「ビュエルバはどうなっている?」
「自由を保ってるよ、一応な。 王女の自殺やあんたの処刑を発表して帝国に協力したオンドールへの見返りさ」
「私が生きていると広まれば 彼は信用を失うな」
「いやだねえ 政治ってやつは」
画面で一度聞いた会話。
肉眼で、実際目の前で再びその会話を聞いて、改めて私はバッシュさんの度胸に驚いた。
「うひゃーっ 高っけぇ――!!」
ひゅおおっ と高音の風が強く吹き荒ぶ橋から身体を半分乗り出してヴァンは嬉しそうに叫んだ。
ビュエルバのターミナル倉庫にシュトラールを預け、一行はターミナルの外へと出る。
ターミナルの外へ出た途端、目の前に広がる壮大な蒼い空と、いつも見上げていた雲が目の前に浮かぶ光景にヴァンがここに来た目的を忘れはしゃぐ。
「すげーっ!飛空挺を見下ろすなんて初めてだっ!」
橋から見下ろすその視線と乗り出して一生懸命指差すその先に、小さくなった飛空挺が見える。
高い。とてもとても高い場所にビュエルバがあった。
雲の上。
文字通り雲の上に浮かんでいる。
ヴァンが身を乗り出してワイワイ騒ぐその橋の真ん中には、時々下が見下ろせるような網目状の格子が歩く場所に埋め込まれている。
恐る恐る近づいて下を覗いてみる。
「・・・・・・」
下を覗いても見えるのは青。そして時々横切る雲の白。
あまりにも高すぎて空の青なのか海の青なのか、その境界が分からない。
それほどの高さに背筋をゾクッとさせた。
「もうちょっと身を乗り出さないと、ちゃんと見えないんじゃね?」
上から突然ヴァンの声が聞こえ、同時にグイと背を後ろから押される感覚。
「わっ!ちょ、ちょっとやめてよ〜!」
慌てて身体を強張らせて後ろを振り返ればヴァンは面白そうに笑っていた。
「落ちるわけないって。、怖がりすぎ〜」
そう言って笑い続けるヴァンを見て「もう!」と怒りながら、視界に入った光景に表情をすぐに止める。
『魔石鉱へ行かれるんですね』
本来ならそう言って近づいてくる者がいたはずなのに・・・。
ヴァンが今居る、まさにその場所で同じように身を乗り出して外の風景を眺めているはずの男の子。
「・・・なんでいないの?」
「え?」
ぽつりと呟くとヴァンが返事をした。
「ううん。ヴァンに言ったんじゃないの」
「ふーん・・・」
「ルース魔石鉱はこの先だ。最近あそこの魔石は品薄らしいが ―――」
ヴァンを挟んだ向こう側ではバルフレアとバッシュがルース魔石鉱の情報を語り合っている。
本当ならバルフレアのこの言葉ですぐにあの子が声をかけてくるのに・・・。
その気配は無い。
はぐるりと橋を見渡した。
観光客も多いビュエルバ。ターミナルへと続くこのトラヴィカ大通りは大変賑わっている。
あの子を探して走り回っている帝国兵の姿も・・・。
でも、その中にあの子の姿を見つけることはできなかった。
「・・・どうして」
橋に置いた手がギリギリと拳を握る。
そしてもう一度、
「どうして・・・?!」
「なにがだ?」
「っ!」
吐き出した呟きに問いかけられハッとなって顔を上げた。
ヴァンを挟んだ向こう側からバルフレアとバッシュ、そしてフランもを見ていた。
「どうした?苦しそうな顔をしているように見えるが・・・。どこか具合でも悪いのか?」
声をかけたのはバッシュ。
苦しい?
