15万カウントおめでとう企画  No.12 バルフレア夢



アルケイディアではアーシェとバッシュの顔はあまり知られていない。
だから堂々と街を歩いても見つかることはないだろう。
しかし。
巡回する帝国兵の姿をよく見かけるのだ。
万全を期すにこしたことはない。

「じゃあ・・・ヴァンとパンネロ。アーシェとバルフレア。それからバッシュさんと私。これでいいよね?」

旅人としてアルケイディスの街をうろつくには風体も数も怪しまれるかもしれない。
ならば恋人として2人1組で動いてみてはどうか?
そう提案したフランの言葉に従い、私は無難と思われる組み合わせを作ってみた。

だが、
「却下だ」
壁に背をもたれかけ腕を組んだバルフレアが即座に口を挟む。
グッと上げた瞳には不満な色がありありと映し出されていた。

「なんで? 一番いい組み合わせじゃない」
「どこがだよ」
私なりに良いと思う組み合わせだっただけに、即刻反対されるとムッとしてしまう。
「分かった。 じゃあヴァンとアーシェ。バルフレアとパンネロ。バッシュさんと私。 これで文句ないよね」
「だから、なんでそういう組み合わせになるんだ」
譲歩して変えた組み合わせも気に入らないと首を横に振られて、さすがの私もカチンとくる。
「仕方ないでしょ! フランはヴィエラなんだから組み合わせに入れられないし、主従でバレちゃうからアーシェとバッシュさんを一緒にするわけにはいかないじゃない。 残りの人数で調整するしかないでしょ!」
「その残りの人数の組み合わせに納得がいかないって言ってるんだが?」
「どこが不満なのよ?! 幼馴染で意気投合しているヴァンとパンネロを離すことは考えられないし一番自然な組み合わせでしょ。 逆にアーシェは王女様なんだからバッシュさんにしたら恋人装うなんてできないしバルフレアじゃないと上手くエスコート務まらないじゃない。 こうやって私が頭の中で色々考えた結果の組み合わせの何がご不満なの?!」
腹いせに最後には、たんかを切るようにバルフレアを見て言いたい放題言うと、さっさと街に向かって歩き出した。

「行きましょう、バッシュさん」
歩き出すと同時にバッシュの腕を引きながら・・・

「―――分かってないな」
器用に片方の眉をクッと上げて目の前の光景を睨み付けながらバルフレアは腕を組みつつ言葉を吐き捨てた。



「すみません、バッシュさん」
怒った勢いで歩き出してバルフレア達の姿が完全に見えなくなってから私は踵を返して、大人しく腕を引かれたまま黙って付いてくるバッシュに頭を下げた。
「意見を聞かないまま組み合わせ決定しちゃって・・・」
本当は自分の考えた組み合わせをどう思うか皆の意見を聞くつもりだったが、開口一番のバルフレアの冷たい言葉にカッとなって自分勝手に組み合わせを確定させてしまったことをバッシュに詫びた。
「いや、別に構わない。 私も同じ組み合わせを考えていたところだ」
詫びる必要はない、と言うように手のひらをこちらに見せて顔を上げるよう示しながらバッシュは優しく微笑んだ。
頭を上げた私は「良かった」と胸を撫で下ろす。
「でも相手が私で不自然に見えないでしょうか・・・」
バッシュの言葉に安堵したが、客観的に自分達の組み合わせを見ておかしくないか気になりだした。
近くにあったショップウィンドウに映るバッシュと自分の姿をジッと見る。
20cm以上も身長の差があるし、年齢だって10歳以上も違う。
これでは援助交際もしくは何か怪しい関係だと思われたりしないだろうか・・・?
ウィンドウ越しに複雑な表情を見せる私の目と合ってバッシュが少し笑った。
「ならば君の代わりにパンネロと組もうか・・・。であれば私は犯罪者かロリコンに間違われるかもしれないな」
「うわっ・・・」
笑いながら言うバッシュの言葉を想像してつい声が出た。
パンネロは16歳。バッシュは36歳。
さすがに20歳も差が出ると厳しいものがある。
一緒にいるだけなら親子に見えて微笑ましいだろうが、それが恋人さながらに接していれば人々はパンネロよりもバッシュの方に冷たい視線を送るだろう。
痛々しいかぎりだ。
「君の配慮には感謝するよ。 やはり私は君と組む方が安心する」
そう言ってバッシュは私の手を掴んで歩き出した。
歩き出してすぐ、掴んだ手の指と指を絡める恋人繋ぎをされて私の心臓がドキッと跳ねる。
顔が徐々に赤くなるのを感じながら視線を上げると、こちらへと振り返り口の端を上げて笑みを返すバッシュと目が合った。
「これからどこへ行こうか?」
「えっ?」
「恋人を演じてくれるんだろう? どこへ行きたい?」
普段会話をする時以上に優しい態度に、もうすでに恋人扱いされていると気付いて胸をバクバクさせた。
「じ、情報収集が目的ですけどねっ」
急に緊張して上擦った声で必死に返事をすると
「恋人を装いながら、な」
と確信犯な笑みで念を押されてしまった。
優しく甘くなっているバッシュの態度に更に顔を真っ赤にさせて俯く姿をバッシュは愛しむように見つめた。



