13題目「記念日」
これまで私が知った「女性」ってぇ生き物は、自分を奪う男の色に簡単に染まる。
例え抵抗し嫌がっていたとしても一度沈めてしまえば以降は従順になる。
そして染めたこちらが呆れるくらい「女性」ってのは慣れてしまう。
最近そんなものには興味が無くてねぇ・・・
だけど―――
最近手に入れた「ダルマスカの特産」は私の心を惹きつける。
「―――ッ! アッ」
呼吸で緩やかに揺れる細い首を後ろから手を伸ばし、少し絞めるように掴むとそれは目を覚ます。
「眠っていたんですか? ―――まだ終わっていませんよ?」
腕に閉じ込めている細い身体にある小さな耳に低く囁けば、面白いくらいに身体が跳ね上がる。
「―――もぅ、無理・・・。疲れて眠たぃ・・・」
「じゃあ起こしてあげましょう」
「やっ!あ、アアッ!!」
潤い繋がったままの場所を乱暴に突けば、それは悲鳴を上げて身悶える。
腰を引き寄せ胸を揉むそれぞれの腕を、引き剥がそうとしながら私の動きに声を上げ涙を流す表情はとてもイイ。
「むっ、無理っ!・・・もう無理ッ!」
毎日のように私に捕らわれて散々揺さぶられても堕ちた女の声にはならない。
ギチギチと締め上げる入り口と狭い中が、いつまで経っても私に慣れていない証拠。
泣かせるまで落とし込んでいるっていうのに、なぜか落ちていかない。
抵抗する色はいつになっても消えない。
身体の肉はいつまで経っても私の色に染まろうとしない。
部屋へ引き込もうとする度に暴れ、逃げ、拒絶の言葉を吐き出す。
その姿を見る度に私の心は黒くなり、ゆっくり追い詰め、脅し、時には縛って、そして朝までじっくりと肉と声の色を味わう。
「嫌ぁっ・・・やめ、て・・・眠ら、せ―――ンぐぅッ」
腰を引き寄せていた手の指2本を口の中へ押し込めば赦しを請う言葉は簡単に潰せる。
「いいでしょう。 私がイったら終わらせてあげましょう」
そう言って更に深く突き上げれば腕の中にある細い身体は言葉にならない悲鳴を上げビクビクと震える。
どうです?
これまでに無い味の女でしょう?
何にも染まろうとしないこの「ダルマスカ特産」の味は格別。
いつになっても味は落ちない。
だから。 尚この「ダルマスカ特産」を手に入れたくてしょうがないんですよ。
ねぇ――― 嬢 ―――
身体中が痛い。
目覚めの感覚はいつもそこから始まる。
高く昇った陽射しにキラキラと白く輝く広い部屋。
気だるい身体をゆっくり起こして無駄に大きいキングサイズのベッドに座る。
生まれたままの姿に、赤い痕が無数に散らばっているのが目に痛い。
やめて、って言ったのに・・・
隠しようがないほどあちこちに点在している。
痛むくらい吸い付いて痕を残したのはもちろん―――
「ようやく目が覚めましたか。遅いお目覚めですなぁー」
癖のある喋り方をする、この憎い男アルシド・マルガラス。
「目覚めを遅くさせたのは一体誰ですか?」
「さぁて、誰でしょうねぇ〜」
睨みを利かせて下から見上げても、この男はスッと視線を逸らして軽くとぼけてみせる。
毎夜毎夜、泣きたくなるほど人を追い詰めて、壊れるくらい好き勝手に蹂躙してくるのに、朝になればそのサディスティックな顔は仮面をかぶり、紳士な男を演じる。
アルシドは昨夜から剥ぎ取り床に落とした白いガウンを拾い上げの細い身体に着せると、睨む表情をじっくりと見つめ返した。
「食事の用意が整っていますよ。 どうぞ」
そして恭しく手を取り、引いて立ち上がらせる。
「―――っく!」
ベッドから下り、歩き始めた所での表情が歪み身体が崩れる。
ジンとくる奥の熱さと入り口の痛みに、足と腰に力が入らない。
「おやおや」
顔を歪ませ膝を折るの様子にアルシドは昨夜のの乱れる姿を思い出してクスクスと笑った。
は昨夜のアルシドの乱暴ぶりを思い出し先程より凄みを増して睨み上げた。
「寝ている人を無理矢理起こしてまで何度もする貴方が悪いわ」
「おや、往生際悪く抵抗して私の加虐心を煽ったのは誰ですか?」
「私が自ら招いた状況だとでも言うのっ?」
いつまでも抵抗を止めないに対し最終的にアルシドは手近にあったタオルで縛り上げてきた。
そんなアルシドの酷なやり方もが仕向けたことだと言うのだろうか?
