランスに対し、

「平気平気、オレンジジュースだよね!」

「あ、ああ」

 

 

「あのーー・・・」

「はい、なんでしょうか?」

 厨房からまだ若い板前が出てきた。

 

 ・・・手に職を持つ人間はわりと優遇されており、ここの厨房も人間達の手によってまかなわれていた。 

 

「あの、・・・金玉(こんぎょく)の間ですけど、お酒でなくてオレンジジュースにしてください」

「こんぎょく・・・あっ! はっ、はい! わかりました!

 すぐにお持ちいたします!!」

 その板前は慌てふためきつつ答えた。

「くすくす・・・じゃあ、待っていますから」

 そんな様子に対して、にっこり微笑んでリセットはそう答えると戻っていった。

「・・・・・・ほえーーー、・・・・・・さっすが魔王様、きれいな娘つれてるなーー・・・」

 リセットの背中を見送りつつ、その板前はつぶやいた。

「おっと、いけねえ!! 早く持ってかねーと」

 

「サブ! ・・・お前なにしてるんだ?」

「えっ! ・・・はい、兄さん。金玉(こんぎょく)の間からオレンジジュースを持ってきてくれと言われたもので、これから持ってくとこですけど・・・」

 サブと呼ばれた、その若い板前が答えた。

「・・・・・・ほほう・・・」

 兄さんと呼ばれた年かさの板前はその言葉に何か考え込んだ。

「ふふん、馬鹿だなサブ。そんなもん持ってったら気ぃーきかねーって、魔王様に殺されっぞ!」

「えっ! ・・・どーゆうことっすか?」

「いーかサブ、女連れで、こーいうところで頼むオレンジジュースってのはこれのことなんだよ」

 そう言って示したものは、「スクリュードライバー」という名のオレンジジュースであった。

 

 

 その頃・・・

 ・・・

「パパ! 何が食べたい? リセットが取ってあげるよ」

「そーだな、じゃあそれとってくれ」

「うん、これだね」

 それは、50センチはあろーかという大きな真鯛の刺し身であった。

「はい! あーんして」

 箸でランスの口元まで刺し身をはこぶと、リセットが言った。

「えっ?」

「あーーん!」

「おっ、おう! ・・・・・・コホン!

 ・・・あーーん」 

 照れながらも、ランスは箸から食べた。

「美味しい、パパ?」

「うむ」

「次はどれいこうか?」

「じゃあ、それ」

 今度もこれまた大きな伊勢えびの生け作りであった。

「はい、あーーん」 

「・・・あーーん」

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・いいなあ・・・

 ・・・

 

[ずるいぞーーー!! ランスぅーーー!!!!]

 みんなの(作者の)代弁をしたのは、柱に縛りつけられたままの魔剣カオスだった。

「なんだカオス? うるさいぞ」

 おっくうそうにランスが言う。

「カオスさんも何が食べたい? リセットが食べさせてあげるよ」

[おうおう、リセットちゃんはやさしいのー。

 ・・・だれかとはえらい違いじゃ]

 カオスが目を細めつつ言った。

「てめーは、じじーみたいなしゃべりかたすんじゃねえよ」

「ねえ、何が食べたい?」

 リセットが天使のような微笑みをうかべて聞いた。

 

[リセットちゃんが食べたい!!]

 

 ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ!!!

 

[ジョーク! ジョークじゃ!! ・・・ちょっとしたお茶目なジョークじゃ!!

 ランス!! 蹴らんでくれーーー!!!!]

 

 ・・・・・・かわいそうなやつ。 

 

「お待たせいたしました」

 丁度そこへ恭しくサブが入ってきた。

「なんだ?」

「お言いつけどおり「オレンジジュース」しっかりお持ちしました」

 妙にオレンジジュースを強調する。

「・・・おう」

「それではごゆっくりお楽しみください」

 そう言い残し、サブは出ていった。

 

「・・・みょうにオレンジジュースを強調していたね・・・」

 リセットがつぶやく。

「そーだな」

 ランスも訳はわからなかった。

 

「よし! 今度はリセットにとってやるよ」

「えっ!」

 ポッと、リセットの顔が赤くなる。

「どれがいい」

「・・・ど、・・・どれでもいい・・・」

 手をもじもじさせて、うつむきながらリセットは答えた。

「よし! リセットあーーんしろ」

「・・・うん、・・・あーーん」

「うまいか?」

「・・・うん、おいしいよ。・・・あ、あの、・・・何をたべさせてくれたの?」

「フグの白子だ」

「白子って?」 

「きんたまだ」

「・・・・・・パパってば」

 リセットはさらに赤くなり、持ってきてもらったオレンジジュースに口をつけた。

「がっはっは! 照れるな照れるな、リセットはかわいいなー」

「もっ、もう・・・」

 リセットはこれ以上ないくらいに顔を赤くさせると、一息にオレンジジュースを飲み干した。

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「あれーー? このおれんじじゅーすおいしーー」

 

