「ねぇバッシュー」
「…………」
「さっきもココ通ったよ?」
同じ場所に
激しく吹きつける冷たい風は、時々雪も混じり体に痛みが走る。
剣もろくに持てないくらい凍く手、動かす足も重い。
ここパラミナ大峡谷で2人ポツンと雪の中にいるのには訳がある。
別に使命や命令ではない。事故だ。
「そうだな」
「なんでそんな涼しい顔してられるのさぁー!」
「大声を出すと魔物が集まっくるぞ、体力も消耗する。
それに、どうしてこうなったのか自分の胸に手を当てて考えるんだ」
「…ごめんなさぃ」
常に冷静なバッシュは、いつもと変わらずそう言って小さいため息をした。
元はといえば。こんな事になったのは私のせいだった。
皆で昼食を終えてテントを片付け、いざ出発しようとした時のこと。
金庫当番だった私のリュックから、全財産が入ったギル袋を落としてしまったのだ。
「ん? これはのじゃないのか?」
「え…? あぁーーーー!!」
後ろでバッシュが、落ちていたギル袋を拾い上げた。
私はそこでやっと落とした事に気付いた。
「おいコラ。 あぁ〜じゃねぇーだろ金庫係! さっさと取って来い!!」
「ごめんなさーい!」
バルフレアに頭を叩かれ、小走りでバッシュの元に向かった。
「ありがとーうバッシューー!!」
そしていつものノリで、バッシュに突撃した。
しかし、それが運のつきだった。バッシュの背後は深い谷。
初めは緩やかな坂のようにも見えるが、奥が深くて下まで見えない。
「うぉっ!!」
「え…っ キャーーーーー!!」
案の定、2人とも谷に落ちた。
後ろでヴァン達が追いかけようとしているが、バルフレアに止められたのが見えた。
自分とバッシュを呼ぶ声が、段々遠くなる。
朦朧とした意識の中、ほんのりと感じる温もり。
こんな吹雪の中、何故こんなに温かいのか。とうとう自分はあの世に行ってしまったのだろうか。
夢見ごこちな感じで、重い瞼をゆっくりと開けるとそこには…
「キャーー!」
「いった!!」
私はバッシュの上に覆いかぶさるような体制だった。
そして目の前には、やたらと近いバッシュの顔。
本日二回目の叫びを上げて、思いっきり彼の胸を押してしまった。
気を失っていたバッシュも、突然の痛みに目を覚ました。
「あっごめん!! 大丈夫?」
「あぁ なんとか…は?」
きっと、私をかばって自分の体を地面に叩きつけてしまったのだろう。
背中をさすり、痛みに顔を歪めながらもなんとか笑顔を作ってくれた。
私も多少、足を擦りむいているが、バッシュに申し訳なかったから伏せておいた。
「あたしなら大丈夫! へーき平気」
「そうか、良かった」
体重を支えながらゆっくりと立ち上がるが、足にあまり力が入っていない。
横から彼を支えようと肩に手をやると、一瞬だが顔を歪めた。
「あんまり動くと危ないよ」
「…すまない」
少しづつながらも歩けるだけ歩き、迷わないように所々剣で壁に印を彫った。
暫くすると、バッシュも私なしで歩けるようになってきた。
が、今この状況を「迷った」以外なんと表そうか。
「迷っちゃったね」
「…のようだな」
「あぁーもう早く戻りたーーい!」
しびれを切らし雪の地面に座り込んだ。
その様子に、バッシュも近くの岩に腰を下ろす。
本当はもっと早く座りたかっただろうに。さっきからずっとそんな気がしてた。
「下手に動くより、ここでじっとしていた方が得策かもしれないな」
「一応食料あるしね」
バッシュは背負っていたリュックを横に置き、壁にもたれかかった。
リラックスしたように、肺の奥から深いため息をついた。
私に気遣ってずっと遠慮していたのだろう。
ゆっくりと目をつぶり、しばらくすると規則正しい吐息が聞こえてきた。
「やっぱ疲れてたんだ」
寝ているバッシュの横に座り、自分の頭を彼の太ももあたりで支えた。
あたりはとても寒くて辛いけど、バッシュの周りだけ温かい気がしてとても心地よかった。
どのくらい経っただろう、気がついたらバッシュが羽織っていたジャケットが掛けられていた。
横には、周りを見回している彼の姿。
「んーー。 あ…」
「どうやらそのまま寝てしまったみたいだな。
だがここでは危険だ、寒さが凌げる場所へ行こう」
「うん」
「さっきこのあたりを回ってみたんだ、向こうの崖の裏に洞窟があった。
あまり深くはないが、十分だ」
私の横にある荷物を片手に、手を差し出してくれた。
こんな緊急事態にも冷静で。 先の事を最も考えているバッシュ。
