15万カウントおめでとう企画  No.6 バルフレア夢



「空賊バルフレア」という言葉を聞いて最初に思い浮かべるのは酒・・・



「なに? 今なんて言ったんだ?」
「だから、今日は私も一緒に行きます」
言った直後額に温かい大きな手が・・・
「熱なんてありません」
払いのけつつ言ったけど、目の前のバルフレアは訝しげな表情を止めない。
「これから進む道のルートを酒場で決めるんでしょっ 私も行きますっ」
「悪いが、夜の酒場は危ない。それに・・・飲めないだろ?」
ニヤリと笑んで、お前には無理だ、というような口調で言われると逆撫でされたようにカッとなる。
「飲めるわよっ!もう二十歳超えてるのよっ?!」
「大人だって言いたいのか?」
「当たり前よっ」
もう二十歳を過ぎて半年も経つ。
二十歳になったら絶対バルフレアと共に夜の酒場で飲み交わそうと夢見ていたのに・・・。
念願の二十歳になってもバルフレアは頭を縦に振らなかった。
逆に酒場には来るなと、はねつけられる。
今日はバルフレアとバッシュとフランが、夕食後のこれから酒場に行って情報を集めつつ秘密裏に移動できるルートを話し合う。
こんな機会あまりない。
「連れていってあげれば?」
横からフランが助け舟を出してバルフレアに勧めたが、当のバルフレアはこちらを見たまま片眉だけクイと上げるだけ。
「一度くらい行かせてやってもいいだろう。普段ならまだしも今日は私もフランも行く」
「ならあんたが監督するのか?」
フランに同意するバッシュにバルフレアは睨むように一瞥すると、
「後悔しても知らないからな」
そう厳しく言って歩き出した。
バルフレアの反応にもの凄く不満だったが、フランとバッシュにおいでと手招きされ少し機嫌を直して一緒に歩き出した。



夜の酒場。
沢山の空賊が集い酒を酌み交わしながら情報をやりとりする貴重な時間と集いの場所。
私は、夜の酒場とはそういう場所であって、そこを出入りできるということが大人の証なのだと思っていた。
バルフレアの姿を見ていて、それがカッコイイ大人の生活の一部なのだと思っていた。

ギィ。ときしむ音をたてて酒場の扉を開いた途端、真っ白な煙に包まれむせ返る。
昼間と全く違って、夜の酒場はそこかしこでパイプから吐き出される白い煙に、あたりは霧のようにぼんやりしていた。
「水タバコの煙で中毒起こすなよ」
むせている私に向かってバルフレアは鼻で笑いながら声をかける。
あ、この口調。馬鹿にされている。
でも今日は、私もバルフレアさんと同じ大人になったことを証明してやるっ
2歳しか違わないのに、引き離されてなるもんですか!

「何にするんだ?」
テーブル席についてすぐ、バルフレアは注文を聞いてきた。
しかし酒場には上品にメニュー表など置いていない。
おおよそ酒場で出される酒の種類は、馴染みの者なら誰でも知っている。
ゆえに表など設けられていないメニューをバルフレアは笑みながら私に聞いてきた。
「バルフレアさんと同じものっ」
強気の言葉にバルフレアが少し驚いた顔をする。
「バルフレアが飲む酒は度数が高い。それは止めておいた方がいい。」
「ジュースにしとけ」
先を想像して心配になり引き止めるバッシュの言葉に乗ってぶつけられたバルフレアの言葉に余計カチンとくる。
「絶対イヤ。同じ物を飲むわよっ」
勝負をしているワケでもないのに、どうしても負けられないという意識が働いて、バルフレアが何を飲むのか知りもしないで、そう豪語した。
「じゃあ俺と同じ物を飲んでもらおうか。―――ジェニエーブルをストレートで2つ」
バルフレアはニヤリと笑むと注文を通した。



「う゛っ」
一口分を喉に流した途端、思わず唸ってしまった声にバルフレアは「そら見ろ」と言わんばかりにニヤけた顔をこちらに向けた。
「どうだ? 香味が効いていて美味いだろう?」
「――――――そ、そぅね」
琥珀色の酒と氷の2つしか入っていないグラスを見つめながら固まった表情で同意を唱えるとバルフレアはクックッと腹を揺らして笑い出す。
「バルフレア。からかうのにも程があるぞ」
私の隣に座っているバッシュから咎める声が上がったが、バルフレアは相変わらず笑っている。
その姿が、私をまだ子供だとでも言っているように見えてもの凄く悔しくなった。
「どうせまだ酒の味も分からない子供ですよ」と拗ねることが出来たらまだ良かったが、少しでもバルフレアに近づきたい気持ちと、彼と一緒に酒を酌み交わしたい気持ちが強かった私はそっぽ向いて拗ねてしまうよりも、「負けるもんか!」と立ち向かう姿勢を取った。

