「きゃああああぁぁぁーーーーー!!!」

「いやああぁぁぁぁーーーーーー!!!」

「だれかあああぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 …平和な森の中にわきおこる悲鳴…

 

「ふふん、女とやれて、それに一個あたり10万で買ってくれるってんだから、ぼろい商売だぜ」

「ああ、まったくだ」

 襲いかかる者達…それは人の皮をかぶった野獣達…いや、自らの食べる分しか襲わない以上、野獣に対して失礼であった。

 

 カッ………ドドォォォーーーーーーーーンンン!!!!

 

「…そこまでよ!」

 

 突然におこった落雷とともに、少女の声が響く。

「…な、なにもんだ…?」

 数人の仲間をやられ、疑念と警戒の声を発する。

 それに対し…

「ふふ、…わたし?」

 その少女はくすり…と笑みを浮かべると…

 

「聞いて驚け! このお方こそ、大陸中にその名をとどろかす…

 『戦慄の破壊神』、『滅びを撒き散らすモノ』、『恐怖の女神』…

 可愛い顔してババンバァーーーンな…」

 

「…コラッ」

 

 横から現れて言葉を並び立てていた少年を、少女はけっ飛ばした。

「…けっ、蹴らなくてもいいじゃないですか!」

 蹴られたお尻をなでながら、少年が抗議の声をあげた。

「うるさい! あそこまで言われて蹴らずにいられますか!」

 少女が柳眉をあげて言った。

 

 …少年を踏みつけながら…

 

「だって、ホントのことじゃないですか! …リセット様!」

 

 目に涙を浮かべながら言った少年の言葉に…

 

 …ザワッ!!

 

「…リセットだって、あの『戦慄の破壊神』の…」

「ああ、『滅びを撒き散らすモノ』…」

「…『恐怖の女神』…リセット・カラー…」

 

「…ほらあ、あってる」

 踏みにじられながら、少年が指さした。

「うっ、うるさいっ! あんたが悪い!!」

 赤面しつつ、思いっきり踏みつけた。

「…し、しどい…」

 しくしく泣きながら、少年はあわれみを誘うような声をあげた。

 

「おいおい、ひでえなあ」

 

 男の一人が口を開いた。少女はその一言にピクリと反応して…

「…ひどい? …あんたたちに言われたくないわね」

 男達をにらみつけて、少女が言った。

 男達の背後に、カラーの…着衣もぼろぼろとなった…女性達がいた。

 額のクリスタルを確認し、最悪の状況にまでは至っていないことにホッとしながらも…

「わたしは…

 わたし達を『物』扱いするやつは『物』扱いすることに決めてるのよ」

 少女は怒りをかみしめながら、そう言った。

「…僕の立場は?」

 少年の言葉は黙殺された。

「へへ、…しかし一石二鳥とはこのことだな」

「…!?」

 男の言葉に、少女が怪訝な顔をした。

「あんたにゃあ、多額の賞金が懸かってんだ。

 …死体で1000万、生け捕りで5000万ってなあ!!」

 そう叫ぶと、男達が少女に向けて殺到した。

「フン……」

 少女はつまらなそうに…

 

「リセットスペシャアアアァァァーーーーール!!」

 

 

 ……………

 ……

「…ふう、こういったバカドモって、絶滅しないものね…」

 死体を灰も残らないくらいに焼き尽くしてから、リセットはポツリと言った。

「……そうですね。

 …リセット様の勇名が鳴り響いてから、減りはしたものの…いなくはなりませんね」

 少年もうつむきながら、そう答えた。

 リセットの命令で、その目的のために噂のほとんどは少年が故意に流したものだった。

 

「よしっ!

 

 …落ち込んでてもしょーがない! らーくんとこに遊びに行きましょう!」

 リセットが、我ながら名案だ!…という風にうなずいた。

「……またですかあ?