そもそも「ダルマスカ特産」が欲しいと言うアルシドの分かりにくい表現に騙され、知らずダルマスカからの使者としてロザリアへ来たは陥れられるような状況でアルシドの所有物になってしまった。
当初手に入れるやり方が汚く納得できないと怒り、アーシェという親友が君臨するダルマスカへ帰ろうとするをアルシドは問答無用で軟禁した。
そして日々昼夜問わず腕の中で容赦なく喘がされ続け今日に至る。
ここまで思い返しても自ら招いたせいだとは到底思えない。
どう考えてもアルシドの征服欲と支配欲の塊だ。
キッと睨むの眼差しを平然とした表情で見るアルシドの耳に振り子時計の鐘の音が聞こえる。
「もうこんな時間ですか。さぁ駄々をこねていないでさっさと食事にしましょう。今日は会議が3つもあるんですよ。急いでくださいね」
「ちょ、っと・・・!」
鐘の音が聞こえたと同時に咎めるの視線を無視してアルシドは腰が抜けているを軽々と抱き上げ、食事が並べられている部屋へと連れて行った。
こちらが知られたくない事ほど鋭い目を向けてくるのに、逆にこちらが知りたい肝心な事は柳のようにすり抜けて逃げてしまう。
アルシドのモノになってしまってからもう数ヶ月は経つというのに依然この男の心が見えない。
アルシドのやり方に憤慨して暴れていた初めの頃に比べ、軟禁されることはなくなった。
だが引き換えに四六時中この男が傍にいる。
否、正しくは男の行く先々へ連れ回されている。
今日だってそうだ―――
「ほらほら、しかめっ面はそれくらいにしてもらわないと食べる時間が無くなりますよ。空腹のまま会議に出るつもりですか?」
朝っぱらから豪勢に並べられた朝食を前にして軋む身体は食べる気力など起きない。
同時に昨晩の酷いやり方に煮えたぎった怒りは収まらず依然として向かいに座っているアルシドを睨む。
朝、不機嫌になるのは毎度のことなのに分かっていてアルシドはいつも朝食を強く勧めてくる。
「仕方ありませんねぇ」
頑なに朝食を取ろうとしないの態度にアルシドは盛大なため息を漏らすと、傍に控えていた美人秘書を呼んで何かを持って来させた。
それをの元へ運ぶように指示する。
どうぞ、と恭しく頭を下げると同時に銀のトレーの上に乗せたものを目の前に差し出されは驚愕した。
「先日私の所へ送られてきたものです」
そうアルシドに説明されたそれは、ダルマスカ女王からの書簡だった。
久しぶりに目にするダルマスカの紋章。
過去は使者として紋章が入った全く同じこの書簡を携えアルシドの元へ訪れた。
たった数ヶ月なのに酷く懐かしく思い、アルシドに許可を得るのも忘れて思わず手に取り慌てて開いた。
「明日、ダルマスカ女王陛下の生誕祭が行われるそうです。ロザリア国との友好の架け橋になれればという名目で招待状が届いたワケですがぁ―――行きますか?」
食事を取りつつ横目でチラリと目線を送り問うと、は目を輝かせて何度も頷いていた。
その表情にはアルシドのもとに来てから一度も見せなかった笑みがこぼれている。
なぁるほど。 こういう笑顔をするんですか・・・
この時初めてアルシドはの笑顔を見た。
歪む表情を好むアルシドだが、気に入った女に自分の知らない表情があるというのは癪に障る。
ベッドではひときわに無体を強いるアルシドだが、に軟禁を解いてからはベッド以外の場所では、可能な限り紳士な態度を取っていた。
別国の姫君でもあるかのように時には膝を折って恭しく。時には軽いジョークを交えて。
だがアルシドの昼と夜の態度のあまりの違いに戸惑うと同時に環境に慣れるまで軟禁されたことにショックを受け、は笑みを見せるどころか心すら開こうとしなかった。
それは今もなお変わっていない。
直筆の書簡を見ただけで簡単にの笑みを引き出せるダルマスカ女王に対しアルシドは辟易した。
「だったら明日の仕事は今日中に終わらせないといけませんねぇ・・・。だから今日は忙しいんですよ」
再び急くように促すとは渋っていた食事にようやく手を付け、会議に向かうアルシドに同行すべく支度に取り掛かった。
突然元気良く動き始めたの喜びようにアルシドは頬杖を突いて眺めながらため息を漏らす。
ダルマスカ女王の腹の内などお見通しだ。
女王生誕祭にロザリア国との友好目的で招待するのは表向き。
女王の本心はの奪還にあるはず。
女王として国民の上に立ってまだ半年しか経っていない。
政に対しても、腹の探り合いにしても依然幼さは抜けず、アーシェ女王の考えなど策士アルシドの前では諜報活動せずとも書簡を見ただけですべて見通せる。
奪うようなやり方でを手に入れた直後、を返せという書簡がアルシドの元に次々と送られてきた。
一歩間違えれば大国ロザリアへの宣戦布告とも捉えられる内容を幾度も送りつけるダルマスカ女王の浅い態度にアルシドは苦笑し、そして一切を無視した。
相手は小国ダルマスカ。
その気になればいつでも潰すことは出来る。
政面での理由で戦が行われていないだけで、武力の面で考えれば復興を始めた小国など赤子の手を捻るようなもの。
書簡に書き綴られた脅しなどアルシドの前では効果は無に等しく、アルシドからは書簡を一度も返さなかった。
それはを絶対に返さないという無言の通達。
更に怒りを覚えたアーシェ女王だが、これ以上書簡を送りつけて大国ロザリアの怒りを買うことなどできない。
幼い女王陛下なりに考えた新しい手なのだろう。
招待状には「貴殿の小鳥も郷愁にかられていると思われ―――」という一文が載せられている。
つまり招待した生誕祭にを必ず連れて来いという意味だ。
自国へ呼べばなんとかなるとでも思っている現われ・・・。
そこまで思考を巡らせてアルシドはクククと喉の奥で笑いながら注がれた少量の酒に口をつけた。
「どういう手を使ってくるかお手並み拝見ですなぁ〜」
狸の化かし合いでもしているようで楽しくてたまらない。
明日が楽しみだ、と腹を揺らすアルシドは着替えを終え戻ってきたへと笑みを向け優雅に立ち上がった。
ロザリア国大本営の本部で会議は行われていた。
マルガラス家の本家に属するとはいえ、変わり者扱いされているアルシドが政の会議に顔を出すことはあまり無い。
それでも時々領地の話や他国の情報に関する会議となれば、諜報活動では優秀であるアルシドにお呼びがかかる。
はそれに諜報活動の工作員の一人として秘書の女性と共にアルシドと出席する。
環境に慣れ、軟禁が解けてから連れ回すようにアルシドは自分の仕事にを同行させた。