ああ、そうか。思い悩んでる表情が苦しい表情に見えるんだ。
そんなことを頭の隅で考えながらは表情をいつも通りに戻した。
「ううん。なんでもないです。考え事してただけ」
「・・・そうか」
取り繕ってそう答えると、さほど疑問も抱かずバッシュはそう答え視線をバルフレアの方へと戻し再び話題をルース魔石鉱に戻した。
「どこかでルース魔石鉱の地図を手に入れておく必要があるな」
「ああ、それならこの先の十字路に居るモーグリが売ってる」
居ない。ここに居てない。
「武具も買い揃えておく?」
「念のために、な。あいつといちいちマトモに戦うつもりはないが、汚い手を使ってくるからな・・・」
ラーサーが居ない。
探さなきゃ。
「いつ不意打ち喰らわされるか分かったもんじゃない。フル装備までは必要ないがいくつか買うもんがあるな」
早く探して合流しないといけない。
どこにいるんだろう? どこにいっちゃったんだろう?
「―――っ、おいっ!」
「・・・え?」
顔を上げると皆少し離れた所にいた。
目的をつけて歩き出したはいいが、がついてくる気配がないから立ち止まったようだ。
「ボーっとするな。ホラさっさと行くぞ」
バルフレアに声をかけられ、ようやくは皆と一緒に歩き始めた。
だけど開いた視界は目の前の道と風景と仲間の姿を見てはいない。
ずっと、どうすればいいのか考えていた。
「お買い上げありがとうクポ♪」
ターミナルの前から走っている道を歩いた最初の十字路に居たモーグリに、ルース魔石鉱の地図を買った一行は、十字路の端でさっそくルース魔石鉱の地図とビュエルバの街の地図を開いていた。
「二手に分かれよう。私とバルフレア、ヴァン。それからフランと。」
バッシュの提案に以外の全員が頷くことで同意を示した。
何の話をしているのだろうと思いながら何も聞かずただ黙って会話のやりとりを聞いていると、ルース魔石鉱に行く前の買出しだと分かった。
「じゃあ、各自必要なものを揃え次第ここに集まろう」
そう言ってバッシュが指した地図の場所はクス空中広場だった。
ルース魔石鉱のまん前で集まる方が早いのだが、それだと目立ってしまう。
今、名を知られては困るバッシュが一緒にいるうえ、何かの騒ぎで帝国兵があちこちを走り回っている現状、行動は人込みにまぎれるに限る。
「じゃあ、後でな」
そう言葉を交わして男性陣と女性陣の二手に分かれて十字路を別々の方向へと歩き出した。
「なにを考えているの?」
歩き出してすぐ、隣にいたフランが足を止めこちらへと顔を向ける。
まっすぐな眼差しに図星を指されたと、ドキッとした。
「さっきからずっと上の空よ。なにを考えているの?」
そう言ってフランは「違うわね」と呟くように続いた。
「なにを探しているの?」
「っ!」
胸が弾む。
「あら。当たった?」
クスリと笑むフラン。でも瞳は確信の色を伝えていた。
図星を指されたため、表情を硬直させたまま何も言うことができないでいると、今度は瞳を細めて深く笑んだ。
そして
「私たちが何を買うかちゃんと覚えている?」
の中の焦燥を知ってか知らずか、フランはあえて話を変えてくれた。
バッシュ、バルフレア、ヴァンは武器防具道具と情報収集。
フランとは魔法とガンビットと技との当面の雑貨。
え? 私の当面の雑貨?