 3日前に行ったばかりじゃないですか」

 ヤレヤレ…という感じで、少年が言った。

「うるさいわねえ、いいのよ、行きたくなったから行くのよ」

 リセットはいっこうに取り合わなかった。

「…まあとにかく、その前に女王様に報告しないと…」

「うっ! …やだなあ…」

 少年の言葉に、リセットは露骨に嫌そうな顔をしたのだった。

 

 

 ……………

 ……

「……というわけで、わたしの怒濤の活躍で、今日も森の平和は守られました」

 そのリセットの言葉に対して…

「…リセット…

 …何度も言うけれど、あなたのしていることは悪いことではないわ。

 でもね、もう少し自分の立場を考えて」

 パステルは何度も繰り返している言葉を、再び言った。

「あなたは次期女王となる身なのだから…」

「…………はい」

 渋々といった感じで、リセットが答えた。

「…それと、セイルから聞きました。

 ときどき森を抜け出しては、ランスのところへ遊びに行っているようね」

 

「…せぇーいぃーるぅー…」

 

 リセットの声に、少年は縮こまった。

「…セイルには私が無理に聞いたのです」

 少年の身を案じてか、パステルはそうフォローを入れた。

「……時々…です。

 …それに、パパのところじゃなくて、らーくんのところです」

 リセットはつぶやくように答えた。

「…同じ事でしょう。

 パパが恋しい気持ちはわかりますが、もう少し女王としての自覚をもって…」

 

「……もうたくさん…」

 

「……リセット?」

「…もううんざりなの! 何かと言えば、女王女王って…

 わたしはママと違うの! 自分の気持ちに正直にいきるの!!」

「…リセット…」

「本当はパパに会いたいくせに、自分の気持ちを押し殺して…

 私はそんなのイヤなの!

 好きな人の子供を産んで、好きな人の側にいつまでもずっといる…

 …そんな、そんなシィルさんみたいに生きていきたいもん!!」

 リセットが堰を切ったように言った。

「リセット!!」

 そのパステルの言葉が合図となったかのように、リセットは飛び出していった。

「あっ、り、リセット様…」

 セイルは扉とパステルを何度も見比べたあと、パステルに礼をしてからリセットのあとを追いかけた。

 

 

「ほんとあったまきた!」

 リセットが文句をブチブチ言いながら、鞄にいろいろなものを詰め込む。

「あ、あの、リセット様…」

「なによ!」

 セイルの言葉に顔をあげて、キッと見つめた。

「びくうっ! …えっと、その、どうするんですか? 鞄にそんなに詰め込んで…」

「フンッ、決まってるじゃない。家出よ、家出!」

 何を当たり前な…と言うように、リセットはそう答えると再びものを詰め込み出す。

「い、家出って、どこに?」

「そりゃあ、パ…らーくんとこよ」

 リセットはコホッ…とせきをついて言い直した。

「あ、はあ…」

「もう、今日という今日は出ていってやるんだから」

「はあ、それで何日ぐらいですか?」

 しょうがないなあ…といった感じに、セイルが聞いた。

「何日って、ずうっとに決まってるじゃない!」

 鞄に詰め込み終わり、リセットが顔をあげる。

「やっぱ、親子が一緒に暮らすってのが、一番自然じゃない?」

 リセットが目をキラキラさせながら言った。

「そんなもんですか?」

 あきれたようにセイルが答える。

「そりゃあそうよ、やっぱり父親としては愛する一人娘の成長ぶりが絶対、気になるはずよ!」

 指をチッチッ…とならして、リセットが言う。

 

 「…リセット…大きくなったな…」

 「…はい。…だって、もう17になりますもの…」

 「…どれ、お前の成長ぶり、パパが見てやろう…」

 「…あっ、そ、そんなとこ……」

 

「…って、きゃああああぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

 リセットが真っ赤にした顔に手を当てて、叫び声をあげる。

「…おーい、もしもーし…」

「…あっ、だめよパパ。そ、そんな親子で…」

 やんやん…と首を振りながら、照れまくるリセット。

「…リセット様ってばあぁー…」

「…で、でも、パ…パパになら…り、リセットのはじめて…」

 手のひらに『の』の字を書きながら、もじもじする。

 

「…このファザコン…」

 