本来は工作員でもなんでもない。
アルシドが会議に連れて行くための単なる肩書きに過ぎない。
それでもを連れて行くのはただ傍に置いておきたいからなのかとは当初思っていたがアルシドの思惑はそうではなかった。
「今の会議どう思います?」
会議が終わればアルシドは即座に議論されていた内容に対する意見をに求めてくる。
いつもはその問いかけに困るのだ。
「どう、って・・・・・・」
「言ったでしょう。専門家のような意見はいらないんですよ。むしろ私が欲しいのは素人目から見て今の議論がどう見えたのか、という点のみです」
なぜアルシドがそんな意見を欲しがるのか理解できない。
だがアルシドの考えでは、言葉の裏や物事の奥を見ようとするあまり議論の本質を見落としてしまう。だから政に関する知識が無いの率直な意見は、=市民の考えとして捉えられるくらい専門家の硬い論文よりも実のあるものだと言うのだ。
「議論している意味が分かりません」
ヴァンのように「つまらない」と付け加えて言うとアルシドは豪快に笑い出した。
まだ会議の会場から出てもいないから周囲にいる人は一様にアルシドを奇怪な目で見る。
だが変わらずアルシドは笑っていた。
そんなに笑い出すほど変なことを言ったのだろうかと咎めるように見上げると、おもむろに肩を抱き寄せられる。
「失礼。いやぁ〜、だが実に面白い。確かにアナタの言う通りこの議論は意味が無い。 専門家以上に的を得た意見だ」
絶賛するように言い、そしてまたクックッと腹を揺らして笑い続ける。
アルシドがを仕事に付き合わせる理由はそこにあった。
何も知らないが意見することによって見えなかった部分が見える。
隠れている物事の本質が見える。
あーだ、こーだーと会議で議論される内容よりもっと大事でしかし見落とされてしまいがちな箇所を拾い上げるキッカケとなるのだ。
時に相手の腹の内を知る突破口にもなる。
の意見の価値はそこにあるのだ。
それ故アルシドは他国へ漏洩しては困るロザリアの情勢を惜し気もなくに見せ、教える。
「だからアナタは私にとって貴重なんですよ」
公私共にね、と耳に唇を寄せ囁きアルシドはを連れて会場を出た。
の意見は貴重だとアルシドは言ったが、今日のはどこか上の空だった。
最初の会議での意見もよく考えて出した言葉じゃない。
会議での議論など全く聞いていなかった。
ずっと明日行われるアーシェの生誕祭のことを考えていた。
数ヶ月のことなのに、もう何年も会っていない感じがする。
今すぐにでも会いたかった。
会って喜びに抱き合って、そしてそのままアーシェの元に戻りたい。
アーシェがをアルシドから奪還することを考えているのと同じに、も生誕祭に乗じてアルシドから逃げ、アーシェの所へ帰ることを考えていた。
連れて行ってくれる以上アーシェに逢わせてくれるはず・・・。
おそらくアルシドから逃げるのはその機会しか無い。
アーシェの所へさえ行くことができれば、あとは女王であるアーシェが何とかしてくれる。
明日のことを考えるの心は浮き足立ち、いつものように大人しく会議の内容を聞いてなどいられなかった。
落ち着かない様子のを、アルシドは深い紫色のサングラスの奥からジッと見つめていた。
かつてダルマスカがナブラディアと同盟を結ぶ為、ラスラとアーシェが婚儀を行ったあの頃を再現するようにダルマスカの、特に首都ラバナスタは大変な賑わいを見せていた。
道という道に露店が立ち並び、大神殿の前では一目女王となったアーシェを見ようと大勢の市民が詰めかけ、そして神殿内ではアーシェ自ら招待した各国の要人達が彼女を祝福していた。
もちろんその中にはアルケイディアのラーサーとジャッジマスター・ガブラスの姿もあり、かつて仲間であったヴァンやパンネロ、今回はバルフレアやフランも出席していた。
はアルシドが用意した服に身を包み、生誕祭の主役アーシェを見守っていた。
招待席のアルシドの隣に―――。
いつもより綺麗に見えるアーシェ。
の視線に気づきフッとアーシェがの方を見た。
嬉しくなって軽く手を振ると、が出席していることに喜びなんとも言えない優しい微笑みがアーシェから返ってきた。
その笑みを見ると、の中で今すぐにでも傍に行きたい焦りが生まれた。
祭りの儀式が終わると場所は大神殿から宮殿へと移り、そこで食事が行われる。
それが終われば酒を交えたパーティーと各国の社交の場である談笑―――
ダルマスカに来てから今まではまだ一度もアーシェの傍に行くことも、言葉を交わすことも出来ていない。
傍に行こうとするを巧みにアルシドが阻んでいた。
公の場であるため抵抗を表し、アルシドの手を振り解くことは出来ない。
刻一刻と迫る祭りの終わりには焦る気持ちが隠せなくなっていく。
「行きたいですか?女王のもとへ」
動揺するの姿にアルシドはようやくそう切り出した。
掛けられた言葉にすぐさま向けたの表情には、今すぐにでも走り出したい気持ちが表れていた。
その表情にアルシドはフッと笑むとの手を自分の腕に絡め、エスコートするようにアーシェへと向かって歩き出した。
やっと逢える嬉しさとアルシドが傍にいる不安で高鳴る鼓動。
二人が向かう先にいるアーシェは談笑を取りやめ、ジッと見据えてアルシドとが傍に来るのを待っていた。
「ご機嫌麗しゅう〜 女王陛下。このたびは御生誕おめでとうございます」
「ありがとうアルシド・マルガラス閣下。必ず来てくれると思っていたわ」
胡散臭い雰囲気で挨拶をするアルシドに、アーシェは落ち着き女王として挨拶を返した。
そしてアルシドの隣にいるへゆっくりと手を伸ばす。
手を取りこちらに来て欲しいという意思を示す。
その手にひかれるようには手を伸ばし、差し出されたアーシェの手を取った。
そしてそのままゆっくりとはアーシェの傍へ歩み寄る。
「貴方にまた逢えて嬉しいわ、」
引き寄せたを隣に座らせ強く手を握り、アーシェはもう片方の腕で再会を喜ぶようにをきつく抱きしめた。
待ち望んだダルマスカへの帰国とアーシェとの再会。
「私も逢いたかったっ」
も喜びに湧きアーシェを抱きしめ返した。
その間アルシドは動かなかった。
周囲にいる者と同じくその微笑ましい光景を見つめる。
「アルシド閣下。数ヶ月ぶりに逢えた親友ともうしばらく再会の喜びを分かち合いたいわ」
ひとしきり喜んだ後、アーシェは変わらずの手を強く握ったままアルシドに別室でじっくりとと話がしたいと言い出した。
