15万カウントおめでとう企画  No.1 バルフレア夢



「風邪をひいているヤツほど、ひいてないって言うんだ」
知っていたか?という言葉に続けて言うバルフレアに腕を掴まれ、今はずるずると歩かされていた。
行き着く先はさっきチェックインしたばかりの宿の部屋へ。
他の皆は外食するため予約した店へ。
それを一番楽しみにしていた私はバルフレアに引きずられるようにして泣く泣く宿へ出戻り。
久しぶりに戻るラバナスタに全員が、たまにはハメを外して豪勢な夕食をとろうということになり、宿をチェックイン後さっそくという形で出発したまでは良かった。
だが歩き始めてすぐバルフレアはストップをかけてきた。
「風邪をひいてるヤツは戻れ」
一瞬誰に向かって言ってるのか全員不思議に思ったが、次に指を指してもう一度言うとそれが自分のことを指しているのだとわかった。
「何言ってるの?大丈夫、風邪ひいてないよ」
「何が大丈夫だ。顔を蒸気させて言う台詞か?」
「違う違う。顔が赤いのは、たまたま。」
「そんな冗談、俺に通じると思ったら大間違いだ」
「冗談じゃないって。ホントに私風邪ひいてないよ。全然しんどくないもの」
全員が見守る中でそんな変化球多数のキャッチボールが行われ、最後にバルフレアは大きくため息をついた。
「知ってたか? 風邪をひいてるヤツほど、ひいてないって言うんだ」
酔った時言う似たようなセリフを言ってバルフレアは直後腕を引っ張って宿に向かい歩き始める。
「まさか私だけ戻れっていうの?!」
「当たり前だろうが」
「いやよ!夕食楽しみにしているのにっ!せめてご飯食べてから、ねっ」
「・・・・・・」
「じゃないとお腹が空くっ」
「・・・・・・」
「バルフレアさん〜〜〜っ」
歩く速度は変わらない。掴まれた腕は解かれない。
普段より少し子供っぽく文句を愚痴りながらも宿の中へと引きずられていった。

「豪華な夕食・・・」
はぁ、と哀しいため息つきながら私の目に映るのは自分に割り当てられたベッド。
寝ろ!と言いつつ部屋に押し込んでバルフレアはすぐに去って行った。
きっとバルフレアも皆の所へ戻って行ったんだろう。
ぽつんと一人残った部屋には自分の独り言がもの凄く寂しく聞こえる。
でも仕方がない。
フラフラするのは気のせいかなと誤魔化していたが、バルフレアが目ざとく指摘したように確かに自分は風邪を引き始めているようだ。
ラバナスタに向かう時、雨季のギーザ草原を通ったがどうやらそれが風邪の原因らしい。
「寝よう」
風邪はひき始めが肝心。とよく聞く。
悪化してしまう前に治してしまおう。
そう思い、もくもくと浮かぶ豪華な夕食をなんとか頭の隅に追いやって寝着に手早く着替えた。
「うわっ駄目だ。動き回ったらぐるぐるしてきた・・・」
着替えるために荷物を漁り、身体を拭いて着替えて、脱いだ服を片付けて・・・
色々動いていると風邪が徐々に本格化してきたのか眩暈がしてきた。
そろそろ寝ないと本当にヤバイ。
そう思ってベッドに乗り上げたところで扉が突然ノックされた。
「おい、生きてるか?」
生きてるか?なんて失礼な呼びかけをするものだ。
こういう言い方で声をかけるのはバルフレアと決まっている。
ノックをして声をかけてきたはいいが、扉は一向に開く気配がない。
「両手が塞がってるんだ、開けてくれ」
なぜ? と一瞬思ったが急かすような声色につられて小走りで扉へ行きゆっくり開くとバルフレアが顔を出した。
「まだ寝てなかったな」
確認するように言いつつ横をすり抜けてバルフレアは部屋の中へと入っていく。
バルフレアが横をすり抜ける瞬間 むわっ と熱い熱気が顔に当たった。
これは・・・美味しい匂い。
「バルフレアさん。皆の所へ戻ったんじゃ―――」
言いつつ扉を閉め、バルフレアの方へ身体を向けると視界の中に匂いの正体が飛び込んできた。
バルフレアが両手に持つトレーの中には、まるでレストランで出されるようなオシャレなスパが色取りの野菜を沢山絡めた状態で皿に乗っていた。
それも1皿じゃなく2皿。つまり2人分。
「え、こ、これ・・・誰が作ったの?」
店に出されてもおかしくないほど綺麗に盛り付けられた料理。
だけど店から持って来るとはとても考えられない。
「俺以外に誰がいる」
「ええっ?! バルフレアさんが作ったのっ?!」
「なんだよ、意外だったか?」
「意外っていうか・・・ずっと料理当番避けてたから、てっきり包丁も持ったことないんだとばかり・・・」
「作りたい時にしか作らない主義でね。義務付けられるなんてゴメンだ」
確かに・・・バルフレアの性格を考えると、ありうる思考パターンだ。
心の中でそんなことを考え妙に納得していると、バルフレアはトレーをサイドテーブルに置き、椅子を引いて座った。
「冷める前に食べるぞ」
手招きされ、私は指定されるままにベッドに座った。
目の前に差し出されたのは、まだふわふわと湯気を昇らせるステキな料理。
ふんだんに野菜を使ってくれたのは栄養を考えてくれた結果だろうか。
いただきます。と感謝を込めて言って口に運ぶと、じゅわっと旨みが中で広がった。
「おいしい〜っ」
感動を込めて言うとバルフレアの目がフッと細まった。

