時はLP22年、かつての統一王…鬼畜王とも僭称されるが…ランスによって制定された大陸も、次第に混迷の度合いを深めてきた。
おおむね平和だとも言えるが、それも時代と共にゆるやかに軋み始めてきている。
ルドラサウムが夢から覚めたか、はたまた人々が平和に飽き始めたのか、様々な場所で歪みが生じてきていた。
そして歪みは、末端から…弱いところから噴出するものである。
「うっがっっっっあああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
切れた。
さすがに切れた。
これでもかっていう位に、切れた。
「一体全体、何がどうしたって言うのよっ!
この払っても払っても、降りかかってくる火の粉は一体全体どういうことよっ!!」
かの地のお姫様…一部では魔王ともおそれられている…リセット・カラーは、憤慨していた。
彼女の二つ名も響き渡り、さらには独自の防衛網も確実に敷かれ始めてきたというのに、カラーを…クリスタルを狙う暴徒の数は減らない。…いや、むしろ確実に増加の一途であった。
「…人類統一からわずか十数年…でも、やはりまとめ上げるには広く、人口は多すぎたのでしょうか」
彼女の従者とも言うべき少年…いやむしろハッキリキッパリ奴隷であるところの…セイルが、感慨深げにつぶやいた。
大陸の支配形態としては、かつての三大大国支配の形態を取っているが、偉大な王の登極とすぐさまの消失は、かつては安定していた三大大国支配体制をも不安定なものにさせていた。
その不安定であるという世界への不安は、人々に影を落とし、各地の軋み…その一例としてのカラーへの風当たりの悪さへと繋がっていた。
人々が望むもの…それは、かつて抱いた偉大な王。
あらゆることが可能であると思わせしめた、巨大なるカリスマ。
すなわち、キングオブキングス!
「おぉけぇ、わかったわ…」
「…え?」
「なってあげようじゃない! この私が!!」
「え、…ええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鬼畜王ランス超々々外伝
「魔法女王リセット」
リセットはっちゃけ軍団 フェイズ
LP 22年 3月 第1週
「あのー、一応聞いておきますけど、本気ですか?」
おずおずとセイルが尋ねる。
「本気も本気、ちょー本気よ!」
父親譲りなのか、自信満々にリセットが言い切った。
バァァーーーーーーン!!
「っくーーー!!! さっすがお姉さま!! ニアの目に狂いはありませんでしたわ!!!」」
どこから聞いていたのか、サリスを伴ってやってきたニアが、はじけるような笑顔でリセットを褒め称える。
「サリス、私はトーゼン、リセットお姉さまの世界統一を支援いたしますわ!!」
キャーキャーとはしゃぎまくった後、ニアがサリスに向かってそう宣言した。
「了解しました。
ではリセット様、リセット様のご支援はカーム家が全力をもっていたします」
「ふえ? なんかよくわかんないけど、よろしく〜♪」
「そう言えば、ニアさんのファミリーネームって、初めて聞きましたよねえ」
なんとなく予想がついていたのか、既に耐性ができているのか、リセットとセイルが世間話でもするように答える。
「ニア様のフルネームは、ニア・カーム・ヘルマン。
先のヘルマン女王シーラ・ヘルマンが1子にして、ヘルマン王位継承権第1位の王女にございます」
「えっ、ええええぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわっ、出来すぎだなあ」
素直に驚くセイルと、某SS作家の無能さをあざ笑うかのような顔をして、そうつぶやくリセット、…うう、ほっとけ…
「まあ、いいや。
とりあえず、ラボリにある悪党の本拠地を占拠後、宣戦布告よっ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!」
「了解です」
「…マジですか」
…リセットはっちゃけ軍団、世界統一に向けてその第一歩を歴史に刻むのだった…
ヘルマン軍 フェイズ
LP 22年 3月 第1週
「パットン、あんたの姪が、あいつの娘を担ぎ出して、宣戦布告をしてきたわよ」
黒髪のカラーが、どこか面白そうな表情で玉座に座る男にそう告げた。
「へえ? くっくっく、誰に似たんだろうな、一体」
対するヘルマン王…パットン・ミスナルジも、面白そうにそう答えた。
「そうねえ、シーラ嬢にも、アリストレスにも似てないねえ。…強いて言うなら、おじさんのあんたに似たんじゃない?」