各組が分かれて早2時間が経過した頃―――
女性専用の店に入って楽しんでいる姿を反対の道の壁に背をもたれかけて見守っていたバッシュは突然、路地から伸びてきた腕に胸倉を掴まれて引きずり込まれた。
一瞬何事かと思ったが、思い当たる節がありバッシュはさして驚いた様子も見せず大人しく服を掴む持ち主に従い路地裏へ入る。
「よぉ将軍。恋人ごっこは充分満喫しただろう?」
少し怒りを含んでいるように感じる言い方は普段の彼からはあまり想像できない。
隠すことなく睨む視線にバッシュはため息をついた。
「バルフレア。 アーシェ様はどうした?」
「今はフランと居る」
「それではアーシェ様を君に任せた意味が無い」
「ならアンタが行って守ればいい」
「私とアーシェ様は恋人を装うことはできん」
「そんなこともう関係無いだろ。いちいち恋人を装わなくても街は歩ける」
「―――で。 一体君は私に何が言いたいんだ?」
ここまで矢継ぎ早に言葉を投げ合い、再びため息をついてバッシュはすでに答えを知っている質問をバルフレアに聞いた。

「そろそろあいつを返してもらおうか」

苛立ちを込めた声をさも他人事のように聞いたバッシュはこう答えた。

「断る」

「なに?」
「彼女が決めた組み合わせだ。今私たちは恋人として過ごしている。 邪魔はしないでもらいたいな、仮にも最速の空賊がすることではないだろう」
「・・・・・・」
プライドを傷つけるようなバッシュの物言いにバルフレアの瞳がグッと細くなった。

まるであいつは自分のものだと言いたげだ。

心の感情を抑えることなくバルフレアは目に力を込めてバッシュを睨みつけたが、受けたバッシュは平気な顔でバルフレアを見返す。
以降言葉を交わさずしばし視線をぶつけ合っていたが、ガランッという扉の開く音に2人の視線は同時に反れた。
迎えに行こうとバッシュが動くよりも早くバルフレアが路地から出る。

「あ・・・れ? バルフレア、どうしてここいるの?!」
突然目の前に現れたバルフレアの姿にこっちは当然のことながら驚く。
それと同時にバルフレアの怒りを押し込めている表情に、これはマズイと感じた。
「異論を唱えにきた」
「異論???」
「俺の言いたいことは3つだ。 一つ。なんでお前の選んだ相手が堅物将軍なのか理解できない。 一つ。偽りの恋人ごっこを演じるのに飽きた。 最後に―――」
こちらが言葉を挟む隙を少しも与えず真剣な表情で距離を縮めながらバルフレアは言葉を続けた。

「―――俺は空賊だ。見くびってもらっては困るな」

バルフレアが一体なにを言いたいのか分からず身体の動きも顔の表情も固まる。
言い分の最初の2つ目は理解できた。
でも一つ目と三つ目は何を言い表そうとしているのかサッパリ。
「・・・・・・で。結局何しに来たの?」
鈍感さそのままストレートに疑問をぶつけるとバルフレアは一瞬驚いたように目を見開き、盛大なため息をついて―――そして、ニヤリと笑んだ。
「空賊らしく獲物を盗りにきた。 今日の獲物はなんに対しても鈍感でな。相棒がいなくても俺一人でカンタンに誘拐できる」
「ゆうかい・・・?」
バルフレアの言葉に反復しかけ、そしてバルフレアの意味ありげな視線にハッとなった。
「ちょっと待って!まさかその獲物って―――」
非常に嫌な予感がして一歩足を後ろに下げた直後グラリと視界が激しく揺れた。
視界が安定し状態を確認しようと思った時にはすでに遅く、バルフレアの肩に担がれた後だった。
「そういうことで将軍。あんたの恋人役は頂いていく」
少し振り返り、バッシュへと視線を向けてニッと笑みを見せた直後バルフレアは脱兎のごとく走り出した。
「えっ?!・・・ちょっ、待・・・と、止・・・」
走る振動でこちらの身体までガクガク揺れてまともに言葉が発せない。
揺れる視界ではぐんぐん景色が走り、バッシュの姿があっという間に小さくなってしまう。
流れる景色に再び嫌な予感を覚えたが、バルフレアに問いただす勇気も出てこなかった。