 セイルがボソリと言った。

「だっ、だーれがファザコンよ!」

 いきなり現実に戻ってくると、セイルの口を左右に思いっきり引っ張った。

「そーゆーこというのはこの口かぁー」

「…ひゃい、いひゃいれふ、りへっほはまあ…」

 …セイル、口は災いの元…

「だいたい、わたしの周りってろくなのがいないから」

 セイルの口から手を離すと、リセットはため息混じりに言った。

「奴隷商人から助けた役立たずとか…」

「…それ、僕のことっすか?」

「…あとは、万年発情む…」

 

 バアアアァァァーーーーーーンンン…

 

「リセットお姉さま!!」

 

 思いっきり扉を開け放って現れた少女は、開口一番そう言い放った。

「…出たわね、万年発情娘…」

 げっそりとした顔をして、リセットが言った。

「リセットお姉さま!

 私を捨てて、奴隷のセイルと駆け落ちするなんて嘘ですわよね!!」

「…ど、どこで、んな噂が…」

「いけませんわ! 男なんて所詮、下半身でものを考える生き物!」

「…下半身でものを考える女に言われたくないな…」

 そんなセイルのつっこみも、どこまでも盛り上がっている少女には聞こえない。

「そう、あれは二年前! 

 森のはずれでけがらわしい男共に襲われそうになっていた、私を助けて下さったのはお姉さまでしたわ!!」

「…今思うと、あれが大失敗だったわね…」

 遠い目をして、リセットが言った。

「そう、お姉さまはまさに私の『白馬に乗った王子様』でしたわ!」

「そんなもんに乗った覚えはないし、わたしは女だ」

 そう、王子様でなく王女様だね。

「あの運命の日に、ニアは決めましたの!

 一生このお方にお仕えしようと!!」

「や、やめてくれえぇー」

 心底イヤそうに、リセットが言った。

「良く聞きなさい! この奴隷!!」

 ニアはピッ…と、セイルに指さし言った。

「お前ごときがリセット様にお仕えするなんて、百万年は早いわ!

 卑しい男の考えることですもの、スキを見つけてお姉さまの ピィーー を狙ってるんでしょうけど、そうは問屋がおろしませんことよ!!」

「ちょ、ちょっと…」

「お姉さまの ピィーー は私がブチ破ると決まってますもの!

  ピー も、 ピーー も、 ピィーーー だって私のも…」

 

 ドカアッ!!!!

 

「…はあはあ、…いいかげんにしろ!」

 どこからか取り出した100tハンマーで、リセットはニアを文字通り黙らしたのだった。

 

 

 ……………

 ……

「…ふう、…ついてきてないでしょうね?」

 リセットは周囲を警戒しながら言った。

「…さすがにあそこまでしたら…」

 セイルも、そう言いながらも警戒を怠らない。

 ちなみに、ニアは気絶後に柱にぐるぐる巻きに縛り上げてきた。

「…だいたい、パパも薄情よね。らーくんが生まれてからはちっとも遊びに来てくれないもの」

 リセットが不満そうに言った。

「まあまあ、リセット様みたいに魔法が使えるならともかく、近い距離じゃあないですから」

 セイルが取りなすように言った。

「そうねえ。

 あっ! 見えてきた!!」

 リセットの言うように、丘の上にたつ一軒家が見えてきた。

 庭のところで、10歳くらいの少年が遊んでいるのも見えてくる。

 

「おおぉぉーーーい! らあぁーーーくぅーーん!!」

 

 リセットは少年に、手をふって近づいていく。

 少年にも、リセットの姿が目に入る。

 

「げっ! …りーねえ…」

 

「うふふ、らぁーくぅん。

 げっ!…って、何? げっ!…って!?」

 リセットは微笑みを浮かべながら、少年のほっぺたをつねり上げる。

「ひゃいひゃい、いひゃあいいい」

「そりゃあ、言いたくなるよな。うんうん」

 セイルは同情するように、うなずいた。

 

「あら、リセットちゃん」

 

