Web拍手お礼小説 No.2 ガブラス夢



「は?! 私をジャッジマスターに?!」
「ええ、是非」
ジャッジマスターとしてようやく復帰したガブラスに「大事な話がある」と呼び寄せられ、遠路はるばるアルケイディアへとやってきて着いたと思った途端、謁見の間で待っていたラーサーに開口一番言われた。

ジャッジマスターになってほしい―――と。



突拍子も無い話に思わず空を仰いだ。





「なんでそんな話を私に・・・」
自分を推すラーサーの気持ちが理解できない、と聞き返すがアルケイディア皇帝としての立場に君臨するラーサーの表情は至って真面目。
「ソリドール家が誇るジャッジマスターは先の大戦で多くを失って、今はこのガブラスとザルガバースしかいません。この2人だけでこの先のアルケイディアを管轄するのは到底無理です」
「それは分かるわ。でも、それならマスター候補のジャッジから選出すればいい話じゃないの?なにも一緒に旅をしただけの部外者の私を選ばなくたって・・・」
もっともな意見だと思ったが、同意するように頷く者はこの部屋に誰もいなかった。
「もちろん優秀なジャッジは沢山います。 だけど彼等からジャッジマスターを出すつもりはないんです」
「・・・言ってる意味が分かんない」
正直に言うとラーサーは笑みを溢した。
「貴方を買ってのお願いです」
「私のどこを買ってくれてこんな話になったの?」
「それはガブラスに聞いてください。彼が最初に貴方を推したんです」
その言葉に驚き、後ろに控えているガブラスへと振り返った。
言葉発することなく平然と立っているその男の表情は兜に覆われ全く読めない。
「新しいジャッジマスターはジャッジからは選出しません。 これからのジャッジマスターは国に問わず、様々な面において秀でた方々を私は選びます。」
これまでラーサーの口からよく聞いた一人称の「僕」ではなく、皇帝として公に「私」を使って語るラーサーは揺るがない意思だと告げていた。
「だから私は貴方に、是非ジャッジマスターになってもらいたい」
強い眼差しでそう付け加えられると嫌と言えなくなり、返答につまずいてしまう。
私の表情を読んでラーサーは再び笑みを浮かべた。
「返事は急ぎません。 久しぶりにアルケイディアに来てくださったのですから、ゆっくり羽を伸ばしてください。 接客はガブラスに任せます」
「御意」
私が何も言わないままアルケイディアへの長期滞在が許可され、気付けばガブラスに連れられ謁見室から出て通路を歩いていた。

しばらく沈黙していたが、溜まった気持ちは行き場を失いガブラスの腕を掴んで足を止めさせた。
「なんで私の名前出したの?」
直球で質問したが、ガブラスは腕を掴んでいる私の手をやんわりとほどくと再び歩き始める。
はぐらかされているように思えて追い立てるように質問を繰り返した。
「ねぇどうして? 私ラーサーが言うような何か秀でた人間じゃないわよ。 そこら辺の道を普通に歩いてるような、どこにでもいる―――」
「そんな女じゃないだろう」
人の言葉を遮ってガブラスがようやく言葉を発した。
「あんたは代わりがきくような女じゃない」
歩く速度は変わらなかったがガブラスはちゃんと聞こえるようにハッキリとそう言った。

自分のことをそんな風に評価されるのは初めてだ。

「・・・それが私を推薦した理由?」
「いや違う」
期待した分ガブラスの即答に自分の中の何かがコケる。

じゃあ一体なにが推薦された理由なのか。
納得のいかない私の表情をガブラスは少し振り返るような形で見た。
「ジャッジマスターは単に武力に長けているだけでは勤まらない。皇帝陛下は武力を最低条件とするこれまでの選別方法を変えたいと考えている。その結果あんたが選ばれた。それだけだ」
「だから、それじゃ分かりませんって。 一体私のドコを推薦されるのか検討もつかないわ」
通路の角を幾つも曲がり、自分の執務室へと歩くガブラスを追いながら尚もガブラスに理由を問いただすと急に腕を掴まれた。
あまりに突然掴まれたその素早さと掴んだ時の力強さに驚いた時にはすでにガブラスが執務室の扉を開いている所だった。
急くように扉を開き、掴んだ腕を引っ張って部屋へ押し込み―――そして今度は乱暴に閉められた扉に背を押し付けられガブラスの身体との間に挟まれる。
その動きは刹那で、うろたえる暇も無かった。

「―――っぁ・・・く・・・」
自分より20cm以上も高い長身は体格が良く、その身に威厳を誇る鎧を纏い、その力強い両腕が背中に回り、折れるのではないかと思うほどキツく締められ一瞬にして息が詰まる。
息苦しいと身体を動かして訴えようにも、それすら許さないくらいの強い力で抱き締められ、ただされるがままになる。