彼が差し伸べてくれる手が、とても頼もしかった。
彼の手をしっかり握り、立ち上がった。
「ありがとう」
「どうしたしまして」
そしていつでも見せてくれるこの笑顔。
バッシュがやんわりと微笑みかけてくれると、心の中のつっかえが消えてしまうようで、凄く安心する。
もう一度彼の笑顔をを見ようと顔を上げた。
しかし、そこにはさっきのような優しいバッシュはいなかった。
目に力が入り、眉間にはしわが寄っている。雰囲気も違う。
敵がいる。
バッシュの顔を見てすぐに分かった。
敵と戦う時に、彼がいつも見せる真剣な目だった。
次の瞬間、彼の手を握っていた方の腕が強く引っ張られ、彼の体に押し付けられた。
「キャッ!?」
「くっ!」
ブンッと頭上すれすれに、槍のようなものが横切った。
同時にバッシュと私の体は傾き、倒れた。
よろめく私に対し、バッシュはすばやく身を起こし、次の攻撃に備えた。
敵はダークスケルトン。だが1体じゃない。
2人の周りを囲むように3体いる。
「また来るぞ! 剣を持つんだ!!」
「分かった!」
バッシュの手にはすでに剣が持たれていて、敵の攻撃を弾いていた。
敵2体は動くバッシュの方へ、一番私に近かったのはこちらに向かって槍を突き立てていた。
早く私も戦わなきゃ。
スラリと細身の剣を鞘から抜き出し、向かってくる槍を横に弾いた。
その隙に本体のほうへ切り込むが、敵もそう簡単に倒れてはくれなかった。
ギロリとした赤黒い瞳と目が合い、強い殺気を感じた。
再び矛先をこちらに向け猛突進してきた。
だが身のこなしなら、こんな骨より私の方が断然上だ。攻撃をかわし、剣の腹で槍を下に弾いた。
勢いを制御できず、槍はそのまま下に傾き雪の地面に刺さった。
早く抜こうと頑張っている隙に、今度は三連続で切り込んだ。
敵は槍を残し、私の足元でバラバラになった。
「ふぅー」
危なかった〜。
突如襲った奇襲をなんとかのりきり、ほっと胸をなでおろした。
「!!後ろだ!避けろ!!!」
「え?」
急に耳に入ってきたバッシュの声の意味が分からないまま、後ろを振り向いた。
目の前にいたのは、槍を高く振りかざしたスケルアーマー。
よく見たら、肋骨の所にバッシュの剣が刺さったままだった。きっと骨の間に挟まって取れなくなったんだ。
「うわっ!!」
振りかざした槍が頭上に降ってくる。
慌てて後ろに避けたものの、バランスを崩してしりもちをついてしまった。
そのまま槍は勢いを止めることなく、私の足を切りつけた。
「いっ…!」
浅いがふくらはぎを切られた。足に力が入らず、動けない。
再び槍を振りかざしてくる黒い影に、成すすべなく、怖くて強く目を閉じてしまった。
本来聞こえてくるはずの肉を切り裂く音ではなく、ザクッと鈍い音がした。
恐る恐る目を開けると、目の前の敵の影が濃くなり、動かなくなった。
そして、ガランッと音を立てて槍が倒れ、足元にバラバラと骨が散らばった。
敵が消え、その向こうには、もう1体の敵が持っていた槍を手にしたバッシュの姿が。
だが、逆境で表情まではつかめなかった。
「バッシュ!!」
「…大丈夫…か?」
「私は大丈夫だよ! 足の怪我も大した事な…」
突如迫ってくる黒い影。
バッシュが自分の方へ力なく倒れてきた。
突然のことで何がなんだか分からず、受け止めるので精一杯だった。
「バ…バッシュ!? どうしたの?」
「はぁ…はぁ……」
荒く肩を上下させるが弱々しく、息をするのですら辛そうな呼吸。
彼を支えていた手に感じる生暖かな感触。
彼の異常に気付き、ゆっくりと体を起こした。
「…!!」
腹部を槍で刺された傷跡が。しかも2ヵ所。
1つは体を貫通してしまっていて、出血も酷い。
傷を見た瞬間、自分の血の気も引いていくのが分かった。
私のせいで、バッシュが...。
救いを求めるように、強く私の腕を握ってくるバッシュの手が冷たい。
このまま出血し過ぎたら、急激に体温が下がって凍死してしまう。
慌ててケアルをかけるが、いまだ出血が止まらない。
私程度の魔力では、完全に回復出来なかった。
すぐにそばに転がっていたリュックを引っつかみ、ガーゼと包帯を取り出した。
流れてくる冷や汗を乱暴に拭いながら、何重にも重ねたガーゼを波打つ傷口に当てた。
痛みに顔を歪めるバッシュ。握られた腕が痛い。
彼の体を少し起こし、すばやく包帯を巻いていった。
ウォーーーーン……
谷に鳴り響く低い遠吠え。
こんな時にウルフが…!