 リセットが妙にしたったらずな声をあげて、そう言った。

「ほう、オレンジジュースも一級品なのかな?」

「もういっぱいのんれいーい?」

「お、おう」

「えへへーー」

 嬉しそうにもう一杯飲み出すリセット。

 

(・・・なんか妙だな・・・)

   

 妙に陽気なリセットの様子にさすがのランスも変に思った。

「どれどれ・・・」

 ランスは自分のグラスに入っているオレンジ色の液体を口にした。

「・・・んなっ! こりゃ酒じゃねえか!!」

 ランスがオレンジジュースだと思っていたそれは、(余計な)気をつかったサブの持ってきたカクテル・・・スクリュードライバーだったのだ。

「えへへーー、ぱーぱ」

 リセットはうれしそうにランスに擦り寄る。

(そーいや、リセットは酒を飲んだことはなかったっけ・・・)

 物心ついたころから、常にランスの好みにあわせて育ってきたリセットはお酒を飲んだことがなかったのだ。

(しかし、スクリュードライバー一杯ぐらいで酔うとは・・・)

 子猫のように自分に擦り寄るリセットを見ながら、ランスはそう思った。 

「ねえ、ぱぁーぱ・・・」

 上目遣いに甘えた声を出すリセット。

「んん、なんだ?」

 仕方なくスクリュードライバーを飲みながら、ランスが答えた。

「りせっとのことすきぃー?」

「当たり前だろ」

「ぶうぅーー、ちゃんといってよぉー!」

 ほっぺをふくらませて、リセットが言った。

「はいはい、好きだよ」

「えへへー、りせっともぱぱのこと、らぁーいすきっ!」

 うれしそうに答えるリセットの様子に、ランスはやれやれという表情を浮かべつつ、微笑みをうかべた。

「じゃあさー・・・」

 スクリュードライバーを飲んでいるランスに、リセットが言葉を続けた。

 

「ろーして、らいてくれないの?」

 

「ぶふはぁーーーー!!!!

 

 ・・・・・・げほっげほっ!!」

 豪快にスクリュードライバーを吹き出す。

「らいじょーぶ?」

「ごほっ、ごほっ! ・・・いきなり何を言い出すんだ、リセット」 

 せき込みつつ、ランスは言葉をしぼりだした。

「らって・・・、らって、あれいらいいちろもらいてくれないもん!」

 リセットの顔が、みるみる泣き顔になっていく。

「ちょ、リセット・・・」

「ふえっ、ふえっ・・・」

 リセットは涙をぽろぽろと流して、しゃくりあげる。

「たっ、たのむから、泣かないでくれ・・・」

 

 リセットが生まれてから16年、ランスはリセットの笑顔と泣き顔にひじょーに弱かった。

 

「ひっく、ひっく、・・・・・・たんら」

「な、・・・何だって?」

 リセットのぽつりと言った呟きを、ランスが聞き返した。

 

「きっと、りせっとのかららにあきたんらぁーーー!!!」

 

「ちょっとまてこらぁーーーー!!!

 リセットになに言わせやがるっ!!!!!」

 

 ・・・・・・・・・すまん、つい・・・な。

 

「らってらって! ・・・つまんなかったから、らいてくれないんらぁーー!!」

 リセットはわんわん泣きながら、とんでもないことを言う。

「てめえが言わせてんだろがぁーーーー!!!!」

     

 ・・・・・・・・・却下。

 

「あ、あのな、リセット。

 そんなことはずぅええぇーーったいにないから、なっ!」

 おろおろしながらリセットを慰めようとするランス。

 

「じゃあ、らいてっ!!」

 

「・・・へっ?」

 ランスが間抜けな声をあげる。

「らから、らいてっ!!!」

「おーい、もしもし。・・・目がすわってるんだけど・・・」

 

 ・・・目の座っているリセットにも弱い・・・追加。

 

「・・・りせっと、ずっとまってたんらよ・・・」

 ぽつり・・・と、リセットが言った。

「・・・リセット・・・」

「・・・はじめてらいてくれた、・・・はじめてむすばれたあの日から・・・」

 真剣なまなざしがランスを射る。

「・・・たった一度のことだったけど、とってもうれしかったから」

「り、リセット・・・」

「パパ・・・」

 そっと目をつぶるリセット。

 

(・・・こ、このじょーきょーーはーーー!!!

 まっ、まずすぎるぅーーーーー!!!!)

 

 ・・・そう、これはあの時のシチュエイションに非常に近いものがあった。

 

(こ、ここでキスしてしまったら・・・)

 

 ・・・まさにあの時の再現となるだろう。

 

(だっ、だめだっ! キスしちゃ絶対だめだっ!!)

 

 ・・・しかし、そんな思いとは裏腹に、ランスの顔は徐々にリセットに近づいていく。

 

(だから駄目なんだよーーー!!!!)

 

 ・・・リセットの唇にランスのそれが、もうまさに触れようとする・・・

 

「・・・すー、すー」

 

「へっ!?」

 リセットの寝息がランスにかかる。

「はああああぁぁーーーーーーーー!!