アーシェの上手い流れには思わず笑みが増す。
「女王陛下がお望みでしたら、いかようにも」
一切反対することなく、アルシドはそう言って紳士的に恭しくお辞儀をした。
アルシドの本心が全く見えない。
何を考えているのか検討もつかなかったが、アーシェは笑みでそれを良しとし、周囲の者に断りを入れて立ち上がると、を引き連れて奧の間へと下がっていった。
女王とが姿を消してからようやくお辞儀を解いたアルシドは秘書の胸元から自身のサングラスを取ると、サングラスの先セルを舐めつつしばし二人が去った扉をじっとりと見つめてから、外にある庭園へ向かい歩き出した。
共に歩くアーシェの足取りが速い。
彼女もとの再会が待ちきれなかった。
会場を退室し、奥の間へと入るとアーシェは扉を閉めた直後思い切りに再び抱きついた。
「っ!っ!ああ、本当に良かった!」
女王という立場を外し、共に旅をしていた頃のアーシェの表情となって遠慮なくに抱きつき喜びに泣く。
「私も逢いたかったっ。ずっと帰りたかったの!」
もアーシェ同様抱きしめ返し思いの丈をぶつける。
「あの人の傍に居たから心配だったの。酷いことされていない?」
抱きしめる腕を緩め、の頬に手を添えてアーシェが問う。
酷いことなら散々されてきた。
だけど毎夜強姦まがいなことをされ続けてきたなどとアーシェに言う気にもなれず、は苦笑するだけにとどめた。
だがその表情でアーシェは何をされていたのか察したようだ。
「助けるのが遅くなってごめんなさい」
そう詫び、再度をきつく抱きしめた。
「もう心配することはないわ。このまま私の傍にいれば大丈夫。明日になればあの人だけロザリアに帰すわ。そうしたらまた私と一緒に―――」
を安心させるように言うアーシェの言葉が突然切れた。
「え、なに?どうしたの?」
問うてもアーシェから反応がない。
なにか1点を見つめて絶句した表情で固まっている。
不思議に思ったがアーシェの視線を辿ると、その先は自分の衣服に向けられていた。
朝アルシドが用意した服。
「なぜこんなものを着ているのっ」
いきなり発せられたアーシェの声色には酷く驚いた。
困惑と、必死で抑えられている怒りの色。
「なぜ貴方がこれを着ているの?」
「アーシェ?」
「あの人が用意したの?」
「そ、そうだけど・・・」
「ああ、最悪だわ―――」
「ねぇっ、一体どうしたの?!」
両手で顔を覆い突然嘆くアーシェ。
一体なにがどうなっているのかには全く分からない。
説明してほしいと訴えるとアーシェはの衣服へと手を伸ばした。
「貴方はこの服を与えられた時、何の違和感も覚えなかったの?」
再度問われたがなにを示しているのか分からない。
素直にそう返すとアーシェは絶望を含んだため息を漏らした。
「―――マルガラス家の紋章が入っているのよ」
消え入りそうな声でアーシェがそう搾り出した。
彼女が伸ばした指先にはの左胸にある刺繍。
ただの刺繍と思っていたその紋様はマルガラス家の紋章だというのだ。
は全くそのことに気づいていなかった。
ロザリア国の紋章ならまだしも、マルガラス家の紋章までは知らない。
「私・・・知らなかったわ。会議に出る服だって同じ模様があったから、つい、そういう伝統柄なんだと・・・」
「会議ですって?!」
喋るにアーシェは別の言葉へ食いついた。
常にアルシドに連れ回されているのだと語るとアーシェは更に嘆いた。
再会して喜んでいたのに、なぜいきなり悲しみに暮れるのか全く分からない。
「教えてアーシェ!どういう意味があるの?!」
「貴方は本当になにも知らないのね」
「何も聞かされてないわ」
「――――――貴方はマルガラス家の人間になったということよ」
悲しみの許容範囲を超えたのかアーシェが涙を流す。
言われたは固まっていた。
「どういう意味か・・・分からない・・・」
「マルガラス家の紋章が入った衣服に袖を通す者はマルガラス家の一員だという証拠なのよ」
「・・・・・・・・・」
「貴方は知らずに袖を通してしまったのね。でもそれがあの人の策略。罠だったのよ」
「・・・・・・アー、シェ・・・」
「国の会議にも出席させているというのなら、もう間違いはないわ。今の貴方はダルマスカ女王の側近ではなく、ロザリア国マルガラス家の人間なのよ」
「・・・・・・・・・」
「正式にあの人のもの、ということ。おそらく貴方も私も気づかないうちに出生記録を手に入れて都合のいいように書き換えているはずだわ・・・」
「・・・・・・・・・」
「何も言ってこないからおかしいと思ったら――――――こういうことだったのね。 やっぱり名立たる策士だわ・・・」
「・・・アーシェ。・・・私っ」
戻りたい! そう言おうとして、しかしアーシェに手で制される。
「他国の人間を、国を通さずして手に入れることはできないわ・・・。貴方を私の傍に戻すことは―――できないっ」
他国の人間。
女王としての立場を持つアーシェの視点から見て、マルガラス家の紋章が入った衣服を身に纏うは、別の国の人間として捉えざるを得なくなった。
これまでのようにを返せと言うことなどできない。
ロザリア国の、特にマルガラス家の許可を得ずしてをこのままアーシェの傍に置くことなどできない。
許可を得たくてもアルシドが首を縦に振らないのは百も承知。
数ヶ月前のようにダルマスカ国民としてアーシェ女王の傍に戻ることができなくなった。
「どうして?なんで出来ないの?私帰りたいっ!アーシェの所に戻りたいのにッ!!」
「私だって連れ戻したいわっ!でも、もう出来ないのよっ!」
アーシェの悲痛な叫びにも泣いた。
アーシェととアルシドだけの問題では済まなくなっていた。
先を見越したアルシドが簡単にを帰せないよう、裏を張ったのだ。
にマルガラス家の人間であるという証の服を知らずに身に付けさせ、ロザリアの情勢を余すことなく教え込み、そして出生記録を手に入れてダルマスカ国民からロザリア国民へと塗り替える。
自国の側近であるならまだしも、他国の王族に仕えることはどの国でも禁じられている。
アーシェの側近に戻りたいなら、まずダルマスカ国民へと戻らなければならない。
だがロザリア国とダルマスカ国間では亡命の受け渡しは行われていない。
つまりロザリア国民と書き換えられてしまったが再びダルマスカ国民になることはできないのだ。
―――もう二度と。
またしてもアルシドにやられた!