「なんで・・・?」
「シュトラール内でまかなえる物があるならもちろんそれを使うけれど・・・。貴方の着ている物はあまりにも目立ちすぎるわ。特にこれ。」
笑顔を消し、長い爪先でフランが指したものは・・・やはりのジーンズ。
「靴もそうよ。それにそれ以外に着ているものも。全部替えたほうがいいわ」
何度も変わった服と言われると何だか違和感を感じる。
「・・・やっぱり、変。なの?」
ジーンズとキャミソールとカーディガン。
にとっては普段の当たり前の衣類。
恐る恐る疑問をぶつけてみれば・・・
「――――貴方は自分の着ている服に違和感は感じないのね。」
確信めいた言い回しでふわりと笑まれる。
「目立つと余計な事に巻き込まれやすくなるわ。それはできるだけ避けたいの」
着替えた方がいい。
ではなく・・・
着替えなさい。ということ。
「・・・迷惑かけてごめんなさい」
金銭面でも心配事も。何もかも足を引っ張っているよう。
気を落として謝ると、フランは宥めるように手をの背に回し、同時に歩き始めるよう押して促した。
フランもバルフレアも鋭い。
賊という職についているだけあって人の隙を見つけ突くのはたやすい。
表で笑顔を作りながら言葉のやり取りで腹を探り、わずかな情報を引き出すこともお手の物。
そんな二人の前に自分はとても幼い。
出会って数日。
それなのに、の情報すべてを二人に握らされているような感覚を味わう。
言葉にしないだけで、もう何もかも知っているんじゃないか?
そう思ってしまう。
とりあえず認識しておこう。
私はこの世界の人ではない。
だから自分の常識がこの世界では通じないことを。
すべて異端と思われる原因に繋がる可能性があることを。
ぎゅっと唇を引き締め、決意するようにわずかに頷いて自分に言い聞かせた。
の視界の遥か上に位置するフランの表情は、頷く動きを見せたを見てクスリと笑んだ。
「えー。俺、重装備がいい」
「馬鹿かお前は。戦場に行くんじゃないんだ、そんな物着てどうする?」
防具ショップではヴァンとバルフレアがバッシュを余所に小競り合いをしていた。
「武器もまだマトモに扱えないお前にはまだ軽装備で充分だ」
「俺ちゃんと戦えるって!」
「剣を振り回すだけが“戦い”だと言うなら、な」
見た目の格好良さに重装備をほしがるヴァンと。
いざ素早く行動する必要性を危惧して軽装備だと決定するバルフレア。
もちろん言い分からしてバルフレアの方が正当。
己の身を守るための防具だが、それを身につけることで己が充分に動けないのでは全く意味がない。
強く言い出したが最後、引くに引けなくなりヴァンはどんどんバルフレアに噛み付いていったが、最終的にはバルフレアの口達者に敗北を帰した。
「ったく。なんで防具一つでこんなに時間かけなきゃならないんだ」
不満顔で軽装備を身につけるヴァンを尻目にバルフレアは悪態つく。
だが戦闘に関して素人抜け出ないヴァンの言葉を上から押さえつけて自分の意見を無理矢理通すことなどバルフレアはしなかった。
不満顔をしているが、最後にヴァンは自ら頷いたのだ。
バルフレアは言い回しや方向性は少し悪いが、それでも人の言い分はちゃんと聞き、且つ正すべきであるならキチンと言う男だ。
なんだかんだと愚痴をこぼしながらも、引き受けた以上最後まで責任をもってやり通す男。
ならば、そのバルフレアであれば自分の意見も聞き頭を縦に振るだろう。
バッシュは横にいるバルフレアの顔を見ながらそう考え口を開いた。
「ところで、バルフレア。の分はどうするつもりだ?」