 ・・・・・・なんだ、寝てたのか・・・」

 ランスは力尽きたかのように畳に手をつく。

「あ、あぶなかった・・・」

 

 ・・・ちっ!

 

「ちっ! ・・・じゃねえ!」

 

 ・・・ナレーションにつっこみいれるなよ。

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「ふーーー、・・・しかしあせったな」

 布団に寝かせたリセットを見ながらランスがつぶやいた。

[・・・かなりストレスが溜まっていたようだな]

 カオスが言葉を発した。

「・・・そーみたいだな」

 めずらしく素直にランスが同意した。

[な、なんならわしが・・・]

 ランスがギロリとにらむ。

[・・・冗談じゃい・・・]

 しおしおとカオスは引き下がった。

「リセットは・・・」

 ランスがぽつりと言った。

「・・・リセットは俺様にとって今・・・」

 ランスはそう言いつつ、寝ているリセットの頭をなでる。

 

「・・・一番大切な存在(もの)なんだ」

 

[・・・ランス・・・]

「もう、もう絶対に・・・

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・ランス様

 ・・・

 

 ・・・少女の微笑みがうかぶ・・・

 

 ・・・誰にも奪わさせない」

 ランスは静かに言った。

[・・・・・・そうか・・・]

 カオスはただそれだけを口にした。

 カオスにはランスの気持ちがよくわかっていた。

 

 ・・・大切なものを奪われたものの気持ちが・・・

 

 ・・・そして、その気持ちが他の誰にもわからないということも。 

 かつてカオスがその身を魔剣になること・・・魔人を滅ぼす力を求めたのも、似たような思いからだった。

 

 ・・・大切なものを奪った存在(もの)を滅ぼすために・・・

 

(・・・お前が聞いたら怒るだろうが、

 ・・・本当に良く似ているよ、わしとお前は・・・)

 カオスはそうして魔剣になり、魔人達を滅ぼす存在となった。・・・もっとも、それが今はその親玉である魔王ランスの腰にさされているのだから、不思議なものだ。

(ランス・・・お前はどこへ行く? どこまで突き進む? 終りなきその道を。

 魔王となり、人間達を滅ぼす存在となり、なにを目指す?)

 ・・・・・・・・・

 ・・・

[・・・できうるならば・・・]

 

「・・・なんだ?」

 思わず声に出てしまい、ランスの耳に入った。

[・・・いや、なんでもない]

「・・・リセットはだめだぞ・・・」

 ランスが言った。

[・・・仕方ないのう・・・]

 カオスは残念そうに声を発した。

「当たり前だ! ・・・もしなんかしやがったらコンクリ詰めにして湖に沈めっからな」

[わかっとるわい]

(できうるならば・・・

 

 ・・・誰かに止めてもらえることを・・・)

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・

「・・・・・・頭ががんがんするよう・・・」

 リセットが泣きそうな声で言った。

「ったく、酒なんか飲むからだ」

「・・・リセット、オレンジジュースしか飲んでないよう・・・」

 弱々しく抗議する。

「・・・・・・・・・。・・・もういい」

「うーーー、いたいよう」

 リセットの頭に響かないように、ゆっくりとうしを歩かせる。

「でも・・・」

「なんだ?」

 ランスが聞き返す。

「また来たいな」

「そうか・・・」

 ランスが笑みをうかべる。

「・・・じゃあ、来年もくっか?」

「うん! ・・・絶対来たい!!」

 ぱあぁっ、とリセットが顔を輝かせる。

「じゃあ、そうすっか」    

「うん! ・・・約束だよ!」

 リセットが言った。それに対して・・・

 

「ああ、絶対約束だ!」

 

 

 

 ・・・・・・RC16年11月、未来はだれにもわからなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 りーちゃんのラブラブ話を書こう!

 ・・・と書き始めたのですが、ちょっと切ない話になっちゃいましたね。

 

ランス「誰のせいだ、誰の!」

  ・・・うーん、だれのせいだろ?

ランス「お前だ、お前!」

  うそっ! 二十一のせいじゃん!

二十一「・・・そこで僕にふるか?」

  おや? いたの?

二十一「・・・ひどい」

リセット「また来ようね、パパ」

ランス「そうだな」

二十一「うわーーー!! ・・・なんだかすごく罪悪感が・・・」

  勇者の宿命ってやつね。(・・・二十一をいじめるのも楽しいかも・・・)

二十一「そーいうのは、かなみさんだけにしてください」

かなみ「やめて、そーいうこと言わないで」

リセット「・・・また行きたい・・・」

  うっ!

リセット「・・・また行きたいな・・・」

  ううっ!!

ランス「・・・どーする気だ?」

  ・・・どーしよう?

 

 

 

 というわけで、パラレルでもう一本書こうかな・・・なーんて思っちゃう終りかたになっちゃいました。 

 

 

 

 


トップページへ アリスの部屋へ 真鬼畜王へ