アーシェとの二人だけになることに何ら反対しなかったのは、このような裏付けがあり、絶対にがアーシェの元へ戻ることが出来ないと分かっていたからだった。
悔しくて憎くて、涙が止まらない。
怒りの勢いで左胸に刺繍されている紋章を引き裂き始めたが直ぐにアーシェの手によって止められた。
そして悲しむ音だけが二人を静かに包む。
「―――これ以上二人きりで居るのは良くないわ」
しばし訪れた静寂の後、アーシェは口を開いた。
「ダルマスカ女王がロザリア国の人間と二人きりで居るわけにはいかない」
もうダルマスカの人間でもない。
もうダルマスカ女王の側近でもない。
今のは―――
「・・・帰りなさい、貴方の主の元へ・・・」
搾り出すように言うアーシェの声が痛かった。
親友としてを引き止めたい。
しかし女王である以上、国という厚い壁に阻まれ、残酷にもをアルシドの元へ追い返さないといけない。
涙をのみアーシェは女王としての威厳をなんとか取り戻すと、に向かって部屋を出て行くように命じた。
絶望がを支配し、足元が崩れていく感覚が襲う。
光が全く射さない暗闇に放り出されたようで涙が止まらない。
さあ、と強く言われ半ば追い出されるようには退室させられた。
分かっている。
こんな酷い態度を取ることしかできないアーシェの立場もよく分かる。
分かっているのに納得できなかった。
政を学んだわけではないにとって国家間の情勢や法律など全く知らない。
理解できたのはアルシドが裏で手を回し、そのおかげではダルマスカへ帰ることが出来なくなったということ。
の帰る場所が、居場所が、アルシドの傍のみという状態にされたということ。
それを理解した途端、もうどうすることもできないのだと分かって、居ても立ってもいられず駆け出した。
走り出した先は決してアルシドと共に用意された客室ではない。
絶対そこには行かない。
それ以外の、とにかくどこでもいいから一人になれる場所へと駆けた。
宮殿の中にある広大な庭園へと来ると噴水の傍で声を出して泣き崩れた。
両手で顔を覆い、抑えることなく声を上げて泣き続ける。
アーシェ。
共に旅をしたかけがえのない親友。
もう二度とその隣に並ぶことができない。
思えば思うほど涙の量は増し、悲嘆する。
は泣き続けた。
しばらくするとガサリ、と背後で茂みの揺れる音がした。
直後―――
「ずいぶん泣きますなぁ〜。それだけ涙を流せば化粧落ちてしまってるでしょう」
悲しみに暮れるにとって腹立たしいほど悠長な声色。
「女王陛下との再会は感動的でしたか? それにしてはずいぶん早くに戻ってきたんですねぇ?」
背後から覗くように近づくアルシドの姿に顔を覆っていたの両手がギリギリと拳を作り、怒りで震える。
「なにかあったんですか?」
他人事のように聞いてくるアルシドの態度にの怒りが爆発する。
もう大人しく彼の言葉を聞いてなどいられなくなり、振り向き様にアルシドに向かって手を上げた。
「なにをっ、白々しいッ!! 貴方のせいで私はッ―――!!!」
「おっと」
悲痛に叫び、手をアルシドの頬に向かって振ったが、難なくその腕を捕まえられ地面へと乱暴に押し倒された。
すぐさまアルシドが体重をかけてを押さえ込み、その重みで身体を圧迫されが呻く。
「一体なにに怒っているのか検討もつきませんなぁ」
「なんて人なのっ!最低だわッ! やり方が汚すぎる!!」
依然としてシラを切るアルシドの態度に押し倒されても尚の怒りは膨れ上がる。
「私に与えた服も、出席させる会議も、私に向かって言った言葉も―――すべて仕組んだことだったのね?!」
“貴方にはこの服が似合う”と言い着せていた服はすべてマルガラス家の紋章が入っており、マルガラス家の一員もしくはマルガラス家所有の人物である証。
一度袖を通せばマルガラス家も、着た本人もそれを了承したという契約にもなる。
“貴方の意見はとても貴重だ”と言い引き連れて出席させた会議も、ロザリア国の情勢を教えれば国を出たいと言えばスパイ扱いで公私共に拘束することが出来る。
が来てから今日までのアルシドの言動はすべて、今日の日のために仕組まれ裏づけされていた。
を見つめ返していたアルシドは掛けていたサングラスを外しの左胸を見た。
美しく精巧に刺繍されていたはずのマルガラス家の紋章。
それは左右に引っ張られたことで亀裂が入り、真っ二つに裂かれていた。
その光景を見て仕組んだ内容にようやくが気づいたのだと理解し、アルシドは口の端を上げてニタリと笑んだ。
「物事ってぇのはぁ、必ず裏があるものですよ嬢・・・」
低く深く、腹の底から囁かれる声色にの身体が震え上がった。
「それにしても心外ですなぁ。“仕組んだ”とは人聞きの悪い・・・。 私は普通のことを、普通にしたまでですがねぇ」
「普通ですって―――?!」
「ええ、そぅ。普通ですよ。元々私と交渉する為に女王は貴方を私に差し出したのです。その時点で公私共に私のものとなったのは当然のことでしょう? ―――であればぁ、私のものになったということはマルガラス家の紋章が入った服を着ても何ら不思議ではない。ついでに私の妻となる者ならば国の会議に出席したとて咎める人は誰もいません」
当然のことのように語るアルシドの言葉の中に出てきた一つの単語にが酷く反応し、身体が跳ねた。
何に強く反応したのか分かっているアルシドは唇が触れるギリギリまで顔を近づけさせ、笑みを更に黒く染めた。
「――――――そう。 貴方は私の妻となるんですよ」
その言葉に一瞬にして全身から汗がドッと吹き出た。
わななく手はアルシドに押さえ込まれても強く震える。
「・・・そんなこと、誰が許すもんですかっ・・・!」
怒りで失いそうになる自我はそんな言葉を吐き出さないと保てなかった。
「いいでしょう。では私と賭けをしませんか?」
賭け?