「あ?」
「彼女は戦闘経験が無い。一緒に連れていくのなら、せめて防具だけでも身に付けさせた方がいいのではないかと思ってな」
の話題を持ってくるとバルフレアは真面目な顔で考えるように腕を組んだ。
そして大きなため息を一つ。
「正直、俺は連れていきたくない」
防具云々の話ではなく、根本的な回答をバルフレアは寄越した。
それについてバッシュも同じ意見だ、と頷く。
「戦えるならまだしも戦えないんじゃ、いざという時足を引っ張るだけだ。そのせいで火の粉がこっちに来るのは避けたいからな」
「ならばには魔石鉱の入り口か、どこか安全な場所で待ってもらう方がいいだろう」
同じ意見ならば話が早い、とバッシュは提案してみたがバルフレアは苦い顔をした。
「このビュエルバで、あいつにとっての安全な場所なんてあると思うか?」
その言葉にバッシュの表情が止まる。
中立を保っているビュエルバではあるが、現在帝国の艦隊が集結中。
つまり、あちこちで帝国兵が徘徊している。
それに一度は帝国に捕まりナルビナへ投獄されたが、国王暗殺犯とされたバッシュと共に脱獄したのだ。その情報はおそらくヴェインを始めとするジャッジマスター・ガブラスの耳にも届いているだろう。
ガブラスのみならず他のジャッジマスターすべて知っていると考えていいはず。
加えて中立国ビュエルバは人の往来が非常に多い。
様々な職についた様々な種族が足を運ぶ。
そんな人込みにを置いていくとなると、パンネロ救出が成功しても別の事件が上がりそうだ。
そちらの方が手間であり労力を使う。
「・・・無い、だろうな・・・」
取り巻く環境と情勢を考えバッシュは難しい顔でそう呟いた。
「一応フランに言って服を着替えさせるから、目立つ可能性は少しでも減るだろ」
黒髪に黒い瞳というだけでも目立つのに、服も奇抜だとかえって「私を見てください」と主張しているようなものだ。
「・・・だが問題なのはそれだけじゃない」
「というと?」
問い返すとバルフレアは一瞬周りの様子を伺うように視線を流してから、バッシュに寄った。
「ヴェインがのことを気にしている」
潜む声で耳打ちするように言った。
その言葉に驚いたバッシュは顔を上げバルフレアを見る。
バルフレアも肩をすくめながらバッシュを見返した。
「理由は分からない。だがなぜかアイツはのことを気にしてるようだったな」
捕らえられた時のことを思い返しながらバルフレアはそう答える。
思い返せば帝国兵に取り囲まれた時もヴェインはの髪に無造作に触れた。
単に黒髪であることに疑問を持ち珍しいのだろうと思ったが、それを行動に移すには場違いだ。
捕らえた後ダウンタウンまで引っ張り出されたその時も、バルフレアの背に隠れるにわざわざ近づいていった。
帝国アルケイディアの次期皇帝と言われる男が、たかだかそこら辺に転がっているような女に目を止めるはずがない。
それなのにあえてヴェインは
の元へと歩み寄ったのだ。
には、そうさせる何かしらの価値があるのだ、とバルフレアは思った。
「がナルビナを脱獄してビュエルバに居るとヴェインが知ったらどう動くだろうな?」
呟いてバッシュに疑問抱かせると同時に己も思案する。
気に留める必要がないなら、単なる脱獄者として兵を差し向けてくる。
だが、もしガラムサイズ水路の時のようにわざわざ歩み寄ってまで気に留める必要があるなら、艦隊集結に便乗してビュエルバに来るかもしれない。
それだけは御免被りたい。
