Web拍手 バルフレア夢 〜ミニシリーズ5話〜

 

 

 

ツイと狭いシュトラール内の通路ですれ違った時、煙の臭いが鼻孔をくすぐった。

煙草を吸っている。
バルフレアが煙草を吸うなど知らなかった。

 

ノックをしても返事がなく、仕方なしに一応入室の言葉を告げてバルフレアの私室へ足を踏み入れた。
本人の嗜好に合わせた落ち着いた雰囲気の調度品に囲まれて、バルフレアは部屋の中央に置かれた椅子に深く腰掛けていた。
斜めに身体を傾け長い脚は椅子の前にどっしりと構えた重厚な机に投げ出されている。

「ノックしたんだけど聞こえなかった?」

声をかけてもバルフレアからは返事もこちらを見る様子もない。
ただ自分の手にあるものを冷たい目で見つめている。

もう片方の手には細く白い短い棒状のもの。
そこからモクモクと煙が舞い上がっている。

また吸っている。

バルフレアの周りの空気は白くにごり、机の上で組んでいる脚の傍には吸殻が山と積まれた灰皿が・・・。
むせかえるような紫煙にゲホゲホと咳き込みながらバルフレアの傍へ歩み寄る。
煙草を止めようと口を開いて、しかしバルフレアの手の中にある物を見て言葉を発するのを止めた。

「それって確か・・・」

「・・・アーシェの指輪だ」

どのような経緯で受け取ったのかは知らない。
でも目の前にあるその指輪の大きさを考えると・・・

「ラスラ様の指輪だわ」

呟くと「そうらしいな」とそっけなく返って来た。

「知っていたの?私はてっきり知らないものだと・・・」
「いや、知ってる」
「じゃあなんでそんな大切なもの、バルフレアが?」
「頂戴してきた」

道案内の報酬としてラスラの指輪を要求したらしい。

 

『また報酬―――ですか』
『話が早くて助かるね。そうだな そいつが報酬だ』
『これは―――何か他の―――』

『嫌なら断る』

 

「なんでそんなことを・・・」
「王女様の結婚指輪だ。価値が無いわけないだろ。それに異常に固執しているように見えたしな」
「だからあえてその指輪を望んだの?」

バルフレアは冷たい目で指輪を見つめながら手にした煙草を口元へ運び、吸い、そして灰皿に押し付ける。
机の引き出しを開け、そして今度は葉巻を取り出す。
灰皿に積まれた吸殻はどれも種類が違っていた。

「もう止めたほうがいいわ。これ以上吸うと中毒になっちゃう」

そう忠告しているのにバルフレアは無視して火をつけようとしている。

「駄目」

強い口調でバルフレアの口から葉巻を取り上げた。

「おいっ」
「煙草に逃げるのは絶対駄目」
「・・・分かった。分かったから返してくれ。結構貴重なヤツなんだ」

半信半疑ながらも差し出されたバルフレアの手に葉巻を返すと、言葉通りバルフレアはそれを元の場所に戻した。
手持ち無沙汰になってしまったのか、バルフレアは椅子に背を預けため息をつく。

そう何度もため息をつくバルフレアなど見たこともない。

「・・・バルフレアらしくないわ」
「俺がか?」
「そうよ。帰ってきた貴方はいつもらしくない。出掛けている時なにがあったの?」

アーシェ王女と出かけた先で、誰とどんなやり取りをし、どういう会話と話がなされたのか・・・。
シュトラールに居残っていた私は何も知らない。
帰ってきた時から纏う空気が少しおかしかった。
急に部屋に閉じこもって、心配して様子を見てくれば王女から指輪を頂いたと平然と言う様子からして何かおかしいのは決定的。

 

『王家の証が神授の破魔石であったとは――― ドクター・シドも血眼になるわけですな』

 

再びバルフレアの脳裏に思い浮かぶジャッジマスタ・ギースの言葉。
思い出せば最初に聞いた瞬間と同じように驚愕と苛立ちがふつふつと沸きだす。

「くそっ」

苛立ちを吐き捨てるようにバルフレアは舌打ちをした。
そして行き成り手を差し出し傍に来るように促してくる。

「なに?」
「いいから来いって」

言われるがまま差し出された手を掴み傍に来ると、腰を絡め取られあっという間にバルフレアの膝に腰掛ける状態になる。

「少しの間だけ身体を借りるぞ」

こちらが何か言う間もなくそう言ってバルフレアはぎゅうと抱きしめてきた。
当然ビックリする。

「ねぇ何があったの? 嫌なことでもあった?」
「・・・・・・」
「・・・私には話してくれないの?」
「・・・しばらくこのままにしててくれ」

違う答えが返ってきたけど、でも言外で訴えていた。
自ら話すまでそっとしてくれ。 と。

バルフレア自身、落ち着けなかった。
嘘だと思いたかった。まだ心の中で認めようとしたくなかった。
頭の中で迷いがある分、それを打ち消そうとするかのように抱く腕の力を強く込める。

 

初めて見るバルフレアの姿にもう何も聞こうとはせず、腕を回してバルフレアの頭を優しく抱いた。

 

 

 

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〜あとがき〜

 

10話までの短いシリーズものの5話です
Ωを読むまでラスラの指輪を報酬として選んだバルフレアの真意が読めなかったので、こんなカンジかな?と想像しながら
書いたのですが、なんだか充分に書ききれていないカンジです。
Ω購入前に執筆したSSですので、結局公式設定でのバルフレアの真意とは少しズレた内容となっています。

でもちょっと追い詰められてバルフレアらしくないバルフレアの姿も好きかもvvv