〜全国のリセットのお父さん達へ〜
「るんるんるるるー、るんるららー」
はなうた交じりに冷蔵庫からチョコレートを取り出す。
30センチ位の巨大なハート型のチョコであった。
「うん、きれいに固まってる」
そう呟くと、そのチョコを机のうえに置いた。
そして、そのチョコに先ほどまで湯煎していた、ペン型のホワイトチョコで字を書いていく。
すごく真剣な表情だ。一字一字に思いのたけをこめていく。
「・・・できた」
そのハート型チョコいっぱいに、白いかわいらしい字がならんでいる。
そこにはこう書かれていた。
・・・パパ大好き・・・
「パパ早く来ないかな」
まだ昇ったばかりの太陽を見ながら、リセットはそう呟いた。
「・・・パパにチョコを贈るの、もう何回目になるんだろう・・・」
・・・はじめてパパにチョコを贈ったのは、確か・・・
・・・・・・・・・
・・・
「るんるんるるるー、るんるららー」
そのかわいらしい天使は、朝からごきげんでした。
だって、今日は少女の大好きなパパが来る日なのですから。
「るんるんるるるー、るんるららー」
「あら、ごきげんね、リセットちゃん」
誰かに呼ばれて少女が振り向くと、黒いメイド服を着た女の人が立っていました。
「あっ、かなこおねえちゃん。
あのねあのね、きょうはパパがくるんだよ!」
少女が嬉しそうに報告した。
「そう、よかったわね」
かなこおねえちゃんと呼ばれた、その女性が微笑んで答えた。
「それでね、それでね・・・・・・。・・・・・・?
・・・それなあに?」
女性の持っている大きな袋に気がついて、リセットが尋ねた。
「これ?
これはチョコレートよ」「チョコレート!?
リセット、チョコ大好き!」その答えに、リセットが目を輝かせます。
「えっ、・・・・・・・・・うーーん」
かなこお姉さんは困った顔をしてしまいました。
「・・・ごめんね、これをリセットちゃんにあげるわけにはいかないのよ」
すまなそうにそう答えた。
「えっ? ・・・どーして?」
くれるものと思っていたリセットは、思わずそう聞き返してしまいました。
「これらのチョコレートは、みんなケッセルリンク様にさしあげるものだから」
その答えは、リセットには変なもののように感じられました。
お髭をはやしたケッセルリンクのおじさんと、いっぱいのチョコレートがどうしてもつながりません。
「・・・そんなにいっぱい、おじさんが食べるの?」
リセットは感じたことを素直に聞いた。
「・・・うーーん、・・・ちょっと大変かもしれないわね。
・・・でも」
「・・・でも?」
「・・・もらって欲しい。・・・食べて欲しい。
このチョコの一つ一つそれぞれに、みんなの気持ちがこもってるから」
「・・・気持ち?」
「そう、・・・気持ち。
・・・ほんとはみんなそれぞれ一人ずつ、直接手渡したいと思ってるんだけど、お屋敷を放っておくわけにはいかない。だからこうして私が代表してお渡しに来たのよ。
・・・だから、こんなにたくさんあるけれど、どれもリセットちゃんにあげるわけにはいかないの。
・・・だって、今日はバレンタインデーですもの」
「・・・ばれんたいんでー?
・・・・・・それなあに?」リセットは初めて聞く単語です。
「リセットちゃん、知らないの?」
「うん」
「バレンタインデーというのはね・・・」
・・・・・・・・・
・・・
・・・とたたたたたたた、ぱたん!!
「どうしたのリセット?
もうパパが来たの?」家の中に駆け込んできたリセットに、母親のパステルがそう聞いた。
「ママ、ママ!
ばれんたいんでーって知ってた?」「・・・ばれんたいんでー?
・・・・・・なあにそれ?」パステルも知らなかったようだ。
・・・まあ、女ばかりのカラー種族の女王が、お菓子会社の陰謀によりねじまげられたバレンタインデーを知っているはずもないのであるが・・・
「ばれんたいんでーっていうのは、おんなのひとが、だいすきなおとこのひとに、チョコをあげないといけないひ、なんだって!」
・・・もろにお菓子会社の作ったバレンタインデーの意義そのものであった。
「えっ!
・・・それっていつなの?」パステルもあわてて聞き返した。
「きょうなんだって!
・・・・・・ママ、どうしよう・・・」リセットが泣きそうな顔で言った。
「・・・うーーん、今から街まで買いに行くのは・・・」
・・・・・・無理、だった。
「・・・ふ、ふえええぇぇ・・・ふえええぇぇーーーーん!!」
リセットは泣き出してしまった。
・・・
「・・・おかしいな?」
ランスはカラーの居住区に入ったところで、いつもと勝手が違うことに気がついた。
いつもなら入った瞬間に、駆け寄ってきて飛びついてくるはずのリセットの姿が見当たらないのだった。
「・・・まさか!
なにかあったのか!!」そう思った瞬間、ランスの足は我が家目指して駆け出していたのだった。
・・・バン!!