突然のアルシドの提案に驚く間もなく地面に倒されていた身体を引き起こされ、あっという間に横抱きにされる。
「賭けの詳細については部屋にて致しましょう」
「いやよ、嫌ッ!! 放してッ!!」
低く囁いて歩き出すアルシドの腕の中で、部屋へ連れ込まれてなるものかとは必死で抵抗した。
しかし両足をバタつかせ叫ぶ口を、抱えた腕が深く前へ回りの口を容赦なく防ぐ。
「静かに。 私以外の、それもがっついた兵士に貴方の啼く声を聞かせたくありませんから、部屋に着くまで黙っていてください」
アーシェの側近だった頃、幾度も通り見慣れた宮殿の回廊。
なのにその背景にアルシドが映っているだけで、場所はロザリアにあるアルシドの私邸へと色が変わってしまう。
尚も暴れ、必死にアルシドの腕から逃げようと躍起になっても、平均男性よりも背が高く、将軍並に屈強な身体をしたアルシドから逃れることは全くできない。
暴れ続けるにアルシドはため息をつくと、抱き込む腕の力を強めの身体を更に締めた。
込められた力で身体が圧迫されが苦しみ、塞がれた口からくぐもった呻きを漏らす。
「大人しくしていないと苦しい思いをすることになりますがぁ、それでもよろしいので?」
まだまだ込める力はたっぷりあるのだと脅せば、涙を流しの抵抗が弱くなる。
しかし弱くなった抵抗も、部屋に着き、ベッドへ落とせば再び激しくなる。
ベッドから降りようとするを見越してアルシドは傍にあったカーテンの紐を乱暴に引き千切るとをベッドへ戻して馬乗りになり、そして両手を遠慮なしに縛り始める。
「っあ!い、痛いッ」
縛る時はいつも容赦がない。
肌が悲鳴を上げるほどギチギチに縛り上げられる。
それでいつも手首や足首は縛られた痕が残ってしまう。
痛がるの訴えを無視して縛ると、ベッドヘッドへと括り付けアルシドは一人ベッドから降りる。
すぐに犯されるわけではないことに安堵しながらもアルシドの動きを見つめていると、彼は一枚の紙を持って来てに見せた。
「貴方の出生記録です」
ピラリと見せたその紙にはの名前と、そして出身国にはダルマスカの名に取り消し線が入れられ“ロザリア国マルガラス家”と書き加えられていた。
そしてのファミリーネームも「マルガラス」と変えられている。
やはりアーシェが危惧していた通りアルシドはダルマスカ国から諜報員を使っての出生記録を盗み出していた。
「この紙はここに置いておきます」
そう言ってベッドのすぐ脇にあるサイドテーブルへと置かれる。
それも手を伸ばせばすぐ届くよう、テーブルの端へ。
「今から拘束を解きますから、この紙を手に取り破ってごらんなさい。もちろん私は全力で邪魔をさせてもらいますよ。 目の前にあるんです、簡単でしょう?」
なぜわざわざそんなことを?
そう言いたげなの表情にアルシドは自身の衣服を脱ぎながらニヤリと笑みを見せた。
「言ったでしょう。これは賭けだと。制限時間は私が満足して情交が終わるまで。 上手く私から逃げて破ることができたら貴方の勝ち。ダルマスカ国民と証明された出生記録を貴方に渡して女王陛下の元へ帰してあげます。 だがぁ、手にすることも破ることもできずに終わった場合は私の勝ちです」
アルシドが勝った場合どのようなことが待ち受けているのか・・・。
それについてあえて語らず、アルシドは示すように笑みを更に深くしてを舐めるように見つめた。
「縄を解いた時点で始まりです」
すぐに始めるとばかりにアルシドは早速縛ったばかりのの拘束を解き始める。
「・・・私に拒否権はないの?」
「あるとでも?」
いや、無い。
だからこそこれまで好きなようにいたぶられ、喘がされ、激しさに何度も気を失った。
ゆえに逃走心も強い。
縄を解かれた直後に動こうと、は両腕に力を込めた。
だが―――
「っあ!」
縄を解いた手がそのままの両腕を押さえ込み、の動きを封じた。
「卑怯よっ!」
「なんとでも。 邪魔をすると言ったでしょう」
片手での両手首を強く掴み、そして空いた片方の手での衣服を引き裂き始める。
「いやぁぁぁ!」
ビリビリと裂く音がを恐怖に落とす。
アルシドの機嫌が悪い時、怒らせた時はいつも着ている服を引き裂かれる。
そして犯す激しさも普段の比ではない。
服を引き裂かれる時は容赦がないのだと身体が覚えてしまっている。
だから思わず悲鳴が上がり、身体は震え上がる。
服を裂く力強さと、身体を押さえ込む両足を使ってアルシドはを全裸にする。
細いの腰に太い腕を差し入れると、紙が届かない場所へとの身体を引き摺らす。
「やめてっ、放してっ!」
嫌がりもがくが、両手を掴まれ腰を引かれればどうすることもできない。
「油断した貴方が悪いんです」
淫猥な色を含んだ声で低くそう囁くと膝を使いの足を割って己の身体で閉じようとする脚を防ぐ。
片手で拘束していた両手をそれぞれの手で掴むと己の方へと引っ張ると、足首も共に強く掴み、左右に引いて脚を大きく開かせた。
身体をずらしたアルシドは顔をの脚の間へと埋める。
「イイ匂いだ」
「ひっ」
変態な感想を言って長い舌を伸ばす。
茂みにある突起をザラリと舐めるとの身体が面白いほどに跳ね、短い悲鳴が上がる。
「愛撫する手順がいつもと違うと新鮮でしょう?」
「いやぁっ・・・あ、っく・・・ぅ!」
乱暴なやり方でも口付けから始まり、首、うなじ、胸と下りていく愛撫。
それと違っていきなり秘所を愛撫することから始まる。
敏感な突起をザラついた舌で舐められの身体が刺激にビクビクと痙攣する。
突起の皮をめくって直接舌で舐め上げれば悲鳴が上がり身体は暴れるだろう。
そう想像してアルシドはの反応にニヤリと笑んだ。
「逃げないんですか?逃げてそこの紙を破るんでしょう? ホラ、やってごらんなさい。 それとももっと私に愛撫されたいですか?」