ちびちび飲むから味が分からないのよ!
美味しいジュースを飲む時みたいに、こうグイッと・・・

「お、おいこら! 待て待て待て待てッ!」

笑顔から一転して慌てるバルフレアを無視して両手でグラスを持ち、煽るように喉へと一気に流し込んだ。
アルコールが洪水のように流れる喉は味も分からないまま火が付いたように熱くなり、間もなく頭はカァッと血が上る。
それから目がチカチカと火花が散るようにまぶしく感じて、徐々に地面が揺れていく。
「わぁ すごい」
初めて味わう感覚に純粋に感動していると、ガタンッと椅子を鳴らして立ち上がるバルフレアが見えた。
「すぐに戻る」
フランとバッシュにその一言だけ言うとバルフレアはいきなり私の腕を掴んで店を出た。
「なにっ、なに?! どこ行くの?」
「帰るんだよ」
「えーっ! 私まだ1杯しか飲んでなぁい〜」
「―――充分すぎるほど飲んだだろ・・・」
もう完全に酔っている姿にバルフレアは自身の後悔と呆れにため息をついた。
「一気飲みした味はどうだった?」
「美味しくないっ!」
アルコールの助けを借りて正直に文句を吐き出すとバルフレアは「だろうな」と苦笑した。
「でも、もうちょっと飲む」
「止めとけ。初心者にあの酒は無理だ。依存症まっしぐらだぞ。飲んだくれたお前の姿なんか見たくない」
女の酔い潰れた姿は見て気分のいいものじゃないが、今は自分が蒔いた種だから仕方がない。
「飲んだくれじゃない〜」
「―――そうやって地面に座ってる時点ですでに出来上がってるだろ」
「ふぇ? 出来てるってなに?」
目の前で徐々に潰れていく姿にバルフレアは2度目のため息をついた。
「ったく。世話のかかるやつだな」
呆れたように言いつつも心中は即刻酒場を出て正解だったと呟いた。
ため息をついたバルフレアが近づいてきて、屈み込み、そしてフワリと身体が浮いた。
抱き上げられて、普段ならビックリして声を上げてるだろうが、今はそんなこと全然気にもならず逆に素直に喜んでバルフレアの首に腕を回した。
普段とは全く違うその姿に複雑な笑みを浮かべながらバルフレアは普段と変わらない足取りでさっさと宿の中へと入る。

「もう酒場には連れて行ってくれない?」
ベッドに下ろした直後さっさと部屋から立ち去ろうとしていたバルフレアに後ろ髪引くような思いで声を掛けるとまたバルフレアからため息が聞こえた。3度目だ。
「初心者向けのジュースならな」
「それは嫌。バルフレアさんと同じものがいい」
酔っていてもその気持ちは変わらず、強く主張するとバルフレアは呆れたように見返した。
「だって同じ物が飲みたかったの。二十歳になったら一緒にお酒を酌み交わしたかったのっ」
別にデートじゃなくていい。
夕食後、バルフレアとバッシュが食後のまどろみを楽しみに出かけるのと同じように、私も2人で一緒に遊びに行くような感覚で酒場に入って酒を交えてまどろみたい。
今まで内に秘めていた希望を言葉にすると、バルフレアは眉を歪めながらも口の端はニヤリと笑んでいた。
「酔った勢いで言うってことは―――俺を誘惑でもしてるのか?」
「へ? なにが?なんの話?」
「無自覚かよ・・・。 まぁいい。今回はお前の誘いに乗ってやるよ」
トロリと瞳が下がる姿は堅実すぎるバッシュには誘惑という毒。
だから即刻バッシュから遠ざけたっていうのに・・・
「違うよ。バルフレアさん、なんか誤解してるでしょ。私なにか誘ってるていうワケじゃ―――きゃー!なにしてるのッ?!」
悲鳴が耳の側で聞こえたがバルフレアは無視を決め込んだ。

酒場から宿まで運んだ報酬をちょっくら頂こうじゃないか。







☆ちょこっとあとがき☆
リクエスト第6号です!
匿名の方からのリクエストで、内容は「主人公が酒酔い、バルフレアに介抱される。色香たっぷり主人公に翻弄されるバル」でした。
ちなみに「ジェニエーブル」とはジンの元となるお酒の名称です。当初はこう呼ばれていて、後にジンという名前になったそうです。
バルフレアはきっと飲むお酒にはものすごくこだわりがあると思うので、あえて古い名称で注文をとってもらいました♪
自分の飲む酒にこだわりがあると同時に、同伴の女性に飲ませる酒にもこだわりがあると思うのです。
主に相手の意思に任せると思いますが、これだけは絶対に飲ませないという意味でのこだわりはあるんじゃないかと・・・。
例えば「アレキサンダー」とか「スクリュードライバー」とか・・・
きっとバルフレアにとって酒はほどよい演出であって、酒の力で云々というのは逆に嫌うんじゃないかと信じてます(笑)

※今とりあげた2つのカクテルを男が女性のために注文するっていうのは「酔い潰してやろう」という下心見え見えなシロモノなのでバーに行く女性は気をつけてね!