Web拍手 バルフレア夢 〜ミニシリーズ4話〜
バルフレアに連れられ、シュトラールに乗り、共に過ごす時間が出来てからバルフレアの色々なことが分かった。
一つ、彼は金属色が好きだった。
カフスにもピアスにもベストにも金属色が使われていた。
バルフレアの私室内も金属色は沢山溢れていた。
そんな中で唯一彼の左の指と手首にあるアクセサリーだけは金属色ではなかった。
ピンク。ブルー。グリーン。ゴールド。
色鮮やかな指輪とブレスレット。
そこだけが別の世界を形作っているように見えた―――。
ザバザバと顔を洗うバルフレアの元からコトンと音がして指輪が2つ床へと落ちた。
バルフレアが気付くよりも早く床からそれらを拾い上げる。
「バルフレア・・・これ・・・」
手にとってフと目線を指輪に向けてしまった。
色鮮やかな2色の宝石で作られた2つの指輪。
バルフレアの指にあわせた少し大きめのその指輪の内側には流れるような文字が刻まれていた。
「・・・愛する―――」
そこまで読みかけて手元から指輪がなくなる。
「おっと、悪いが触らないでくれ」
目線で追うと、指輪はバルフレアの手中にあった。
洗った顔から手早く水分を拭き取ったバルフレアは指輪を隠すように左手の中指と薬指にはめた。
そして指輪と同じ色の宝石でつくられたブレスレットも私の手から取り素早く手首にはめる。
「ごめんなさい。棚から落ちてきたから、つい・・・」
物が落ちれば、つい拾ってしまう。
バルフレアは気にしてないとでもいうように肩を軽くすくめた。
「今度からは落ちてもそのまま放っておいてくれ」
「でも大切なものでしょ?」
指輪の内側に刻まれた文字。
「ああ、大切なものだ。何より、な。だからこそ俺以外の誰にも触られたくない」
そんなに大事にしているものなんだ・・・
バルフレアは首にかけていたタオルを外し洗面台へ放るとその部屋を出ようと扉へ向かう。
そこで指輪の話が途切れてしまうと、もう二度と聞けない気がしてしつこくも追いかけた。
「贈り物でしょ。誰からもらったの?」
「さあな」
「女の人?綺麗な人だった?」
「・・・・・・」
「どんな人だった?恋人だったの?」
「――――――どこまでついてくるつもりだ?」
バルフレアの背に質問を浴びせながら後をついていって・・・気付けば彼の私室の前。
バルフレアは扉に手を付き、ため息を漏らしていた。
「だって知りたいんだもの。私バルフレアのこと何も知らない・・・」
最速の空賊バルフレア。私が知るのはその飾り名だけ。
何も明かしてくれず、こちらのことばかり探られれば過去の一つも知りたくなるもの。
少し不満顔を見せ付けると「分かったよ」と呆れた顔で苦笑した。
「一度しか話さないからな。聞いたら忘れろよ」
部屋へ招かれ、そして本当に短い話が始まった。
時間で言えば本当に、たった5分程度の短い昔の思い出。
『なんだあんた。空賊になりたいの?』
これまで知った“女性”という人種の枠を飛び越え気品もなく豪快に笑う女。
『親の金は使わないのね。いい度胸だ。だったら今着ている物も全部脱ぎな。過去にも未来にも縛られない。それが空賊ってものよ』
各地の衣装を重ね合わせた色鮮やかな衣服を身に纏うその女は、決して美人じゃなかった。
言葉遣いも上品じゃない。
着ている服もセンスが良いとも言えない。
しかしその身に秘めた人としての輝きは、これまで出会ったどの女性より強く、美しかった。
『大きな挺を持ってりゃいいってもんじゃない。小さくてボロだったとしても誇りを忘れなければ誰もが空賊になれる。ホンモノの空賊に・・・』
その女は“義賊の女神”として謳われた最高の空賊だった。
そして―――
『名を捨てるなら、あんたは今日から“バルフレア”だ。 “空賊バルフレア”・・・いい名だねぇ〜』
彼を「バルフレア」と名付けたのもその女だった。
懐かしそうに口にするその名に、深い思い入れのある名だとすぐ気付いた。
だがその女から貰った名を捨てる気も無かった。
『あんたの感性、向いてると思うよ。あんたはすぐに私を追い抜く』
剣も、銃も、腹を探る駆け引きも。そしてもちろん機工も操舵も・・・
あの女の傍に居たからこそ身に付いたものが多かった。
『いつか、本物を抜いてね』
少し悲しい笑みで時々そう言われた。
本物とはなにか? なにを抜いてほしいのか?
語らぬ女にバルフレアも何も分からなかった。
『私を越えろバルフレア。義賊の剣は飾りじゃない』
最後に逢ったのはいつだったか。
追いかけていたはずなのに、いつの間にか追い回されていた。
驚愕と、怒りと、悲しみと、そして女の言葉の裏に潜んだ真意に気付き―――
バルフレアは手を下した。
最後に残ったのは女が身に付けていた指輪とブレスレット。
これをどれだけ大事にしていたのか痛いほど知っている。
「―――それで?」
「それだけ。話したぞ、もう寝ろ」
不満を漏らす声を無視して部屋の外へ追いやる。
今夜夢に出てきそうだ。
思い出してしまう。だから誰にも話したくなかった。
はぁ、とため息をつきながらバルフレアはベッドへ潜り込む。
そして指輪を取りベッドサイドのテーブルへ置いて消灯した。
月と星の明かりがほのかに指輪を光らせる。
“―――愛する 私の義賊へ―――”
〜あとがき〜
10話までの短いシリーズものの4話です
ずっと気になっていたバルフレアの指輪を、なんだか突然書いてしまいました。
しかも公式設定でもない私設定です。
もともとバルフレアのカラフルな指輪は後から設定をつけられるようにあえて目立つ色の指輪にしたらしいですが、
それでも結局公式設定って作られてませんよねぇ〜?
不満を煽らない程度に私が勝手に想像したバルフレアの過去と、「バルフレア」の名の由来をちょいと書いてみました。
こんな過去だといいな〜という希望です。
あんまり細かい描写はせず、大まかにあらすじだけ書いたような形にしていますが・・・
でもたぶん、各個人それぞれバルフレアの過去を想像しているから、原作や公式設定以外の話を書くのはあまり好きじゃなかったりもする。
イメージ壊れると嫌だからvvv