風に乗った血の匂いに気付いたに違いない。
焦る気持ちが手にも伝わったのか、包帯が緩む。
逃げなきゃ。
こんな状態では、まともに戦えない。
今度は3体どころじゃ済まないはず、きっと群れでやってくる。
ここに長居するのは危険だと判断し、急いでリュックを片手にバッシュを担いだ。
「っよいしょ!! バッシュ!痛いけど我慢してね」
「…はぁ……すまない…」
軍人として鍛えられた筋肉質な体を担ぐのは、正直容易な事ではなかった。
でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ。
力を振り絞って、雪に足を取られながらもバッシュの言ってた洞窟に向かった。
*
腹部の激しい痛みが、波打つように耐えずやってくる。
その辛さとは裏腹に、後頭部から肩にかけて、柔らかな温もりを感じる。
薄れていた意識が徐々に戻ってくると、周りの状況が分かってきた。
パチパチと火をつけた木が弾けた音と、洞窟独特の音の反響。
目の前に、ぼんやりと浮かび上がったシルエット。
そこに…いるのは……
「…!?」
「うわっ!ちょっとバッシュ急に起きちゃだめだって」
「…どうして?」
痛みでそこまで大きな声は出せなかった。
だが、この状況は…少々動揺する。
目の前にはの顔が、しかも下から目線で。要するに、膝枕をされているのだ。
傷口には丁寧に包帯が巻かれていて、横にはべっとりと血がついた大量のガーゼ。
どのぐらい出血したのだろう。少々貧血ぎみだ。
ここは、きっと私が見つけた洞窟だ。小さな焚き火が、洞窟を暁色に染めていた。
「傷まだ痛むでしょ?」
「あぁ…暫く歩けそうにないな」
「…」
何気なく言ったつもりだった。
だが、は私の言葉を聞いたとたん、表情を曇らせた。
何か悪いことをしたかと思い、すぐに謝る。
「すまない」
「なんでバッシュが謝るの」
「いや…私が何かしたと思って」
「違うよ…謝るのはあたしの方だよ」
は私の傷を見て、痛々しく眉を寄せた。
そして、血ににじんだ包帯をそっと撫でた。
「あたしの怪我なんか…すぐ治っちゃった」
「怪我したのか?」
「うん、ちょっと足をね」
は包帯を巻いたふくらはぎに目を落とした。
足に怪我をしたまま私を抱えてここまで来たのか?
そんな事を考えると、さほど酷くない傷でも非常に痛々しい。
「あたしのせいで…ごめんね」
の目に溢れた涙が頬を伝った。
そんな姿を、見ているだけで辛い。この怪我は彼女のせいではない。
寒さで凍りついてしまった手が言うことを聞かず、剣を離してしまった私が悪いのだ。
体を動かすと少々痛むが、ゆっくりと片腕を動かし、彼女の涙を拭った。
「君が悪いんじゃない」
少し頬を赤らめたが、拭った私の手に顔を摺り寄せた。
が時々見せる子どものような仕草には、いつも癒される。
自然に笑みがこぼれてしまう。
それが気に入らなかったのか恥ずかしかったのか、赤さが増した。
「バッシュ…動けるんだったら頭どけるよ///」
「それは困る」
最初は動揺したものの、ここは居心地がいい。
このままから離れて、冷たい洞窟の壁に体を預けてまうのは惜しい気がした。
涙を拭った手も、彼女の赤くなった頬から離せずにいた。
「もう少しこのままがいい」
私の手は、の頬の横に流れる茶色がかった髪に触れた。
くせのない真っ直ぐな髪は、何のためらいもなく指の間をすりぬけた。
それを何度も繰り返し、最後は頭を撫でた。
ふんわりと微笑みかけてくれる彼女が、とても愛しい。
そして、ずっと思っていた事をやっと言葉に出来た。
「君は可愛いな」
ボンっと音が出るぐらい一気に真っ赤になる。
そんな可愛いところも、必死に自分を助けようとする心も、子どものような弾けた笑顔も。
誰にも奪われたくない。
どうやら自分は、独占欲というものが強いらしい。
の全部が愛しくて、の全部が欲しい。もっとずっとこのままでいたい。
気がついたら、勝手に体が動いていた。
* *
「ふぇ!?」
間の抜けた声が洞窟に響く。
髪に当てられていた手が首元に移動し、そのままバッシュの方へ引っ張られた。
上半身だけが、彼の上に覆いかぶさった。
私の目と鼻の先に彼の顔が。こんな至近距離でバッシュを見たことがなかった。
突然の事に驚き目を丸くし、真っ赤なまま硬直している。
心臓の鼓動が耳にうるさい。
だが、彼の目は真剣でなんの迷いもなかった。
彼がゆっくり頭を浮かしただけで、お互いの唇が触れ合った。
「ん…」
最初は触れ合うだけで一度離し、次からは甘いディープキスの連続だった。
だが、それだけでは収まらず、私ごと半回転してバッシュが上になった。
彼は少し体を離し、私をしっかりと捕まえた。
バッシュの表情は、さっきの真剣な顔から一転し、不敵な笑みへと変わった。
その表情を見て危険を感じ、身構えた。
「えっ…ちょっ待って///」
「何を?」
「だって…バッシュ怪我してる…し」
「私は構わんさ」
いつもは見せないバッシュの行動。
困惑した私の顔を見て、さらに笑みを深める。
餌に食らいつく猛獣のような視線。
私ビジョンから見ると、バッシュが黒くてたまらなかった。
やばい。あたし食われる!