「はぁっ、アッ・・・んんぅっ」
首を横に振りは必死に腕を引くが、先ほどから外すことができない。
強すぎる刺激に身体が嫌がり、その反動で普段より強い力でアルシドの手から逃げようと両手も両足も暴れさせているが、それ以上の力で押さえ込まれアルシドから逃げる以前に今の愛撫から逃れることもできないでいる。
やってみろと言いながらも、出来ないように邪魔をしてくる。
「んああっ!あっ・・・や、めて・・・ぇ」
しばしが逃げようともがく様を見て楽しんだアルシドが再び顔を埋め舌で愛撫してくる。
先ほどよりも強く激しく。
「ああっ!あぁっ・・・あぅっ!」
背が弓なりに曲がり、ベッドから浮き、足先はピンと伸びては声を上げる。
トロリと秘所が濡れてきたことに気を良くしてアルシドは突起を口に含み吸い上げた。
「あ、あああっ!!」
強く悲鳴が上がり、同時に突起がヒクつく。
そのまま舌で愛撫すれば更に声が上がった。
「い、いやッ!もうやめてッ!!」
切迫したその懇願は絶頂が近い表れであることアルシドは知っている。
だから願いを聞いてやろうとはせず、逆に舌を突起へ擦り付けて更に激しく愛撫すればは簡単に達した。
「ひぃ、ああっ!」
絶頂を迎えているその時も舌で刺激すれば身体は暴れ悲鳴が上がる。
「くっ・・・はぁ、はぁ」
額に汗を滲ませ息を荒げてぐったりとベッドへ沈む。
いつから泣き始めたのかの目からボロボロと涙が零れる。
「一度機会を与えてあげましょうか」
達して赤く染まったの顔をじっくりと見つめた後、アルシドはそう言って両手を放した。
自由になった両手と両足。
だが達した疲労から動く気配がない。
「大人しく私の妻になりますか?」
そう問えばはぐったりとしたまま首を横に振った。
「明日、共にロザリアへ帰りますか?」
再び問えば同じように首を横に振ってきた。
「ではこのままダルマスカに残ると?」
頷く。
「出生記録ではロザリア国民になっているんですよ。どうやってダルマスカで生きるつもりですか?」
アルシドの口から「出生記録」という言葉が紡がれはそれにピクリと反応した。
そのわずかな反応にアルシドの笑みが深まる。
「そう。出生記録をどうにかしないといけませんねぇ。あのテーブルにあるのは何ですか? 貴方は今、あれが欲しいんでしょう? 手にとって破りたくってしょうがないはずです」
は再び頷いた。
「私の手は今なにも掴んでいませんよ。貴方の拘束は解いたはずだ。 さあ起き上がって取りに行きなさい」
最後は命令するような強い口調で発したアルシドの言葉には達し震える腕をようやく動かした。
「んっ、う」
達し力が上手く入らない身体を何とか動かし、這うようにしてサイドテーブルへと向かう。
だがアルシドがただジッと見ているわけがない。
「ひっ!あぁっ」
動き始めたが声を荒げベッドに崩れる。
くちゅ・・・
アルシドが腕を伸ばしの秘所に指を差し入れていた。
その指を動かしゆっくりとかき回す。
「耐えて動けばすぐ届くはずですよ。さあ、動いてごらんなさい」
再び命令され腕に力を入れ起き上がる。
脚を動かしサイドテーブルへと近づけば再び差し入れたアルシドの指がかき回した。
「んんぅっ!」
指の動きにの秘所がヒクつき、身体を支える腕がガクガクと震える。
「やめて・・・やめてっ・・・」
「邪魔をするんですか? だったら私も邪魔をさせてもらいましょうか」
「ア、アアッ!」
アルシドの腕を掴んで拒むと、指の数を増やされ中を更に強くかき回される。
紙を掴むはずの手はシーツを強く握り、身体を支えていたはずの腕は徐々に崩れ、シーツへと沈んでいく。
だがアルシドは許さず、の身体を無理矢理起こすと再び動くよう命令した。
秘所に刺激を受けながら震える四肢を動かしては徐々に出生記録が置かれたサイドテーブルへと近づいていく。
「は、ぁっ!いやぁッ」
テーブルへ近づくにつれ指の動きが激しくなる。
「手を伸ばしたらどうです?もう届くでしょう?」
アルシドに言われ顔を上げた。
気づけば出生記録は目と鼻の先。
手に取ろうと伸ばした。
「やあぁッ!!」
それを狙ってアルシドが更に指の数を増やす。
そしてもう充分に知ったの感じる場所を強く愛撫した。
「だめぇっ!!」
叫び、伸ばしたはずの手は落ちてシーツを掴む。
再び崩れてしまったの身体を、アルシドは片手で簡単にうつぶせにさせた。
両膝だけ立てさせ腰をアルシドに突き出せる体勢を強いる。
暴れる背中を、上から手で強引に押さえ込み、かき回していた指を抜き差しへと変えた。
「くっ、あ!・・・ああっ!アッ!」
淫猥な音を鳴らし感じる場所を更に激しく刺激すれば、耐えられなくなったのかが再び涙を溢す。
「もぉっ、やめてぇっ!」
絶頂は間近だ、とアルシドは口の端をペロリと舐めた。
「アアァァッ!!」
悲鳴を上げが再び絶頂を迎える。
震えた身体にベッドもギッと鈍い音を鳴らして揺れた。
その揺らぎにサイドテーブルもぶつかり、端に置かれていたの出生記録はその振動でゆらりゆらりと舞いながら床へと落ちていった。
「おやおや、これは残念」
アルシドが見つめる先は、ベッドから遠く離れた床に落ちたの出生記録。
「あそこまで落ちたらもう取りに行けませんね」
絶頂を迎え沈みそうな意識の中、はアルシドの言葉に対し首を横に振った。
まだ自分は取りに行くのだ、と。
「駄目です。賭けは私の勝ちですよ嬢。大人しく負けを認めたらどうです?」
いやだ、とは再び首を横に振って拒絶する。
「おや、往生際が悪いですねぇ。お仕置きを受けたいんですか?」
その言葉にぐったりしていたの身体がビクリと跳ね上がった。
アルシドはを今度は仰向けに転がすと自らの体重でをベッドへ押さえ込んだ。
