ベッドの上に横たわる恋人の姿。 
頭の中にもやがかかったようで、肝心な事が何も思い出せない。 
彼女の手をとる。 
――ひどく、冷たい。 
何度目かの夜が訪れる。 
夢を、見た。 
深い湖の底、彼女の屍が沈んでいる。 
それは一瞬でかき消え、水底は暗くよどんでいった。 
それは罪の表れか？ 

目を覚ますと、傍らには変わらない彼女の姿。 
曖昧な記憶が、ほんの少しだけ蘇る。 

泣いている自分。 
横たわる彼女。 
何度も謝罪の言葉を呟き、俺は彼女の首に手を巻き付けていく―― 
傍らの彼女を見る。 
華奢な首に残る、赤黒い痣。 
それは、自らの罪の証なのだ。 

彼女は病に侵されていた。 
日に日に痩せ細り、弱りゆく彼女。 
しかし、彼女はいつも静かに微笑んでいた。 
苦しむ素振りすら見せずに。 

一歩一歩、確実に死に近付いていく彼女に何も出来ない無力さ。 
俺は疲れ果てていた。 
彼女をこれ以上見つめ続ける事にも、何の慰めにもならない言 
葉をかけ続ける事にも。 

解っていた。 
これがただの醜いエゴだという事を。 
彼女を愛しているから、彼女を苦しみから解放するのだという 
建前。 
本当は、彼女を憎んでさえいたのかもしれない。 
もう――限界だった。 
何度もこの腕に抱いた彼女の甘い躯。 
変わり果てた姿となった今でさえ、あの頃の面影が消えない。 

彼女の首に手をかけ、ゆっくりと絞めつけていったあの時。 
最期まで、彼女は微笑んだままだった。 

まだ、夜は終わらない。 
闇に浮かぶ、堕ちた自分の姿。 
曖昧だった記憶、過去の断片が鮮やかなものに変わるたび、も 
う戻れない事をはっきりと悟っていく。 

いっそ、この全てが幻なら。 
しかし、目の前に横たわるのは揺るぎない事実。 
愛しい人は、もう二度と目を開かない。 
自らが、彼女から永遠に奪ってしまったのだ。 

還りたい。 
暖かだった、幸せだったあの場所へ。 

無意識にサイドテーブルを探ると、指先に冷たいものが触れた。 
俺は、何のためらいもなくそれで胸をえぐった。 

変わらずベッドに横たわる、彼女の甘い屍体。 
床に崩れ落ちた俺の目に、シーツに散った自分の血が映る。 
それは赤い花束のようにも見えた。 
彼女と俺の墓石に刻まれた、赤い花束に。 


一曲だけで申し訳ないですが、蟻塚です。 
歌詞と曲の雰囲気から、このような情景が浮かびました。 
舞台は今より少し昔のイメージです。 

なまたま ◆IxT6281Ch. ：03/03/21 22:21 ID:cOUM8YFb

なんで「甘い」死体なんだろう？ 
ホルマリンズ漬けにでもしてたのかな  

724 ：03/03/21 22:00 ID:nKyb54pN

>724 
個人的には「甘い」っていうのは本当に甘いわけではないんじ 
ゃないかなと。 
生前の彼女の香りなり何なりを思い出して、死んでしまった彼 
女にもその思い出を重ねているというか。 
個人的な解釈ですけど… 

なまたま ◆IxT6281Ch. ：03/03/21 22:21 ID:cOUM8YFb

凄いねー。そこまで浮かばなかったｗ 
蟻塚ってタイトルがよく分からんが・・・

727 ：03/03/21 23:22 ID:dllQh7+m

>727
タイトル…解釈するのにかなり置いてけぼりにしてしまいまし 
たが(ﾆｶﾞﾜﾗ 
蟻塚っていうのは、確か蟻が作った柱みたいな巣のことですよね。 
蟻がたかるような甘い(と主人公が感じている)屍体をそれに 
例えたものなんじゃないかなと思いました。 
あと、墓石の象徴なのかもしれないとふと思ったり。 

Nana ：03/03/21 23:22 ID:dllQh7+m

蟻塚は飛び降り自殺の歌だと思ってました・・ 
君＝僕で 
君＝飛び降りた自分の死体 
僕＝自分の幽霊 
解明かす〜記憶を＝幽霊がどうして自分が死んでしまったのかを
　　　　　　　　　思い出している。 
深く見えない底＝ビルの最上階から見おろした情景 
蟻＝自分の死体に集まる野次馬。 
甘い屍体＝野次馬の興味を引くような死体。 
押し寄せる〜無力さを＝自分の病の進行の速さに死を決意する（幽霊の回想） 
花束刻む君の墓石＝なまたまさんと同じで、
　　　　　　　　　自分の死体の周りに血が出ているさま。 
花束刻む俺の墓石＝あそこで死んでいるのは本当に俺なのか？
　　　　　　　　　と、空から幽霊が自分の死体を見て疑っているさま。
　　　　　　　　　「蟻の集う誰の屍体」も同様です。 
解ってた〜もう＝解ってる、自分が自分を愛してたのは。
　　　　　　　　でも病に侵された自分の躰を憎んでた。 
蟻塚＝飛び降りた自分の死体に野次馬が集まるのを
　　　上から幽霊になってしまった自分が上から見おろしているさま。 

だと思っていたんですが、
それだと微妙に合わない部分が出てくるので
やっぱりなまたまさんの方が合ってるのかな、と思いました。
というかなまたまさんの表現が綺麗すぎる！（ｗ 

長文＆亀レスすいません。

Nana ：03/04/19 02:01 ID:B9aY0srm