黒髪のカラー…ハンティ・カラーが、浮かんだ笑いを隠さずにそう言った。
「で、どうするんだい? 待ってたら転がり込んでくるはずの王座を、わざわざ奪ろうって言ってるけど?」
「いたずらに民の血を流すわけにもいかないが、…とは言っても、ただ奪われるのもしゃくだねえ」
そう言うと、パットンはニヤリと笑った。
リセットはっちゃけ軍団 フェイズ
LP 22年 3月 第2週
「一騎打ち?」
リセットは思わずそうつぶやいた。
ラボリで徴収した屋敷…ラボリでも悪名高い執政官の館で、今後の行動を議論していたところに届いたその声明は、意外と言えば意外、そうでないと言えばそうでないと言える提案だった。
「ええ、つまりは大将同士の一騎打ちにて、勝敗を決しようということですね」
リセットのつぶやきに、サリスが冷静に答える。
いつのまにやら、サリスはリセットの副官みたいな形におさまっていた。
「こちらとしても、いたずらに戦禍を大きくするつもりはないし、願ったりかなったりだけど…」
一戦もまじえることなく出されたその提案に対し、リセットはどこか腑に落ちないものを感じる。
「ヘルマンの臣下がこう言うのもおこがましいのですが、…パットン王は、戦闘バカなのです」
ちっともおこがましいと思っていなさそうな表情で、サリスがきっぱり言い切った。
「ぶっちゃけ言うと、手加減苦手なのよねえ。ニアの伯父さんを殺しちゃうかも…」
沈痛そうな面もちで、リセットがニアを見る。
その視線は…殺しても恨まないでね…というか、いろんな意味でヤバイ行為に至らないでね、ホント、お願いだから…と言っていた。
「だぁ〜いじょうぶですよ、お姉さま♪
叔父さんってば、筋肉バカだから、殺しても死にませんって」
ノープロブレムと言った面もちで、ニアがリセットを見る。
その視線は…恨むなんてとんでもない…でもでも、いろんな意味でヤバイ行為ってどんなんですか? 興味津々です…と言っていた。
「ええぇい! 考えても仕方ない! 受けるわよ、この勝負!!」
いろんな不安…特にニア…を振り払うように、リセットがそう叫んだ。
帝都ラング・バゥ 大広場
自分たちの王国の行く末が決まる決戦ということで、そこには大勢の国民であふれかえっていた。
しかしながら、そこには暗い空気はあまりなく…むしろ、おもしろイベントを見に来ているような、活気があった。
「なーんか、この国ホントに大丈夫なわけ?」
その視線を二手に集めている一方、リセットは広場の中央に設けられた闘場の上で、思わずつぶやく。
「ふっ、他人事みたいに言ってるが、お前さんも当事者じゃないのか?」
視線を集めているもう一方、パットンが楽しそうな表情でそう答えた。
そんな二人のやりとりを、闘場脇に設けられた応援席兼、見物席兼、司会席にて、眺めているのは…
「お姉さまー!! がんばれー!!!!」
…リセット応援団長兼、親衛隊隊長、ニア・カーム・ヘルマンと…
「頑張ってくださいませ」
…リセットはっちゃけ軍団参謀長兼、侍従長、サリス・ファクタリスと…
「なんか、とんでもないことになってるなあ…」
…リセットの従者というか、キッパリ奴隷、セイルと…
「ふふふ、お祭りみたいね」
…ニアの母親にして、現国王妹、シーラ・ヘルマンと…
「いや、そんな楽しそうに…ふぅ、まあ、いいか…」
…ニアの父親にして、現国王の親友、アリストレス・カームと…
「いいんじゃないの、退屈してたところだしねえ」
…現国王の親代わりにして、愛妾、ハンティ・カラーと…
「まったくだ、楽しまないと損ってもんだ」
…現国王の親友にして、ヘルマン第1軍将軍、ヒューバード・リプトンといった…一部を除き…かなり豪華な、面々であった。
「それで、対戦前にもう一度確認したいんだけど…」
リセットのその言葉に、パットンもうなずくと…
「そうだな、全国民に対して、ここで改めて誓おう!!」
…本当に全土に響かんとも思える大声で、そう答えた。
「私が負けたら、ヘルマン国王全権をそのまま委譲しよう!!」
朗々とした声で、はっきりと宣言した。
「じゃあ、私が負けたら?」
「うむ、そちらが負けたら! …負けたら…」
朗々と響いていた声は急速にしぼんでいき…
「…どうしようか?」
見物席に座るハンティに視線をやり、小声で聞いた。
…パットン、負ける気満々である…
思わず頭を抱えるハンティと、大笑いするヒューバード、苦笑するしかないアリストレスであった。
「あー、じゃあ、あれだ! お尻ペンペンだ」
一国とそれが同じなのかという空気の中…
「パパにだってぶたれたことないのにっ!! ぜぇぇぇーーーったいに負けないからっ!!」