嫌な予感というのは当たってほしくない時ほどドンピシャリで、非情なもの。
まさにド真ん中に的中し、どんな建物なのか知りたくもない部屋のベッドに転がされていた。
コトを性急に運ぶ気は無いようで、その点は安心するものの・・・しかし上から覆い被さるバルフレアから発する威圧とジッとこちらを見る鋭い視線にすべてが固まり動けない。
「俺の質問に正直に答える気はあるか?」
「・・・・・・す・・・少し、は・・・」
精一杯答えたつもりが声が震えてしまう。
少し。という返答に片方の眉をピクリと上げ納得いかない表情を見せたバルフレアだが構わず言葉を続けた。
「じゃあ・・・昨日、俺たち何があった?」
「・・・・・・」
「昨日。俺は、お前に、何て言った?」
一言ずつ区切り、あえて強い口調で回答を強いる。
「俺の誠実に伝えた言葉を、まさか忘れたなんて言うんじゃないだろうな」
「わっ・・・忘れて・・・ません」
だらだらと背中から滝のように汗が流れる。
「じゃあなんで今日こんなことになってる? 俺が昨日言った言葉はなんだったんだ?お前には届かなかったのか? 俺の記憶が間違いでなければ、受け取ってくれたと思ったんだがな」
「・・・・・・はぁ」
真剣ということばを通り過ぎるほどのバルフレアの訴えに気圧され、つい他人事のような返事をしてしまった。
それが更にバルフレアを逆撫でする原因となり、形のよい眉が瞬時に歪んだ。
「鈍感なのもいい加減にしろよ。いくら恋愛経験がゼロって言ったって通じないものがある。俺を恋人として受け取った以上、やっちゃいけない事くらい分かるだろう?」
「や、や、やっちゃ・・・いいいいけないこと、って?」
美形は怒ると表情が酷く怖くなる。
豹のように鋭く睨み付けられて下唇が震えた。
「唱えた異論一つ目を思い出せ。俺はなんて言った?」
「・・・・・・なんで相手が、バッシュさんなのか分からないって・・・」
「俺の側に立って考えてみろ。理由なんて分かりきってるだろッ」

昨日、押されるような強引さでバルフレアから告白された。
生きることに精一杯で恋愛なんてマトモにしたことがないからバルフレアの恋人なんて絶対無理だと思った。
だから断るつもりで口を開いたのに、言葉巧みに押され流され―――
結局数分後には「うん」と返事をしてしまっていた。
その直後から私は「バルフレアの恋人」になってしまったのだけれど・・・

「恋人を装って街で情報集め。その提案に文句は無い。だがなんでお前の相手が俺じゃなくて将軍なんだ?それが納得いかない。 いい度胸だな。恋人になった奴を差し置いてまで選んだ将軍の一体ドコを買って恋人役に抜擢したんだ? 俺が理解しやすいようにハッキリと教えてもらいたいもんだ」
顎をガッシリ掴み、互いの顔の距離を縮めてバルフレアはニヤリと笑んだ。

いくら強引に押す告白をされたとしても、その愛を受けると判断したのは私であることに間違いは無く、選んだ以上責任もケジメも降りかかる。
頭では分かってる―――けどッ
「だ、って・・・だからって、昨日恋人になったばかりの人を選ぶナンテ・・・不自然だし、恥ずかしぃ、し・・・」
「なんでだよ?!」
思考の流れがまったく理解できずバルフレアの声がつい裏返った。
「どうしてそこで不自然だと思うんだ?!恥ずかしがるのはまだしも、フツーにさりげなく言えば済む事だろ」
「普通ってどんなカンジに? “恋人役して”ってお願いするのもなんだか・・・」
主張しつつ顔はみるみる真っ赤に染まり、最後はぷしゅーと蒸気を上げて口を閉じてしまった。