必死に何かここから逃れる手立てはないかと頭をフル回転させる。
そんな私の苦労もしらず、どんどん体を近づけてきた。
「あたし足怪我してるし…ね?」
「足は関係ないだろう?」
「でもっ…!」
まだ言い訳しようとする私の口を強引に塞ぐ。
怪我をしているのに、よくもこんな動けるものだ。
って関心してる場合じゃないっす。
徐々に動きが激しくなり、私の息も上がってきた。
すると、バッシュはゆっくりと私の唇から離れ、首に移った。
少し歯を出し首筋に噛み付いた。
犬の甘噛にのような、痛くない程度だったが、絶対歯型ついちゃってる。
そのまま上に移動し、耳元にキスされた。そして…
「手当てしてくれた御礼v」
いやっ! 御礼になってないし!!ってか助けてーー!!
彼女はバッシュのされるがまま、しっかり御礼を受け取りました(笑)
でも、彼を必死に看病した事を非常に後悔したそうです。
―おまけ―
「2人とも無事でよかったですね!」
「ったくは間抜けなんだからよー」
「ご迷惑おかけしました」
2人は無事ブエノスアイレスに到着し、バルフレア達と合流できた。
帰って来るなりパンネロやヴァンが優しく出迎えてくれた。
だが、彼女の足取りはぎこちなくフラフラだった。
「おいどうした…腰に力入ってねぇーぞ?」
「…!! 腰とか言わないで!!!///」
「??!!」
顔を真っ赤にした彼女に、突然怒鳴られるバルフレア。
慌ててアーシェ達の後ろに隠れ、馬鹿!っと言い放った。
2人でギャーギャー口喧嘩をしているのを、少し遠くで見守るバッシュとフラン。
「何かしたの?」
「いや? 何も」
そう言って腕を組み、口元に手を当てニヤニヤするバッシュ。
笑いを必死に耐えているようにも見えるが、黒いオーラを放っていた。
フランも、そうっと言って微笑んだ。
<感想>
エミリアです!
日々頑張っているご褒美に、といつもサイトに遊びにきてくださっているまりさんからバッシュ夢をいただいちゃいました♪
ちょうどその頃、脳内を埋めていたとある妄想があり、これを他人が執筆したらどうなるか試してみよう!
・・・ということで、恐る恐るまりさんに提案してみたら即OKもらいました。
その妄想とは―――
仲間とはぐれバッシュと主人公でダンジョンを歩いていた所、強い敵に遭遇してしまってバッシュが深手を負ってしまい主人公はバッシュを連れて逃げ隠れる。(逃げた先に敵は来ない)この後主人公とバッシュがどう動くのか。
そしてたった数日で執筆して送ってきてくれた時は狂喜乱舞しておりました
同じ妄想をベースにしても執筆する人が違うと中身って似ているようでおおよそ違うのだな〜ともの凄く勉強になりました。
まりさんは携帯サイトを作ってそこで夢小説を執筆してくらしいですよ、皆さん♪
いまからチェックですね!
<まりさんへ>
ほんまにほんまに有難うございます!
私がまりさんに対して特別なにかしたワケでもないのに、ご褒美をいただいて凄く嬉しいです!!
まりさんが描くバッシュが堪能できてもぅメロメロですvvv
まりさんトコの将軍は隠れSだということが判明し―――(強制終了)
ゴホン☆ とにかくエチの部分も読みたい!と思うほどバッシュえろかったです(笑)
ありがとーございました!!!