あ。笑った。

「私の為に作ってくれたんですか?」
「年に1度と無い、出張シェフだ。他の女にも食べさせたことないんだからな。結構特権だぜ?」
素直じゃない返答が返ってきたが、要するに風邪をひいた私のために今回腕をふるってくれたらしい。
本当は行くはずだった皆との豪華な夕食への未練などすっかり無くして目の前の料理に夢中になった。
バルフレアの手料理が食べられるなんて思いもしなかったからとっても嬉しかったが、何より皆の所へ戻らず一緒に残ってくれたことが一番嬉しかった。
楽しい食事に楽しいおしゃべり。
そんな時間をバルフレアと満喫できたら楽しいだろうな。
そう思ったが、風邪は徐々に進行していき頭がフラフラしてくる。
イヴァリース文字の読み書きを教えてくれる時以外でバルフレアと二人きりになることなどほとんど無いから有意義に過ごしたかったが、身体がついていかないのでバルフレアに勧められるまま大人しくベッドに寝転んだ。
てっきりバルフレアはトレーを片付け部屋を去ると思われたが、彼は椅子に腰掛けたままおもむろに分厚い本を開き出した。
いつも読んでいる飛空艇に関する本だ。
顔はこちらを向けていないものの、どうやら眠りにつくまで側に居てくれるらしい?
「・・・眠るまで居てくれるんですか?」
「一人じゃ寂しいんだろ?」
目線だけこちらに向けて口の端をニヤリと上げる仕草は、人をからかう時にも表れる。
別に寂しくないです!
そんな言葉が喉まで出かかったが、言えば余計にからかわれそうな予感がした。
だからその言葉は飲み込んで別の言葉にしようと切り替える。
「じゃあ何か話を聞かせてくれますか?」
今度はこっちがニヤリと真似て笑むとバルフレアが本に目を通したまま手を差し出してきた。
「え?」
「ん。」
「ん。って何が?」
差し出した手の意味が分からない。
そう言うとバルフレアは手を曲げて催促するようにクイクイと動かした。
「料金5万ギルになります」
「えっ、お金取るのっ?!」
「無理なら身体でもいい」
「えぇっ?!」
サラリというバルフレアの言葉に驚くとバルフレアはくっくっと笑った。

からかわれた。

そう諭して顔が赤くなる。
「分かりました。もうどんな内容でもいいですよ」
「よし。じゃあ――― 『機体に搭載した飛空石より発生した浮力を使い――― 』」
「えっ こんな時に飛空艇の勉強をするのっ?!」
「睡眠学習になるだろ?」
再びニヤリと笑んで持っていた分厚い本を読み始めたらもう止まらない。

内容が難しい分、早く熟睡するだろうと思って
今はただ
バルフレアの声だけをじっと聞いた。







☆ちょこっとあとがき☆
栄えあるリクエスト第1号です!
奈子さんからのリクエストで、内容は「風邪をひいたトリップヒロインをバルフレアが看病する」でした。
甘いんだか甘くないんだか、妙に分からない内容ですみません。
ウチのトリップ主人公をご指定でしたのでバルフレアとは恋仲ではない状況を土台にしました。
ちなみに私の中でのバルフレアの料理の腕前はプロ級です。
手を付けるならトコトン。という主義だと思うので。
シュトラール機内で何日も過ごすこともあるだろう状況で料理するなら「どうせなら旨いもんを作りたい」ということで極めてプロ並に上手くなったと考えてます。
ただあまり腕前をやたらめったら披露するのはお好きじゃないようです♪
料理の腕の見せ所も女を落とす一つの手段・・・だそうで?(笑)