ムック 儚くとも人の生の儚さ、生きていくことの無意味さ、そして愛することの惨めさ。 それをやっと、知ることが出来ました。 ――これでこの胸の痛みを終わらせることが出来るなら、終わらせてしまおうか。 僕はそうぼんやりと考えると、あの人と暮らしていた部屋を出た。 明日、この部屋も引き払ってしまおう。 そして、今日までの僕をここに置いて行こう。 あなたのいない僕の生に価値などあるのだろうか? 答えてほしいのに、あなたはもうここにはいない。 あなたは僕にとって唯一の存在だったのに。 世界は止まることなく動き続ける。 僕はその流れに逆らうことより従うことを選んだ。 純粋さを置き去りに、大人になる道を選んだのだ。 汚れた大気の中、汚い大人達に囲まれて、自分もそれに染まっていくのを感じる。 毎晩疲れ果てて部屋に戻り、布団にくるまって眠る。 子供のように、体を丸めて。 いつしか笑うことすら忘れてしまった。 ――いつか、微笑える日が来ますように。 僕はいつもそう祈っていた。 たとえ、それが叶わぬ願いだったとしても。 そんな日々が続いたある日、僕はあなたに出会った。 汚れきってボロボロになった僕に、あなたは微笑みかけてくれた。 こんな僕でも生きる価値はあるんだと教えてくれたのだ。 あなたに触れて、僕は赦されたような気がした。 あなたが微笑みかけてくれる限り、僕は純粋でいられると――そう思った。 あなたのために僕は生きる。 あなたのために僕は微笑える。 そう、思っていたのに―― あなたは死んでしまった。 生きて、微笑っていて。そう僕に言い残して。 ――目の前を、何本目かの電車が走っていく。 彼女と出会った日も、こうしてぼんやりと踏切の前に立っていたっけ。 この遮断機を越えてしまえば、僕は終わる。 簡単なのだ、死ぬことなど。 あなたを亡くして、無意味な命を長らえさせる苦痛に比べれば。 惨めな愛情を抱えて生きていくことに比べれば。 ああ、でも。 あなたは僕が生きることを望んだ。 生きて、微笑うことを望んだ。 それはあまりにも残酷で、あまりにも苦しいこと。 このまま、あなたの面影を抱いたまま、苦痛と共に生きていくのか。 しかし僕には、そうするしか道はないのだ。 こんな僕を愛してくれたあなたのために、たったひとつ出来ることなのだから。 これがあなたへの愛の証明。 たとえそれが、儚くとも。 短い歌詞の中にギュッと物語が濃縮されてる感じなので、ちと苦労しました… 主人公の恋人(と仮定)の死因はあえて限定しないことにしました。 病死?事故死?などと、色々考えたんですが…。 しかしよく分からない解釈でますますスマソ(;´д`) Nana :03/06/14 11:24 ID:ZHh+vCZ4 |