そして顎を掴み自分と目を合わすように強いる。
「出してください」
目を見開き震えるにアルシドは命令する。
「何を出せばいいか分かるでしょう? さあ」
「・・・・・・」
「強情ですねぇ。指で無理矢理引き出してあげましょうか」
アルシドの脅しには大人しく出した。
震える小さく赤い舌を。
その震えに笑みを浮かべるとアルシドはの舌を噛んだ。
痛みを与えない程度に噛んで舌を捕らえると、そのまま唇を重ねて深く口付ける。
そして自分の口内へと思い切り吸い上げる。
「んっ、ぅ」
声をわずかにもらしたが、観念したのかアルシドの口付けに大人しく従う。
上から覆いかぶさったアルシドの紫かかった髪がの頬に落ち、彼の顎のひげがの顎をくすぐる。
厚い胸板に生える胸毛はの乳首を擦って刺激した。
「今日はいい記念日となりそうだ」
「き、ねん・・・び・・・?」
角度を変えじっくりと口付けて満足したアルシドがの唇を解放して感嘆とした声で呟く。
「貴方と夫婦の契りが交わせた記念ですよ」
「っ!!」
アルシドの言葉の内容と、下肢に擦り付けられた感覚にびくんと跳ねた。
「私は、貴方と結婚なんかしませんっ!」
顔を真っ赤にしてそう叫び、暴れるの様子にアルシドは声を出して笑った。
「そんなものは手遅れなんですよ」
そう言っての両脚を抱え、暴れる身体を押さえ込むように脚を肩につくように二つに折り曲げる。
「いやっ!あっ!」
叫ぶを無視して圧し掛かり、はちきれんばかりに膨張したモノをの秘所に擦り付ける。
「さっき見せた出生記録をちゃんと読みましたか?貴方の家名はすでに“マルガラス”に書き換えてあるんですよ」
「!!」
「つまりは家名を書き換えた時点で貴方はもう私の妻という位置に置かれているんです。 あと交わす契りはこの身体のみ―――」
「あああうッ!!」
直後ズブリと侵入してきたモノには声を荒げた。
この体勢で挿入されるのは酷く苦しい。
折り曲げられた身体が、特に下肢が悲鳴を上げる。
「改めて、夫となったモノの味はいかがです?」
挿入を深めつつ卑猥な質問を投げるアルシドに、は首を横に振った。
答える余裕もなく、ただただ首を横に振る。
苦しさと赦しを願って。
だがその色を含めた懇願をアルシドは受け取ろうとしない。
「おや、味が分かりませんか。ならもっと深く咥えますか?」
「ひ、ぃっ!」
更に深く突き入れられの涙が再び溢れる。
「も、ぅ・・・むりっ!」
「全部咥えられるはずですよ」
「んああッ!!」
ぐちっ、と淫猥な音を立てて根元まで突き入れられる。
深く入ったアルシドのモノはの奥を押し上げる。
「あっ、く・・・苦し、ぃ」
膝の裏を掴んでいるアルシドの手を引き剥がそうとしながらは涙を流して訴える。
の歪む表情にアルシドは満足気に目を細めた。
「貴方の声はやはり心地がいい・・・」
そして身体を折り曲げに再び口付ける。
その無理な体勢に、更に奥を押されは声を上げた。
アルシドはの首に喰らいつき、そのまま自身を半ばまで抜いて再び根元まで突き上げる。
「ぅああっ!」
刺激の強さに声が上がる。
その声色に更に気を良くしてアルシドは速度を速めた。
もう飽きるほど抱いてきたはずなのに、いつまで経っても抱かれ慣れないの反応がアルシドを存分に楽しませる。
一度めちゃくちゃに壊してしまいたいという黒い欲望が湧き出ては、腹の底へと押し込める。
苦しい体勢を強いたまま、普段以上に強く突き上げると、その度にの声が高く上がった。
体勢的に抵抗することもできず、はただアルシドが動くままに揺らされ快感を無理矢理与えられる。
グラリとの頭が揺れた。
今日のアルシドは機嫌がいいのか、悪いのか・・・。
いずれにせよ普段より激しい刺激にの意識が朦朧とし始める。
汗が浮かぶ額と、とめどなく涙を流すにアルシドは再び口付けた。
そのまま突き上げ続けアルシドはまたを絶頂へと追いやる。
「―――アッ、アアアッ!!」
の身体が幾度も跳ね絶頂を迎える。
あわせてアルシドも白濁したものをの中に吐き出す。
肺が悲鳴を上げるほど息を荒げぐったりとしたの意識は薄れ始めていた。
アルシドが中に吐き出したことも気付かず、の瞼がゆっくりと塞がり意識は闇へと落ちていく。
だがアルシドはを解放する気はまだ無い。
「せっかくの記念日なんです。まだ眠らせませんよ」
軽くの頬を叩き無理矢理覚醒させる。
毎夜声を聞き続けると、日増しにその声を更に色濃く聞きたいと欲が深まるというもの。
まだ息が荒いままのを転がし、うつ伏せにさせると膝を立てさせ腰だけ高く上げさせた。
そして己が吐き出したものが溢れてきているの秘所に再び挿入する。
「あっ、や、やぁ!!」
指1本も動かせないほど疲れきっているのにアルシドは尚も無体を強いる。
「む、・・・りっ・・・壊れ、るッ」
の訴えを退けアルシドは自身を深く突き入れた。
邪魔をする者も、わざわざ手を回す必要もなく、を完全に手に入れることができた。
もう誰にも邪魔されることなくの味を堪能することができる―――
「夜はまだまだ長いですよ」
<一言>
アルシド=変態 という図式から離れられません(笑)
なので少々変態路線でのエロとなりました。
アルシドが「夫」とか「妻」とか「夫婦」というセリフを吐くのは全く似合わないと思いながらも一番身柄を縛れる手段だろうな、と思って吐かせてみました。
どちらにせよ、奇人に見せておいてアルシドはかなり切れ者です。
だからこそ、まんまと罠にハマってしまうんだと思います。
やっぱりアルシド大好きですvvv
ちなみに「サングラスの先セル」とは、耳をひっかける部分のことを指します。
たまにそこを舐める人がいます。
なぜその部位を舐めるのかはかなり不思議ですが、奇人アルシド閣下にそのような癖を持たせてみました。