「わかった」

言葉をどう続けたらいいのか迷ってるとバルフレアから低く響く声が私の思考を止めさせた。
「わかったって?」
「順立てて説明しても、お前には恋人の気持ちを理解するのは至難の業だということが分かった。 だから―――」
言葉の続きを待っていた私は突然呼吸が苦しくなるのを感じた。
「んぅ」
両手で思い切り肩を押しても離れない。
足をバタつかせて身体を押さえ込もうとする長い脚を蹴ってもビクともしない。
頭を捩っても解放するどころか、後頭部を大きな手で押さえられ後ろに引くことができなくなる。
今なにをされているのか・・・客観的に理解する心の余裕は無かった。
ただ酸素が急激に薄くなって呼吸がだんだん出来なくなっていく苦しい感覚しか分からなかった。

「ったく。息継ぎのタイミングくらい教えなくても大体わかるだろ」

上から降りてきた言葉に恥ずかしさが込み上げ頭部の血行が更に良くなってしまいそう。
「恋人がいる女は、むやみやたらと他の男と2人きりになるもんじゃない。いくらそいつが気の良い仲間でもいつ男の本性現すか分からないぜ」
「バッシュさんはそんなこと、しないわよ」
「どーだかな・・・」
あいつを返せ、とバッシュに詰め寄った時のキッパリ断るバッシュの表情を思い出しながらバルフレアの腹が再びグツグツと湧き出す。
「それともう一つ・・・」
「・・・・・・」
「自分の女が他の男と、しかも2人きりでいるのを見たら普通誰でも怒るぜ。それが俺の場合だとこれまた厄介だ」
「・・・・・・え?」
なにか企んでいそうなバルフレアの表情にまた頭が警鐘を打ち鳴らす。
「最速の空賊バルフレアってのは自分のモノを横取りされるのが絶対許せない独占欲の強い男でな・・・特にそれが恋人となれば些細なことでも怒りを買い易くなる。 相手が仲間に寛容な将軍で良かったな。でなければ弾を一発相手の男にくれてやるところだ」
「それって・・・嫉―――」
「燃え尽きそうなほどゴウゴウに煮えたぎってるんだよ。 だから覚えておけよ。俺のモノになった以上は他の男とそうそう接触できないぜ。それがヴァンや将軍でも、だ」
バルフレアの力強い言葉に言いかけているこちらの言葉を切られる。
バッシュならまだしもヴァンにまで嫉妬の対象になるのかと正直驚いた。
バルフレアってこんなに恋人への想いが強い人だったっけ?
「でも仲間なんだから全―――」
まさかそんなに嫉妬深いワケないだろうと思ったが、否定されるように再び唇を塞がれた。
「仲間? そんな優しい分類に収まり続けていられるほど男は大人しい種族じゃない。 現にこれから自分の色に染めつくそうとする猛獣がここに一匹いる」
言葉は比ゆ的だが、ここまでハッキリと主張されるとバルフレアがこれからしようと企んでいることに嫌と言うことができなくなってしまう。

「俺が唱えた異論の三つ目を言ってみろよ」

捕らえた獲物は逃がさない。
立場が頭で理解できないなら自覚できるまでじっくり教え込む。
何度も。何度も。何度でも。

「バルフレア、を・・・・・・見くびるな・・・」
「ご名答」

最後は耳の傍でしっとりと囁き、バルフレアはもう一度強引に唇を塞いだ。






☆ちょこっとあとがき☆
リクエスト第12号です!
匿名さんからのリクエストで、内容は「ヒロインに嫉妬して強引にキスをするバルフレア」でした。
リクエスト消化するまでだいぶ時間がかかりました。特に執筆途中で2ヶ月も放置するハメになってしまったので前半と後半がちゃんと話として繋げられているのか少々心配していた部分があったのですが、最後うまくバルフレアの感情まとめられて一安心です♪
リクしてくださった方見てくださっているでしょうか?気づいてもらえたかしら?
久しぶりすぎてバルフレアのセリフ一言一句にもの凄い時間かかりました。
でも一つ一つセリフ少しでもバルフレアらしい言葉に仕上げられてるんじゃないかと思っています。

素敵なリクエストありがとうございました!!