互いに思案し、同じ結論に達したようで一瞬視線を合わせたのち、どちらともなくため息がもれた。
「ならば・・・」
「連れて行きたくはないが、置いていく危険性を考えると連れて行くしかないだろ。・・・悪いが女性用の装備も見せてくれ」
ため息まじりにバルフレアはそう言って踵を返し、カウンターにいる店の人間を呼ぶ。
ただの考えすぎならそれでいい。
だが、もしも危惧していた通りのことが起こったら後の祭りだ。
集まる者すべてが多方面からお尋ね者にされている以上、警戒を怠るわけにはいかない。
大げさかもしれないが、注意しておけば問題は最小限ですむ。
カウンターに出されたいくつもの装備にバッシュもカウンターへ行き、バルフレアと共にの装備を選んだ。
「本当に持てる?大丈夫?」
「大丈夫クポ!こう見えてモーグリは力持ちっクポ!」
集合場所であるクス空中広場ではもの凄く心配そうに下を見た。
そこにはノノを含むシュトラールの機工士3匹がぷるぷる震える腕で、買ったばかりのの雑貨を持ち上げていた。
持って歩き回るには重荷になるくらいの量と重さだから、尚ノノ達が転んでしまわないかハラハラする。
「行くクポ〜ッ!」
ノノの掛け声でモーグリ達はターミナルの倉庫にあるシュトラールに向けて歩き始めた。
「本当にあんなに沢山いらないのに・・・」
よたよたとおぼつかない足取りで遠ざかっていくモーグリ達の姿を心配そうに見ながらはフランに抗議した。
ノノ達が持って行ってくれた荷物は、普段着る衣類に始まり、下着、寝衣、化粧道具、靴、そしてが着ていた衣服も入っていた。
現在はフランが見立ててくれた衣服と靴に着替え、すっかりイヴァリースの人間の風体をしている。
「必要最低限持って満足するのは男だけよ。女性はまた事情が違うわ」
店に入って会計をしようとする度に「そんなにも要りませんっ」と慌てるの姿を思い出してフランはくすっと笑いながら言った。
「私からの好意よ。気にしないで」
「え、でも・・・」
確かに女性というものは何かと物品の消費がかかるもの。
でも、それにしては買ってもらった量は半端ではない。
お金だってだいぶ使ったはず。
「あまりにも度の過ぎた贈り物なら受け取る必要はないわ。でもその人に見合った価値あるものを贈られるのが女性の常であり特権よ。貴方には必要だと思ったから買ったの」
「・・・・・・」
「この場合、“でも”ではなくて、“ありがとう”と言ってほしいのだけれど?」
贈り物をした以上、申し訳ない顔よりも嬉しい顔がやはり見たい。
「・・・ありがとう」
まだ申し訳ない感情は残るものの、感謝を込めては素直に礼を言った。
礼を言われたフランの目が微笑みで細くなる。
「バルフレア達の様子を見てくるわ。少しここで待っていて」
会話が一段落したところでフランはを残し「すぐに戻る」と言ってクス空中広場を去った。
手ぶらになった
は広場内を歩き回りはじめた。
もちろんラーサーを探すため。
フランと共に買い物をしながらあちこち目を向けて視線で探してみたが、思うような人物は見かけなかった。
あと探していないのは集合場所である、このクス空中広場とルース魔石鉱に行く道のりだけ・・・。
「ここに居てくれたら、探す手間省けるんだけどなぁ〜・・・」
呟きながらあちこちキョロキョロと見渡す。
だけど本来、ラーサーはターミナル前のトラヴィカ大通りの橋で登場する。
時間のズレがあっただけで、もしかしたら今トラヴィカ大通りの橋に居るかもしれない。
もしそうなら、早く会ってみんなと合流しなくっちゃ!