大きな音とともに扉が開け放たれた。
「・・・どうした!
リセット?」ランスの目にまず入ったのは、わんわん泣いているリセットと、それをなだめているパステルの姿であった。
「あっ、ランス・・・」
「ふえええぇぇぇーーーーーーん!!
ぱぱあぁぁーーーーーー!!!」リセットがランスに泣きながら飛びついた。
「・・・一体、どうしたんだ?」
リセットにというよりも、パステルに対してランスが聞いた。
「あの、・・・今日って、ばれんたいんでー・・・なんですってね」
「えっ!?
ああ、そういやそうだな。・・・それが一体?」ランスには何がなんだかわからない。
「・・・ひっく、ひっく、・・・あのね、リセットね、・・・チョコがないの・・・」
リセットがしゃくりあげながら言った。
「・・・でもね、でもね、・・・ひっく、・・・パパのことだいすきなの、・・・・・・でもないの、・・・ないの・・・ふえええええぇぇぇぇーーーーーーん!!!!」
なんとなくランスにもわかったが、・・・わかったがしかし、・・・そのぐらいのことでこんなに泣くとは信じられなかった。
「・・・あのな、リセット・・・」
「・・・あっ!!!!!」
ランスが何かを言いかけたときに、リセットが大きな声をあげた。
「パパ!
ちょっとまっててね!!」そう言いながら、リセットの足はもうすでに駆け出していた。
・・・たしか、たしかここに、このなかに・・・
「・・・あった!!!」
リセットはにっこりと笑った。・・・ないたからすが・・・というやつだ。
・・・たたたたたたたたた・・・
「パパ!!」
リセットは自分の部屋から駆け下りてくると、第一声にそう言った。
「・・・あのね、あのね」
後ろになにかを隠したままで、リセットはもじもじしだした。
「はい!
パパ、チョコレート!!」リセットはそう言って、後ろに隠していたものを差し出した。
半分以上なくなっている、食べかけのチョコレートだった。・・・これこそ、リセットが自分の部屋から探し出してきたものだった。
それは一週間前にランスがあげた、おやつの中の一枚の板チョコだった。大事に、大事にちょっとずつ・・・食べては置いて、・・・食べては置いて、したものなのだろう。
リセットのかわいらしい歯の跡も残っていた。
「・・・ありがとよ、リセット。早速いただくよ」
そうリセットの頭をなでてから、ランスがそのチョコを食べようとすると・・・
「あっ・・・」
リセットが声をあげた。
「・・・どーした、リセット?」
「ううん、なんでもない・・・」
そう言いながらも、リセットの目はじっとチョコを見詰めていた。
「ふっ・・・」
ランスは破顔すると、チョコレートを二つに割り、大きいほうをリセットに差し出した。
「一緒に食べるか、リセット!」
「うん!!」
大口のランスでなくても一口であっただろう、もとのサイズの四分の一もない、その一欠けらのチョコを二人はゆっくりと、・・・ゆっくりと、味わって食べたのだった。
・・・・・・・・・
・・・
「ふっ、くくく・・・」
「どーしたの、パパ?」
チョコを渡そうとしたとたん、いきなり笑い出したランスにリセットが尋ねた。
「・・・いや。・・・どーも、リセットからチョコをもらうとあの日のことを思い出してしまってな」
「もっ、もう!
あのことは言わないでよ!!」リセットが真っ赤になって言った。
「いやーー、あれはちょっと忘れられないぞ」
「ふんだ!
そんなこと言うと、もうパパにはあげないもん!」「あっ! それは困る。
・・・だが、ほんとに嬉しかったぜ、あのチョコは」
「・・・ほんと?」
「ああ、ほんとほんと」
「しょうがないなあ、それじゃあ・・・」
「パパ!
はい、チョコレート!!」
後書き
1000アクセス記念になにを書こうかと悩んでいた時に、そう言えば、
(あえて考えないようにしていたのだが・・・)2月14日はバレンタインだなと思い出し、バレンタイン記念とあわせさせてもらいました。「バレンタイン」「リセット」といえば、のるんさんがアリスソフトのホームページに出していたSSを思い出しますね。あれは名作でした
(今はちょっと読めなくなっているみたいですが・・・)。あれに似ないようにと、気をつけて書きました。
蛇足ですが、
「緊急企画!
リセットからもらったチョコを食べよう!!」
はっきり言って簡単です。
(・・・はがねの精神力さえあれば・・・)まず、チョコを買います。作中にあるような30センチくらいのハート型だと言う事ありません。
(・・・おそらく、店員さんから蔑みと憐れみの入り交じった視線を向けられることはまちがいないですが・・・)次にペン型のホワイトチョコで、「パパ大好き」と大きく書いてください。
そして、ここが肝心!
これまでのことを全てきれいさっぱり忘れて下さい。
そして、机の上にさりげなく置かれたチョコを何気なく発見します。
それこそ、リセットが大好きなパパ
(あなた)に贈ったチョコなのです。あまりの嬉しさ
(空しさ?)に、涙がちょちょぎれることうけあいです。