 家の中から女性が出てきて、リセットを見てそう言った。

「あっ、シィルさん、こんばんは」

 手を離して、リセットはそう言うとペコリと頭を下げた。

「シィル様、こんばんは」

 セイルも頭を下げてあいさつした。

「うふふ、リセットちゃんもセイル君もこんばんは」

 シィルと呼ばれた女性は、にこやかに微笑むとそう言った。

「うわあぁぁーーーん、おかあさーーん! りーねえちゃんがいじめるよう!」

 少年はそのすきにリセットから離れると、そう言って女性の後ろに隠れた。

「い、いじめてないわよ! 人聞きの悪い!」

「…いや、あれはいじめだ…」

 リセットの言葉を、セイルはすぐさま否定した。

「あんたは黙ってろ!」

 足を思いっきり踏んづけて、リセットが言った。

「くすくす…相変わらずね、リセットちゃん。

 そうやってすぐ、好きな人にいじわるするのは…」

 女性がくすくす笑いながら言った。

「えっ!? …す、好き…」

「へっ! 変なこと言わないで下さい!!」

「ふふ、お父さん…」

 …に似たのかしら…と言おうとして、女性は照れて黙ってしまった。

 

「おっ! リセットじゃないか」

 

 背後からやってきた男がそう声をあげた。

「あっ、パパ!」

「元気そうだな」

「う、うん。パパも…」

「おう」

 男はそう答えて、やさしいまなざしでリセットを見つめた。

 そのまなざしに、リセットはポーー…っとなってしまっているのだが…

「今日の仕事はどうでしたか、あなた?」

「ふっ、当たり前だろ。とーぜんうまくいった」

「じゃあ、お食事にしますね」

「うん、そうするか」

 まだポーーー…としているリセットに…

「…りーねえ」

「ん、なに?」

「…とーちゃんはかーちゃんのものだから、りーねえのはいるすきなんてないぞ」

「ぐっ! こ、この…」

「ふん」

 少年は両親に続いて家の中に入っていった。

「ら、らーくん、いつのまにあんなに生意気に…」

「…いじわるな姉に対抗して…でしょうねえ」

 うんうんとうなずくセイルに…

「だまれ!」

 アッパーをあごに食らわせると、リセットは家に入って鍵を閉めた。

 

「ああっ、入れて下さいよ! リセット様あああぁぁぁーーー!!!」

 

 夜のしじまに、しばらくセイルの絶叫が響いたのだった。

 

 

 ……………

 ……

「…ふう」

 再び鞄にものを詰めおわり、リセットが息をついた。

「あれ? リセット様、もう帰るんですか?」

 セイルが驚いたようにたずねた。

「まあね、森を放っておくわけにもいかないから」

 そう言ったリセットの顔には、女王としての風格が感じられた。

「…そうですね」

 セイルもにっこりと笑うとそう答えた。

 

 

「…リセット様…」

「んー、なに?」

 リセットは振り向かずに聞いた。

「僕、がんばりますから」

 セイルはある種の決意をしながら言った。

 

「ふーん…」

 

「…そ、それだけですか?」

 セイルが泣きそうな声をだす。

「ふふ…

 

 …負けるな、男の子!」

 

 リセットは笑ってそう言った。

 

 

 

 もう一つの世界の話、これにて一時閉幕です。

 

 ではでは、みなさまごきげんよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 20000アクセス突破! ありがとうございました。

 今回の記念SSは、りーちゃんの話です。

 

 …ですが、あのりーちゃんではなく、別の世界のりーちゃんです。

 こんなりーちゃんもいかがでしょうか?

 書いてた本人は楽しかったです。

 

 

セイル「でも、リセット様がファザコンなのは一緒なんですね?」

  とーぜんである!! わたしの中のりーちゃんの定義である。

ニア「納得いきませんことよ!」

  だって、他のやつにりーちゃんは絶対わたせねえ!(浩之口調)

セイル「で、でもでも、なんか僕とリセット様いい雰囲気ですよね?」

  それは気のせいだ!

ニア「そうよ! お姉さまは私のものよ!」

  それは絶対にない!

 

リセット「それじゃあ皆様! できればまたお会いましょう!」

 

 

 ではでは、感想なども本当にお願いしますね。

 最後に、20000アクセス突破、本当に感謝です!!

 

 

 

 

 


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