まるで 「ようやく捕まえた」 と叫ばんばかりの勢いだった。

何も言葉をかけず、ガブラスはただギュッと腕を強く締める。
そしてしばらくの間強い抱擁を堪能してからようやく重い口を開いた。
「あんたと共に仕事がしたい」
動機は沢山あるんだろう。しかしガブラスはその一言だけ告げた。
「これで納得したか?」
兜を取り、珍しく皮肉った表情を見せてようやく腕の力を解き、身体を離す。
突然の事にあっけに取られていて、私は今もなお開いた口が塞がらなかった。
ガブラスらしいと言えばガブラスらしく、しかし人としては何とも無愛想な誘いの言葉。
「納得もなにも・・・・・・。余計に混乱してきた・・・」
くらくらと眩暈がしてくる。

これまでガブラスとの接点と言えば、共に旅をするバッシュを介して「敵」という位置にあったということのみ。
2人きりで会話をしたことなどほとんどないし、一体どういう経緯で私と仕事がしたいなどと思うようになったのか皆目検討もつかない。
それ以前に「私」という人間を認識していたのかさえ疑うくらい接点が無かったのに・・・
「ならば俺と結婚しろと言えば理解しやすくなるか?」
「なおさら不可解よっ」
ああ。 ガブラスの言葉はすべてが思いがけないものばかりで死にそうになる。

「告白してるの?推薦してるの?どっち」
「両方」
「・・・・・・確認なんだけど、私とあなた1対1でちゃんと会話をするのはこれが初めてのはずだと思うんだけど?」
「そうだな」
「全く接点が無くって、どちらかというと敵対していた間柄だったのに・・・急にバッシュさんの名で呼び出されたかと思えばジャッジマスターになれって・・・どういうことデスカ?」
「仲間では分からないこともある。敵対して分かることもある」
「・・・・・・その敵対の間柄だから分かったことがジャッジマスター推薦の理由だと?」
腑に落ちない結論付けだと呆れたため息が漏れる。
ジャッジマスター推薦などとご大層な出来事も霞んで見えてきそう・・・
「そう結論を急く必要もないだろう。こういったことは一言で片付けられるものではない」
確かにそうだけど・・・
やりくるめられた感じがして、やっぱりどうも腑に落ちない。
「長期滞在も許可されてる。接客も任されているから俺もじっくりと時間をかけられる」
普段のむっつりした無愛想な表情からは想像もつかない笑顔を向けられ、ゾゾッとした。

おかしいな。
フツーこういう時はゾゾッじゃなくドキッとするような所のハズなんだけど・・・





―――1ヶ月後。
ジャッジマスター就任式が行われた。

重苦しいジャッジマスターの鎧を身に纏いながら皇帝陛下へ膝をつくのは・・・・・・バッシュだった。

「ジャッジマスターなだけあって策士ですね。私と見せかけて実はバッシュだったとはっ」
やはり騙されたと腕を組んで毒を吐いたが、ガブラスは気にもせず涼しい表情を返す。
「まさかそんなことはない。双子なだけあって好みも重なってよく奪い合いになる。この年になってまでそんな醜態をさらすつもりはないからな。先に先手を打ったまでだ」
「私をエサにバッシュを釣ったことに変わりはないでしょ!」
「確かにそれは否定しない」
バッシュの名で私を吊り上げ、ジャッジマスター推薦という甘いエサで酔いしれさせ、今度は私をエサにバッシュを吊り上げ、ジャッジマスター就任というカードを渡す。
「エサにされる身にもなってほしいわ!期待を裏切られた気分で最悪よ!」
「裏切った?何をだ?」
「ジャッジマスターの話よ!私に持ちかけるフリして本当はバッシュだったんでしょ」
「いや、それは違うな」
素直に否と応えるガブラス
「荷が重過ぎるという反応だったから保留にしているまでだ。望めばいつでもあそこに立つことができるぞ」
あそこ、と就任式にバッシュが立っていた場所を指差す。
「立ってみるか?」
「・・・・・・ぅ・・・」
もう一度推され、1ヶ月前の私に戻る。
結局あのあとガブラスから推薦の理由ハッキリと教えてもらってない。
葛藤は出口を見つけられず迷宮入りしてしまって放置したまま。
「無理なら別の場所があるぞ」
「別の場所?」
「マスター夫人」
どっちの?と聞きそうになった言葉を寸でのところで押さえて、キッとガブラスを睨んだ。
「嫌よ。たった数年で未亡人になりそう」
「確かに危険の多い仕事だが、簡単に死んだりするようなことはない」

「いいわ。死ななかったら考えとく」






☆ちょこっとあとがき☆
執筆してない期間が長すぎたのでリハビリ兼ねて、リクエストとして途中まで書きかけて結局ボツにしたものを最後まで書いてみました。
ガブラスってこんな奴だったっけ???とか思いながら書いたガブラス夢です(笑)
アルシドとはまた違う策士だと思います。
オトナって表裏違うから(笑) 腹のさぐりあいを書くのは結構好きです。
そんでもって変な終わり方ですみません。結局くっつかないまま終わるのも好きだったりします(笑)