そう思って移動する足を速める。
しかし、そんなこと心配する必要は無かったみたいだった。
クス空中広場から出ようとした今まさに目の前からラーサーが現れたのだ。
彼はとは逆にクス空中広場へ入っていく。
「あっ」
思わず声にしたが本人はに気付かず走るように広場の展望まで足を進めた。
「待って!」
慌てては追いかけてラーサーの肩に手を置き、引き止めた。
「・・・なんでしょうか?」
突然呼び止められ、肩に手を置かれたラーサーは振り返って驚いた声を出した。
「良かった〜。見つかって」
「・・・僕に何か用ですか?」
「うん。ずっと探していたの」
ようやく見つかったことに安堵して素直にそう言うと、のわずか下の位置から感じる視線には目を向けてハッとなった。
「あ、べ別に追いかけて来たとかじゃないのよ」
「貴方は帝国の人間ではないんですね?」
「うん、違う」
ラーサーの問いかけにすんなり頷くとラーサーは発していた警戒の色を消した。
「疑ってすみませんでした。ちょっと追われているもので・・・」
「みたいだね」
素直に謝罪するラーサーに心地よさを感じながらが同意すると「知っているのですか?」と驚かれた。
瞬間少々の後悔が湧き上がる。
自ら疑われるような言動はしないでおこうと思っていたのに、安易に起こしている自分に呆れる。
「なんかね。あちこち走り回っている人が沢山いるから」
帝国兵とは指さずに言うとラーサーは苦笑しただけで何も言わなかった。
「ところで何か探しているの?あっちこっちキョロキョロしているように見えたけど」
「ええ、ちょっと魔石鉱について・・・」
「ルース魔石鉱に行くの?」
「ええ」
「そう。奇遇ね。私達もこれからルース魔石鉱へ行くのよ」
「本当ですか?」
「ええ♪」
話題を切り替えラーサーと魔石鉱の話へ持っていけたことには胸中で安堵した。
良かった。ラーサーが見つかって良かった。
後は皆とラーサーを会わせて、一緒にルース魔石鉱に行くことになればもう大丈夫だわ。
それまであとひとふん張り。
はラーサーに言って、共に集合場所で皆が集まるのを待った。
「魔石鉱へ行かれるんですね」
にこにことした表情で言うラーサーの目の前には腕を組んで片眉を上げたバルフレア。
「誰から聞いた?」
「さんからです」
バルフレアの問いかけにすんなりラーサーは暴露してしまう。
途端怒ったようなバルフレアの鋭い視線が刺さってくる。
「だ、だって、一人で行くみたいだから危ないなと思って。行くなら大勢で行った方がいいんじゃないかな〜・・・」
「困った子ね」
フランの背に半分隠れながら痛い視線を向けるバルフレアに必死で訴えると、ため息まじりにフランにそう言われた。
「僕も同行させてください。奥で用事があるのです」
「どういう用事だ?」
バッシュの問いかけにラーサーは・・・
「では、あなた方の用事は?」
そう言いながら歩み寄りバルフレアの方を見上げ、その後バッシュを見る。
その言葉にバルフレアが再びの方を見た。
言ってないっ! 断じてパンネロ救出の話は喋ってない!
そう訴えるようには必死に首を横に振った。
ラーサーの質問返しの返答に困ったバッシュがため息をつく。
「いいだろう。ついてきな」
「え?」
バルフレアの予想外の言葉にヴァンが驚いた声を上げる。
「助かります」
「オレたちの目が届くところにいろよ。その方が面倒が省ける」
だけでなくこの子供も連れて行くことになる。
重なる面倒に、荷物にならないよう含める。
「お互いに」
ラーサーは頷くように一度瞼を伏せてからそう言った。
「お前 名前は?」
「はい ラ―――」
ヴァンに問われラーサーだと元気良く言いかけて言葉が止まる。
「ラモンです」
少し間が空いたのちラーサーは「ラモン」と偽名を名乗った。
「わかった」
ヴァンは得意気のように人差し指で鼻をこする。
「たぶん中でいろいろあるけど、心配ないよ。なあ バッシュ」
そう言いながらラーサーに歩み寄り、彼の肩に手を置いてバッシュを見る。
ヴァンの口からためらうことなく紡がれたなにバルフレアとバッシュが顔を見合わせる。
そしてバルフレアは苦い顔。
『あんたは死人だ。用心してくれ。名前も出すな』
『無論だ』
ビュエルバに着いてすぐ、ターミナル出口で走り回る帝国兵の姿にバルフレアとバッシュがそう会話をしたのをヴァンはもう忘れたのか・・・。
バッシュは何も気付いていないヴァンの様子に先が思いやられるといったように重いため息をつく。
そんなバッシュの様子にバルフレアは肩眉を上げて「ご愁傷様」とでも言うように苦笑した。
はようやく自分の知る歴史通りに戻ったことをほっと胸を撫でおろし、安堵した。
そして一行はルース魔石鉱へ
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