…一騎打ちは行われたのだった。
…かくして、世にも奇妙な無血委譲として、この一騎打ちは後の歴史に記されることになる…
リセットはっちゃけ軍団 フェイズ
LP 22年 3月 第3週
「リセット様、すべての準備が整いました」
先週の対決に勝利したリセットの、ヘルマン国王即位式がいよいよ執り行われようとしていた。
いろいろごたごたがあったが、パットン王からの譲渡、ニア王女の後見という名の下で、リセットのヘルマン国王即位が決定した。
ヘルマン評議員としては存在したことがあっても、その王位にカラーがつくことは、歴史上初めてのことである。
「うー、正直めんどくさいなあ」
堅苦しいことが苦手なリセットが、不平をもらす。
「いいんですよ、ニア王女の愛妾としての実権でも。ニア王女も喜んで変わってくれますよ」
「うう、それだけは勘弁してー」
ここ3日間、論争を呼んだ問題を蒸し返されて、リセットはしぶしぶうなずいた。
「リセット様、みんなに守らせたいことがあったんじゃなかったですか」
セイルがリセットの後押しをするように、そう告げた。
「うん、そうだった。このことのために、立ち上がったんだもんね」
セイルの言葉に大きくうなずくと、リセットはバルコニーへと歩み始める。
「「「うううわぁぁぁぁあぁああああああああああああああぁあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」」」
リセットがバルコニーに出ると、巨大な歓声によって出迎えられる。
先の王朝に不満があったわけではないだろう。…ただ、飽いていたのは事実かもしれない。
カラーが自分たちの上に立つことに、全く不満がないということも、ないだろう。…ただ、リセットの父親がかの統一王ランスであるということへの期待の大きさが伺えた。
リセットがスッと手を挙げると、歓声がゆっくりとおさまる。
「これだけ多くの人々に集まっていただけたこと、まずは嬉しく思う」
たくさんの国民を前に、恐れることなく朗々とした声で言葉を始めた。カリスマも父親ゆずりか、人の上に立つ自信と気品を既に兼ね備えていた。
「私から言いたいことはそうはない。…しかしながら、是非とも言いたいこともある」
サリスも原稿を用意していたが、言いたいことは既に決まっていると断っていた。
そのことはサリスも…かつてのランスの宣言を、恐れなかったわけではなかったりするのだが…了解していた。
「まずは、カラーのことである。未だに強い差別が残っているものがいるだろうが、カラーと人とが、まったく平等であることをここに宣言する!」
ただの勢いというのもあったが、このために立ち上がったのだから、その宣言は当然であった。
「人のカラーへの暴虐は同じ法律をもって、厳しく罰する。また、平等であるの宣言通り、逆もまた同様である」
原理原則をうたうその姿は、どこか奇をてらった部分の目立った父親よりも、国民にはさらなる期待が持てた。
「そして、もう一つは!」
リセットがギュッと拳を握りしめる。
それを見守る大衆も、固唾をのんで見守る。
「近親相姦も、全然オッケー!!!!!!!!!!!」
大きく拳を突き出して、先ほど以上の声で、高々と宣言した。
…思わずポカンとなってしまった大衆をしり目に…
「お姉さまお姉さま、同性愛は? 同性愛もオッケーだよね!?」
たったかたーと飛び出して飛びついてきたニアに、リセットはグッと声を詰まらせながらも…
「ええぇぇぇい、しょうがないわね! 認めるわよ!! …あっ、だからといってくっつくな! お互いの意志を尊重しなさい!!」
…先ほどまでの厳粛な空気もどこへやら…
「とにかく! 互いの意志を尊重しての愛の形を、さげすむことは許しません! わかった!? 愛はすばらしいの!! …えーい! だから互いの意志を尊重しろって言ってるでしょ!! ニア、そんなとこさわるなー!!!!!」
…そこに集まったすべての人間が思ったことは…そして、後生の歴史家も同様に思わずにはいられなかったことは…
「待っててねパパ! リセットは愛のために世界を統一するから♪」
…あの親にして、この娘あり…
…ちゃんちゃん
後書き
5周年記念SSです!!! やったね、5周年!!!(どんどんヒューパフパフ)
いやあ、ひっさしぶりにりーちゃんを書きました♪
今のおいらにりーちゃんを書けるかと心配していたんですが、あれよあれよと言う間に、書き上がっちゃいました。
うむ、まだ終わらん! 終わらんよってことです!!(謎)
それでは、いつものように(笑)、感想を大大大ぼしゅーということで♪